2018.02.13
親にいくら貯金があれば介護離職して良いか│「介護で親と同居」は離婚リスクも高まる
最低限、2つの条件をクリアしていなければ介護離職は避けるべきです(写真:tomos / PIXTA)
介護離職をした場合、再就職までにかかる期間は、どれくらいだと見積もっていますか? この期間として統計的に最多となっているのは1年以上です(男性の38.5%、女性の52.2%)。1年以上も仕事から離れていて、条件のよい就職先が見つかると思いますか? 現実として、介護離職をしてから運よくあらたな職場を得たとしても、収入は男性で4割減、女性で半減するというデータがあります。
介護離職をするなら、まず、1年以上収入が途絶え、再就職できたとしても今の半分程度の年収になっても生きていけるだけの貯金が必要です。貯金が足りないまま介護離職をすれば、親が資産家でもない限り、あなたは生活保護を受給することになります。仮に自宅ローンが残っていれば、自宅を手放すことになり、一家離散という可能性も出てくるのです。
介護は終わりが見えないもの
介護は、いちどはじまると、いつ終わりになるか予想ができません。目安となるのは、平均寿命から健康寿命(心身健康でいられる年数)を引いた年数です。日本でこれは、10年以上になります。ですから介護生活は、少なくとも10年程度は続くことを想定しておく必要があります。
しかも、この期間のうちには、親の健康状態は悪化していくことも多いのです。はじめは半身不随などの身体的な問題だったところに、認知症(重度化すると意思の疎通ができなくなる)も重なってきたりします。
介護離職をして年収が半分になって10年も経つと、介護離職をしなかった場合からは想像もできないほど貧困になります。いつ終わるとも知れない介護に悩まされながら、金銭的にも厳しくなると介護離婚(介護を理由とした離婚)が発生することも多いようです。あなたの親は、自分の愛する子供が、自分の介護のせいで、そうした状態になることを本当に望んでいるでしょうか。
金銭的に厳しくなると、家賃の負担を下げるために、親と同居しての介護を検討するようになるかもしれません。しかし特に、介護が必要になった親を自宅に迎え入れて同居した場合は、介護離婚のリスクはかなり高くなります。実際に、介護職(介護のプロ)たちは、そうして介護離婚に至ったケースを多数見ています。
親と同居しての介護の終着駅としては
①生活のリズムが合わずに喧嘩ばかりになる
②家事などの生活援助系の介護サービスが使えなくなり負担が増える
③同居していると特別養護老人ホームへの入所の優先順位が下げられる
④住み慣れない環境で親の心身の状態が悪化する
⑤親が田舎に帰ると言いはじめても田舎の家はすでにない
というところです。そうしてギスギスした状態が続くと、義理の両親と同居することになったパートナーは、結婚生活そのものに疑問を持つようになります。パートナーにも両親がいる場合、介護離婚をして、年老いた自分の両親と同居したほうがよいという気持ちにもなるでしょう。
そうしたリスクを理解した上で、それでも同居する場合は、生活援助系の介護サービスが介護保険では使えなくなること(原則として同居家族がいると使えない)、特別養護老人ホームに入りにくくなること(同居家族がいると優先順位が極端に落ちる)を覚悟した上で、折り合いが悪ければ親が田舎に帰ることもできるというオプションを残しておくことが大事です。
そもそも同居を決めるのは、まず数カ月一緒に暮らしてみて、同居がどういうものかお互いにその現実を理解してからでも遅くはないでしょう。一番まずいのは、田舎の家を完全に引き払って退路を断ち、その上で「とても一緒に住めない」ということになり、それでも特別養護老人ホームには入れずに、かつ、田舎には実家もすでにないという状況です。
地元を離れると認知症のリスクが高まる
さらに、高齢者にとって、住み慣れた環境を離れることは、認知症のリスクを高めてしまうという事実についても理解しておく必要があります。また、田舎にはあった人間関係のネットワークがすべてなくなってしまうことの影響は、本人が想像している以上に大きなものだったりもします。
ずっと一緒に暮らしていなかった親にとって、実は、子供以上に重要な人間関係が田舎にあったということを、それを失ってから知るのは厳しいものです。介護職(介護のプロ)の多くは「看取り」というタイミング以外で、親と同居するのはかなり難しいという本音を持っていることは、ここで知っておいてもよいでしょう。
ここまでの話で「うちの親にはそれなりに資産があるから大丈夫」と考える人もいるかもしれません。しかしそれは、本当でしょうか。
そもそも、介護にかかるお金(介護保険でカバーされない自己負担部分)がいくらくらいになるのか、誰もが不安に思っています。これを実際のデータで見ると、バリアフリー化や介護ベッド、緊急対応の交通費や宿泊費といった初期費用(一時費用/自己負担)としてかかっているのは、平均で80万~90万円程度でした(この数字はバラツキが大きいため注意も必要です)。また、毎月かかっている費用(自己負担)は、平均で7万〜8万円でした。
配偶者の介護期間は平均14年
ここで、世帯主や配偶者に介護が必要になった場合、それが継続する期間の見積もり(想定される介護期間)平均は169.4カ月(14年1カ月)でした。先に10年は想定しておくべきであることを述べましたが、多くの人は、それ以上の期間を想定して準備しているのです。もちろん、実際にこれだけの期間がかかるかどうかは、それぞれに事情が異なるため、なんとも言えないところではあります。ただ、平均的には、それだけの期間の見積もりをしているという点には意味があります。
毎月の実質的な費用(自己負担)となる平均7万〜8万円が、169.4カ月間かかり続けることを想定する必要があるということです。これは、単純計算で約1186万〜1355万円になります。ここに初期費用が乗ってきますから、1266万〜1445万円を準備(貯金+期待される年金)しておきたいということになります。これは、かなりの大金です。しかもこれは平均であって、運が悪ければもっとかかることも考えておかなくてはなりません。
さらにこの想定では、介護が必要になる人が1人という計算になっていることにも注意してください。両親同時に介護が必要になるケースも多数あり、その場合は、単純に2倍とはならないものの、2000万円以上の準備が必要になると考えられます。
しかも、ここまでの話は、あくまでも介護にかかる費用に関することに限定されています。このほかにも家賃や住宅ローン、生活費や各種税金などのためのお金も必要になることを忘れないでください。
日本の高齢者の貯蓄額は、世帯平均で1268万円です。この数字だけを見ると、意外と貯蓄があるように感じられるかもしれません。しかし現実には、富裕層がこの平均の貯蓄額を押し上げています。実際に、貯蓄額が1000万円以下の世帯は、全体の過半数(57・9%)になっています。
ここまでの話を総括すると…
①親に2000万円を超える預貯金があって年金もしっかりもらえている
②両親が同時ではなく、どちらか一方の介護だけが必要
という条件が成立するときだけ、ギリギリではあるものの、親の介護のために子供がお金を持ち出す必要はない可能性もあります。
ただ、この2つの条件が当てはまる人は少数のはずで、現実には、親の介護のために子供がお金を持ち出すことになるケースのほうが多くなるでしょう。しかし、自分が介護離職をしており、収入が途絶えていたら、これは不可能なことになります。
さらに将来、いざ自分や自分の配偶者に介護が必要になった場合のために、自分のための貯蓄もしていかなくてはなりません。親の介護にお金を使いながら、介護離職をして、さらに自分のためにも十分な貯蓄をしていくことが、果たして可能なのでしょうか。
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提供元:親にいくら貯金があれば介護離職して良いか│東洋経済オンライン