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2024.04.18

わずか3~4年「検診受けなかった」彼に起きた悲劇|40代で死を意識した医師が後輩に遺した「言葉」


40代で肺がんがわかった医師が筆者に残したメッセージとは(写真:nonpii/PIXTA)

40代で肺がんがわかった医師が筆者に残したメッセージとは(写真:nonpii/PIXTA)

「親としてやり残したことがたくさんあるのに」「自分が死んだら意味がないよ」。わずか3〜4年、がん検診に行かなかった間に、末期の肺がんが見つかった働き盛りの40代医師は、悔やみきれない様子で語った――。

これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期は家で迎えたい」という患者の希望を在宅医として叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)が、若い人たちにも知ってもらいたい“在宅ケアのいま”を伝える本シリーズ。

今回のテーマは、がん検診。コロナ禍の受診控えの結果、進行がんが見つかった60代女性や、仕事優先で検診を後回しにした数年で、がんが進行した40代医師の例から、検診の重要性を考えていきたい。

介護で検診を受けずにいたら…

同居する母親の介護を、4〜5年にわたって支えてきたAさん(60代)。

私はAさんの母親の担当医で、母親の主な介護者であるAさんとは、日頃から接する機会がありました。いつも母親のことを気にかけて寄り添ってきたAさんに、がんが見つかりました。

聞けば、少し前から体調に異変を感じていたものの、コロナ禍から病院に行くのを敬遠していたとのこと。「がんかもしれない」という考えが頭をよぎったこともありましたが、「まさか自分が」と、考えを打ち消していたそうです。

コロナが落ち着いてからも、なかなかがん検診を受けようとせず、重い腰を上げて、5年ぶりに検診を受けたところ、一瞬よぎった予感が的中。Aさんは、ショックのあまり現実を受け入れられない様子でした。

そんななかでも、「化学療法が始まって体調が悪くなったり、手術で入院となったりしたら、お母さんの介護をどうしよう」「もしお母さんより、自分の命が先に終わってしまったら……」と、母親の今後を心配しています。「もう少し早く検診に行けば良かった」と、涙ながらに話すAさんは、深い後悔に包まれている様子でした。

コロナで遠のいたがん検診の結果

コロナが感染症法の5類に移行して1年が経とうとしていますが、コロナ禍のがん検診控えの影響が続いている傾向があります。

この記事を読んでいただいている皆さんの中にも、「そういえばコロナが流行してからは、がん検診に行っていない」という人もいるのではないでしょうか。

コロナの流行から、丸4年という月日が経過しています。がん検診は基本的には毎年受けるものです。前回の受診から間が空いている人は、がんのリスクが高くなっていることを自覚して、ぜひ早めに受診しましょう。

がんは、日本人の2人に1人がかかる身近な病気です。早期の段階で見つけて治療をすれば、治る可能性が高い病気です。しかし、諸外国に比べて日本の検診受診率はまだまだ低いのが大きな課題です。

がん検診の目的は、がんを見つけることだけではありません。検診の対象となる人たちの死亡率を低下させることも、目的の1つです。

これまでの研究によって、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんは、それぞれ特定の方法で行う検診で早期発見でき、さらに早期に治療することで死亡率が低下することが、科学的に証明されています。

国が定期的な検診を推奨し、自治体が実施しているがん検診をまとめたものによると、検診の費用は自治体や受診者の年齢・収入によって異なりますが、公費補助があるため、比較的安く受けることができます(表)。

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(※外部配信先では表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

2020年には「がん治療の開始が4週間遅れると、死亡率が増加する可能性がある」というショッキングな研究結果も、海外で報告されています。

がんは、どれだけ早期に発見し、適切に治療できるかという点が何よりも重要なのです。そのためには、定期的な検診が欠かせません。

なかでも、自営業や主婦の方、退職された方などは、会社員のような「検診に行きましょう」という呼びかけがほとんどないこともあり、つい後回しにしてしまいがちです。

しかし、それでは自分の健康を守ることができません。「自分で自分の健康を守る」という意識を強く持って、定期的な検診を受けてほしいと思います。

3〜4年でがんが進行、手遅れに

筆者が定期的な検診の大切さについて、声を大にしてお伝えしたい背景には、研修医時代に出会った、ある患者さんの言葉があります。

その患者さんは、耳鼻科の開業医として、日々忙しく働いていた40代の男性Bさんでした。耳鼻科を開業して10年、患者さんの健康を第一に、一心不乱で仕事をしてきました。

