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2018.05.25

ピンチ!がん治療の危機を招く「病理医」不足|病気の発見・診断・治療が遅れるリスクを生む


顕微鏡で観察して病気を診断する病理医が不足すれば、治療の遅れにもつながりかねない(写真:PeopleImages/iStock

顕微鏡で観察して病気を診断する病理医が不足すれば、治療の遅れにもつながりかねない(写真:PeopleImages/iStock

今、日本のがん治療が危機的な状況を迎えようとしている。

日本人の死因で最も多いがんの治療には、外科医だけでなく、病気の診断を専門とする病理医の存在も欠かせない。だが、その数が圧倒的に不足しているのだ。

このまま病理医が増えないと、日本の医療の根幹が揺らいでしまう。

最も不足している「もうひとりの主治医」

昨年、女優の芦田愛菜さんが将来の夢に病理医を挙げて話題をさらったことで、病理医の存在を初めて知った方も多いのではないだろうか。

病理医は、検査で採取された細胞や組織の一部である「病理検体」を顕微鏡で観察して、病気を診断する専門医である。病理医がいる検査室には、頭のてっぺんから足の先まであらゆる細胞や組織が届けられる。

病理診断は病気を確定する最終診断となり、病理診断がないと治療は始まらない。それはがんも同様である。

病理医は、がんの手術で切除された臓器を観察し、ステージを確認する。腫瘍が取り切れているのかどうか、がんがどの程度進行しているのか。こうした視点でも病気の広がりを診断する。手術の方針を決めるための診断も行う。

このように病理医は、患者に直接会うことのめったにない医師であるが、誰よりもその患者の病気を熟知している「姿の見えないもうひとりの主治医」といえる。

だが、病理医は非常に不足しているといわれる。

一般的に病理医を必要とするのは、病床数20床以上の入院施設(病棟)を持つ「病院」だ。厚生労働省の医療施設調査・病院報告(2016年)によると、病院数は8442。これに対し、病理医数は2405人(日本病理学会調査、2017年10月現在)となり、その差は6037にも上る。

一方で、病理診断件数は増加している。

診療行為の状況を毎年6月に調査する厚生労働省の社会医療診療行為別統計によると、2011年に43万8533件だった病理診断の数は、5年後の2016年には53万948件と9万2千件以上も増えている。単純にこの数を12カ月分で計算すると、年間ベースで100万件以上も増えたことになる。

これは、抗がん剤の開発が非常に進んでいる中、抗がん剤の効き目があるのか否かを病理検査で確認する機会が増えていることが主な理由である。

このようにがん治療において、病理医が大きな役割を担うことが増えているが、がん専門の病理医数は十分とはいえない。

厚生労働省によると、2016年時点でがん診療連携拠点病院に指定されていた400施設うち、50施設で常勤の病理専門医が不在だったという。がん診療拠点病院はいわゆる「大病院」が多い。ところが、その「大病院」ですら病理医を抱えていないという心もとない状況なのである。

病理医不足は患者にも影響する

病理医が不在の病院は当然、自前で検査できないため、外部の検査センターに病理検体を送る。しかも、わざわざ日常業務以外の時間を割いて別の病院から駆けつけた病理医が診断しているというありさまである。

さらに、検査センターでの診断は歪んだ状況を生んでしまっている。

診断という医療行為は、医師法によって医療施設で行わなければならないと定められている。よって、検査センター経由の病理検査は法律上診断とみなされないが、病理医が不足している現状では、こうした実態を「暗黙の了解」として認めざるをえないのである。

患者にも影響を及ぼす。

検査センターで診断を下す病理医は、依頼主である医師と面識がない場合がほとんどである。こうなると、仮に病理医が診断する上で確認したいことがあっても、医師とうまくコミュニケーションを取れなくなる。

病理診断はかなり専門性が高いため、その内容を病理医と主治医の間で直接ディスカッションする必要が時にある。

筆者が勤める病院では、手術に向けた話し合いを総合外科と週2回行うほか、婦人科腫瘍・皮膚疾患・脳腫瘍・乳がん・肺がん・泌尿器腫瘍・血液疾患の担当医たちとも、治療に向けた話し合いの場を月1回のペースで設けている。

だが、病理医が不在だと、患者の主治医と病理医がさまざまな症例を討議する場すら作れない。

主治医と病理医の連携が取れていないと、病理診断やその後の治療方針などを相談することが難しいといった弊害も起きる。結果、検査に要する時間が長くなり、患者に診断結果を伝えるスピードが落ちる。これに加えて、病院に病理医が不在の場合、手術中に迅速な診断を下せなくなる。

がんの治療は早期発見、早期治療が原則。だが、診断が遅れれば治療も遅れる可能性がある。いわば患者が「病理診断難民」になる恐れがある。

病理医不足の解消は待ったなし

常勤の病理医が1人しかいない「ひとり病理医」という問題も起きる。病理診断件数が増加し、病理診断の専門性もどんどん高まる中、病理医1人で全臓器、全疾患の病理診断を担うことは負担が大きすぎる。

病理診断は一つひとつまったくケースが異なる。良性の病気なのか悪性の病気なのか非常に慎重に見極めなければならない症例があれば、まれな病気だとエキスパートの病理医に意見を仰ぐ必要がある場合もある。実際、病理医1人では診断をさばききれず、検査センターに病理検査の一部を外注するケースも増えている。

医師である以上完璧な仕事を目指すべきだが、いくら優秀であってもケアレスミスがまったく起こらないとも限らない。こうしたことから病理診断は、2人以上の病理医で行うことが推奨されている。

病理診断の件数が今以上に増えていけば、病理医の日常業務が過密になり、2人以上の病理医で診断を下したとしても、誤診が起こる可能性も否定できなくなる。しかし、病理医の数が圧倒的に増える見通しはない。

病理医は病気の最終診断を下す。医療現場における「最後の砦」ともいえる病理診断で誤診が起きれば、致命的なミスになりうる。必要のない治療がされるか、あるいは必要な治療が行われないという可能性だって出てくる。

病理医不足の解消は待ったなしなのである。

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提供元:ピンチ!がん治療の危機を招く「病理医」不足|病気の発見・診断・治療が遅れるリスクを生む|東洋経済オンライン

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