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2020.08.21

けんすうが考える「無能な人は誰もいない」理由|「異物」を創って「道を究める」日本的サードドア


サードドアを開ける極意とは?(写真:NiseriN/iStock)

サードドアを開ける極意とは?(写真:NiseriN/iStock)

12万部突破のベストセラーとなった、アレックス・バナヤン著『サードドア:精神的資産のふやし方』。

『サードドア:精神的資産のふやし方』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

「誰もやらないことをやるだけで差がつくのに、みんなやらないだけなんです」――連続起業家でアル株式会社取締役の「けんすう」こと古川健介氏は、19才で学生コミュニティサイトを立ち上げ、大学在学中にIT企業の社長に就任するなど、独創的な発想力で、大手企業に買収されるスタートアップや新規事業をいくつも生み出してきた。現在は漫画ウェブサービス「アル」を手がける。けんすう氏が教えるサードドアを開ける極意を、前編の「けんすうの成功則『リスクはとらずに管理しろ』」に続きお届けする。

けんすうの成功則『リスクはとらずに管理しろ』 ※外部サイトに遷移します

「HOW」の視点で自分に合うことをやる

『サードドア』では、主人公のアレックス・バナヤンが、ビル・ゲイツやレディー・ガガにインタビューしようと、どんどん挑戦していきます。すごく勇気がある人だと思いながら読みました。

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話題のベストセラー『サードドア:精神的資産のふやし方』の特設サイト ※外部サイトに遷移します

僕は、人に会って怒られたりするのはイヤですし、彼のような勇気はありません。

ですが、自分でやれること、やれないことを考えるとき、「HOW(どのようにやるか)」という視点で見ると、僕のような人間にもサードドアが見つかります。

家に引きこもってインターネットをする中でやれることというのもけっこうありますし、自分のやり方に合ったことをやるのが、いちばん生産的だと思います。

僕が学生だった当時、社長を務めていたIT会社がライブドアに買収されることになりました。そのとき、ライブドアという企業のレベルの高さを目の当たりにして「ちゃんと新卒教育をする会社に入らなければダメだ」と考え、何度も挑戦してリクルートに入社しました。

ただ、そこで不得意な仕事をさせられたのでは生産性は上がりませんし、成果も出せません。そこで、人事に相談してインターネット系の新規事業の部署の人を紹介してもらいました。

人事の仕事も、会社の業績を伸ばすことですから、僕が行きたいというだけでなく、その部署が「こいつが欲しい」と言ってくれれば、そこに配属されるのではないかと考えました。

新卒の人間が入るのはめずらしい部署でしたが、飲み会に参加したり、キーマンにしつこく会ったり、メールをしたりして、希望通り配属されることになりました。

その部署ではまず、自分の強い部分を明確にするために「『2ちゃんねる』とか炎上に強い古川君」という立場をとりました。そうすることで、それに関連しそうな会議があれば呼ばれるようになったのです。

「新人」というラベルをつけられる前に「炎上の専門家」というラベルを自分で作ったということです。リクルートには若手にどんどん仕事をやらせる文化もあり、入社半年後にはネット系のコミュニティのプロデューサーを、翌年には新規メディアの責任者をやらせてもらうなど、非常に楽しく仕事をさせていただきました。

欧米のミッション文化と日本のオタク文化

「HOW」について話をしましたが、「WHY(なぜやるのか)」という視点で考えると、アレックスのような欧米人と日本人では考え方がかなり違うことも見えてきます。そこに、日本人がサードドアを開けるチャンスが隠されているとも思います。

けんすう/アル代表取締役。2003年にしたらばJBBSを運営するメディアクリップ代表取締役社長、2004年にライブドアに事業譲渡。2006年にリクルートに入社し、インターネット系の新規サービスの立ち上げに関わる。2009年に株式会社nanapiを創業、2014年にKDDIグループにM&Aされる。2019年1月にマンガコミュニティサービス「アル」を運営するアル株式会社を立ち上げる(画像:著者提供)

けんすう/アル代表取締役。2003年にしたらばJBBSを運営するメディアクリップ代表取締役社長、2004年にライブドアに事業譲渡。2006年にリクルートに入社し、インターネット系の新規サービスの立ち上げに関わる。2009年に株式会社nanapiを創業、2014年にKDDIグループにM&Aされる。2019年1月にマンガコミュニティサービス「アル」を運営するアル株式会社を立ち上げる(画像:著者提供)

欧米人はミッション文化で、神からの使命があるからそれを成し遂げる、そのために結果を求めるという考え方です。同様に、中国にも「天からの使命」という言葉があります。

こうした見方では、ミッション達成という「結果」を得るためには、過程でのやり方は問わず、ルール・ブレイクしても構わないという感覚があるのも特徴です。「ハック文化」とも呼ばれますが、マーク・ザッカーバーグなどは、まさにその典型です。

一方の日本は、オタク文化です。茶道、武道、剣道など「道」を追究する。つまり欧米とは違い、結果はどうあれ過程こそが大切であり、それを楽しいと考える。例えば剣道の世界では、敵を倒すことより、剣の道を究めることに価値があるとされています。

とくにクリエイティブの分野では、この違いが大きな差異となって表れます。初音ミクが流行ったのは、「曲を作りたいから、初音ミクというキャラを作る」という考え方ではなく、「初音ミクを使って、なにかをやりたい」という感覚からでした。これは欧米・中国とは違う、日本に独特の出発点です。

そもそも、初音ミクやバーチャル・ユーチューバーのようなものは、欧米からは出ない発想です。欧米でああいうものを作るとなると、いかに人間に似せるか、いかにコストを下げるかという話になります。これが日本だと、いかに魅力的なキャラクターを作るか、いかに新しいクリエイティブに集中するかという話になる。

