2020.06.29
パート主婦が社会保険拡大でもらえる「お金」 │50人超の中小企業で働く社員に大きなプラス
年金改革法が改正され、パート労働者に対しても正社員と同じように社会保険が適用されることに。具体的にどのようなメリットがあるのか(写真:つむぎ/PIXTA)
5月29日の国会で年金改革法が成立しました。これは、2019年8月に発表された公的年金財政検証を受けて社会保障審議会の年金部会が議論し、同年末にまとめた年金制度改革の内容を法案化したものです。
今回の改革法には大きく5つのポイントがありますが、中でも私がとくに注目したいのが「被用者保険の適用拡大」です。「被用者保険」とはサラリーマンや公務員などのように雇われて働いている人が加入している健康保険や厚生年金のことです。これに対して国民健康保険や国民年金は、自営業、フリーランス、無職、学生などの第1号被保険者の人たちが加入している社会保険です。
この被用者保険の適用範囲が拡大されることになったわけですが、従来は従業員数500人超の企業で働く従業員に対してのみ被用者保険の適用が義務づけられていました。その範囲を段階的に拡大し、2024年には50人超まで広げていこうというものです。なぜ、ここに私が注目しているのかというと、社会的に弱い立場の人たちにとって、今までよりも社会保険料負担が少なく、かつ給付が多くなるからです。
新たに65万人が健康保険や厚生年金に加入できる
先ほど、第1号被保険者は自営業やフリーランスなどの人たちと書きましたが、実際には最も多いのはパートや非正規社員の人たちなのです。自営業、学生、農業といった人たちの数は合計すると1000万人ほどですが、会社に勤めているパートや非正規社員の人たちは約2165万人もいて、この数は雇われて働いている約5600万人の4割近くを占めます。
ところがその2165万人の多くは、雇われて働いているにもかかわらず被用者保険に加入できず、社会保険においては国民年金や国民健康保険に加入するしかありませんでした。今回、その適用範囲が拡大されることで2024年には新たに65万人の人たちが健康保険や厚生年金に加入できるようになります。
これによる具体的なメリットは、負担が減って受益が増えることです。厚生労働省(社会保障審議会年金部会)の資料によれば、月収8万8000円の場合に負担する国民年金保険料と国民健康保険料は月1万9100円です。もし被用者保険に入ることができれば、厚生年金・健康保険料の本人負担は1万2500円。一方で、給付は逆に増えるのです。厚生年金に入ることによって報酬比例部分が上乗せとなり、仮に20年加入の場合は月額9000円が終身で上乗せされます。
また健康保険に入ることによって、病気やケガで休んだ場合の傷病手当金や、出産で休んだ場合の出産手当金などが支給されることになります。
このように被用者保険の適用拡大は、社会的に弱い立場にあるパートや非正規社員の人たちにとってはプラス面があると同時に、正規・非正規の区別もなくしていくかもしれません。企業にとっては社会保険料の負担が増えることになりますが、「人を雇う」のであれば、フリンジベネフィット(給与以外に与える利益)も含めた適正な報酬を支払うのが当然でしょう。「中小企業の経営に配慮すべき」という声もありますが、順序を間違えた議論ではないかと思います。
厚生労働省年金部会の委員も務める出口治明・立命館アジア太平洋大学学長は、こう言います。
「中小企業にも適用拡大がなされて、すべての中小企業が社会保険料を支払うようになったら、経営者の選択肢は2つです。保険料を払えずにつぶれるか、経営を必死に頑張って保険料を支払うかです。結果的に生産性が上がって、改善意欲があるところだけが残ることになります」(社会保険研究所『年金時代』2020年2月25日掲載)
私もこの考えには強く同意します。私自身もごく小さな会社を経営していますが、社会保険というのは従業員が病気になったり、年をとって働けなくなったりしたときに、生活していけるように保障してあげるものです。それを支払うのを忌避するというのであれば、経営者としての資格はないといってもよいでしょう。
「働き方」の違いだけで処遇を変えてはいけない
厚生労働省の試算によれば、短時間で働く被保険者1人当たりについて企業が追加的に保険料を負担する金額は平均でおよそ月額2万円だということです。コロナ禍で業種によっては企業経営が直撃を受けている時期に、社員1人当たり2万円といえども苦しい、というのはわかります。
しかし、過去にもオイルショックや総量規制によるバブル崩壊、リーマンショックのような大きな経済変動がありました。これから先も起こりうることです。経営者としては、過剰な福利厚生を提供する必要はないかもしれませんが、少なくとも社会全体の方向として、社会保険適用拡大にそれなりに対応し、備えておくべきでしょう。
雇用者のうち4割近くが非正規社員であると述べましたが、非正規社員が多いということ自体は問題ではないと思います。そのような働き方もあってよいし、それは単にライフスタイルの問題です。
もっと大事なことは、そういった多様な働き方によって処遇が不当に扱われないようにするということです。ややもすれば賃金だけに目がいきがちではありますが、目先の給与水準だけではなく、働く人に関わる社会保険のあり方こそ、しっかりした議論が必要です。そういう意味では適用拡大こそは「働き方改革」にとって重要なテーマであり、成長戦略であると言い換えてもよいのではないでしょうか。
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提供元:パート主婦が社会保険拡大でもらえる「お金」│東洋経済オンライン