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2018.11.27

来年の年金給付が「増える」ことの代償は何か|社会保障費は5000億円超も拡大する可能性


もらえる年金が増える代わりに、国の社会保障費は膨張し続ける(写真:dorry / PIXTA)

もらえる年金が増える代わりに、国の社会保障費は膨張し続ける(写真:dorry / PIXTA)

来年度予算編成が佳境に入っている。来年度予算案には、2019年10月の消費増税に伴う増収分が盛り込まれる予定である。それに伴う消費の反動減対策として、プレミアム商品券とか、キャッシュレス決済でのポイント還元とか、住宅エコポイントの復活とか、バラマキ的な財政支出の大振る舞いの話で賑わっている。

軽減税率が適用される飲食料品と新聞は、来年10月以降も消費税率は8%のまま据え置かれる。軽減税率が適用される品物は、増税されないのだから、増税による消費の反動減は生じない。それでも、「反動減対策」で恩恵が受けられるようにすることにするのだろうか。

11月20日に、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会が取りまとめた、「平成31年度予算の編成等に関する建議」では、消費税率引き上げ前後の消費を平準化する方策については、「効果的、効率的かつ将来的な財政の膨張につながらないようなものでなければならない」と提言している。それを踏まえた予算案になるかが、焦点の1つである。

「平成31年度予算の編成等に関する建議」 ※外部サイトへ遷移します

骨太方針2018に数値目標はなかった

2019年度予算案のもう1つの焦点は、社会保障費の増加がいくらになるかである。そもそも、少子高齢化によって社会保障費は年々増加しているが、その増加をいかにうまく抑えるかがカギとなっている。必要な社会保障給付は出さなければならないが、不必要に増加すれば、国民負担が増大する。

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安倍晋三内閣では、2016年度から2018年度までの3年間で、国の社会保障費の増加を1.5兆円に抑える目安を立て、それを実現した。2019年度以降も、その基調を維持するのか否か。その点について、今年前半の政策決定で激しい攻防が繰り広げられた。その顛末は、本連載の拙稿「骨太方針から『数値目標』が削除された真意」で記した通りだが、今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太方針2018)」では、2019年度から2021年度までの3年間の社会保障費の増加を、1.5兆円にするというなどといった数値目標は、一切明記されなかった。

「骨太方針から『数値目標』が削除された真意」 ※外部サイトへ遷移します

しかし、数値目標は示されなかったが、「骨太方針2018」には、社会保障費について、「実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針とされていること、経済・物価動向等を踏まえ、2019年度以降、その方針を2021年度まで継続する」と記された。

その文言にある「高齢化による増加分」とは、人口構造の変化に伴う変動分および年金スライド分の2つの部分から成る。そして、人口構造の変化に伴う変動分とは、当該年度における高齢者数の伸びの見込みを踏まえた増加分を意味する。年金スライド分とは、公的年金の給付を社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて自動的に調整する仕組み(マクロ経済スライド)を発動することを含めた、年金給付の増加分を意味する。

こう見ると、社会保障費について数値目標は明記されなかったが、数値以上に詳しい日本語で社会保障費の伸びを抑える意図が見え隠れする。

2019年度予算に向けて、厚生労働省は、社会保障費を前年度比6000億円増の要求をしている。6000億円の増加は、2018年度までの3年間の増加(年平均5000億円)よりも多い。多めに予算要求してよいことにしつつ、政策効果や優先度が低い社会保障予算を削減することで、最終的な社会保障費の増加を抑える方針である。社会保障費の増加を抑えるには、社会保障給付自体を削減する部分と、医療や介護の自己負担を増やすことによって税財源で賄う給付を抑える部分とがある。

75歳以上の医療費の自己負担を引き上げ?