工業が主流の時代には、この日本人の感覚が製品のクオリティーの差として現れていました。トヨタの「カイゼン」が良い例です。ですが今後は、こうしたクオリティーで勝負するのは難しいでしょう。

一方で、「道」を追究する視点から、誰も見たことのないクリエイティブを生み出していくことこそが、日本の強みになるのではないかと考えています。

僕はいま「アル」という漫画系のウェブ事業を手がけていますが、個人のクリエイターの創造力には本当に強みがあります。

例えば、ディズニーだと『アナと雪の女王』や『ベイマックス』のように、グローバルで誰もが感動できる、「受ける」作品を作りがちです。でも日本の漫画家は、「この設定はすごい」「この発想はなかった」という新しいものをどんどん生み出しています。

例えば、海外でも人気の漫画に『五等分の花嫁』(春場ねぎ/講談社)という作品があります。5つ子とその家庭教師をめぐる物語ですが、結婚式で顔が同じ5つ子たちを目の前にして、誰が誰だかわからないという場面から始まり、5つ子との恋愛ストーリーが展開されていきます。

5つ子と恋愛して、誰と結婚するかわからないなんて、見たこともない発想ですし、海外でも話題になって、この漫画に関する論文が登場するほど、非常に熱い状況になっています。

こうした日本的な創造力は、世界にとっての「異物」となり、日本人にしかできない「サードドア」的な競争力になる、そう僕は考えています。

起業家と会社員に断絶はない

僕は、リクルート在籍中の2007年頃に起業しました。最初は副業からのスタートです。いきなり起業するのは怖いとも思っていましたし、本業にしてしまうと、それで稼がなければなりません。

その点、副業なら、短期的な収益を気にせずに、とがった面白いプロダクトを作れるのではないかという考えがありました。実際、知名度を高めたり、爆発的にユーザーの増えるサービスをいくつか作ることができ、2年後、投資家の小澤隆生さんと出会ったことで、本腰を入れてフルコミットすることになりました。

「会社を辞めて独立した」と見られるかもしれませんが、僕には、キャリアの断絶とか、会社員から起業家へ、といったような感覚はありません。どちらであれ働いていることに変わりはありませんし、会社員のリスクと起業家のリスクは種類が違うというだけです。

さらに言えば、会社員と起業家の間には断絶があるかのように考えているのは、会社員の方だけです。自営業の方や中小企業の社長さんなどはそうは考えていません。こと「起業」となると、ビジネスパーソンのほうがリスクを考えて、身構えてしまうところがあるのかもしれません。

僕は、自分がなにをやるのかということに対して、「個人」よりも「人類」という種の単位で考えるようにしています。人類の全体最適のため、人類の進化のために、自分がやったほうがいいことをやる、という感覚ですね。

いま手がけている漫画サービス「アル」も、漫画というものに対して、サービスを作ることができて、さらにそこに身を投じられるという条件のそろった人は僕のほかにいないと思うから、自分がやらなければと考えています。

人類を俯瞰して役割を果たすなどと言うと、壮大に聞こえるかもしれませんが、そう考えるほうが仕事をしていくうえでもラクになると思うのです。

例えば、新入社員は、最初は何もできなくて落ち込むことがあります。先輩が5分でできることを、自分は3時間かけてしまう、といった具合に。そう比較すると自分が情けなくなりますが、実は新人がその仕事をこなすことは、経済学的には「最適」なんです。なぜなら、それによって先輩はその5分を節約し、より生産性の高い、別のことができるから。

このように全体として考えると、ムダな仕事をする人、無能な人は1人もいないということになります。そして、こういう考え方を持った組織のほうが、働いている人の幸福度は高いのではないかと思うのです。

コロナ時代、持たざる者にはサードドアだらけ

コロナで就職活動が滞るなど、いろいろな問題が起きていますが、こんなときだからこそ、とくに学生にとってはチャンスがあちこちに転がっていると思います。

例えば、学生も困っていると思いますが、企業もZoomなどで面接することになり、困っているということがある。それなら「学生とZoom面接をするためのマニュアル」を作って企業に売り込んではどうか、という発想もあります。

まだ誰も、なにが最適解なのかを知らない段階ですから、そういう行動に出て注目を浴びるという方法もあります。それを自分の武器にすることで、普通に面接したのでは試験を通過できなかった人が、採用されることもあると思うのです。

大学の新入生歓迎会はどうでしょうか。これまでは歴史ある大きなサークルが派手で強かったでしょう。それがこの危機で、ゼロリセットになっています。

こういう時にZoomで日本一大きな学生の交流会を作れば、今なら1万人規模で交流に飢えた人を集められる可能性もあります。そうすれば「オンラインで日本一の学生の交流団体を作りました」と言えるようになる。

僕が個人的に投資している会社の中に、オンラインのヨガ教室があります。少しずつ伸びてはいましたが、あと10年はかかるかなと思っていたところ、今回の危機でブームが来て、突然急激に伸びました。

劇団についても同様です。大きな会場を擁した既存の人気劇団は、劇場が使えなくなってピンチかもしれません。ですが無名の劇団がZoomを使ったオリジナル演劇を提供できれば、斬新な試みとして一気に注目を浴びる可能性もあります。

基本的に、大きな変化のときには、持たざる者が強い。持たざる者にとって、いまのような環境はとても戦いやすいはずです。僕なら、今こそサードドアを開けまくるときだと考えて、このチャンスを生かすと思います。

(構成: 泉美木蘭)

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提供元:けんすうが考える「無能な人は誰もいない」理由|東洋経済オンライン

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