2020.10.19
最高クラスの年金がもらえる月給は幾ら以上か|9月から高給取りの人は年金負担額がジワリ増
「給与がかなり高い人」に限って保険料額が上がることに。将来の年金受給額への影響は?(写真: sakura/PIXTA)
50代になり、勤務先で役職に就いたり責任ある立場になったりして、給与が高くなった人もいるでしょう。ただ、毎月の給与から引かれる厚生年金保険料が2020年9月分より上がることになりました。今回は「給与がかなり高い人」に限って保険料額が上がるのです。
負担する保険料額が上がる分、将来の年金受給額にどれほど影響するかということも含めて、ここで詳しくお話ししましょう。
「標準報酬月額×保険料率」で決まる保険料
会社員として勤務していると厚生年金の被保険者、国民年金としては第2号被保険者となります。厚生年金被保険者は、厚生年金保険料が毎月の給与から控除され、2003年4月以降については総報酬制により、給与だけでなく夏・冬の賞与を受けるごとに賞与からも控除されることになっています。給与から引かれる保険料は「標準報酬月額×保険料率」で計算され、賞与から引かれる保険料は「標準賞与額×保険料率」で計算されます。
標準報酬月額というのは、毎月の給与など報酬の月額を基に算出されます。標準報酬月額の計算の基礎になる、その報酬の中には基本給のほか、家族手当、住宅手当、通勤手当など各種手当が含まれ、見舞金、結婚祝金などの臨時的なものは含まれないことになっています。3カ月を超える期間ごとに支払われる賞与については標準賞与額に含まれるため、標準報酬月額には含まれません。
標準賞与額は毎回受け取った賞与額の1000円未満を切り捨てた額となり、賞与の支払い1回につき150万円が標準賞与額の上限となります。
標準報酬月額の決定・改定方法には、定時決定(毎年4、5、6月の報酬の平均を基に行われる決定)、随時改定(昇給・降給等で大幅に報酬が変わった際の改定)、資格取得時決定(入社時の報酬の月額を基にした決定)、育児休業等終了時改定、産前産後休業終了時改定といった方法がありますが、報酬の月額(給与)に応じて決まる標準報酬月額は、2020年9月以降、1~32等級に区分されています。
拡大画像はこちら ※外部サイトに遷移します
実際に受けた報酬の月額を基に、8万8000円(1等級)~65万円(32等級)の等級に当てはめることになり、例えば、報酬の月額が23万円以上25万円未満の場合は、標準報酬月額は16等級の24万円になり、この24万円に保険料率を掛けて保険料を算出します。
標準報酬月額や標準賞与額に掛ける、その厚生年金保険料率は18.3%(会社員等の第1号厚生年金被保険者の2017年9月以降の率)で、会社と被保険者が半分ずつの負担となりますので、被保険者自身は9.15%分を負担することになります。標準報酬月額の等級が上がればその分保険料も高くなる仕組みです。
2020年9月に新設された「32等級・65万円」
この標準報酬月額について、2020年8月以前は8万8000円(1等級)~62万円(31等級)まででした。上限が31等級・62万円で、報酬の月額が60万5000円以上の人の標準報酬月額は31等級・62万円となり、62万円に保険料率を掛けることになります。しかし2020年9月より31等級の上の等級として、32等級・65万円が設けられることになりました。そのため、報酬の月額が60万5000円以上63万5000円未満の場合はこれまでどおり31等級・62万円ですが、63万5000円以上の場合は新しい等級である32等級・65万円になります(図表(1)参照)。
報酬の月額が63万5000円以上の人は、8月分までは62万円×9.15%の5万6730円の保険料が給与から控除されましたが、9月分からは65万円に9.15%を掛けることになったため、負担する保険料は5万9475円になります。1月当たり2745円保険料が増えることになります。また、会社と被保険者半分ずつ保険料を負担するため、会社としても標準報酬月額65万円の人1人当たり月額2745円の負担が増えることになります。
