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2020.08.20

PCRをよくわかってない人に知ってほしい基本│新型コロナの検査になぜ使われているのか


中学理科のレベルでやさしく解説します(写真:RyanKing999/iStock)

中学理科のレベルでやさしく解説します(写真:RyanKing999/iStock)

感染症の元になるウイルスから、健康・暮らしに役立つものまで。世界は微生物が動かしている。中学理科のレベルで、やさしく解説した『世界を変えた微生物と感染症』より、PCRのパートを一部抜粋・再編集して掲載する。

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PCRはウイルス感染やDNA型鑑定などに使う

新型コロナウイルス感染症に関わる一連の報道の中で、その検査方法として「PCR」という言葉がしきりに出てきました。PCRは、今回のようなウイルス感染の検査や、DNA型鑑定(遺伝子鑑定)などに使われる技術です。

PCRとはポリメラーゼチェーンリアクションの頭文字で、ポリメラーゼはDNA合成酵素、チェーンリアクションは連鎖反応(連続した反応)を意味します。1983年に発明され、その後しばらく経ってから完成した比較的新しい方法ですが、今や医療の現場、生物学の研究には欠かせない技術になりました。この技術を使えば、遺伝子となる核酸(DNA・RNA)を無限に増やすことができ、ほんのわずかなサンプルでもそこから遺伝情報を読み取れるようになります。

そんなすごい方法ですが、仕組み自体はとてもシンプルです。増やしたいDNAが含まれたサンプルと、DNAの材料となる物質、そしてDNA合成酵素を加えた混合液を100℃近くまで温め、60℃くらいまで冷まし、また70℃くらいまで温める。

たったこれだけです。ほんの数分で済んでしまう作業で、1本のDNAが2本になります。これを何度もくり返せば、2本が4本に、4本が8本に……という具合に倍、倍になっていきます。自動で温度を上下させる機械を使えばもっと簡単に、ものの1時間でDNAが10億倍にもなります。

しかし、この方法には根本的な問題がありました。DNA合成酵素はタンパク質でできているので、100℃近くまで温めると壊れてしまうのです。ゆでたまごが生たまごには2度と戻らないように、一度熱で壊れたタンパク質は元には戻りません。ですから、1回の作業を終えるごとに、DNA合成酵素を追加しなければなりませんでした。つまり、「連鎖(連続)する反応」になっていなかったということです。

その問題を解決したのが極限環境微生物です。

「高温の環境を好む微生物には、熱に強いDNA合成酵素が含まれているはずだ」

PCRの開発者キャリー・マリスはそう考えました。

すでに、アメリカ・イエローストーン国立公園の温泉で、高熱を好む細菌が見つかっていました。マリスはこの細菌に目をつけ、DNA合成酵素を抽出し実験をしました。

結果は大成功でした。あまりに簡単な方法であるため、発明当初はなかなか理解されませんでしたが、ほどなくしてそのすごさが認められ、生物学の研究に「革命」をもたらしたのです。マリスはこの功績によって、1993年にノーベル化学賞を受賞しました。

PCR法による感染症検査

今日では、感染症の検査にもPCR法が使われています。世界各地で猛威を振るっている新型コロナウイルスの検査では、PCR法を応用したリアルタイムRT・PCRという方法が使われています。

ウイルスには、遺伝子としてDNAをもつものと、RNAをもつものがいます。コロナウイルスはRNAをもつウイルスなので、通常のPCR法では遺伝子を増幅することができません。そのため、RNAの遺伝子情報をいったんDNAに写し取る必要があるのです。これを逆転写反応(RT)といいます。

また、「リアルタイム」というのは文字どおり、遺伝子を増やしながら同時にその情報を読み取るということです。患者から採取した検体に病原体の遺伝情報が含まれているかどうかを、増幅しながら解析しているわけです。

このような方法を医師による診察と組み合わせて行うことで、その感染症がどんな病原体によって引き起こされたのかが極めてスムーズかつ正確にわかるようになっているのです。

微生物を調べるために、綿棒などで採取した微生物をシャーレに敷いた寒天培地にこすりつけて培養し、そこから広がったコロニーの様子を見ることがあります。ロベルト・コッホが編み出した「純粋培養」という方法で、ここから微生物研究の歴史が幕を開けました。

しかし、この方法で調べられるのは、綿棒で釣り上げた微生物のうち、培地上でうまく成長したごく一部の種類の性質やふるまいだけです。採取したからといってすべてうまく培養できるとは限らず、身近な土の中の微生物でさえ、採取した100個のうちの1つが生えるかどうかだといいます。また、当然ながら、自然環境の中で微生物同士がどういう関係をもち、複雑な世界をつくり上げているのかという全体像をつかむこともできません。

微生物解析の新しい技術にも発展

1990年代に入ると、PCR法のしくみを応用して微生物解析の新しい技術が生み出されてきました。例えば、川や湖の水に溶け込んだDNAを解析し、その水域にどんな生物がどんな割合で含まれているか、ということさえわかるようになってきました。このような複雑な分析を、大量かつ高速に処理する技術を次世代遺伝子配列解析技術(シークエンシング)といいます。

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このような技術を使って新たにわかり始めたのは、世界は想像以上に微生物に満ちているということです。二十数年前には10兆個ほどと言われていた人の体内細菌の数も、今では100兆個以上だと考えられるようになりました。人の体細胞は37兆個と言われていますから、それをはるかにしのぐ数です。

しかしそれでも、私たちは微生物が織り成す世界の一端を理解し始めたにすぎません。その全貌を理解するには、まだまだ長い時間がかかることでしょう。菌類、原生生物、細菌類、そしてウイルス。微生物をめぐる研究は、ようやく今、新たなステージに足を踏み入れたばかりなのです。

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提供元:PCRをよくわかってない人に知ってほしい基本│東洋経済オンライン

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