2024.08.14
ふるさと納税「ポイント禁止令」は悪手でしかない|「もぐらたたき」総務省"指導"はどう影響する
総務省は「2025年10月から、ポイント等を付与するポータルサイト事業者等を通じて自治体が寄付を募ることを禁止する」と発表した(画像:「ふるさと納税サイト【さとふる】」より)
ポータルサイトの登場で一気に成長したふるさと納税
ついに「ふるさと納税」が1兆円を突破した。8月2日に総務省が発表した令和5年度の「ふるさと納税」受け入れ額は、約1兆1175億円にのぼった。2008年にこの制度ができてから初のことだ。
日本には寄付行為がなかなか根付かないとの俗説を裏切る勢いだが、寄付という「善意」だけが理由でないことは多くの人が納得するところだろう。ふるさと納税の大きな原動力となってきたのが、自治体からの返礼品であることは明白だ。
そもそもふるさと納税の目的は、都市部から地方への税の循環にある。故郷を離れ、都市部で就職した地方出身者に、生まれ育った自治体への寄付を呼びかけたのが始まりだ。
とはいえ、最初は反応が薄かった。「節税になりますよ」と言われても、確定申告が必要ですと聞けば面倒くさいだけ。最初は一部の節税マニアしか興味を持たなかった。
それがここまで成長したのは、ふるさと納税ポータルサイトの登場が大きかったと言えるだろう。2012年にトラストバンクが「ふるさとチョイス」をスタート。自治体や返礼品を一覧でき、寄付額に応じた検索もできるようになった。
さらに2015年には「ワンストップ特例制度」が始まり、確定申告が不要に。控除限度額の引き上げもあり、一気に寄付額が跳ね上がる。続々と新たなポータルサイトが参入し、「魅力的なお礼の品が受け取れる」とアピール。一見するとネットショッピングサイトと見分けがつかないほどになった。同時に始まったのが返礼品競争だ。
もぐらたたきのような総務省の指導がついに…
多くの寄付が集まれば、それだけ自治体の税収は潤う。そのために自治体は返礼品の豪華さを競うようになっていく。目立たなくては寄付が集まらないと、一時はアマゾンギフト券やiPadまでが返礼品として登場した。
その後のいきさつはご存じの通り。自治体が派手に打って出ると、総務省がそれはけしからんと厳しく取り締まる通知を出すイタチごっこが繰り返される。金券など換金性の高い品はNG、返礼割合は3割以下でないとダメ、昨年の10月からは返礼品として認める地場産品の基準を変更した。
熟成肉と精米は同じ都道府県で生産されたものを原材料にする場合のみ地場産品として扱うよう厳格化したのだ。肉とコメは人気の返礼品だけに、産地と非産地の格差も大きい。それがダメになれば、また抜け穴を考えるのが人情というもの。総務省はもぐらたたきのように問題児を潰してきたようにも見える。
とはいえ、ここまではあくまで総務省VS自治体のラウンド。我々ふるさと納税の利用者は外野で眺めていただけだ。が、他人事ではない事態が起きた。「ポイントの禁止」である。
総務省は6月25日に、「2025年10月から、ポイント等を付与するポータルサイト事業者等を通じて自治体が寄付を募ることを禁止する」と発表したのだ。
前段にあったのが、昨年10月以降のもうひとつの改正、「5割ルール」の適用厳格化だ。これまでもふるさと納税の募集にかかる経費は寄付金額の5割以下に収めるというルールはあったが、扱いがバラバラだったふるさと納税ポータルサイトへ支払う手数料も「募集にかかる費用」に含まれるとした。
これまで入っていなかった経費がそこに入れば、これまでと同じ金額を寄付しても返礼品分が目減りするのではないか、これは「実質値上げ」ではないか、とずいぶん騒がれたものだ。
今振り返ると、「ポータルサイトへ支払う手数料」が狙い撃ちされていたのだとわかる。総務省の言い分は、自治体から各ポータルサイトに支払われている手数料が、利用者に付与されるポイントの原資になっている可能性がある。それがなければ手数料が下がり、純粋に寄付に回る金額が増えるはずだ――との考えらしい。
ポータルサイトを敵視しすぎると“やぶ蛇”に?
