2018.11.26
妊婦が診察料を「高く」払わされる根本理由|4月から始まった妊婦加算とはいったい何か
2018年4月から妊婦加算が始まっています(写真:Ushico/PIXTA)
今年4月に導入された「妊婦加算」が話題となっています。11月はじめに、厚生労働省から「妊娠中の健康管理及び妊婦加算の周知について」の通知が出されました。その通知やその後の報道で、今回の加算を知った方も多いのではないでしょうか。
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妊婦加算とは、胎児に配慮した適切な診療をするなど、周産期医療の充実のために、新たに導入された診療報酬の項目です。この加算については、妊婦を中心に4月以降たびたび話題になってきました。
これほどまでに反発された理由として、「特別なケアを要する患者は妊婦だけではない」「加算前後で医者の対応に何ら変わりがない(特別な診察を受けている実感がない)」「妊婦健診など自費での診療がかさむなか、また負担を増やすのか」といった声があるようです。
妊婦以外にも加算はある
この妊婦加算、どういった背景で導入されたのでしょうか。特別な加算があるのは妊婦だけなのでしょうか。医療機関に行ったときにかかる初診料、再診料、外来診療料には、時間外、休日、深夜における加算があり、これらは、どの患者にも一律にかかります。
患者の属性に関する加算としては、妊婦加算と乳幼児加算(6歳未満)があります。自己負担率を3割とすると、自己負担は通常、初診が846円、再診が216円のところを、それぞれ1071円と330円になります。深夜の場合、通常、初診が2286円、再診が1476円のところを、それぞれ2931円と1986円となります。
妊婦や乳幼児以外では、たとえば認知症患者や多剤投与をしている患者には、それに応じた診療報酬が加算されることがあります。
そもそも、日本の医療制度では、医療行為それぞれに診療報酬点数が決められています。医療機関は医療行為に応じた点数から計算された医療費を受け取り、そのうち自己負担分を患者が、残りを医療保険者(健康保険組合など)が負担します。診察や検査、治療など、医療行為を多く行えば、その分医療費が高くなる仕組みです。
診療報酬点数は、主に厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)で決まります。妊婦加算に関する中医協の議論を振り返ると、妊婦の外来受診に対しては、(1)胎児への影響に留意した医薬品の処方、(2)妊婦に頻度が高い合併症や診断の難しい疾患を念頭に置いた診察、(3)妊婦のメンタルヘルスケアの充実、などに重点が置かれていることがわかります。
実感がないので、わかりにくい
あまりピンと来ないかもしれませんが、普段であれば、市販薬で済ませるところを、妊娠中だから病院で相談しようと考えたことはないでしょうか。それは、まさに、普段より充実したサービスを求めていることであり、サービスを受ければ、医療費に反映されてしまうのです。
「会計時に妊婦であることがわかって、上乗せされた」「妊婦であることがわかったら、過去にさかのぼって徴収された」といった声もあるようです。特別なケアをすることによる加算なので、本来であれば診察が終わった後に判明した場合は、加算されることはありません。
また、すべての診療科で加算されるため、たとえば、コンタクトレンズを作るために眼科で視力検査をした場合にも適用されます。加算について事前の説明もなく、医者からも妊娠に関連する病気について特別なコメントがなかった事例も多いと思われます。患者がケアを受けたことを実感できなければ、この加算は患者にとってわかりにくいものとなります。
一方、薬の飲み方は、授乳期も注意が必要ですが、授乳期には加算がないほか、妊娠中に薬局で薬を処方してもらっても加算がありません。また、注意が必要なのは同じなのに、お腹が目立つようになるまで、あるいは自分で妊娠中であることを言わない限り、妊婦に対する特別なケアも受けられませんが、加算もされません。これもわかりにくい理由の1つとなっています。
診療報酬点数を決めている中医協の議事録によると、妊婦の外来受診については議論されていましたが、妊婦のどういう症状に対して、何をするからこれだけの加算、といった説明は読み取れませんでした。
受診時の自己負担額が変わることによって、受診頻度が変わることは複数の研究で明らかになっています。今回の負担増でも医療機関に行かない妊婦や、妊娠していることを隠す人が出てくる可能性もあります。これでは本末転倒です。
6歳未満の加算はなぜ問題にならないのか
たかが数百円の負担増ですが、たかが数百円分なのであれば、社会で負担する方法はないのでしょうか。前出のとおり、6歳未満の子どもも医療機関にかかると加算されていますが、あまり批判を聞きません。
それは、乳幼児に対しては、自治体の「乳幼児医療費助成制度」によって、患者の自己負担が実質的に無料、あるいはかなり低額に抑えられているからでしょう。
昨今、若いファミリー世帯を取り込むために、自治体同士で競い合ってこの助成制度を充実させており、最長で22歳まで医療費が無料になる地域もあります。これはこれで、別の問題があるので後日紹介しますが、自治体にはその他、妊婦健診に対する助成などもあります。個人的には、今後、助成の対象を見直し、妊婦加算をカバーする自治体が出てきてほしいところです。
妊娠中は普段よりも体調が悪くなったり、体調が気になることが増えたりする時期です。風邪で病院に行っただけのつもりだったのに、妊娠糖尿病の疑いがわかり大事に至らなかった、といった例もありますので、受診を控えることはやめましょう。
なるべく妊婦加算を少額で済ませるために、あちこちの医療機関に行って何度も初診料を払うのではなく、妊娠していることを告げて、しっかりサポートしてもらえる医療機関を1つ持つとよいかもしれません。
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提供元:妊婦が診察料を「高く」払わされる根本理由|東洋経済オンライン