2017.07.25
日本人の「住まい」は5年後から大激変する|高嶺の花だった不動産が一気に身近に
不動産の常識が変わる(写真:freeangle / PIXTA)
5年後にポスト五輪、生産緑地の宅地化、後期高齢者層の持ち家の大量賃貸化が重なり、不動産市場は激変するという。『マイホーム価値革命』を書いたオラガ総研の牧野知弘氏に地殻変動について詳しく聞いた。
5年後は“バラ色”
──「不動産」の常識が変わるのですね。
この本は30代、40代向けに書いた。この年代の方々に「もう5年我慢。今なぜ35年返済で定年退職後もローンを抱えてしまうような何千万円ものファイナンス計画を組むのか」と。5年後は“バラ色”。不動産がぐっと身近に感じられるようになる。
──路線価をはじめ土地の値上がりがはっきりしてきましたが。
今の値上がりは投資マネーが日本で「遊んでいる」からだ。日本にはオリンピックという大きなイベントが控える。外国人旅行者も増え、世界中から投資マネーが入ってきている。だが、投資には必ず引き際がある。東京オリンピック前後には利益を確定させ、不動産価格がいったんリセットされる。
その後に団塊の世代が75歳以上になり後期高齢者の数が増える。東京の郊外はニュータウンをはじめ高年齢者が土地を持っており、住宅相続の発生率も高まる。引き継ぐジュニアは、ライフスタイルが変わっていて夫婦共働き。ローンの返済能力も高く、都心のマンションに住み続け、もはや郊外から通勤しようとしない。郊外の住宅を買う人も少ないから賃貸に回す。郊外の不動産価値は下がる。
──営農義務のある生産緑地の8割が2022年に外れます。
施行30年の期間を経て農地並み課税の軽減措置が切れる。農地として活用されていたかなりの部分が宅地として放出される。住宅地の需給バランスが崩れ暴落が促されかねない。供給過多になるマーケットが予測されるのに、今投資するのは完全な間違い。
──宅地価格に波及する?
5年待ったら郊外の不動産は軒並み安くなる。40〜50坪の敷地で建ててきたが、みな値下がりする。逆に複数区画を一緒に買えば、100坪や200坪大の田園住宅が建てられる。そこに自分好みの家を建てて、平日は都心のマンションで働き、休日は100坪なり200坪の田園住宅でバーベキューパーティを開いて過ごす。そんな生活もすぐ目の前だ。
この「マイホーム価値革命」は、ライフスタイルが大幅に変わり実にいいことだ。自分の半生をかけ稼いだおカネをもっぱら債務返済で使っていく、束縛された人生から解放される。
マイホームの価値が大きく転換する
牧野知弘(まきの ともひろ)/1959年生まれ。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行、ボストンコンサルティングを経て三井不動産入社。不動産買収、開発、証券化を手掛ける。投資法人執行役員を務めた後、2015年オラガ総研設立。不動産アドバイザリー業務を行う(撮影:梅谷秀司)
──日本人は住宅好きです。
とりわけ家を持つことにこだわりがあって、賃貸住宅で家賃を払うのはもったいないという観念が強い。衣・食・住は生活の基礎だが、衣・食は消費ととらえるものの、住となったら投資の概念になる。自分のマンションの値段の上下をとかく気にする。まるで株価ボードのように、ネット上で自宅の時価を即座に表示するWebページが登場するぐらい、関心が高い。
そういった日本人が盲目的に信じてきたマイホームの価値が大きく転換する。地価がおしなべて右肩上がりという時代は遠い昔に去った。また地価が上がりいずれ儲かると考える人が多いが、もはや実態は違う。家は資産であると考えていたら、それは妄想にとらわれている。家を買うべきかどうかとか、持ち家か賃貸かとかの議論ではなく、どういう持ち方をするかが、本来の問題なのだ。
──本来の問題?
本来、家に住む行為は消費なのだとの理解が基本にある。住むためのコストの支払いなのは賃貸の家賃ではっきりする。「家は持つものだ」を是とするならば、多額のおカネを出しての購入なのだから投資だときちんと考える。考え方の整理をすることだ。
同じ住宅を買うにしても、自分と家族が住むだけならあくまでも消費だ。店舗兼用で不動産としてフルに活用するなら、単なる消費ではなく投資の部分もあるから、リターンをどう狙うか、じっくり考える。古民家を民泊で活用しようとかもくろんでいる人もいる。いろいろ組み合わせることで運用収益を上げようとするなら、もはや事業、立派な投資となる。
──事例も豊富に収録しています。
自宅の1階を夏だけかき氷店にしただけで、大行列ができるようになった人を知っている。アルバイトを雇い、かき氷がなんと1000円。SNSで情報が拡散して、住宅街の外れに大挙して客が来る。この盛況ぶりを受け近くにハワイアンアイスの店ができ、これまた繁盛。このほか旧子ども部屋を改造し民泊施設やコミュニティスペースとして提供するとか。家は自分の城であり、住むのに何千万円もかける、という従来の考え方ではない。となると、マンションではやりづらい。
活用は土地付き住宅のほうが有利だ
──規約などで縛られる……。
そういう意味でも、マンションは借りるものであって買うものではない。買う人は完全に投資と考え、5年後に売り抜ける。この概念で買うのがいい。ただし、家族のことをよく考えなければいけないし、5年後に値上がりする物件の選別も難しく、かなりのリスクがある。活用は土地付き住宅のほうが圧倒的に有利。いろいろな活用法があって楽しい。
──かつネットを活用する。
宣伝ばかりではない。今や予約がスマートフォンでできてしまう。それだけ参入障壁は低い。自宅や不動産はそれぞれのライフステージに合わせて住む、そして活用する時代になっている。
──マンションを買った人は?
今はちょっと厳しいが、早く売ったほうがいい。本当は一昨年がよかったが、10年以内に時期を見計らって売る。もともとずっと住むとしても必ず難題に直面する。建物の老朽化と住人の高齢化だ。ヴィンテージマンションなら、古ければ古いなりに価値があると見てくれるが、その数は少ない。
──湾岸のタワーマンションは。
土地に歴史ありだ。どこも天変地異を食らっているから、生活の知恵として高台に住む。その要素もあって地価が形成される。湾岸は現代の土木技術の粋を集めて埋め立て補強しただけであり、人間の力で自然を制することなどできない。短期で持つのはいいが、長期保有する資産ではない。資産ではなくてまさに投資商品だ。
元来「マイホーム」が資産とは、自分の親の世代を見れば誰も考えないだろう。
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塚田 紀史 :東洋経済 記者
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