2018.08.28
投資信託はおいしい炊飯器を買うのと同じだ|投資信託はおいしい炊飯器を買うのと同じだ
お金が増える投資信託を選ぶ場合は炊飯器を買う感覚で。それが近道だ(写真:Kazpon/PIXTA)
「投資信託を金融機関に勧められるままに買ってはいけないんですよね」。筆者は、金融商品の販売を行わないFP(ファイナンシャルプランナー)ですが、私のもとにお越しになる相談者は、「金融機関にだまされるものか」とかたくなに構えている方も少なくありません。
金融庁は、先頃「銀行で投資信託を購入した顧客の46%が損失を抱えている」というデータを発表しました。その原因は金融機関が「高値圏」で期待感をあおりつつ投資信託を販売し、買った後に価格が下落。投資経験の少ない顧客は安値になると不安からすぐに手放してしまうからではないかと発表しています。実際、過去10年間における投資信託全体の基準価格は年率4.4%のペースで上がっているのに、投資家の利益(インベスターリターン)はその半分の2.2%だったというのです。
「投資信託」そのものは優れた商品
これでは、「金融機関は手数料稼ぎに顧客をだますのだから、うかつに近づいたらいけない」と身構えてしまうのも無理はありません。しかし投資信託は、少額から分散投資が実現できる実に使い勝手の良い仕組みであり、正しい投資行動で臨めば世界の経済成長の恩恵を手軽に受けることができる優れた「金融商品」です。にもかかわらず、「だました」「だまされた」と言ってしまうのはとても残念なことだと思うので、今回は投資信託を家電購入と比較しながら、付き合い方、選び方を考えてみたいと思います。
金融機関は、金融商品を販売することが仕事です。日々の暮らしを豊かにするために、作り手が努力し商品を世の中に出すというプロセスは、金融業界も家電業界もそう違いはないでしょう。また商品を、自信を持って顧客に勧めることは、別に悪いことではないはずです。
私たちは、メーカーが技術を駆使し創り出した炊飯器のCMをよく見掛けます。それぞれに特徴があり、値段もさまざまです。中には10万円近くする超高級炊飯器もあります。ふっくら、つやつや、冷めてもおいしい、お菓子やパンも焼ける多機能炊飯器など、魅力的な宣伝文句も並びます。
実は、投資信託でも同じような傾向があります。「売れ筋」投資信託ランキングといった情報サイトを見ると、高配当、成長株、ロボット、AI(人工知能)といった名前の商品が目立ちます。世の中の最先端に投資をし、儲かるイメージがあります。
炊飯器を実際に買う場合、CMだけを見て衝動的に購入判断をする人はまずいないでしょう。家電量販店に出向き、実際に炊飯器を手にとって重さを確認したり、手入れの仕方などをチェックしたりするかもしれませんし、炊いたご飯を試食したり、ネットでライバル店の価格を調べたりするかもしれません。さらにはマイコン、IH、圧力にスチーム、そして超音波などの炊き方の違いなども調べたりもするでしょう。とにかく、これまで使っていた炊飯器の知識に、なんとか新しい知識を上書きしながら購入判断をするはずです。
炊飯器を買うのと同じように投信でも基礎知識を
投資信託選びにおいても、本当は同じはずです。購入前に「投資信託とはどういうものなのか」といった基礎知識はぜひ持ちたいものです。投資対象は何か、インデックス型なのか、アクティブ型なのか、販売手数料、信託報酬、信託財産留保額といった手数料も要チェックです。
リスク、リターン、シャープレシオ(1単位当たりの超過リターン、この数値が高いほどリスクを取って得られる超過リターンが高い)といった言葉も、しっかり押さえておきたいポイントです。
炊飯器は毎日使うものですから、できれば操作はシンプルでわかりやすいものがいいでしょう。あまり多機能すぎても使えなければ意味がありません。ハイスペックの炊飯器もよいのですが、ライフスタイルに合わない高機能は宝の持ち腐れです。食べ盛りのお子さんがいるお宅と、高齢の夫婦世帯では、求める機能が異なります。
一方、投資信託のいちばんのメリットは「分散」ですから、投資対象は広く分散されたもののほうが、原理原則に基づきます。前述のロボットやAIといった特定の華やかなテーマよりも、世界の株式や債券に分散して投資をする「バランスファンド」が最も基本に忠実な選択肢となります。相場の変動にも、自動的にリバランスをしてくれますからシンプルでわかりやすいです。そのうえで、ご自身の資産状況に合わせ、株式が多めなのか債券多めなのか、先進国にウエートを置くのか新興国の投資比率をどの程度にするのか考えていきます。
