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2020.10.14

知ったらびっくり!?公的年金の「3号分割」|「女性と年金」の未来はどうなっていくのか


専業主婦中心の時代はとうに過ぎ去り、若い世代ほど仕事面で男女の違いは小さくなった。女性と年金の関係も急激に変化している(写真:Image Works Japan / PIXTA)

専業主婦中心の時代はとうに過ぎ去り、若い世代ほど仕事面で男女の違いは小さくなった。女性と年金の関係も急激に変化している(写真:Image Works Japan / PIXTA)

「物は言いよう」というのは、かなり重要な話だと思っていたりする。だから、私はある会議で、「世の中の大きなお金を動かそうというときには、物は言いようというのがあるだろう」などと、ついつい発言してしまうことになる。

その、物は言いようの話になるのかもしれないのだが、第3号被保険者という制度をある側面からみると、第3号被保険者の配偶者である夫――2018年度98.7%は男性だから夫と呼ぶが――は、自分が払っている年金保険料の半分を、奥さんのためにせっせと払ってあげていると言うことができる。この話が広く世の中に普及すると、第3号被保険者は、はたして減るのか、それとも増えるのか……このあたり、かなり前から関心を持っている。

ある会議 ※外部サイトに遷移します

専業主婦とその夫は本当に得しているのか?

普通は、第3号被保険者は、保険料を払わなくても基礎年金をもらうことができると理解されているために、専業主婦がいる夫たちは、なんだか得をした気持ちになっていたりもするし、そうした話に関係のない人たちは、第3号被保険者制度は不公平な制度だと思っていたりもする。

しかし、2004年年金改革のときに、3号分割が法制化されて、これが施行された2007年4月以降は、第3号被保険者期間について、配偶者の厚生年金は夫婦間で分割されるものとなっている。要するに、夫が払った保険料というのは夫婦2人で共同負担したものだという宣言規定が法律に明記され、3号期間分の夫の厚生年金は離婚するときにはその半分が無条件に妻の持ち分ということになっているのである。その法律はこんな感じだ。

厚生年金保険法

第3章の3 被扶養配偶者である期間についての特例
(被扶養配偶者に対する年金たる保険給付の基本的認識)
被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に……。

夫に送られてきている「ねんきん定期便」に書かれていた年金額など、もし離婚することになれば夢のまた夢であって、離婚時には、妻の第3号被保険者期間分の厚生年金(報酬比例部分)は半分になる。3号分割を離婚分割と呼ぶゆえんである。3号分割が法制化される前の分でも、家庭裁判所での審判になれば、半分ずつ分けることでおおよそ落ち着くようである。

保険料を払わなくても第3号被保険者は年金をもらえるという物の言いようも、見かけ上は本当だけど、夫が自分の給付は半分でいいからと、第3号被保険者である妻の家事労働を評価して妻の分もしっかりと「共同負担」しているという物の言いようのほうが実態としては本当なのである。どっちの物の言いようを採るかで随分と印象が変わる。

自分の厚生年金の受給権は半分しかないという話を知った夫は、どうもありがとう、これからも僕が年金保険料を払い続けるから第3号被保険者でいてほしいと言うのか、それとも、もうそろそろ働きに出て君自身の年金権を確保していったほうが将来は安心だねっと就業を勧めたり、なるべく離婚を言い出されないように家事の手伝いをし始めたりと優しくなったりするのか、このあたりが、昔からよくわからない。離婚をトリガーとして厚生年金を分割されると、生活が苦しくなるリスクはある。

ちなみに、離婚分割には、問答無用で分割される3号分割とは異なる合意分割もある。この場合、夫婦ともに厚生年金に加入している期間のあり方は、婚姻期間中の2人の厚生年金の2分の1を上限として双方の合意が必要となり、もちろん分割しないという合意もありえ、有無を言わせぬ3号分割とは性質が違う。

少なくとも言えそうなことは、こうした3号分割、合意分割という離婚分割の知識を夫婦で共有することは、夫婦間のバーゲニングポジション(交渉上の地歩)に少なからず影響を与えそうだということである。

もっとも、3号分割という制度について知識が普及したからといって、女性からの離婚の申し立てが増えるかどうかはわからない。というのも、遺族年金というのが存在するからである。

仮にここに登場する人たちが、経済学の言う「合理的経済人」であり、損得のみで行動すると仮定すれば、この人たちが離婚をして得をするか損をするかは、遺族年金という制度を詳しく見ないと判断することが難しい。このあたりは、皆さんの学習に委ね、ここでは多くを語らないでおこう。

