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2019.03.04

日本人の給料がほとんど上がらない5つの要因|90年代以降の平均上昇額はわずか7万円程度


「働けど働けど、我が暮らし楽にならず」と実感している人は多いだろう(写真:hyejin kang/iStock)

「働けど働けど、我が暮らし楽にならず」と実感している人は多いだろう(写真:hyejin kang/iStock)

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」に対する不正調査の問題が、相変わらず国会で審議されている。問題の本質は、官僚が統計を操作してでも「賃金上昇」を演出しなければならなかったことだ。

なぜ、日本の賃金は上昇しないのか。周知のように、1990年代以降の日本の賃金はほとんど上昇してこなかった。バブル崩壊による景気後退の影響があったとはいえ、欧米の先進国と比較して日本の賃金が低迷を続けていることは明らかだ。その原因はどこにあるのか。

27年間で上昇した年収はわずか7万円?

実際に、日本の賃金上昇の推移を見てみると、平成の30年間で上昇した賃金はわずかしかない。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、1990年の平均給与は425万2000円(1年勤続者、以下同)。1990年以降、平均給与はしばらく上昇するのだが、1997年の467万3000円をピークに下がり始める。

その後、ずるずると下がり続けて、2017年は432万2000円となる。1990年からの27年間で、上昇した平均給与はわずか7万円ということになる。

実際に、日本の実質賃金の下げは国際比較をしてみるとよくわかる。1997年=100とした場合の「実質賃金指数」で見た場合、次のようなデータになる(2016年現在、OECDのデータを基に全労連作成)。

・スウェーデン……138.4
・オーストラリア…… 131.8
・フランス……126.4
・イギリス(製造業)……125.3
・デンマーク……123.4
・ドイツ……116.3
・アメリカ……115.3
・日本……89.7

1997年から2016年までの19年間で、先進7カ国のアメリカやドイツでも1割以上上昇しているにもかかわらず、日本は1割以上も下落している。

安倍政権は、史上最長の好景気によって有効求人倍率を大幅にアップさせ、新規雇用者数も増加させたと胸をはるが、それが本当であれば、実質賃金の下落は説明できない。

「労働組合」の弱体化と「非正規雇用」の増加?

日本の賃金が上昇しない原因については、さまざまなシンクタンクやエコノミストが分析しているが、大きく分けて5つの段階に分けて考えればわかりやすいかもしれない。次の通りだ。

(1).労働組合の弱体化

(2).非正規雇用者の増加

(3).非正規雇用者の増加

(4).内部留保を貯め込んで賃金を上げない経営者

(5).規制緩和の遅れがもたらした賃金低迷

順に見ていこう。

<(1).労働組合の弱体化>

日本はバブル崩壊によって1990年代以降、景気後退を余儀なくされた。欧米のように、景気低迷に対しては人員カットで対応するのではなく、雇用を維持しながらも賃金で調整する、という方法がとられた。

労働組合も、クビにされるよりも給料を下げることに同意し、ここで日本特有の労使関係ができあがったといっていい。

周知のように、アメリカでは景気が悪くなれば20年勤続の従業員であろうと、即座に人員をカットする。欧州もアメリカほどではないが、必要とあれば労働組合も整理解雇を認めるというスタンスだ。日産自動車を救ったカルロス・ゴーン元会長が、コストカッターとして数多くの従業員のクビを切ったように、日本とは違って欧米諸国は「問題を先送りにしない」という姿勢を持っている。

要するに、日本の労働組合は自分たちの組合員を守るために、戦う牙をなくし、会社側=経営陣に忖度し、会社側の要望を聞き入れる体質になってしまった側面が否定できない。

こうした背景には、労働組合の構造的な問題があるといわれている。日本の労働組合は、企業ごとに組合が設立されている「企業内組合」が一般的であり、欧州などの「産業別労働組合」とは異なる。企業内組合の場合、どうしても経営陣との交渉の中できちんとした行動を起こせないという構造的な弱点がある。業績が悪化すれば、素直にベースアップの減額にも応じてしまうのだ。

<(2).非正規雇用者の増加>

小泉政権時代に行われた「労働者派遣法の改正」によって、日本の雇用形態は大きな変革を迫られた。企業は賃金の低い非正規雇用者を雇いやすくなった。実質賃金低迷の原因の1つとして、見逃すことはできない。

これには人件費を削減して、業績悪化から企業を守った面はある。しかし、今となっては日本企業があの時期にもっと海外にきちんと進出していれば、日本企業はもっと成長できた可能性はあるし、グローバルな企業に成長していたかもしれない。

携帯電話などの製造拠点は部品のみになり、日本の製造業のシンボル的な存在だった家電業界も、東芝やシャープは海外企業に買収され、シェアは海外企業に奪われてしまった。

少子高齢化、低賃金で放置されたパートタイマー

<(3).少子高齢化の影響>

日本の少子高齢化の影響は、重大であり、未来に大きな後悔を残すかもしれない。

内閣府がまとめた「データで見るアベノミクス」(平成31年1月25日)は、成果を大きくアピールしている。例えば、雇用環境の成果として次のような項目が列記されている。

