2024.11.21
「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ|ダメージを受けてもほとんど症状が表れない
1個の腎臓に、1分間で約1リットルの血液が流れ込んでいるという(写真:AomOra/PIXTA)
「寿命を決める臓器」として、昨今の医療現場で注目を集めている腎臓は、人間が生きるうえで欠かせない機能をコントロールするという役割を担っている一方で、「沈黙の臓器」とも呼ばれ、ダメージを受けてもほとんど症状が表れることがないと、医学博士で腎臓専門医の髙取優二氏はいいます。
そんな腎臓の状態を知る5つのチェックポイントについて、髙取氏の著書『腎機能を自力で強くする 弱った腎臓のメンテナンス法』から、一部を抜粋・編集して紹介します。
「1分間に約1リットル」の血液が流れ込む腎臓
突然ですが、腎臓に関してひとつ質問をします。もし腎臓がなくなったとしたら、どうなると思いますか?
では、その答えの一例をあげてみます。
●体中に水分がたまり、むくみやすくなってしまう
●高血圧になり、心筋梗塞や脳梗塞などになりやすくなる
●骨がもろくなり、骨折しやすくなってしまう
●ほかの臓器の機能が低下してしまう
もちろん、これだけではありませんが(そもそも、腎臓の機能がまったく働かない場合、10日~2週間ほどで命の保証がなくなってしまうのですが)、腎臓が全身に深く関わっている臓器だということがおわかりいただけるかと思います。
昨今、「腎臓が寿命を決める」といわれていることをご存知でしょうか。それは腎臓が人間が生きるうえで欠かせない機能をコントロールするという役割を担っているからです。
ここから腎臓がいかに私たちにとって大切な存在であるのか、詳しくお話ししていきましょう。
そもそも腎臓ってどこにあるの?
そんな大切な腎臓が体のどこにあるかというと、体の背中側の腰の上部に背骨をはさむように左右にひとつずつ位置しています(下のイラストを見てください)。
(出所:『腎機能を自力で強くする 弱った腎臓のメンテナンス法』より)
腎臓1個の重さは約150gで、握りこぶし程度の大きさしかありませんが、そこに、心臓から出た血液のおよそ4分の1が流れ込んでいます。これだけだとピンとこないかもしれませんが、体重の200分の1以下の重さの腎臓に、1分間に約1リットルの血液と聞くと、かなりの負荷がかかっていることがおわかりになると思います。
これだけ大量の血液が流れ込んできている理由は、腎臓が非常に重要な役割を果たしているからです。
「縁の下の力持ち」意外にスゴい腎臓の"底力"
生きていくために必要不可欠な腎臓の働きのひとつが、「ホメオスタシス(生体恒常性)」を保つということです。少し言葉が難しいですが、簡単に言うと、環境に左右されずに体内を一定に保つしくみです。
私たちが生活している環境はつねに一定ではありません。雨が降ったり、暑くなったり、寒くなったり、ジメジメしたり、乾燥したりと、刻々と変わっていきます。
そして、その変化に左右されることなく体の内部がいつも一定に保たれていなくては私たちは生きていくことはできませんよね。たとえば、暑さや寒さなどに影響されて体温が激しく変動したら、体は機能停止状態に陥ってしまいます。このホメオスタシスを維持するうえで、とくに重要な働きをする臓器が腎臓です。
具体的には、がぶがぶと大量に水を飲んだときには尿を増やし、逆に飲めない状況に陥ったときには尿を減らすといった調整を行っているのです。
また血管、細胞、神経、筋肉などの機能の調整に欠かせない、体液に含まれている電解質(ナトリウムイオンやカリウムイオンなど)にも目を光らせて、体にとって不必要なぶんは尿として排泄し、必要なぶんは体に戻しています。こうして、体液はちょうどよい量と濃度になるように調整されているのです。
もしも腎臓がなくなったら、体の中はゴミだらけ
もしも腎臓がなくなったら、体の中はゴミだらけになるだけではなく、ホメオスタシスも維持できなくなって、脳や心臓などの全身の臓器が本来の機能を果たせなくなってしまいます。これが、「腎臓が寿命を決める」といわれている所以なのです。
そんな腎臓はとても複雑な構造をしています。順番にひとつずつみていきましょう。
心臓から送り込まれた血液は、毛細血管(細い血管)の塊でできている「糸球体」という場所で、必要な赤血球やタンパク質などと、不必要なゴミなどとにふるい分けされます。ゴミなどを含んだ水分(原尿)を受け止めているのが、「ボウマン嚢」です。
原尿には、水分も含め、体にとって必要な物質がたくさん含まれています。こうした物質を「尿細管」が再吸収しています。
このように血液のろ過と再吸収を365日、24時間休まず行っているため、血液に糖がたくさん含まれていたり、血圧が高くなったりすると、糸球体や尿細管はダメージを受けてしまいます。
ただ、「沈黙の臓器」と呼ばれている腎臓は、ダメージを受けてもほとんど症状が表れることはありません。腸のように「おなかが痛い」といった直接的なサインを出さないのです。そのため、本人が気づかない間に、ジワジワと機能低下が進行していく可能性が高いのです。
いまの腎臓の状態を知るには、次のような体の変化を確かめるといいでしょう。
あなたの腎臓は大丈夫? 5つのチェックポイント
① 突然、尿の量が減ってしまった