総務省の頭にあったのは、例えば楽天だろう。「楽天ふるさと納税」を利用すると、寄付に応じてポイントが付与されるので、節税と返礼品とポイントの三重取りができる。保有ポイントを使った寄付もできる。さらに、「お買い物マラソン」などのキャンペーンでは、ふるさと納税の件数に応じてポイントが2倍3倍に上がったりもする。ポイ活に熱心な楽天経済圏のユーザーは、これらポイント倍増キャンペーン時にふるさと納税を済ませるのが常識だった。総務省はショッピングである楽天市場と、国の制度であるふるさと納税とが同じサイト上で一律に並ぶことを苦々しく思っていたのかもしれない。
楽天は「ポイントの原資は自社で負担している」と主張、反対するネット署名を呼びかけている。8月2日時点で反対署名数は185万を超えたといい、署名とともに方針の撤回を政府・総務省に申し入れする予定だ。
このケンカに楽天が勝てるとは思わない。が、その“負け”はふるさと納税制度全体に、いい影響を与えないのではないか。というのも、自社が付与してきたポイントやマイルを禁止されたら、ふるさと納税から撤退するサイトが出てくる可能性もあるからだ。
これほどふるさと納税が広がったのは、前述した通りポータルサイトのおかげと言っていい。黎明期は個人がいちいち自治体を検索し、ホームページから「ふるさと納税」のページにたどり着くという手間をかけていた。しかも、掲載されている写真は自治体ごとにバラバラのクオリティ。スナップ写真みたいなものまであった。時代が変わって、今のポータルサイトはカタログのように美しく魅力的なビジュアルぞろいで、これもサイト側のフォローがあってこそ。ふるさと納税が1兆円超えとなったのには、ポータルサイトの整備と宣伝力なくしては実現できなかったはずだ。
つまりサイト側もビジネスとして取り組んでおり、自社を使ってもらう以上、自社のポイントを付与することで集客し、さらに自社サービスでポイントを使ってもらうよう期待するのは当然のこと。自社のメリットを完全に封じられたなら、うまみはないのでふるさと納税から撤退するという経営判断はあり得るだろう。
ポイ活民の心が離れていかないか心配
ふるさと納税自体にも賛否はあり、住民税が流出する一方の都市部にとっては「悪の法」だろう。片や、能登半島のように被災地支援のために寄付できる仕組みは素晴らしいと思う。ただし、お上が「こう決めました」とルールをどんどん変えるのは、最初からハンデありのケンカを見せられているような気がしてしまう。
「ポイント付与が無くなっても、ふるさと納税自体は減らない」という見方もあるが、それは半分だけ正しい。それまで使っていたポータルサイトが撤退すれば、消極的選択として「面倒だからしなくなる」ことはあるだろう。読んでいた雑誌が休刊になったため、雑誌そのものを読む機会が減るようなものだ。
そもそも、本当に「この自治体に寄付を」という気持ちで向き合っている人ばかりではない。欲しい返礼品の検索をしてから決める人が大半だろうし、SNSで「返礼品でコストコのクーポンが受け取れるから、実質年会費無料で会員になれる(現在はなし)」などの情報が飛び交う世の中だ。貯めていたポイントが使えたり、倍増できたりするサイトで、おトクに魅力的な返礼品をゲットできるからというのが、人々を動かしてきた強い動機・インセンティブだ。「おトクさ」をあからさまに削り落とそうとすれば、その心理に冷や水を浴びせるだけだろう。
物価高への対抗策として、「ポイ活」を挙げる人は多い。ふるさと納税でも、価格が高騰した日用品を選ぶ人も増えている。このように生活防衛の意識でふるさと納税を行っている人が増えている現状を、政府は重くとらえていないのではないか。
ポイント全面禁止は悪手にしか思えない
ポイントを禁止すれば手数料が下がるはず、というのものんきな錯覚だろう。不当な金額は正されるべきだろうが、企業は事業に見合う金額が稼げなければ、そこから手を引くだけだ。
ポイント全面禁止は自治体にとっても、ふるさと納税制度にとっても、悪手にしか思えない。
寄付をより多く集めたいなら消費者心理を研究すべきだし、手数料が問題だと言うならサイト側とそっちのルールを話し合うほうがいい。カード普及のためにマイナポイントを配った総務省なら、いかにポイントで人が動くかを知っているだろうに――。
今回の告示では、カード決済によるポイント付与は禁止に当たらないとしているが、次はそこがポータルサイト側の主戦場になりそうだ。いずれにしても、来年9月末までに、最後の駆け込み寄付でお祭り騒ぎになるだろうことだけは予言しておく。
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提供元:ふるさと納税「ポイント禁止令」は悪手でしかない|東洋経済オンライン