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2018.03.26

日本が現金払い主義からまるで脱せない理由│キャッシュレス化が進む世界から周回遅れ


このまま世界の潮流から取り残されてしまうのか(写真:zoranm/iStock)

このまま世界の潮流から取り残されてしまうのか(写真:zoranm/iStock)

「電子マネー決済」市場が停滞している日本?

最近になって日本銀行が発表した統計によると、2017年の日本の電子マネーによる決済金額が5兆1994億円だったそうだ。問題なのは、世界では、電子マネーによる決済が爆発的に増えているにもかかわらず、日本の伸び率は前年と比較してわずか1.1%しかなかったことだ。

集計開始以来9年連続の伸びだが、実は2016年、2017年とほぼ横ばい。ほとんど拡大していない。Suica(スイカ)など交通系5社とEdy(エディ)、WAON(ワオン)、nanaco(ナナコ)の8社の合計額で、電車などの利用分は差し引いてあるという条件付きだが、それにしても世界の趨勢とは大きくかけ離れている。

たとえば、モバイル決済の世界市場予測は2020年の段階で3.8兆ドル(約400兆円、出所:「MOBAIL PAYMENTS:Technology Forecast and Advice for Startups」Dan Liu他)というデータが、経済産業省のレポートから出ている。2017年が1.2兆ドル程度であることを考えると、今後の3年で3倍に増えると予想されている。

一方、日本の現金の流通量が、ここに来て世界に突出して増えていることをご存じだろうか。日本銀行が1年前の2月に発表したデータによると、紙幣や小銭を合計した現金流通高に対する名目GDP(国内総生産)比率では19.4%に達する。日本の名目GDPは550兆円ぐらいだから、110兆円ぐらいの現金が流通していることになる。実際に、2017年末時点で流通しているお札の額は106兆7000億円(日本銀行調べ)になる。

これを他の先進国と比較してみると、ユーロ圏では10.6%、米国は7.9%、英国に至っては3.7%しかない。日本は突出して、現金が流通している国と言っていいわけだ。言い換えれば、クレジットカードや小切手、プリペイドカード、電子マネーといった「キャッシュレス決済」が浸透していないことを意味している。

超低金利が続いたことで、国民が「タンス預金」に走っており、その額は30兆円にも及ぶと日銀は分析しているものの、現金流通額が多い背景にはやはりキャッシュレス決済が日本では国際的に見て停滞しているとみていいのだろう。

実際、世界の潮流は「キャッシュレス化」だ。電子マネーやクレジットカード、仮想通貨などの普及によって、キャッシュレス化がすさまじい勢いで進んでいる。とりわけ、中国やインドなどの人口の多い地域で爆発的にキャッシュレス化が進んでいる。

IT技術と金融が融合した「フィンテック」が進行する中で、世界はいまや現金なしでの生活が当たり前になりつつある国や地域が増えているのだ。

フィンテックというのは、Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた新しい造語だが、いま世界はフィンテックに加えてAI(人工知能)技術、ロボテック技術などを組み合わせて、画期的な決済システムが導入されて現金なしでの生活が実現しようとしている。

現実に、スウェーデンのキャッシュ比率はわずか2%しかない。現金による買い物なども日常的に存在しないレベルになりつつある。スウェーデンが、ほぼ完璧に近いキャッシュレス化を実現している背景には、銀行が連合を組んで構築したモバイル決済サービス「スウィッシュ」がある。銀行口座と携帯電話の番号だけで個人認証をする技術が使われている。

キャッシュレス決済比率、日本はわずか2割程度?

キャッシュレス化が急速に進行する最大の理由は、「ビジネスの効率化」と言っていいだろう。現金の受け渡しといった煩雑な作業から解放される。

たとえば、2015年の「BIS(国際決済銀行)」のデータによれば、日本の1人当たりの年間カード決済額は4000ドルにも満たない。トップの米国(1万7000ドル超)の3分の1程度に過ぎない。日本の産業界全体の非効率化が叫ばれている中で、政府も本気を出してキャッシュレス化を推進しないと、日本はこの分野でも後れを取るのかもしれない。

実際、日本のキャッシュレス決済率の低さを示すデータを見ると大きなインパクトがある。

<キャッシュレス決済比率>

●日本……18%
●韓国……54%
●中国……55%
●米国……41%

(2015年、日本は内閣府、日本クレジット協会推進協議会、日本銀行、他国はEUROMONITOR INTERNATIONAL年次レポートより、経済産業省「FinTechビジョンについて」)

ちなみに、キャッシュレス決済比率の2016年の最新値では23.6%と増えているものの、2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017――Society5.0の実現に向けた改革――」では、今後2027年6月までの10年間でキャッシュレス決済比率を4割程度に目指すことを決めている。

政府も重い腰を上げて現金流通からキャッシュレス化の推進に舵を切った、と言っていいのかもしれないが、10年で4割ということは10年を経過しても中国や韓国、米国に追いつけないことを意味している。

日本はなぜ現金流通にこだわるのか。日本には偽札も少ないし、現金を持ち歩く際も海外ほどのリスクはない。長年にわたって、現金流通が便利で、楽だったわけだ。とはいえ、現在は昭和ではなく、平成であり、その平成も間もなく終わろうとしている。

近年、急速に電子マネーが普及しつつある中国やインドでは、スマホの大流行によって電子マネーなどが急速に発展したことはよく知られている。飲食店やスーパー、レンタルサイクルにある「QRコード」に、自分のスマホをかざすだけで、瞬時に本人の銀行口座からダイレクトにマネーが引き落とされる仕組みが定着しつつある。

現在、中国にはアリババの「Alipay(アリペイ)」、テンセントの「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」が「QRコード」を使った決済システムを展開しており、急速にそのユーザー数を増やしている。中国のスマホ人口は7億人とも言われているが、都市部での普及率は100%に近いとさえ言われる。誰もが保有しているスマホだからこそ、キャッシュレス化があっという間に定着したともいえる。

周知のように、技術的には通販大手の「アマゾン」がはじめたレジのないコンビニ「アマゾンゴー(Amazon GO)」が、米国で実験店舗を展開しており、その技術力の高さが評価されている。日本に進出してくるのも時間の問題だろう。

「現金流通」は非効率で危険!

