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2017.07.13

NHK「クロ現」の生命保険特集は、秀逸だった│「商品ありき」ではない番組作りに好感


保険で貯蓄というのは、もうやめたほうがいい(写真:Naoaki / PIXTA)

保険で貯蓄というのは、もうやめたほうがいい(写真:Naoaki / PIXTA)

「検討に値する保険が限られていることがわかる。保険会社が有力な広告主である民放には難しい内容かもしれない」

6月28日に放送されたNHKの「クローズアップ現代」を見て、筆者はそのように感じました。特集のテーマは「保険値上げで家計直撃! 賢い見直し術とは」で、番組のダイジェストは、こちらのリンクから確認できます。

以下、筆者が注目した点について、まとめておきます。

「自分のリスクをきちんと把握する」ことが大切

1 (民間の)保険の位置づけ

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まず、民間の保険は、健康保険・遺族年金・老齢年金などの公的な保障制度を補完するものであると、位置づけられていました。事実、私たちは、あらかじめ、医療・死亡・所得補償等さまざまな分野で、公的な保障制度に守られています。会社員の場合、勤務先の健康保険組合や福利厚生制度が手厚く、民間の保険で保障を確保する必要性が低い人もいます。

1カ月の医療費自己負担額の上限が2万円に収まる健保組合に所属していることを知り、加入していた医療保険やがん保険を解約するような人もいるのです。

番組では最後のほうで「自分のリスクをきちんと把握する」ことが大切であるとまとめられていました。それは、「(民間の)どんな保険に入ればいいのか?」と考える前に、健康保険等の制度によってどれくらいの保障が得られるのか、確認することから始まるのです。

2 保険の利用がふさわしいリスク

保険アナリストの植村信保さんが、「保険の得意分野」という言葉を用いていらっしゃったのが印象的でした。筆者は数年来、

――保険の利用が向いているのは?

1. めったに起きないこと
2. 起こった時の経済的打撃が大きいこと
3. いつ起こるかわからないこと

この3点を満たすケースであると説明することにしています。

「年齢とともに高まるリスク」はすべての人にある

言い換えれば、保険は「発生しがちな事態」などの備えには不向きなのです。一般に高齢になってからの入院など、「ひとごととは思えない事態」に保険で備えたがる人が多く、営業サイドも「年齢とともに高まるリスク」などを強調しがちですが、勘違いしてはいけないと思います。

実際、ファイナンシャルプランナーの内藤真弓さんは、子どもが独立する55歳の女性に「保険からの卒業」を説かれていました。番組で「いきなり大胆なアドバイスが飛び出した」と紹介されていたのは、何かしら(民間の)保険に入っておくのが当たり前のような認識が浸透しているからでしょう。

筆者は、そんな考え方からも卒業したほうがいいと思っています。保険の使い勝手がいいのは、老後が視野に入ってきた世代ではなく、幼い子どもがいる若い世帯主が急死するようなまれな事態に備える場合だからです。

子育てが終わった人などは、「保険に縛られなくてもいいんだ(内藤さんにアドバイスを受けた女性の感想です)」という認識が広まるといいと思います。

3 保険販売に携わる人と顧客との「利益相反」

金融庁の平成27事務年度「金融レポート」を引き、金融機関や保険ショップなどの代理店が、手数料が高い商品の販売に注力する傾向があることも伝えられていました。

保険会社は銀行や証券会社に、拡販してほしい商品の手数料を上乗せしたり、実績をあげた販売員に旅行や賞品を提供することに触れた後、保険ショップに勤務していた人が、そんな実情について、正直に証言する場面もありました。

筆者が補足したいのは、高い手数料が得られる商品の販売を促されるのは、銀行や保険ショップなどの窓口の人に限らず、特定の保険会社に所属する営業担当者も同じであることです。

