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2017.06.30

「男として順調な人生」ゆえの息苦しさもある|「ロスジェネ世代」が力を抜いて生きる方法


はたから見れば、順風満帆すぎる人生を送っている相談者ですが、ゆえに会社でも家でも気の抜けない日々。これを、ぜいたくな悩みだ、と切り捨てることはできません(写真:bee / PIXTA)

はたから見れば、順風満帆すぎる人生を送っている相談者ですが、ゆえに会社でも家でも気の抜けない日々。これを、ぜいたくな悩みだ、と切り捨てることはできません(写真:bee / PIXTA)

■今回の相談
こんにちは。40代の会社員(男性)です。私の悩みは、肩の力を抜いて、スローに生きたいという憧れはあるけれど、どうすればそれができるかわからないということです。
私は、いわゆるロスジェネ世代。団塊ジュニアの少し下の世代である私たちは、とにかく同世代に人数が多く、小さな頃から競争ばかりしてきました。その中で、私はとりあえず男としてあるべきレールの上を歩んできました。就職氷河期の中でもなんとか就職して、今は会社でもそれなりに責任のある仕事を任されています。20代で結婚し、専業主婦の妻と、子どもが2人います。
ただ、だからこそ気の休まる日がありません。会社では、上にバブル世代がたくさん詰まっていて、自分にはなかなか重要なポストがまわってきません。一方で、現場で責任ある仕事を担っているので、「穴を空けてはいけない」と強く感じる場面も多く、体調が少しぐらい悪くても仕事を休めない。とにかく、いつも気が張り詰めている状態です。いくら頑張って働いたところで、今の会社がいつ立ちゆかなくなるかわからない、という恐怖もあります。
加えて、家で気が休まるかというと、それも違います。休日には家事を手伝ったり、家族を買い物や外食に連れていったりなど、できることはやっているつもりですが、妻からは、「自分のことばかり」と言われています。確かに否定はできないのですが、仕事も家事も子育ても完璧にこなすことなど無理で、理想と現実のギャップにひそかに悩んでいます。
これまで仕事でも家庭でも精いっぱい頑張ってきましたが、体力がある今はよくても、いつまで続くかはわかりません。だから、仕事でも家庭でも、もう少し気を抜いて生きられるようになりたい。でも、気を抜く方法がわからないのです。先生、教えてください。 
40男(仮名)

男性のみなさん、まずは落ち着いてください

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まずは落ち着いてください。

この連載を通じて、男性のみなさんに伝えたいことは、この言葉に集約されています。あなたが男性であれば、自分に言い聞かせてください。「よし落ち着こう」と。あなたが女性であれば、身近な男性に伝えてあげてください。「とりあえず落ち着こうよ」と。

経済状況の変化やグローバル化のさらなる進展によって、かつてよりもはるかに社会は複雑になりました。インフルエンサーやポスト・トゥルースといった新しい言葉が次々に目に飛び込んできます。焦って意味を調べなくても大丈夫です。

まずは落ち着いてください。

みなさんが若者だった頃、中年の方たちが「10年なんてあっという間だ」と言うのを聞いていて、どのように思っていましたか。ありえないと感じていたはずです。自分自身の経験を振り返ってみても、そんなことがあるはずはないと考えていました。

しかし、実際に自分が中年になってみると、この言葉の意味がよくわかるようになってきます。1990年代なんてつい昨日のことのように感じてしまいますが、あの女性アイドル「SPEED」のメンバーから国会議員が誕生するぐらいの時間が流れているわけです。

これまでの人生は、競争にさらされて前へ前へと進むばかりだったかもしれません。いまのままのペースでは、この後の10年もきっと「あっという間」に過ぎてしまいます。抱えている問題が、解決しないどころか、さらに悪くなっているはずです。

時代の流れに翻弄されて右往左往するのではなく、年を重ねて中年になり、人生の折り返し地点を迎えたいまこそ、冷静になって自分が置かれている状況を見つめ直してみませんか。

初回の相談者である40男さんは、「肩の力を抜いて、スローに生きたいという憧れはあるが、これまでとにかく気を張って生きてきたので、どうすればそれができるかわからない」ということです。