第3号の制度ができた時代背景

ところで、1985年改革では、被用者年金における既婚者の定額に相当する部分を基礎年金2人分と読み直すことにより、第3号被保険者という名称での女性の年金権の確立と(それまでは皆年金ではなかった?)、単身者の定額部分の半減が実現できた。このとき、新制度における被扶養配偶者は、順番からいくと第2号になるはずだったらしいが、それはまずいかもしれないとの検討の末(?)、第3号に落ち着いたというエピソードもある。

ときどき、単身者と比較すれば第3号被保険者のいる世帯は恵まれているという話を聞くこともあるのだが、あの時の改革は、単身者の定額部分を半分にすることが目的であり、その目的自体は、社会保障としての公的年金としては妥当であったろう。

そうしたことは民間保険ではありえない話だが、貧困に陥るのを防ぐ助け合いのための社会保障としての公的年金では、国民年金保険料の産前産後期間の免除制度を設けるために第1号被保険者の保険料を100円高くするなどということも、大いにウェルカムの話となる。もちろん、民間保険ではありえない。

1985年の改革時、厚生省の隣の労働省で男女雇用機会均等法が準備されていて、この法律は1986年に施行されている。1985年年金改革を進めていた人たちは、均等法施行後は女性の社会進出が進み、第3号被保険者は臨時の制度、「つなぎ的なものであり、経過的なものになるだろう」と考えていたようである。しかし、労働市場の改革は順調には進まず、第3号被保険者制度は、不公平、女性の社会進出を阻むものとして批判を受けていくことになる。

もし仮に、1985年の第3号被保険者制度ができるときに、3号分割を法案に入れようとしていたらどうなっていただろうか。

配偶者である妻の家事労働、子育ては当然であり、感謝するということをあまり理解できない人が多かった時代であったろうから、俺の年金を減らして女房に渡すなぞ許さんという人たちが永田町あたりに大勢出てきて、1985年の年金大改革の足を引っ張ることになっていたのではないだろうか。2004年に3号分割を導入したことでさえ、この国の風土を考えると、大きな改革をやったものだと感心している。

第3号被保険者は、1994年度1220万人をピークに2019年度830万人にまで32%も減少しており、2019年財政検証ではこれからも急速に減少していくことが見通されている。次の図では、厚生年金への適用拡大の幅が広ければ、将来の第3号被保険者数が一層減少することを示している。

記事画像

さらに次の図にみるように、女性の就業行動は、コーホート間で大きく変化してきている。

記事画像

1963~1967年生まれの女性の年齢階層別就業率はM字型を描いていたのであるが、1978~1982年生まれでは、すでに30代での就業率の落ち込みがみられない。1986年施行の男女雇用機会均等法は、1997年の改正で実効性を持つようになり、継続就業を可能とする制度も充実してきた。

そして今では、個人で厚生年金をもつことの重要性と合理性への理解も進んできている。最近の調査では、18~34歳の未婚者に女性の理想のライフコースを尋ねると、専業主婦コースを理想とする男性は女性よりも少なかったりする。1980年代は逆で、男性のほうが女性よりも専業主婦コースを理想としていた。

第3号はやっと「つなぎ的なもの」になってきた

先の図の「第2次均等法世代」「女性活躍推進法(女活法)世代」のような人たちが、1986年の男女雇用機会均等法施行後すぐに一般的になると考えていたのが、1985年改革に携わっていた人たちであった。時間はかかったが、彼らの想定も現実のものとなり、第3号被保険者は、「つなぎ的なものであり、経過的なもの」となったり、また利用目的が変質していく未来はそう遠くなかったりするのかもしれない。

もちろん、他国と比べて、非正規雇用の女性が圧倒的に多く、今回のコロナ禍でもダメージを受けたのは非正規雇用、つまり多くは女性であったという問題がある。そうした事情があるために、今の労働市場が続くとすれば、厚生年金への適用拡大が進んだとしても、第2次均等法世代、女活法世代という新しい世代にも、従来と同じく女性の低年金問題が起こることになる。労働市場問題と年金問題は混同して論じられがちだが、日本の労働市場の見直しは、若い世代のために今後加速度をつけて行っていく必要がある。