一般の消費者は、一社専属の営業担当者のほうが、保険ショップの販売員より、商品の選択肢が少ない分、顧客との利益相反が大きくなる可能性も想像したほうがいいはずです。

したがって、「利益相反」を抑えるには、ライフネット生命の創業者である出口治明さんがおっしゃっていたように、顧客が代理店などに「手数料を尋ねる」ことだと思います。

ただ、筆者はさらに一歩進んで「手数料等が引かれたあと、最終的に加入者に還元される保険料の割合(還元率)はどれくらいになるのでしょう」と聞いてみることをお勧めしたいと思います。

手数料は、商品価値を考えるうえで大きな手掛かりではあるものの、保険会社の経費の一部にすぎないからです。現実問題として、保険料の還元率を知る人は、保険会社の中でもわずかだと思われます。

だからこそ、確認する人が増えたほうがいいのです。保険は加入者による「助け合い」の仕組みであると説明されているのですから、加入者が「保険会社の取り分次第では、助け合いは『建て前』にすぎなくなる。最も重要な情報として共有したい」と主張するのは当たり前だと思うのです。

元本割れ期間の長さが大きなリスク

4 「保険で貯蓄」は考えない

内藤さんの「保険で貯蓄というのは、もうやめたほうがいいと思います」という発言も重要だったと思います。保険料が「掛け捨て」になることを嫌って、積立部分がある「終身保険」に加入し、保険料負担が重くなっている人に対し、元本割れ期間の長さ(番組で紹介された加入例では28年間もありました)が大きなリスクであることを指摘し、解約を勧めていたのです。

そもそも保険の利点は、「まとまっていないおカネ(保険料)」で「まとまったおカネ(死亡保険金や入院給付金)」を用意できるところにあります。それは、加入者が出しあうおカネが、不幸があった人などのために使われ、何事もなかった人には払い戻しされない「掛け捨て」の仕組みにより可能になることです。

したがって、保険に入るのであれば、「掛け捨て」を積極的に評価すべきなのです。その点、貯蓄は、自分が払ったおカネが、将来、自分に戻ってくるものなので、保険独自の仕組みを必要としていません。また、一般に貯蓄性が語られる保険商品の手数料の高さは、金融商品の中でも破格で、決定的なマイナス要因です。

長期金利の低迷が続いていることもあり、近年は「外貨建て保険」や投資信託で運用する「変額保険」に活路を見いだす会社や代理店も増えていますが、やはり手数料が高いため、貯蓄目的での利用は避けたい商品であることを強調しておきます。

将来「卒業」することを前提に

5 結局、検討に値するのは2種類?

番組に登場した有識者が「検討に値する生命保険」としてあげていたのは、一定期間の「死亡」に備える保険と、病気やケガで「就業不能」状態が続く場合に備える保険の2種類でした。

前者は自立していない子どもがいる世帯主には必要だと考えられます。後者は、子どもがいない人でも検討に値するはずです。どちらも、現役世代には起こりにくい事態なので、手ごろな保険料で大きな保障が得られます。筆者も、一般の個人が検討すべき保険は、この2本くらいだと認識しています。他にあげるとしたら、相続対策が必要な人にとっての「終身保険」くらいでしょう。

最後に、番組で「ユニークなミニ保険」として紹介されていた「痴漢冤罪」や「孤独死」などに備える保険は、大変興味深い一方、取り扱う会社の情報開示が物足りない点は、有識者が指摘していたとおりだと感じます。

ミニ保険は、保障の対象を絞ることにより、安い保険料で「少額・短期」の保障を持てる点に特徴がありますが、筆者は、保険活用の基本は、将来の「卒業」を前提に、安い保険料で「高額・期間限定」の保障を持つことだと考えていることも付記しておきます。

ともあれ、総じて「商品ありき」ではない番組作りに好感を持ちました。読者の皆さまの保険との付き合い方に関しても、再考していただくきっかけになると良いと思います。

後田 亨 :オフィスバトン「保険相談室」代表

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提供元:NHK「クロ現」の生命保険特集は、秀逸だった 「商品ありき」ではない番組作りに好感│東洋経済オンライン

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