2018.11.12
「ウチの子はダメ」と嘆く親ができてない基本| 他人と向き合ったところで何も解決しない
これからの時代の教育法は?
田園調布の「つくし会」は、慶應義塾幼稚舎など名門小学校への高い合格率を誇る、知る人ぞ知るお受験塾。募集や宣伝をせず長らくベールに包まれてきた。その代表の石井美恵子氏が、同会の指導方法を著書『募集しない名門塾の 一流の教育法』で初めて公開した。
『募集しない名門塾の 一流の教育法』 ※外部サイトに遷移します
その石井氏と、『弱さをさらけだす勇気』の著者でもあり、これからの時代の教育法について錦織圭選手をはじめ第一線で活躍するテニスプレーヤーを育成してきた松岡修造氏が語り合った。
『弱さをさらけだす勇気』 ※外部サイトに遷移します
「できる」ようにするには、段階を踏んで一歩ずつ
松岡 修造:そもそも石井さんが幼児教室を始めようと思われたきっかけは何ですか?
石井 美恵子:息子2人の小学校受験を経験したことですね。子どもといっしょに受験に取り組むことで、「こんなふうに考えているんだ」と納得がいったり、「何でこんなことがわからないんだろう」と悩んだり、うまくできれば達成感を味わうことができたりと、いろいろな感情が芽生えて子どもとの絆が深まり、いっしょに成長できたと感じたんです。特に、できないことができたときの感動は大きかったですね。
だから、そんな自分の体験をぜひ皆さんにお伝えしたい、共有したいと思ったんです。
松岡:なるほど。僕の場合、ジュニアへのテニス指導ということに関しては、わりと冷静に取り組めているんですが、自分の子どもに対してはそれができない。ついイラッとした勢いで怒鳴ってしまいます。感情がストレートに出てしまうんですね。日々反省をしているんですが。子育てで失敗したことから学ぶことが多く、それが自分を強くしているように感じています。
石井:失敗だとお感じになることがあったのですか?
松岡:もう、日々感じています。だからこそ、子どもではなくて、僕自身がいちばん成長しているという気がして仕方がないです。
特に子育ては、とにかく“気持ち”だけを押すようなアドバイスが先行してしまうことが多いじゃないですか。「できる! できる!」「頑張れ!」って。そんなやり方ではできるようになるわけがないですよね。どうしたらできるようになるかという方法を具体的に説明したうえで「できる」と言ってあげないと。石井さんはどんなふうに指導されているのですか。
石井:子どもたちはもともと「できない」ので、最初から「できる」とは思わずに、段階を踏んで一つひとつできるように導いてあげる、ということですね。
松岡:指導はどんなところから始めるのでしょうか。
石井美恵子氏
石井:靴を脱いだらそろえる、人から話しかけられたら返事をする、といった生きていくうえで基本的なことが、日々の生活のなかでたくさんありますよね。まずはそういう根っこの部分を作ることから始めます。本来は親の務めだと思いますが、家庭ではうまくいかないことが多いですよね。それを教室で「できるまで繰り返す」ということです。
松岡:親と先生との違いがあるのでしょうが、「教室などではきちんとやっているようなのに、家ではやらない」ということも多いのではないでしょうか。
石井:教室で何を学んできたか、親がきちんとチェックをすることですね。「教室に任せているから安心」ではなくて、何をどう指導されているのか理解しておくことが必要です。そして、うまくできないことは家で繰り返し練習する。幼いうちは本人任せにはできないですから。
文章表現を学べば、テニスも強くなる!