いまの40歳前後は、いわゆるロスジェネと呼ばれる世代にあたります。団塊ジュニアほどではありませんが、子どもの数は多く、受験などの競争が激しかった時代です。団塊世代がまだ現役で上が詰まっていたことに加えて、不幸なことに、ちょうど学校を卒業する頃に不景気が重なりました。その結果、正社員として就職できない若者が少なくありませんでした。

「面接に行けば内定。行かなくても内定」。こんな言葉もあったほど、お気楽に就職したバブル世代はもちろんのこと、人手不足で完全に売り手市場になっている現代の大学生に対しても不公平感を抱くのは当然です。ただ、生まれてくる時代も場所も選ぶことはできないのですから、この点についてあれこれ言っても実りはありません。同世代で愚痴るぐらいにしておきましょう。

当時の若者の就職難は、中年フリーター問題として今でも尾を引いています。しばしばその問題性が指摘されてきましたが、日本では卒業時に正社員として就職できないと、非正規の状態から抜け出すのは困難です。男女問わず、40歳を超えても不安定な働き方を余儀なくされるのは、「深刻な悩み」だといえます。

「肩の力の力を抜いて生きたい」はぜいたくな悩みか?

使う側の言い分として、「非正規雇用はフレキシブルな働き方を求めている人たちが必要としている」という主張があります。確かに、自由は確保されるかもしれませんが、継続的な雇用が保障されていないのですから、そこには安心が欠けています。いくら自由を強調されても、問題があるのは明らかです。

「順調な人生」だからこその息苦しさ

それでは、安心があれば、自由を失ってもいいのでしょうか。ここで考えてみる必要があるのは、順調な人生の息苦しさです。有名高校の生徒は、一流大学に進学することが期待されます。高卒で働いたり、専門学校へ進んだりするのは認められにくいでしょう。一流大学を出たからには、大企業に入社することが求められます。知名度の低い企業に就職したり、フリーターになったりすると周囲が悲しみます。

大企業で働いて十分な収入があると、30歳前後にもなればそろそろ結婚というプレッシャーがかかってきます。さらに、結婚すれば子どもをつくるのが「当たり前」という風潮はまだ健在です。このように、側から見てうまくいっていればいっているほど、本人の選択の余地はなくなっていきます。40男さんの人生が「卒業→就職→結婚」と順調に推移してきたからこそ、職場でも家庭でも気が休まらないのです。

社会学者、ジグムント・バウマンの「安心と自由の関係」に対する指摘をふまえると、誰もが共感できる「深刻な問題」と40男さんのような「ぜいたくな悩み」は、どちらも切実であることがわかります。

"安心の増進は常に自由の犠牲を求めるし、自由は安心を犠牲にすることによってしか拡張されない。しかし自由のない安心は奴隷制に等しい。一方で、安心のない自由は見捨てられて途方にくれることに等しい。"

引用元:ジグムント・バウマン『コミュニティ 安全と自由の戦場』

「自由のない安心は奴隷制に等しい」という表現は、くしくも、「社畜」の端的な説明として読むことができます。先行きが不透明な現代社会で、安心にばかり目を奪われ、自由の価値を見失ってしまっているのではないでしょうか。自由のない安心を「ぜいたくな悩み」と切り捨ててしまう程度には、私たちの目は曇っています。

さて、以上をふまえると、40男さんが肩の力を抜いて生きるには自由が必要です。そのためには、安心を犠牲にする必要があります。「安心のない自由は見捨てられて途方にくれることに等しい」のですから、もちろん、離婚や退職を勧めているわけではありません。帰宅時のちょっとした寄り道や有給休暇の取得など、いままでの生活パターンを少し変えてみてはいかがですか。

妻に怒られる、会社に迷惑がかかるなどと心配でしょうが、安心を差し出すことなしに自由を得ることはできないのです。人のことを考える前に、まずは自分で自分をもっと大切にしてあげてください。多少はわがままでも心に余裕のある40男さんのほうが、家族にとっても会社にとってもありがたいかもしれませんし。

読者の皆様から田中先生へのお悩みを募集します。「男であることがしんどい!」「”男は○○であるべき”と言われているけれど、どうして?」などなど、“男であること”にまつわるお悩み・疑問がある方はこちらまでどうぞ。相談者の性別は問いません。

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田中 俊之 :大正大学心理社会学部准教授

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提供元:「男として順調な人生」ゆえの息苦しさもある|「ロスジェネ世代」が力を抜いて生きる方法|東洋経済オンライン

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