いつもおもしろいと思いながら眺めている話は、いまや、専業主婦がいる片働き世帯は少数なのだから、厚生労働省は、共働きなどの世帯類型も考慮するべきであるという話である。たとえば、日本経済新聞は今年7月25日の社説に、「夫婦・子2人を標準と思い込んでいないか」という記事を書いたりしているわけだが、厚労省をはじめ誰もそんなことは思い込んでおらず、勘違いしているのは記者のほうであったりする。

年金額の違いを生むのは賃金水準

年金というのは、厚労省年金局が繰り返し言っているように、「所得代替率や年金月額の違いは世帯類型でなく賃金水準の違いから生じている」。おそらく間違える記者は、この文章の意味がまったく理解できないのであろう。

たとえば、年収600万円の片働き世帯と、年収300万円ずつの共働き世帯という1人当たり賃金が同じ世帯では、同額の保険料を払い、同額の給付額を得る。第3号被保険者がいようが共働きであろうがまったく関係がない。

そして、年金局は、次のような図を示して、「世帯①」から「世帯⑤」までの間に、どのような世帯類型が分布しているかを、しつこいくらいに説明していたりもする。

記事画像

このグラフは、横軸に世帯内の1人当たり賃金水準をとり、左側の縦軸は年金月額をとった図である。「世帯①」の賃金水準にいる世帯数を100%とすると、共働きの夫婦世帯で両方が正規雇用で就労している人たちは2%、片働き世帯で正規労働で就労は60%とか、「世帯⑤」の賃金水準では共働きの夫婦世帯で両方が正規雇用で就労している人たちは43%、夫婦世帯でも正規雇用と正規雇用以外で就労しているカップルは12%いるとか、なかなか情報豊富な資料を作っている(2019年財政検証関連資料、16ページ)。

記者をはじめとした、情報を伝える側にいる人たちは、制度を知り、資料を理解し、そのうえで国民に向けて報道をするべきなのであるが、先の日本経済新聞の社説はそれとはほど遠いところにいるーー他紙も同じ間違いを繰り返している。

2019年財政検証関連資料 ※外部サイトに遷移します

年金というのは、女性が幸せに働ける社会が構築されていくと、1人当たり賃金水準が高くなり、老後に受け取る年金も多くなっていく。詳しくは、『ちょっと気になる社会保障 V3』の「知識補給 年金の負担と給付の構造」を見ておいてもらいたい。とにかく1人当たり賃金水準が高くなれば年金給付は高くなるのであるから、片働きでいるか共働きを選択するかも、家族内での1人当たり賃金水準がどうなるかが重要な判断基準となる。

ちょっと気になる社会保障 V3 ※外部サイトに遷移します

とはいえ、「モデル世帯」、「モデル年金」という言葉は、変えたほうがいいとは思う。モデル年金は、1985年改革までは、夫に支給される厚生年金(報酬比例年金+定額部分+加給年金)で使われていた。1985年に定額部分を夫婦2人分とみなすようになってからは、モデル年金は、片働き世帯夫婦2人分の基礎年金と夫に支給される報酬比例年金の合算額と説明されるようになった。そしてはるか昔に、モデル年金の「所得代替率50%維持」が法律に書かれてもしており、その確認は年金局の義務となっている。

公的年金の給付水準を、制度創設時から長期間にわたって定点観測していくためのベンチマークとしてモデル世帯、モデル年金が使われてきたわけだが、モデルが「模型」と解釈されるのならばいいが、モデルを「模範」と理解されるとなると、それは実態とはニュアンスが違うものになる。

そこで、厚労省年金局は、何とかして定点観測のためのベンチマークとしての年金を、「標準年金」と呼びなおして普及させようとしてきたのだが、メディアにさえ、そうした努力はなかなか伝わっていないようである。ということで、みんなでがんばって、男性の平均賃金を得る夫がいる片働き世帯のベンチマーク年金なんてものは「標準年金」と呼んであげよう!

老後設計を担う社労士やFPへの期待は大きい

そして、もし、あなたが社会保険労務士やファイナンシャルプランナー(FP)ならば、2019年財政検証関連資料(16ページ)の中のどこに顧客が位置付けられるのかを確認しながら、ひとりひとりの老後のライフプランの相談にのっていけばいい話である。そうしたリテラシーは、一部のメディアには期待できそうにないので、よろしく。

2019年財政検証関連資料 ※外部サイトに遷移します

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提供元:知ったらびっくり!?公的年金の「3号分割」|東洋経済オンライン

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