松岡:これからの時代、子どもや家族とのかかわり方を変えていかなければいけないのは、特に男性の側だと思います。「勝手に育つ」といわれた時代と違い、父親の手助けがとても大きな力になる。僕もいろいろ勉強させてもらったので、やればやるほどよくなるのがわかるんです。でも基本的に「ダメおやじ」なんで、できていないことも多いのですが。
石井:父親がかかわるといっても、どうしても限界がありますからね。
松岡:昔だったら父親が家にいないのが当たり前でしたからね。僕の父もそうでしたが、コミュニケーションはうまくいってたんです。父親が嫌いになったり、反抗したりすることもなかったですし、大きくなっても、友達よりも家族と一緒にいるほうを僕は選んできました。
自分が家族を作るときもこうあってほしいし、できると思っていましたが、なかなか難しいものですね。
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石井:やはり、何よりもコミュニケーションが基本ということでしょうね。私の教室では、コミュニケーション力を養うために、公園の真ん中で1人ずつ立って、自分や家族のことを5分間かけて話すスピーチの練習をするんです。
松岡:1人で5分間も? 幼い子どもにとっては大変なことですよね。
石井:最初は私からいろいろと質問します。「あなたのお名前は?」からはじめて、家族のことなどを聞き、細切れの受け答えをつなげて「こんなふうに話してみようか」とスピーチの内容を構成していくのです。
すると、だんだんと自信をもって話せるようになって、入試前の10月ごろには5分間のスピーチができるようになります。
松岡:言葉がコミュニケーションの基本ですからね。僕もここ最近は、専門の先生にお願いしてジュニアのテニス合宿に来ていただいて、言葉の指導を行っています。たとえば「自分は何々をしたい。なぜならこう思っているから」と言いたいことをきちんとした文章で表現する訓練です。
松岡修造氏
石井:テニスの教室で言葉の指導をするのですか?
松岡:自分の気持ちがきちんと相手に伝わるように言葉で表現する練習をすることで、テニスもうまくなるはずだと思ったからです。たとえば試合でボールが飛んできたときに頭の中で考えることは、「今、相手がこの位置にいるから、私はこの場でこのようにボールを打ち返します」と、文章を組み立てることとまったく同じなんですよ。
テニスは考えてプレーしなければいけないスポーツですから「ボールが来た。打った」ではダメなんです。戦略的にプレーするのであれば、的確な言葉で表現することが必要です。
石井:それはテニスに限らず、日常のさまざまなことに当てはまるのではないでしょうか。やはり小さいうちからきちんとものを考え、表現する練習を積むことが大切です。ただ、幼いうちは自分でできないので、親の手助けが必要になります。
親は情報をかき集めるより、「勘」を磨け!
松岡:親としては、子どもに早く自立してほしい、自分自身の意思で行動できるようになってほしい、と思います。でも一方で、失敗させたくないという思いも強いんですよね。
だから、人と比較したり、いろいろな情報に振り回されたりして、本質を見失ってしまうことも多いように思います。
石井:おっしゃるとおりですね。あちこちから情報をかき集めて、どうしようと悩むお母さんも多いです。でも、人の話を聞いたところで、それがすべて自分の子どもに当てはまるわけではないので。子育てをするうえでは、親はまず「勘」を磨いたほうがいいとアドバイスしています。
松岡:「勘」ですか。
石井:ふだんから「今日は元気だな」とか、「具合が悪いのかな」とか、「いつもと何か違うな」と子どもの様子をよく観察することで「勘」が磨かれ、わが子には何が必要か、いざというときにどうしたらいいかが見えてくると思います。
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松岡:なるほど、「勘」を磨くことは大切ですね。ただ、子どもの側に立たず、自分の思いだけで突き進むと、ついまわりに目が行きがちになり、人と比較してしまったりしますよね。ジュニアを指導していても、「あの子はできたのに、なぜうちの子はできないのか」とおっしゃる親御さんが実に多いです。
石井:他人と向き合ったところで何も解決しません。そこはもう自分の子と向き合うしかないんです。とにかくわが子をしっかりと見るように親御さんにはお願いしています。
そして、お母さんがお手本になることですね。子どもができないところは「こうやるのよ」と見本を示して、いっしょにやり直してみる。それを続けることでできるようになるはずです。
松岡:「あっ、本気になってくれたな」「正しい方向に進んでいるな」と思えるように、地道に努力を重ねる、ということですね。子どもにとっての正しい道筋をつけるのが、親にとっていちばんの役割でしょうね。
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提供元:「ウチの子はダメ」と嘆く親ができてない基本| 東洋経済オンライン