2018.09.28
夫の育児参加に必要な、職場における2つのKY|共働き社会で変化した「女」と変化のない「男」
共働き夫婦の時代に入って女性は変わったが、男性は変わっていない(写真:KY/PIXTA)
団塊世代が経済を支えいていた1970~1980年代、家庭のロールモデルは「専業主婦+会社員の夫」というものでした。実際、共働き夫婦と片働き夫婦(どちらかが働き、どちらかが専業主婦(夫)となる)の割合はおよそ「2:1」で片働き夫婦のほうが多かったものです。
しかしこの割合、平成に入ったころにはほぼ「1:1」まで変化していました。平成の最初の10年間ほどは拮抗した期間が続きましたが、2000年代以降、共働き夫婦の数と片働き夫婦の数の差が開き始め、今ではなんと「1:2」つまり共働き夫婦の数が片働き夫婦の数の約2倍にまで拡大しています。
長い歴史では共働きが普通
専業主婦モデルというのは、長い歴史をみれば伝統的なものではありません。歴史的には職住が離れた大正・昭和初期に首都圏で誕生し、戦後普及した「一時的」な仕事と家事の家庭内分担スタイルにすぎません。農作を営む地方が昔からそうであるように、共働きというのは珍しいものではなかったのです。
また、江戸時代の男性はかなりのイクメンでした。明治初期の日本人の生活シーンを記録したイザベラ・バードの紀行文では、子育てに時間をしっかり割いている男性の姿が英国人の目から驚きとして取り上げられています。
考えてみると、共働き世帯の増加は、男女雇用機会均等法が成立(1985年)、女性差別が完全に禁じられた改正(1999年)の流れと軌を一にしています。そして、女性も男性と同等のチャンスを手にして働ける社会が名実ともに実現したのが「共働き夫婦2:片働き夫婦1」という数字なのです。
さて、「共働き夫婦」の時代に突入したとき、女性は変わりました。女性の多くが1度は社会で働くのが当たり前の世の中になりました。文部科学省によれば、昨年度の大卒女性の就職率は98.6%にもなっています。25~34歳の女性の就業率は約75.7%です(総務省「労働力調査」)。
また、「M字カーブ」といわれるように、1度就職した女性が結婚や子育てを機に離職してしまう現象も近年縮小していることが明らかになっています。内閣府の「男女共同参画白書 平成29年版」によれば、M字カーブの底、つまり30~34歳女性の就業率が2006年に59.7%だったところ、2016年には70.3%まで上昇し、50歳代まで7割前後で維持されています。これは結婚退職や子育て退職の割合が大きく減少していることを意味します。
つまり、「女性は変わった」ということです。
ところが変わっていないのは、男性です。
共働きが当たり前になり、自分の妻だけでなく、職場には多くの女性がいる時代になっているというのに、そして自分と妻の年収の差が相当縮まっているのに、男性は平成の30年間、どれだけ変わることができたでしょうか。
家事育児も女性がする「ワンオペ」夫婦
たとえば、下記のようなケースで、夫と妻、どちらが休むでしょうか。あるいは職場でよく休みになるのは男性社員と女性社員のどちらでしょうか。
・子どもの急な発熱により退社する担当
・子どもがインフルエンザになったとき1週間休む担当
・子どもの健康診断や面談対応で休む担当
おそらく女性社員が有休取得をしていることが多いと思います。実際、厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」によれば、2017年の年次有給休暇取得率は49.4%とされていますが、男性46.8%、女性55.4%となっており、10ポイント近い差があります。
同様に、女性に「家事育児」をしわ寄せしている項目は以下のようなところにもあらわれます。
・子どもの保育園の送り迎え
・子どもの習い事の送り迎え
・子どもの食事を作る担当
・子どもの風呂入れ~寝かしつけ担当
多くの女性が時短勤務を取得することにより、これらのほとんどを受け持っています。
マクロミルの調査サイト「ホノテ」のアンケート調査によれば、夫婦ともにフルタイム勤務で共働きの場合でも、「妻がメインで家事を担っている」割合は66%にのぼり、実際の分担割合は「夫1:妻9」という回答が最多となっています。