●完全失業率……4.3%(2012年12月)→2.5%(2018年11月)、25年ぶりの低い水準
●有効求人倍率……0.83倍(同)→1.63倍(同)、1974年1月ぶりの高水準
●正社員の有効求人倍率……0.50倍(同)→1.13倍(同)、データ収集以来初の1倍
●就業者数……6271万人(2012年)→6522万人(2017年)251万人増、5年連続で増加

さらに、「所得環境」も大きく改善されたとしている。

●名目雇用者報酬……252.7兆円(2012年10-12月期)→282.7兆円(2018年7-9月期)30兆円増
●賃金改定でベースアップを行った企業の割合(一般職)……12.1%(2012年)→29.8%(2018年)。2.5倍、春闘の賃上げ率は5年連続で今世紀に入って最高水準
●最低賃金(加重平均額)……749円(2012年度)→874円(2018年度)125円増
●パート時給(前年比)……0.6%(2012年)→2.4%(2017年)1.8%上昇、9年ぶりの高い伸び

安倍首相と菅官房長官の力が最も強い内閣府がまとめたものだが、マイナス材料はほぼひとつもない「アベノミクス礼賛」のレポートだ。実際に、プラスにならない実質賃金や目標に達していない消費者物価指数はスルーしている。

新規雇用者数の伸びは、人口減少に対応するために非正規雇用や女性のパートタイマー従業員を増やした結果であり、完全失業率の低下や有効求人倍率の上昇は人手不足の表れといっていい。

外国人労働者を受け入れる枠を拡大したことで、政府もすでに人手不足が深刻であることは認めている。さらに、近年の特徴として挙げられるのが、かつては60歳もしくは65歳でリタイアしていた高齢者が、ここにきて60歳で低賃金の雇用者に格下げされ、本来なら65歳で完全リタイアだった高齢者が、格安の賃金でいまだに働き続けている、という現実がある。

とりわけ、自営業や中小企業の従業員だった人は、低賃金のまま働き続けることを余儀なくされている。ここでもまた実質賃金の伸びは抑えられてしまう。

経営者や行政の怠慢が招く賃金低下?

<(4).内部留保を貯め込んで賃金を上げない経営者>

人手不足といわれる業界は、サービス業など生産性が低迷している業界に多い。例えば、コンビニ業界で24時間営業の見直しが進められているが、粗利益の6割も取るような高いロイヤルティーは、従業員の低賃金や人手不足問題の要因であろう。

競争が激化しているコンビニ業界にとって、ロイヤルティーの引き下げは難しい課題だが、日本の少子高齢化の流れから見て、いずれは人手不足で改革を迫られる可能性はある。

バブル崩壊以前は、社員こそ最大の資源、という具合に会社も賃上げに積極的だった。優秀な人間は、一生をかけてでも育て上げていく、というのが日本企業の大きな特徴だった。それが、バブル崩壊以後は雇用さえ確保しておけば、賃上げなんていう贅沢は言わせない、という雰囲気に変わってきた。

そうして労働組合が弱体化したのをいいことに、企業は内部留保を貯め込んだ。貯めた内部留保で、人口減が予想される日本を飛び出して、新たなビジネスを求めて海外に進出すればよかったが、そうしなかった企業も多い。

いまや日本の内部留保は2017年度の法人企業統計によると、企業が持つ利益剰余金は446兆4844億円(金融業、保険業を除く)に達しており、金融、保険業を含めれば507兆4454億円となり、初めて500兆円の大台を超えている。1年分のGDPに匹敵する余剰金だ。

<(5).規制緩和の遅れがもたらした賃金低迷>

通信や交通エネルギーなどの公共料金分野は、規制緩和の遅れで現在も新規参入を阻害し価格の抑制や引き下げが遅れてしまった。価格が上がらなかったことで顧客満足度が増し、製品やサービスの価格が低く抑えられたまま日本経済は推移している。

そのツケが、従業員の賃金の上昇を抑えてきたといっていい。スーパーやコンビニ、スマホ(通信)、宅配便、外食産業といった業種では、価格が低く抑えられてきたために、賃金がいつまでたっても上昇しない。

企業経営者や行政の怠慢によって、適正な価格競争が起こらなかった結果といえる。

私たちの生活に根付いているスーパーやコンビニ、スマホ、宅配便、外食産業といったサービスは、極めて便利で安価なサービスなのだが、その背景にあるのが低賃金で働く従業員でありパートタイマーというわけだ。

以上、ざっと日本の賃金が上昇しない原因を考えてきたが、日本国民は極めて素直で、従順な民族だから、政府が一定の方向性を示すと素直に従う習慣がある。キャッシュレスもここにきて一気に拡大することでもわかる。

実質賃金が上昇しない背景には、過去の雇用政策や法改正が大きな影響を与えている。賃金より雇用という大きな流れの中で、我慢し続けている国民がいるわけだ。日本の景気回復は、まだまだ道半ばといえる。

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提供元:日本人の給料がほとんど上がらない5つの要因|東洋経済オンライン

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