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2018.09.20

日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか|キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁


さまざまな支払い方法を使うことで「お金の出口」が増えると、把握すべき情報が増えてしまうという一面もある(写真:takasuu/iStock)

さまざまな支払い方法を使うことで「お金の出口」が増えると、把握すべき情報が増えてしまうという一面もある(写真:takasuu/iStock)

今年6月にLINEが手掛けるスマートフォン決済サービス「LINE Pay」が、3年間の加盟店手数料無料化を発表して以来、スマホ決済を中心にキャッシュレス化の動きが加速しています。しかし6日に発生した北海道地震では、キャッシュレス生活のために手元に現金がなく、停電中のコンビニで日用品を買えないとの声が上がるなど、災害時にはほとんど機能しないキャッシュレス決済の弱点も指摘されています。

今夏から秋にかけて全国で地震や豪雨などの自然災害が相次ぎ、生活インフラの異常事態を各地で経験したことは、もともと現金信仰が強かった日本人の意識をより現金へ回帰させるきっかけになるかもしれません。国を挙げたキャッシュレス化に水を差す格好になりますが、筆者はそれ以外にも、家計管理の面で日本のキャッシュレス化を阻む要因があると思います。

キャッシュレス社会を望まない人が半数以上

日本のキャッシュレス決済比率は2015年時点で18%と、韓国(89%)や中国(60%)などと比べて低く、政府は2027年までに4割程度に上げる目標を掲げています。8月にはQRコードを使った決済基盤を提供する事業者への補助金、決済サービスを導入する中小の小売店への税制優遇を検討すると発表。神奈川県は上下水道料金の支払い方法にLINE Payを導入しました。

しかし、官民一体となってキャッシュレス決済のインフラ整備に全力を挙げるのとは対照的に、国内の消費者はまだ及び腰な印象を受けます。博報堂生活総合研究所の調査によれば、キャッシュレス社会に「ならない方がよい」という人は51%と、わずかながら過半数を超えています。

キャッシュレス化のカギを握るとみられているのがスマートフォンを使った決済サービスです。なかでもQRコードを読み取るタイプの決済サービスはLINEのほか楽天、ソフトバンクとヤフー、アマゾンなど大手企業が参入しており、手数料無料など各社が加盟店の負担軽減策にしのぎを削っています。これが奏功すれば街中の小売店に決済端末が整備され、普及を加速させると期待されています。

ところが三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、QRコード決済を知っている人は43%、利用したことがある人は8%にすぎません。しかも「利用したことはないし、今後も利用したいとは思わない」人が55%を占めているのです。これは冒頭のLINE Payが手数料無料を発表する直前に行われた調査結果ですので、現在の認知度や利用意向は上がった可能性もあります。ただ、デジタルネーティブである20代、30代でも半数以上が利用に消極的であるとの結果は、普及への遠い道のりをうかがわせます。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査 ※外部サイトに遷移します

これだけキャッシュレスへのモチベーションが低い要因には、現金払いで不便がない環境が影響しているようです。

上述の調査では、現金払いしかできずに困った経験がある人は全体の47%という結果も得ています。つまり半数以上の人は現金払いのみの店舗でも不自由なく買い物をしているわけです。20~30代では現金払いのみで困った人のほうが多く、世代間で差がありますが、現金主義でもさほど生活に困らなければ、あえて行動習慣を変えてまでキャッシュレスにするモチベーションは湧かないのでしょう。

そこでQRコード決済サービスの多くは、決済した消費者にポイントを付与しています。楽天ペイでは初めて使う人はもれなく1000ポイント、買い物時には決済金額に応じて0.5~1%(一部キャンペーン時にはそれ以上)のポイントがもらえます。LINE Payも決済金額に応じたポイントを付与しており、条件を満たしたユーザーには期間限定で3%を上乗せしています。こうしたインセンティブは高還元率をうたうクレジットカードにも見劣りしないレベルです。

消極的な人は、浪費しそうで怖い

それでもキャッシュレス決済に二の足を踏む人には、「お金の管理が難しくなる」という不安があるようです。さきの調査結果を見ると、QRコード決済を使いたくない人は、使いたい人よりも「仕組みは知っているが、利便性を見いだせない、必要性を感じない」や「使いすぎてしまうおそれがある」という傾向が強いのです。

マネーフォワードなどの家計簿アプリでは、データ連携をすることで、QRコード決済アプリでの支出を家計簿上に表示できます。ですから決済アプリを使うと家計管理ができないわけではありません。また、データ連携をさせる操作は銀行の口座引き落としやクレジットカード払いのデータを連携させるのとほぼ同じですから、データ連携の煩雑さゆえに家計管理がしにくくなるわけでもなさそうです。そもそも家計簿アプリに連携しなくても、ほとんどの決済アプリ内では利用履歴を閲覧できます。

お金の出口が増えることによる錯覚が怖い

むしろ問題は、家計管理にかかわるプラットフォームが従来よりも増えることではないでしょうか。

現時点で、コード決済よりもクレジットカードや電子マネーに対応した小売店が多ければ、今まで使っていたカード払いをすべてコード決済に切り替えることはできないでしょう。すると、お金の出口が増えることになります。出口が増えただけで使える予算が増えるわけではありませんが、使った金額を錯覚するおそれはあります。

たとえばこれまでクレジットカードで月10万円使っていたものが、コード決済で3万円使うようになったとき、クレジットカードでの支出が7万円なら支出総額は変わりませんが、クレジットカードの明細だけを見れば支出が減ったように見えます。すると、「まだそんなに使っていないから」と油断して使ってしまうかもしれません。

そんな錯覚を防ぐために、一部の家計簿アプリでは銀行口座やクレジットカード、コード決済などの情報を一元的に表示、集計できます。ただ、連携登録できる口座数に制限があると、手持ちのお金の出口をすべてカバーしきれません。現金主義なら銀行口座とお財布の現金の出入りだけをみれば家計収支がわかるところが、さまざまなキャッシュレス決済を使うことで連携すべき情報が増え、お金の流れを追うハードルが上がってしまうのです。

家計の収支を正しく把握するのは意外と難しいものです。「わが家にはいくら収入が入ってきて、いくら出ていっているのか?」。たったそれだけのことでも、実はできている人はごくわずかです。キャッシュレス決済などのテクノロジーは、それを効率化する有効なツールのはずですが、あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません。

キャッシュレス社会が、根強い現金信仰を上回る信頼を得るには、お金を使う入口である「決済」だけでなく、お金を使った後の管理の簡便さも十分に配慮することが大切だと思います。

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【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します

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提供元:日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか|東洋経済オンライン

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