このように高給取りの人の保険料は上がることになりますが、厚生年金被保険者として厚生年金保険料を掛けると、その分将来受け取る年金の計算に含まれ、老齢厚生年金の報酬比例部分が増えることになります(ほかに国民年金制度の老齢基礎年金、老齢厚生年金の経過的加算額も増えます)。
報酬比例部分はこれまでの標準報酬月額や標準賞与額を基に計算します。高い報酬を受けていれば、つまり標準報酬月額や標準賞与額が高ければ、保険料も高くなりますが、報酬・保険料が高く、被保険者として厚生年金加入期間も長ければ、その分受け取る年金も高く計算されることになります。その名のとおり報酬に比例する年金となります。
老齢厚生年金の報酬比例部分は以下の図表(2)のとおり計算します。
拡大画像はこちら ※外部サイトに遷移します
2003年3月以前は賞与から保険料が引かれなかったため、給与の平均(平均標準報酬月額)で年金額を計算し、2003年4月以降は給与だけでなく、賞与からも保険料が引かれるため、給与と賞与を含めた報酬の平均(平均標準報酬額)で年金額を計算します。
等級・保険料が変わると年金額に差が出る
標準報酬月額に新しく32等級が設定されたことで、標準報酬月額が62万円から65万円になると、標準報酬月額は3万円増えることになります。結果、図表(2)の計算式の平均標準報酬額も増えるため、報酬比例部分の年金も増えることになります。例えば、10年間(120月)、62万円で加入し続けた場合と65万円で加入し続けた場合を比較すると、報酬比例部分の受給額はどうなるでしょうか。
62万円の場合、今年度の従前額保障の計算式(図表(2)のB)で計算すると、62万円×0.899(※)×5.769/1000×120月で、年額38万5863円増える計算です(※再評価するための再評価率。便宜的に2020年度の加入期間の率を用います)。
一方、65万円の場合、同じように計算すると、65万円×0.899×5.769/1000×120月で、年額40万4534円増える計算になります。標準報酬月額が62万円から65万円へ3万円増えて10年間加入した結果、年間1万8671円の受給額が多くなることになります。
これまでは報酬の月額が63万円の人も64万円の人も、同じ標準報酬月額62万円で同じ保険料でしたが、これからはそれぞれ標準報酬月額が62万円と65万円になるため、保険料額だけでなく、将来の年金受給額にも差が出ることになります。
さきほどの例の1万8671円という額を、1年当たりで見るとそこまで大きな差ではないと感じるかもしれませんが、老齢の年金は受け始めてから一生涯受給できることになっています。65歳から受け始め、85歳で亡くなるまでの20年間受けたとすると、累計額での差は37万円以上になります。標準報酬月額65万円の加入期間がさらに長くなっていれば、受給累計額もさらに大きな差が生じることでしょう。
もちろん受給できる年金額というのは毎年度改定され、年度ごとに少しずつ変動がありますが、標準報酬月額が62万円のままだった場合と比較して、65万円に上がった場合のほうが受給額で多くなることに変わりはありません。
保険料が増えると障害・遺族年金でも有利に
厚生年金保険制度の年金は高齢期の老齢厚生年金だけではありません。病気やケガが原因で障害が残った場合に現役世代でも受けられる障害厚生年金や、自身が死亡した際にその一定の遺族が受けられる遺族厚生年金もあり、いずれも報酬比例の年金となっています。
図表②の老齢厚生年金の報酬比例部分とは一部計算方法が異なる部分もありますが、ほぼ同じような計算方法で計算し、報酬の平均額が高いほど、年金額も高く計算される仕組みです。
高給なために、保険料負担として月額2745円増えることになると、増えた保険料により負担を感じるかもしれません。しかし、現状それだけ高い給与を受けられているということ、また報酬比例の年金であることを考えると、いざ実際に年金を受給する際に、低い報酬、保険料だった場合よりは受給額も多く、その分、ほんの少しですが安心できることにもなるでしょう。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:最高クラスの年金がもらえる月給は幾ら以上か|東洋経済オンライン