あるとき、Bさんは、咳が長引いていたことをきっかけに、3〜4年ぶりに病院を受診しました。「大した不調とは思わないけれど、念のため」と思っての受診だったそうです。ところが、久しぶりに受けた検査で、Bさんは末期の肺がんと診断されました。

Bさんは職業柄、食事や運動にも気をつけ、忙しいながらも自らの健康には気を配っていました。タバコも吸っておらず、「まさか自分が肺がんになるなんて、夢にも思わなかった」と言います。

耳鼻科を訪れる患者さんに対しては、定期的ながん検診の重要性を説きながらも、自分自身は仕事に追われるうちに、気づけばしばらく検診に行けていなかったそうです。

そのわずか3〜4年の間にがんが進行し、診断がついたときには手遅れの状態になっていたのです。

Bさんは、もう少し病院を受診するのが早ければ、手術をして生き長らえる可能性もあったと思います。高校生のお子さんもいて、「親としてやり残したことがたくさんあるのに……」と、悔やみきれない様子で話していた姿を、今でも思い出します。

僕のようになってほしくない

医師として駆け出しの私に、「僕のようになってほしくないから、医師として人の健康を守るだけじゃなく、君自身の健康もちゃんと大事にしなさいね」「自分が死んだら意味がないんだよ」とかけてくれた言葉は忘れられません。

たった数年、検診に行かなかったばかりに、40代という若さで大切な家族を置いて、この世を去らねばならない現実を突きつけられたBさんの姿は、あまりに切なくて、病室の光景とともに今も記憶が鮮明に残っています。

現役世代は、つい目先の仕事や家族を優先し、自分の健康を後回しにしてしまいがちです。

しかし、「自分は大丈夫だろう」と過信してしまうと、取り返しのつかない結果を招く場合があることを忘れないでほしいと思います。

Bさんは、長引く咳をきっかけに受診しましたが、がんの初期は無症状であることが多いため、症状が出たときには、すでにがんが進行していることも少なくありません。

咳が続くのがコロナの後遺症だと思っていたら、肺がんだったというケースもあります。もし何か「いつもと違う」症状が続いているなら、先延ばしせずに受診してください。

そして、検診の結果、「精密検査が必要」と判定されたら、早期がんを見つけられるチャンスと考え、自分のため、そして心配してくれる周りの人のためにも、すぐに精密検査を受けるようにしましょう。

放置しているほうが怖い結果を招く

コロナ禍で精密検査を先送りにするうちに、がんが進行してしまった例もあります。「要精密検査」と判定された場合、「がんではないか」と怖く感じる人もいると思いますが、放置しているほうが怖い結果を招きかねません。精密検査は、必ず受けてください。

また時折、「何か病気が見つかると怖いから、検診に行きたくない」という人がいます。しかしこれは、言わずもがな本末転倒で、手遅れになってからの受診では遅いのです。

本当に怖いのは、知らず知らずに病気が進行してしまうことだと認識しましょう。

現役世代は、仕事や家族の健康を優先して、自分の健康を後回しにしてしまいがちです。親が子どもの体調の悪さに集中してしまい、自分の健康を後回しにしてしまうケースも同様です。

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しかし、自分がいないと困る人がいるならなおさら、自分の健康を保つことが大切です。後回しにせず、しっかり自分の健康と向き合ってほしいと思います。

近年、がん治療は大きな進歩を遂げ、以前のように“不治の病”ではなくなっています。がんと診断されてから5年後も生存する「5年生存率」も上がっていますし、がんの種類によっては、早期発見と早期治療によって、9割以上が治る時代です。

自分の健康と大切な人のためにも、定期的な検診を怠らないようにしましょう。

(構成:ライター・松岡かすみ)

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提供元:わずか3~4年「検診受けなかった」彼に起きた悲劇|東洋経済オンライン

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