政府も検討の俎上に乗せ、世代間の格差是正の観点からも重要視されているものに、75歳以上の医療費の自己負担割合の引き上げがある。2018年度現在、医療費の自己負担割合は、原則として、69歳以下は3割、70歳から74歳までは2割、75歳以上が「1割」である。2019年に75歳になる高齢者は、今74歳で2割負担である。2019年に75歳になる高齢者から順次、自己負担割合を「2割」のままにするという案が出されている。

同じ所得水準で、同じ病気になって医療費がかかっても、現役世代だと3割負担、75歳以上だと1割負担である。年齢だけで負担率が決まる仕組みに、現役世代や経済界からも異議が出ていて、負担割合の改革に賛同する声は大きい。

ところが、2019年夏には、参議院選挙がある。特に、投票率が高い高齢者は、年金給付や、医療や介護の給付や自己負担がどうなるかに関心が集まる。給付そのものを減らすことも嫌がるし、自己負担を増やすことも嫌がる。そうなると、参議院選挙対策として、2019年度予算案には、社会保障の給付減も自己負担増も、厳しいものは入れられない。官邸周辺からは、「負担増」は禁句だという話すら漏れ聞こえる。

この調子では、6000億円増の予算要求から、過去3年間並の5000億円の増に抑えるのは、かなり難しい。

そのうえ、来年の年金給付は、増額になる可能性が出てきた。このところ、年金支給額はほぼ据え置かれてきた。2016年度は据え置き(増減ゼロ)、2017年度は0.1%の引き下げ、2018年度は据え置きだった。

年金支給額は、消費者物価指数の動向と現役世代の名目手取り賃金の変動と、マクロ経済スライドを加味して、前年度より増やすか減らすかを決める。今のところ、消費者物価指数は、今年10月時点で対前年同月比約1%の上昇となっている。計算の詳細は割愛するが、物価が上がり、賃金も上がると、年金支給額は増える。特に、物価が上がり、賃金も上がると、マクロ経済スライドが発動され、物価や賃金が上がったほどには、年金支給額は上がらない(減額される)仕組みとなっている。それでも、物価や賃金の動向がこの調子で続けば、マクロ経済スライドの発動で減らされても、2019年度の年金支給額は、2018年度の支給額より増える可能性が出てきた。

年金給付が増えると、社会保障費は当然ながら増える。2016年度から2018年度までの3年間では、前掲のように年金支給額は、(意図的でなく物価・賃金動向に依存して)ほぼ据え置かれていた。その年金給付の据え置きを含んで、国の社会保障費は年平均5000億円の増加だった。

医療や介護で給付抑制や自己負担増が、来年度予算でなかなか見込めない中で、年金給付が増える。となると、来年度予算での国の社会保障費は、5000億円を超える増加になる可能性が出てきた。これは、第2次安倍内閣始まって以来最大の増加になるかもしれない(2013~2015年度も3年間で1.5兆円程度の増加だった)。

ただでさえ、現役世代の社会保険料が毎年のように上がり、おまけに「妊婦加算」も疑問視されている。「妊婦加算」とは、妊娠中の女性にだけ医療機関を受診した際に追加の自己負担が課される仕組みで、2018年度から導入された。それでいて、高齢者の医療費の自己負担は手付かず、ということでよいのだろうか。せめて経済力のある高齢者に、もう少し自己負担をお願いするなどできれば、相対的に現役世代の負担は軽くなる。

現役世代への負担のしわ寄せでいいか

加えて、消費増税による増収分を活用して、低所得高齢者には、介護保険料をさらに軽減したり、年金給付の追加増額(年金生活者支援給付金)を行うことにしている。

前掲のように、年金給付が来年増額されるとなれば、低所得高齢者の生活環境も改善すると見込まれる。ならば、極めて例外的に設けられている低所得の後期高齢者医療の保険料(均等割)の軽減特例(9割減や8.5割減)ぐらいは、廃止しても支障はないはずだ。この軽減特例の存廃は、今年末までに決着をつけることとなっている。

社会保障費の増加を抑えられないと、現役世代に負担のしわ寄せがくる仕組みとなっているわが国の制度を、早期にどう改めるが、いま問われているのだ。

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提供元:来年の年金給付が「増える」ことの代償は何か|東洋経済オンライン

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