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2019.06.13

「体罰で子供しつける」が許されない納得の理由| うつ病や依存症になるリスクが高くなる


「しつけ」や「教育」に体罰は必要ありません(写真:U-taka/PIXTA)

「しつけ」や「教育」に体罰は必要ありません(写真:U-taka/PIXTA)

最近は教育現場などで体罰が行われると、批難されるようになってきた。だが、「体罰が子どものしつけに適切ではない理由」を明確に語れる人は少ないだろう。そこで今回は、児童精神科医・臨床心理士の姜昌勲(きょう まさのり)氏が「体罰を子どもに与えてはいけない理由」について詳しく解説する。

残念ながら、家庭や教育現場での体罰や虐待に関する悲しいニュースを目にすることが多々あります。たいていの加害者は「しつけ」や「教育」のためであると話しているようです。

こういう痛ましいニュースが話題になるたびに、インターネット上では「体罰は絶対にいけない」「多少の体罰はしつけや教育のために必要」という両方の意見が書き込まれます。この問題については、まず先に結論から言います。体罰は絶対にダメです。体罰には、次のようなたくさんのデメリットがあるからです。

1つは、体罰と虐待の区別はつけられないこと。どこまでを教育やしつけの一部とするか、どこからを虐待とするか、線引きすることは不可能です。ルールを決めるときは、できる限り「曖昧さ」を排除する必要があります。曖昧なルールは、運用する側の都合のいいように、恣意的に利用される恐れがあるからです。

例えば、体罰を肯定する人は「よい体罰と悪い体罰がある」などと言いますが、誰がどう判断するのでしょうか? ひとたび「よい体罰」が容認されてしまえば、その境界線はどんどん拡大される危険性があります。

体罰は「エスカレート」するもの

また、体罰はするほうもされるほうも慣れてしまうので、エスカレートしがちです。つまり、体罰を繰り返すうちに、より強度の高い体罰が必要になってしまうため、場合によっては子どもの健康や命にもかかわります。

そして、体罰を受けた人は、そのときの体の傷だけではなく心にも傷が残り、後々まで影響を受けることが知られているのです。体罰を受けた人は、成人後に不安障害やうつ病、依存症などの精神疾患に罹患しやすいという研究データもあります(※1 National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions)。

さらに体罰を受けた人は、自分が親や指導者になったときに体罰を繰り返してしまうという「体罰の連鎖」が起こりやすいのも問題でしょう。これは「虐待の連鎖」と同じことです。

なお、「体への罰」だけでなく、言葉による傷つけ、暴言、いきすぎた叱咤激励も、子どもの心にダメージを残すことが知られています。親の暴言が子どもの知能指数を下げるという研究データも、アメリカや韓国などで出されているのです(※2 Violence exposure, trauma, and IQ and/or reading deficits among urban children. Arch Pediatr Adolesc Med. 2002 Mar; 156 (3): 280–5. Delaney-Black V)。

臨床心理士の奥田健次氏の著書『メリットの法則』には、褒めて伸ばす指導を「アメ」、叱責や体罰を与える指導を「ムチ」に例えた場合の、ムチの副作用について以下のように書かれています(大意)。

【1】行動自体を減らしてしまう

【2】 何も新しいことを教えたことにならない

【3】 一時的に効果があるが持続しない

【4】 体罰をする側は罰的な関わりがエスカレートしがちになる

【5】体罰を受けた側にネガティブな情緒反応を引き起こす

【6】力関係次第で他人に同じことをしてしまう可能性を高める

それでも体罰を肯定したい人たちは、次のように言うかもしれません。

「両親や部活動の顧問や先輩から体罰を受けたことがあるが、深い愛情を感じた。体罰によって自分を戒め、スキルアップできたと思う」

「褒めて伸ばす指導をしたこともあるが、結果がついてこなかった。やはり効率よく効果を上げるには、体罰に勝る指導はないと感じた」

「校内暴力や学級崩壊などの力による反抗に対しては、指導者側も力を使ってでも立ち向かっていくべきだ」

教師の体罰は「指導力不足」なだけ

このような主張をされると、もしかしたら納得してしまう人もいるかもしれません。でも、裏を返せば、体罰よりも効果が高くて効率がよく、かつ子どもの体や心を傷つけることなく指導する方法を知らなかったというだけの話です。

学級崩壊、生徒の教師への暴力の解決策は、教師が報復的に体罰をすることではありません。警察や保護者や教育委員会、ソーシャルワーカー、スクールカウンセラーなどをはじめとした第三者の介入が必要です。余裕のない状況は思考的視野狭窄を起こすので、こじれた問題を当事者同士だけで解決しようとすることはおすすめできません。思考的視野狭窄は、判断力を低下させ、通常ならありえない意思決定を招く要因になります。