「急性腎障害」といって、尿細管に激しい炎症が起こっている可能性があります。急性腎障害は薬剤が引き起こすケースが多いのですが、サプリメントや食品で炎症が起こることもあります。
尿の量を推し量る目安としては、トイレの回数があります。一般的に正常であれば1日当たり5〜7回といわれており、2回以下であると尿の量が少ないといえます。ただし、頻尿などは膀胱に問題があるときに発生することもあるので、トイレの回数だけで判断するのは早計です。
尿の量の減少に加えて、とても疲れやすくなり、ひどいむくみや食欲不振が表れた際には、すぐに腎臓内科や内科を受診してください。
② 夜に尿意で目が覚める
子どもと大人とでは、尿の出方が違いますよね。赤ちゃんのときは尿の出をコントロールできないので、おむつをつけます。そして、幼い頃はおねしょをするときもありますが、成長するにつれてそれがなくなっていきます。
大人になれば、昼間は何度かトイレに行きますが、夜はほとんど行かなくなっているはずです。トイレに行かなくても済むのは、腎臓に夜間の排尿回数を減らして尿を濃縮する機能が備わっているからです。
それにもかかわらず、「トイレに行きたい」と尿意を覚えて夜中に何度も目を覚ますのは、腎臓の機能が落ちて、尿の濃縮力が低下しているからです。
③ よく足がつる
眠っているときに、突然、足がビリビリと強く痛んでつることはありませんか? これは「こむら返り」とも呼ばれていますが、頻繁に起こる場合は、腎臓に不調をきたして体液のバランスが保たれなくなっている可能性があります。
「血圧」や「血糖値」の変化にも注意が必要
④ 頭痛や首のこりに悩まされがちだ
血圧が高いときには、血管がギュッと収縮していて、血行障害が起こっています。そのために、頭痛や首のこりが発生しやすくなります。
さらに血圧の高い状態が続くと、全身の血管は高い圧力を受け続けることになり、次第に血管の内部が硬く、もろくなってしまう「動脈硬化」が起こります。当然、毛細血管という細い血管の集合体であり、たくさんの血液が送り込まれる腎臓の血管は、その影響を大きく受けてしまいます。高血圧気味で、さらに頭痛や首こりが続くようなら要注意です。
⑤ 食後に強烈な眠気に襲われる
食事でとった炭水化物(糖)が消化吸収されるとブドウ糖に変換されて血液の中に放出されます。これが「血糖」で、その量を示すのが血糖値です。
食事をする前と後で血糖値が異なるのですが、食事をすると食べ物が消化吸収されて血中に糖が放出されるため血糖値は上昇します。しかし、食べたものによっては血糖値が急上昇した後、急降下を起こすことがあります。
この状態は「血糖値スパイク」と呼ばれ、血糖値が急降下するときに、強い眠気に襲われたり、動けなくなるほどのだるさを感じたりします。
この血糖値スパイクをくり返すことで血管は大きなダメージを受け、腎臓にも悪影響を及ぼします。そのため、食後に頻繁に強い眠気に襲われる方は、腎臓がダメージを受けている可能性があります。
ここであげた5つの症状のうち、「①突然、尿の量が減ってしまった」については、早急に治療が必要なケースが珍しくありません。ですから、放置せず、すぐに病院を受診してください。
残りの4つの症状については、これから生活習慣を改善することで、十分に対処できますので、ぜひ日常生活を見直してみてください。
腎臓は、意外と「タフな臓器」でもある
ここまで読んでいただき、腎臓に不安がある方には「やっぱりもうダメかもしれない」と思われる方もいらっしゃったかもしれません。しかし、そんな方にお伝えしたいのは「心配し過ぎないでください」ということです。
20〜30代の頃の腎臓の機能を100%とした場合に、「10%が残っていたら、普通の生活を送るには十分です」と言われたら、驚かれるでしょうか。
じつは、腎臓は意外とタフです。たとえば、「生体腎移植」といって、ふたつある腎臓のうちのひとつを、親族から提供してもらう治療法があります。腎臓を提供した人(ドナー)は腎臓がひとつになりますが、機能はほぼ正常に保たれ、健康に暮らせています。
腎臓は生命を維持するうえで重要な役割を果たしていて、ほかの臓器よりも潜在能力は高いのです。年齢を重ねるとともに腎臓の機能は低下していくものの、もともと余力はあるので、本来であれば厳しい食事制限や服薬、透析などを行わずに、私たちは寿命をまっとうできます。
たとえ高齢になって、健康診断で腎臓の機能を示す数値が少々悪くなっていても、食生活や生活習慣を改善するなどして腎臓のメンテナンスを心がければ「もうダメだ」と悲観する必要はないということです。
ただし、糖尿病や高血圧、偏った食習慣などで腎臓を痛めてしまったら、若くても腎臓の機能は落ちてしまいます。私の元を訪れる患者さんたちの中には、まだ40代前半にもかかわらず糖尿病などの治療を怠って、腎臓が取り返しのつかないほどダメージを受けてしまい、「こんなことになるなんて、知らなかった」と後悔している人も少なくありません。
ほかに、感染症、薬剤などで腎臓の機能が急激に低下することもあります。タフで、滅多なことでは弱音を吐かない臓器だからこそ、日頃からちょっとした体の異変には敏感になる必要があります。少しでも異変を感じたらかかりつけ医などに相談するようにしてください。
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提供元:「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ│東洋経済オンライン