男性は「共働きの時代なのに、共家事と共育児はしない」ことにより、「ラク」をしているわけです。妻は定時退社でダッシュしても夫は帰宅時間をそこから決め、のんびりLINEで「今日はオレ、メシいらないよ」などと連絡していたりします。
男性の年収が妻の2倍以上ならともかく、夫婦の年収対比は拮抗しつつあります。少し前の調査になりますが、明治安田生活福祉研究所「第4回結婚・出産に関する調査」(2008年)では、世帯年収に占める妻の年収は平均して38%としています。実は夫は平均4割くらいは家事育児も負担するべきなのが「共働き時代の家事育児シェア」なのです。
年収対比で家事育児を考えてみましょう。たとえば、「夫550万円、妻450万円」のように夫婦の年収が拮抗しているとしたら、家事育児分担は45%でもいいわけです。(しかも、差がつく要因は能力ではなく家事育児のため時短勤務をしているせいかもしれない)。
もし、前述のアンケート調査のとおり、多くの夫が家事や育児を1割くらいしかやっていないとしたら、それがまさに「時代錯誤」なのです。
現状打破に必要な、2つの「KY」
しかし、会社の空気や男の思い込みはなかなか変わらないのも正直なところでしょう。
もしかすると、今世の中で取り組みが進む「働き方改革」の流れは、「共働き社会の完成」の最後のキーワードなのかもしれません。
キーワードは2つです。男性が「定時退社を増やす」ことと「有休取得を増やす」ことで、共働きが本当の意味で実現することになるのです。
これは本人の心掛けだけでは成立しません。むしろ「上司」や「職場」が意識を変えていく必要があります。たとえば、
「男は定時に会社を抜け出せないものだ(子育て中の女性社員はともかく)」
「男は半休や時間休を取って子どものために休むものではない(子育て中の女性社員はともかく)」
「定時を過ぎてからが、男の仕事の本領である(子育て中の女性社員はともかく)」
というような考え方そのものを一つひとつ変えていくことがスタートです。本人はもちろん、自分はイクメンしなかった上司も、会社全体として「共働き社会の働き方」にシフトしていくことが必要です。
もちろん、男性が家事育児に協力することは、「夫も家事育児しろ」というだけではありません。マネープランの観点からもいくつかの大きな意義があります。
たとえば、
1.女性の働く意欲を高める
……「自分だけ家事育児を背負わされている」と感じている状態では女性の仕事のやる気は増えません。むしろ時短勤務をずっと継続することになるでしょう。
2.女性の生涯賃金を増やす
……男性が家事育児に参加することで女性の労働時間が増やせれば、これは確実に家庭の年収増になります。男性が年収を今より10%増やすことはそう簡単ではありませんが、女性が時短勤務をフルタイム勤務にすればそれだけで年収は10%増やせる(かつての年収に近づく)ことになります。生涯賃金で考えれば数千万円もの違いになります。
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老後の経済的余裕にもつながる
3.女性の退職金、厚生年金額を増やす
……そして最後にインパクトがあるのは退職金と厚生年金です。長い老後の固定収入として女性も厚生年金をもらうことで専業主婦と比べて年100万円ほどの差がつけばこれは2000万円以上の価値がありますし、正社員として退職金をもらうことができれば、これまたパートや派遣にはない大きな財産をもって老後を暮らせることになります。
共働きはつらいことばかりではありません。むしろ人生の最後、100年時代の老後を笑って過ごせるのは共働き正社員夫婦だと思います。
ワンオペ育児に苦労している女性も、家事育児の負担が十分ではない男性も、それを理解できれば、家事や家計の負担の見直しに前向きになれるのではないでしょうか(特に男性の頑張りに期待したいところです)。
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提供元:夫の育児参加に必要な、職場における2つのKY|東洋経済オンライン