現金流通が主流の経済と電子マネーやクレジットカードが主流の経済とでは、何が異なるのだろうか。たとえば、キャッシュレス決済比率2%のスウェーデンと比較してみると、どんな点が異なるのか。

まずは、銀行のATMは不要になり、コンビニのATMも不要になる。銀行も、店舗の中に巨大な金庫をつくる必要がなくなり、セキュリティーの度合いも格段に高くなる。米国の経済学者「ケネス・S・ロゴフ」は、著書『現金の呪い――紙幣をいつ廃止するか』の中で、現金は地下経済の決済手段として機能しており、地下経済増殖の元凶になっている。さらに、世界的に現金の流通が増えたことで貧困が増えており、格差社会の進行に拍車をかけている存在として、高額紙幣の廃止を訴えている。

インドは、同氏の提案をそのまま実行して当初は混乱したものの結果的に地下経済を封じ込め、電子決済を飛躍的に増やすことに成功しつつある。

さらに、注目したいのは中央銀行が現金を印刷する必要がなくなることだ。1万円札1枚を印刷するのにかかるコストは22円程度かかるそうだが、その額も馬鹿にできないし、500円硬貨などコインの鋳造コストはもっと高い。

そもそも現金決済には無駄が多すぎる。現在、日本企業の製造現場はミリ単位の合理化を延々と続けているが、その一方で経理などのバックヤードは、相変わらず昭和時代の非効率なビジネススタイルを守っている。給与の支払いや取引先への支払い、海外送金をはじめとして、仕事のスタイルそのものを変えていこうとしない。

送金手数料なども、コストの高い全銀ネットに代わるものが次々に出てきているが普及に時間がかかっている。仮想通貨を使った国際間の送金システムなどは、まだ法律も整備されていない。三菱UFJフィナンシャル・グループが進める「MUFGコイン」や、みずほフィナンシャルグループが推進する「Jコイン」などが、今後稼働を始めれば日本経済にも大きなインパクトを与えるかもしれない。

ブロックチェーンによる個人情報管理などの推進が進めば、日本の非効率的な行政サービスも、飛躍的に改善されるはずだ。こうした個人情報の新管理システムの構築化は、現金流通の進捗具合と大きく関係している。

現金の計算や管理に惑わされなくなれば、官民ともに膨大な計算事務からも自然に解放されるはずだ。

決断できない日本銀行?

問題は、これだけキャッシュレス決済が進行している海外と比較して、なぜ日本ではキャッシュレス化が遅れるのか。その理由は、銀行の経営基盤にかかわる事情があるからだ。周知のように、日本にはATMが街のあちこちにあって、気軽に現金を引き出すことが可能だ。昭和の時代には超便利になったと思ったものの、考えてみれば預金者は、1日の大半の時間は1回あたり108円~216円のATM手数料を払いながら、自分のおカネを引き出している。

言い換えれば、日本の銀行の経営基盤には、このATM手数料が重くのしかかっている。日銀もそれを理解していて、韓国や中国のような急速なキャッシュレス社会のインフラ整備には手を付けられない。

実際に、地方銀行の平均的な純利益の額は約147億円(2016年3月期)だが、その約13%はATM手数料で稼ぎ出している。ちなみに、ATM手数料だけで利益を稼いでいるセブン銀行では、純利益261億円のうちの99%をATM手数料で稼いでいる。

最近になって、メガバンクや地方銀行が相次いでATM手数料や両替手数料の値上げに踏み切っているが、アベノミクスによる大規模緩和やマイナス金利政策の影響で、収益構造の見直しが迫られている。ATMなどの手数料収入ぐらいしか収益拡大の手段がないのかもしれない。

安易にキャッシュレス化を進めてしまうと、銀行経営の悪化に直結する可能性が高い。マイナス金利や大規模緩和で経営基盤が揺らいでいるところに、キャッシュレス社会への移行を急ぐわけにはいかないわけだ。フィンテックの進展によって、2025年までに銀行の収益が最高で4%喪失するという予測も経産省のレポートで発表されている。

とはいえ、2020年の東京五輪にはキャッシュレスに慣れた外国人観光客がどっと押し寄せる。その時点で、日本がいまだに現金流通主体の社会であることが知られてしまうわけだ。いずれにしてもキャッシュ率2%といったスウェーデンのようになるには、まだ何十年とかかりそうだ。現金を流通させる社会インフラがいかに非効率なものであるか……。

そんな認識すら、企業経営のトップにさえ浸透していないのかもしれない。とは言え、いまこの時期に仮想通貨市場に進出しようという企業は、少なくともキャッシュレス社会の未来が見えていることは間違いないだろう。

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仮想通貨アマゾンコインに銀行が潰される日

提供元:日本が現金払い主義からまるで脱せない理由│東洋経済オンライン

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