炊飯器を購入するとき、特定のメーカーしか買わないという方以外は、各社のものを比較検討するでしょう。ただし専門的な性能の比較はどうしても素人には難しいものです。そんな時に経験豊富な販売員が親切に的を射たアドバイスをしてくれると本当に助かります。あるいは家電に詳しい専門家が発信するまとめサイトや比較サイトをチェックするのも手です。
「投資信託はお金がかかる」はもはや誤解
投資信託選びにおいても、たとえば投資信託協会やモーニングスターといったサイトは、一般の方にも使いやすく参考になるかもしれません。たとえばモーニングスターのサイトでは投資信託ごとの分析データを見ることができます。シャープレシオは投資の効率性を表しますから、世界の株式や債券に広く分散するバランス型投資信託をシャープレシオで比較して、高いものをピックアップするということも可能です。
また筆者のようなFPは、専門知識を持った販売員のような存在です。特に金融商品の販売を行わないFPであれば、お客様の資産形成の目的や時間軸、これまでの投資経験やリスクをどの程度許容できるのかといったところも含め、どういう投資信託を選ぶべきか適切なアドバイスを提供できるでしょう。
「そうは言っても、炊飯器と投資信託では経済的な負担が全然違うじゃないか!」と言われるかもしれません。しかし、今どきの投資信託は100円からでも購入することができます。個別株への本格的な投資はある程度まとまったお金が必要ですが、わずか100円から世界中の有望な企業に分散投資ができるのですから、「投資信託はお金がかかる」はもはや誤解です。「お試し価格」で投資信託を買いたいというのなら、数百円の投資からスタートをして様子を見ることも可能です。もちろん購入タイミングも「分散」をします。毎月1回、定時定額購入をしばらく続けてみるのであればハードルは極めて低いです。
「でも炊飯器の良しあしはすぐにわかるし、故障したら修理もできるし、不良品なら取り換えもできる。しかし投資信託は、金融機関が口を開けばすぐに『自己責任だ』とすべての責任を顧客に押し付けてくるじゃないか」――。そうおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。実は筆者も商品を売りっぱなしで結果については「自己責任」と突っぱねる金融業界の姿勢が、どうも納得いかない1人です。
金融商品にだって、製造者責任があって然るべきではないか、マーケットの変動は最初からあるべきものだと想定したうえで、利益が出るように作るのが運用会社のメーカーとしての責任であり、金融機関の販売者としての責任ではないかと思っています。投資信託を「使う」側がトリセツを無視した使い方をして不利益を被ればそれは「自己責任」かもしれないけれど、購入した途端すべてを「自己責任」と言ってしまって本当にいいのだろうかという疑問をずっと抱いていました。
「コツコツ投資」は資産形成ができる投資手法
そんな中注目しているのが、冒頭にもご紹介した「インベスターリターン(IR)」という指標です。実際投資家は利益を得たのかどうだったのか、ということを数字で表したものです。日経新聞によると、確定拠出年金(企業型DCやiDeCo)専用の投資信託の過去10年のIRは5.7%で基準価格の上昇率4.2%を上回るのだそうです。過去3年でも基準価格2.7%に対しIRは2.9%と投資家が「ちゃんと利益を得ていた」という証明を出しています。
確定拠出年金は、老後のための特別口座で相場の変動に一喜一憂せずにコツコツ積み立てができるように設計されています。いわば、投資におけるトリセツ「長期・積立・分散」をちゃんと実行すれば、資産形成ができますよという証明です。顧客の7割が積み立てを実行するセゾン投信の場合、84%の顧客のIRがプラスというのも、資産形成を成功させるにはトリセツどおりの行動パターンが不可欠であるという証明書でもあります。
投資信託と炊飯器を比較するなど、ちょっと極端な話をしてしまったかもしれませんが、投資信託も私たちの暮らしをよりよくする「商品」と思って、もう少し経験値と判断力をつけてください。そして、金融機関を「商品を選ぶお店」ととらえてみると付き合い方も変わるのではないでしょうか? もちろん、購入前に投資信託のトリセツを理解し、正しい投資行動をとることを忘れてはいけません。ぜひ少しでも参考にしていただけましたら幸いです。
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提供元:投資信託はおいしい炊飯器を買うのと同じだ|東洋経済オンライン