では、子どもに何かを教えるとき、体罰ではなく、どのような手段をとるといいでしょうか。

発達障害のある子どもを持つご両親向けの指導法に「ペアレント・トレーニング」というものがあります。これは「養育者が子どもにとって最高の指導者になる」との考え方から、養育者に子どもへの接し方や指導法のトレーニングをしてもらうというものです。本来は全10回のプログラムを隔週で、レクチャーと家庭での課題を段階的に半年かけて行います。

ペアレント・トレーニングについては、UCLAで行われたプログラムを、岩坂英己医師が日本向けに導入したもので、レクチャーする側を養成するプログラムなどもあり、各自治体で一般向けの講座とともに広まっています。

レクチャーする側を養成するプログラムなどもあり、各自治体で一般向けの講座とともに広まっています。その中で、役に立つ考え方があるので紹介しましょう。行動のタイプ分けです。

まずは、子どもの行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「絶対によくない行動」の3つに分けます。子どもが自発的に明日の学校の準備を始めたなど、「好ましい(増やしたい)行動」をとったときは、すかさず注目して褒めます。ご褒美をあげてもいいのですが、一つひとつの行動に与えるのではなく、できれば行動がいくつか積み重なってからあげたほうがいいでしょう。子どもの「待つ力」を育むためです。

具体的には、子どもがよい行動をしたら「トークンシステム」というポイント表にシールを貼ったり、丸印をつけたりしてポイントを貯めていき、一定のポイントになったらご褒美と交換する方法がおすすめです。なお、トークンシステムは原則として加算のみで、悪い行動をしたときに減点しないほうがいいと思います。減点や罰は、取り扱いが非常に難しいからです。

子どもを「無視」したほうがいいとき

一方、「好ましくない(増やしたくない)行動」をとったときは、無視します。「無視」というと、悪いことのように聞こえるかもしれませんが、「無駄な注目をしない」ということです。子どもの存在自体を無視するのではなく、好ましくない言動を無視します。それでも、子どもによっては、好ましくない行動をエスカレートさせることがあるかもしれません。

その場合は「何をしたらいいのか」を短く具体的にわかりやすく指示してから無視するといいでしょう。そして、適切な行動を起こしたら、「無視」をやめて、すかさず褒めてください。

さて、「絶対によくない行動」をとった場合は、どのようにするのがよいでしょうか? いろいろな方法がありますが、代表的な方法の1つに「タイムアウト」があげられます。

タイムアウトとは、子どもをその場からいったん離して、1人にさせる時間をとる方法です。あまり長時間になると、罰ではないのに「罰を受けている」というネガティブな感情を惹起させることになるので数分程度にしましょう。

例えば、ほかの子どもに暴力を振るうというのは、「好ましくない行動」ではなく「絶対によくない行動」です。このような行動をとった場合、タイムアウトを宣告したうえで、あらかじめ決めた場所に連れて行き、1人で冷静になる時間をとらせます。タイムアウトは「シンキングタイム」とも表現されることがあります。興奮状態に陥っているような場合には、何を言っても頭に入らないので、とにかく冷静になるまで待つということも必要なのです。

親子ともに達成感を得るには

ただ、事前にルールをわかりやすく説明しておいても、子どもがあらかじめ決めた場所に行かないこともあると思います。タイムアウトは罰ではなく、子どもはもちろん親のほうも冷静になることが目的なので、場所にこだわりすぎないことも大切でしょう。親が別室に移動するのも1つの対応ですが、子どもが「見捨てられた」と感じないよう予告してから行ったほうがいいと思います。

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そして冷静になったら、なぜそのような行動を起こしたのか(子どもには子どもなりの理由があります)、次に同じことが起きたらどう振る舞うべきか、シミュレーションします。ときには「ロールプレイ」として、保護者や教師が相手役をして同じようなシチュエーションを再現し、子どもに「とるべきであった適切な行動」を練習してもらうのです。もちろん、きちんとできたらしっかり褒めましょう。

体罰は、「好ましくない行動」と「絶対によくない行動」を罰によって減らすという方法ですが、このペアレント・トレーニングの「行動のタイプ分け」は好ましい行動を褒めることによって増やすという方法です。人間が1日に行える行動は限られています。「好ましい行動」が増えれば、必然的に「好ましくない行動」「絶対によくない行動」は減っていくというわけです。しかも、体罰での指導よりも、指導する側もされる側も効果を実感でき、親と子どもの双方が達成感を得られるでしょう。

発達障害の子どもだけでなく、すべての子どもへの指導に使えるので、ぜひ参考にして日々の子育てや教育に取り入れてみてくださいね。

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提供元:「体罰で子供しつける」が許されない納得の理由|東洋経済オンライン

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