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2019.04.03

「教えない」先生がこれから増えていく理由│EdTechが「教室」と「先生」の役割を変える


「EdTech」が浸透していき、学習アプリが子どもたちに勉強を教えるようになったら、先生という「職業」は必要なくなってしまうのでしょうか?(写真:ocsa/PIXTA)

「EdTech」が浸透していき、学習アプリが子どもたちに勉強を教えるようになったら、先生という「職業」は必要なくなってしまうのでしょうか?(写真:ocsa/PIXTA)

テクノロジーを使うことで生徒それぞれのペースや理解度に応じた学習が可能となることから、近年「EdTech(教育×テクノロジー)」分野に注目が集まっています。子どもに勉強を教えるアプリも次々と登場しています。アプリが勉強を教えてくれるなら、「先生」や「教室」は必要なくなるのかといえば、そんなことはありません。ただし、その役割は確実に変わりつつあります。
EdTechが普及したとき、「教室」や「先生」の役割はどのように変わるのか。そろばん教室にテクノロジーを取り入れ、5~8歳の子どもたちを対象にアプリを使った暗算習得プログラムを提供している山内千佳氏の著書『5歳からはじめる 世界で羽ばたく計算力の伸ばし方』の内容を一部抜粋し、再構成してお届けします。

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EdTechに対する誤解

くまのぬいぐるみ397円、サッカーボール315円、つみき942円。教室前方のスクリーンに映し出されたおもちゃのなかから、小学4年生の女の子が3つ選んで、画面左下にあるカゴのなかに入れました。

「1654円!」

すぐさま、みんなが声を上げる。画面に表示される「おかいあげ!」の文字。

「やった! 買えた」

先生が喜ぶ。子どもたちも得意げです。

これは東京にある学習塾での一幕です。この学習塾では現在、子どもたちの暗算力を効率的に伸ばすために、そろばんをベースに独自に開発したタブレットを用いた学習アプリを採り入れた教育に取り組んでいます。

アプリで効果的な学習が完結するのであれば、子どもたちは教室に足を運ぶ必要はありません。しかし、ここでは今でも教室での教育を続けています。それには理由があります。

「子どもに合った効果的な学習」をうたうアプリが数多く登場すると、「学習アプリに任せておけば安心」と思ってしまいがちです。しかし、それは大きな誤解です。アプリを採り入れてもなお、「教室」や「先生」の必要性は変わりません。ただし、EdTechの登場によって、それらの役割が変わってきています。

子どもの教育において、「教室」が果たす役割は重大です。教室で学ぶメリットは、大きく2つあります。

1つは、正しい学習方法の指導です。アプリでは、チュートリアルを付けて使い方を説明することはできますが、本当に正しく利用されているかどうか監視することはできません。

筆者の学習塾で実際に起こった出来事をご紹介します。アプリを開発して生徒に配布し、自宅学習に使ってもらうようになったときのことです。保護者から「教室での学習内容を変更してほしい」という要望が上がり始めました。

「家でできることを教室でやらないでほしい」というのです。そこで、自宅での学習は各家庭に任せ、教室では異なるプログラムを実施するようになりました。

成績の上がらない生徒が出始めた

しかし、思うように成績の上がらない生徒が出始めたのです。ある日、自宅で普段取り組んでもらっているプログラムを教室で実施してみると、データからは見えなかった事実がわかりました。

アプリの学習履歴データとして記録されている正解率を見れば、それぞれの生徒の理解度が把握できます。しかし実際は、学習履歴データの正解率と教室での成績は必ずしも一致していなかったのです。

学習塾に通っていたのは5~8歳くらいの子どもたちでしたが、その時期の子どもの学習について、親はまだ「自分がサポートしなければ」という意識を強く持っています。

そのため、熱心な親ほどよかれと思って、子どもの隣にぴったりくっついて解法や答えを教えてしまうことがありました。また、正解率を上げたいがために、親に隠れて電卓で解く子もいました。つまり、子どもが自力で解いているとは限らなかったのです。

「自分で解かなければ意味がない」とわかる年齢になるまでは、学習のプロセスを見守ってあげる必要があるのです。自宅学習と同じ問題を教室でも解いてみることで、自力で解けるかどうかを確認することができました。

2つ目は、集団学習による効果が見込めることです。

自宅ではほとんど学習したがらなかったのに、教室ではやる気になるという子どもは少なくありません。ほかの子と比較して「自分はできる」という自信がつき、能動的に取り組むようになったり、競争心に火が付いて「負けてはいられない」とばかりに一念発起して頑張るようになったりする子もいます。

教室でほかの子と一緒に何かに取り組むとき、そこには「応援する」「応援される」「励ます」「励まされる」といったコミュニケーションが生まれます。それらの対人コミュニケーションによる学習効果の向上が期待できます。

このように、同じ学習内容に取り組むにしても、自宅と教室ではまったく違う意味があるものです。どちらか一方で十分ということはなく、補い合う関係です。学習アプリがいくらすばらしいからといっても、それだけで学習を完結させてしまっては、効果が中途半端なものになりかねません。

周りとの関係が希薄になりがちな時代だからこそ、コミュニケーションの場所と機会を与えることで、テクノロジーによる学習効果をより高めることができる。「教室」はその役割を果たすものです。

生徒のモチベーション維持向上が先生の役割

「教室」と同じように、EdTechが普及しても「先生」が必要なくなるわけではありません。アプリが勉強を教えてくれるなら、「勉強を教えてくれる先生」は必要なくなるはずです。これからの先生は、勉強を教える代わりに別の役割を担っていくのです。

先に述べた学習塾の例でも、国内外の約60教室で同じアプリを使用していましたが、担当講師によって生徒の成績向上にばらつきが見られました。なかでも大きな成績の向上が見られた担当講師3人の教え方を見てみると、実に三者三様でした。

授業の後も生徒や親とまめにコミュニケーションを取る先生、授業をその場でお祭りのように盛り上げる先生、データを重視して生徒を細かく分析する先生、それぞれ自分の強みを活かした授業をしていました。

3人の先生にかろうじて見いだせた共通点は、熱意です。やり方は違っても、3人の先生には「とにかくこの子を伸ばしたい」という強烈な熱意が見て取れました。

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「勉強を教えること」が先生の役割だった時代には、学習内容をいかにわかりやすく伝え、生徒の理解を深められるかが、先生の腕の見せどころだったでしょう。しかし、アプリが「教える」役割を代替する時代には、先生に「指導力」は必要なくなるでしょう。

先生の役割は、「勉強を教えること」よりも「生徒のモチベーションを維持向上すること」へシフトさせることであり、そこに熱意を持って取り組める先生が成果を上げたのでしょう。

子どもの個性は十人十色であり、才能を伸ばす方法もさまざまです。先生は、自らの得意技を使ったり創造力を働かせたりしながら、生徒一人ひとりのモチベーションの上げ方を模索していかなければなりません。

「先生」という職業は、テクノロジーの登場によって、より自由度が高く、クリエーティビティーを必要とするものになりつつあります。「教える」必要がなくなった分、「先生をする」ことはより難しくなったともいえるでしょう。

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7割弱の社会人が「学ぶ習慣」がないという現実

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提供元:「教えない」先生がこれから増えていく理由│東洋経済オンライン

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