2019.01.15
「誕生日アピール」する子どもの切ない心理|大人は「条件つき肯定」ばかりしていないか
子どもの誕生日には、ぜひ言ってあげてほしい言葉がある(写真:8x10 / PIXTA)
私が小学校の教師をしていたときのことです。ある日の朝、森君(仮名)という男の子が私のところに来て、「先生、今日はぼくの誕生日」と言いました。森君はにこにこと満面の笑みでとってもうれしそうでした。
私は「おめでとう! 今日はいい日だ。うれしいねえ。森君が生まれてくれてよかったよ。だって、今日こうやって森君と楽しくおしゃべりできるのは、森君が生まれてくれたからだもの」と言いました。森君はますますうれしそうでした。
自分の存在を”無条件”に肯定してもらえる特別な日
森君のように、「今日、誕生日」と言ってくる子はけっこういます。子どもは誕生日が大好きなのです。では、なぜ子どもは誕生日が大好きなのでしょうか? それは、自分の存在を”無条件”に肯定してもらえる日、自分の存在そのものを褒めてもらえる日だからです。こういう日はほかにはないのです。
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ほとんどの子は、日頃、褒められることよりも叱られることのほうが多いです。子どもによっては、家で叱られ学校で叱られ、塾や習い事でも叱られるというように、毎日叱られっぱなしの子もいます。
たまに褒められるとしても、”条件つき”です。つまり、進んで勉強したとき、お手伝いを頑張ったとき、脱いだ服を畳めたときなど、いろいろな条件をクリアしたときです。もちろん、このようなときに褒めるのは大事ですが、実はこのような条件つきの褒め方だけでは不十分なのです。
それに関して、山下さん(仮名)という二十代後半の女性が興味深いことを話してくれました。彼女は6歳の頃にふと疑問に感じたことがあって、今でもそれを覚えているそうです。彼女は何でもよく頑張る子で親に褒められることも多かったのですが、ある日お手伝いで窓拭きをして褒められたときに、「もしかしたら、私は頑張らないと褒められないのかな? 頑張らないでいると嫌われるのかな? そうならないように、頑張らなきゃ」と思ったそうです。そして、必要以上に頑張りすぎたりしたこともあって、そういうときはやはり疲れたそうです。
こうならないために大切なのが無条件に褒めることです。つまり、「頑張ったら」「ちゃんとできたら」「よい結果を出したら」「よい子にしたら」などの条件つきでない無条件の肯定です。言い換えると、その子の存在そのものを褒めることです。そして、実は、子どもが本当に親の愛情を実感するのは、自分の存在を無条件に丸ごと肯定されたときなのです。つまり、心の深いところではみんな次のように願っているのです。
「頑張れない自分も大切にしてほしい」「ちゃんとできない自分も許してほしい」「よい結果を出せない自分も愛してほしい」「ありのままの自分を肯定してほしい」「どんな自分も受け入れてほしい」
このような願いをかなえるのが無条件に褒める言葉、無条件な肯定です。具体的には、次のような言葉を贈ってあげてほしいのです。
あなたのことが大好き
あなたといると楽しい
あなたがいてくれるだけで幸せ
今日も一緒にいられてうれしい
あなたは私たちの宝物
生まれてきてくれてありがとう。大好きだよ
ママとパパのところに生まれてくれてありがとう
あなたがいてくれて、ママもパパも本当に幸せ
おかえり。無事帰ってきてくれてよかった
また、子どもが自信をなくしているときや心が折れているときなど、もっと直截(ちょくせつ)に伝える必要があるときは、次のような言葉も”あり”です。
無条件に丸ごと肯定してもらえると、頑張れる
頑張れないあなたも大好き
てきぱきできないあなたも大切な宝物
どんなことがあっても、パパとママはあなたの味方だよ
勉強が苦手でも関係ないよ。成績が上がらなくても関係ないよ。どんなあなたも大好きだよ
「そんなことを言うと、ますますやらなくなるのではないか」と心配する人もいると思いますが、決してそんなことはありません。親から無条件に丸ごと肯定してもらえると、子どもは心が安らかになります。そして、自分自身を肯定できるようになり、かえって頑張るエネルギーが湧いてくるのです。また、親の無条件の愛情を実感できている子は、兄弟や友達にも優しくなれて人間関係もよくなります。
ところが、日本人はこういう言葉を口に出すのが苦手です。欧米をはじめ諸外国の人たちより少ないように思います。ユニセフや内閣府などいろいろな機関が国際比較調査を行っていますが、日本の子どもたちの自己肯定感はいつも非常に低いということがわかっています。その原因の1つとして、親からの無条件な肯定が少ないということがあるのではないでしょうか。
そこで、誕生日の話に戻りますが、こういう言葉を日頃なかなか言えない人は、ぜひとも、子どもの誕生日には言ってあげてほしいのです。誕生日という特別な日に言われると子どものうれしさも倍増します。口に出して言えない人は、ちょっとした手紙やカードに書いて伝えるのもいいでしょう。あるいは、メールやラインでもいいです。これらはみな「書き言葉」であり、口で言いにくいことを伝えるのに効果的です。親からのちょっとしたひと言が、子どもを長く支える宝物になることもあるのです。
さらには、誕生日というのは特別な日ですから、特別な話もしてあげるといいでしょう。たとえば、その子がお腹の中に宿ったとわかったときのうれしい気持ちを話してあげるのです。看護婦さんやお医者さんがそれを伝えてくれたときの話し方や、それを聞いたときのママの気持ちを具体的に描写してあげると、子どもは非常に真剣に聞いてくれます。自分の誕生にまつわるエピソードほど、子どもにとって興味深い話はないのです。
それをパパに伝えた時のことも描写してあげてください。その場所はどこだったか、そのときの天気はどうだったか、それを聞いたときのパパの様子はどうだったか、こういうことを物語のように話してあげるといいでしょう。具体的な描写によって現実感が高まり、真実度が増すからです。もちろん、「パパからは大した反応がなかったのよ」などいうことを話す必要はありません。無条件の肯定を伝えるために話すのですから、上手な脚色も必要でしょう。
同じように、次のような話も、ぜひ描写しながら話してあげてください。
・その子がお腹の中にいたときに感じたことや、気をつけていたこと
・パパが気を使ってくれたこと
・お腹の中から蹴られたときのこと
・その子が生まれた日のこと。場所、周りの状況、お天気など
・出産のときのこと。家族の様子や気持ちなど
・産まれてくれたときのうれしい気持ちやパパの様子
手紙に書いて読んであげるのもいい
もちろん、パパ自身の口から伝えてあげることも大事です。おじいちゃんやおばあちゃんからも、ぜひ伝えてあげてほしいと思います。口で話すだけでなく、手紙に書いて読んであげるのもいいですね。子どもの宝物になると思います。
私の50代後半のある友人は、こう言っています。「オレがお腹の中にいるとき、母さんは食べ物にすごく気をつけていたんだって。特に、カルシウムをたくさん取るようにしていたそうだ。おかげでオレは丈夫な体でありがたい」。私はこの話を何度か聞かされていますが、そのたびに彼はうれしそうに話します。母親から聞いたこの話は、彼の生涯の宝物なのでしょう。
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もちろん、誕生日を待つまでもなく、今すぐやってあげればベストです。「思い立ったが吉日」ですから。そして、これをきっかけにして、常日頃から無条件の肯定を伝えるように努めてほしいと思います。
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提供元:「誕生日アピール」する子どもの切ない心理|東洋経済オンライン