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2024.02.20

佐藤二朗さん公表「強迫性障害」の人が抱える苦悩|SNSで「沢山の励まし、ありがとう」と感謝つづる


強迫性障害とはどんな病気で、どのような診療が行われるのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)

強迫性障害とはどんな病気で、どのような診療が行われるのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)

俳優の佐藤二朗さんが、「強迫性障害」という病気を小学生の頃から抱えていることを自身のX(旧ツイッター)でカミングアウト。「根治を諦め、共生を決める」とつぶやいた。

この強迫性障害とはどんな病気なのか、精神科医で千葉大学医学部附属病院認知行動療法センター長の清水栄司さんに聞いた。

強迫観念にとらわれてしまう

強迫性障害とは、強い不安や苦痛を起こす考えや衝動(強迫観念)にとらわれ、その強迫観念に対処する行動(強迫行動)に駆り立てられる、心の病といえる。頭ではわかっていても、「やめたくてもやめられない」という状況になる。

最近、「強迫症」という診断名に変更された(※本稿では強迫性障害という病名を使います)。

自身の病気を告白した文章(佐藤二朗さんXより)

自身の病気を告白した文章(佐藤二朗さんXより)

「きれい好きや几帳面といった性格で、手をよく洗ったり、出かけるときに戸締まりやガス栓などをこまめに確認したりする人はいます。しかし、強迫性障害はその程度がひどく過剰で、費やす時間も長く、苦しく、日常生活に支障が出るような状態をいいます」

そう清水さんは説明する。

何かしないとどんどん汚れが広がってしまうという考えから、不安で、何度も消毒用のアルコールで拭いたり、延々手を洗っていたり。あるいは、泥棒に入られるのではないかといった考えが頭から離れず、不安で、何度も戸締まりを確認したり……。

こうした強迫行為で一度は落ち着くが、時間が経つとまた不安が押し寄せてくるため、永遠と行為を繰り返してしまう。

脳内が強迫観念・行為でいっぱい

清水さんがわかりやすいたとえとして挙げてくれたのが、「脳内の円グラフ」だ。

「自分で入力すると、脳の中にどんなことをどんな割合で考えているかを円グラフで表示してくれるネットサービスがありますよね。強迫性障害の人の場合、まさに脳内が強迫観念と強迫行為でいっぱいになっている状態なのです」

強迫性障害の代表的な強迫観念と強迫行為は以下のとおりだ。

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強迫性障害は決してめずらしい病気ではなく、アメリカの疫学調査によると、患者は日本の人口の1〜2%存在するとされる。

小学生から20代前半くらいの若年層に多いが、佐藤二朗さんのように成人になっても改善されず、何かのきっかけで症状が表れるケースもある。

妊娠や出産後の女性が赤ちゃんへの責任感に過敏になりすぎて発症したり、多感な思春期の子どもが受験ストレスにさらされて発症したりすることもある。

発症のきっかけについては、本人がはっきりと覚えている場合と、そうでない場合があるようだ。

「患者さんのなかには、ベランダで布団を干していたら鳩にふんをされ、そこから『自分は鳩のふんで病気になるんじゃないか』という不安が頭から離れなくなったと話す人もいますし、なんとなく汚いのが嫌になってきて、気がついたら手洗いばかりするようになっていましたと話す人もいます」(清水さん)

心の病気は脳の病気という考え方がある。では、強迫性障害の人は、脳にどんな問題が生じているのだろうか。

脳の回路の機能の問題

「強迫性障害は、脳腫瘍や脳卒中のように脳画像検査で異常を指摘できる病気とは違い、『脳の回路の機能の問題』として捉えます」と清水さん。

まだわかっていないことも多いそうだが、徐々に原因も解明されてきている。その1つが前頭葉を含めた脳の回路の問題だ。

前頭葉は、私たちが日々、自分の行動を決定するなどの高度な働きを持っている。ところが、強迫性障害では脳の回路が儀式的な繰り返しをやめられなくなってしまう。

さらに、不安や恐怖に関係する神経伝達物質セロトニンの減少や、喜びの報酬予測に関係するドーパミンのアンバランスが関係しているともいわれている。

患者本人がつらいだけでなく、病気の影響が家族にまで及ぶことがある。

例えば、家族に、自身の不安に対して「『大丈夫』と言ってほしい」と繰り返し保証を求めたり、自分の強迫行動を手伝うように強制したりする。これを「巻き込み」という。

「強迫性障害の患者さんは、『洞察が乏しい(病識が不十分)』といった言い方をするのですが、強迫行為をやって当然、やるべきことという正当性に固執するあまり、周囲にも同じことをさせていることが少なくないのです」(清水さん)

こうした巻き込みは、職場や学校では起こりにくく、割と自制できている。そのぶんストレスが家族に跳ね返ってきやすいのだという。それゆえ、「巻き込まれる家族への影響、負担感は大きく、その支援も必要です」(清水さん)という。

医療機関を受診する多くの人は、本人が強迫症状によって日常機能に支障が出て困っている場合だが、家族が困って専門の機関に相談に来る場合もあるそうだ。

治療は抗うつ薬と認知行動療法

では、精神科ではどのような診療が行われるのか。

「診断では、まず強迫観念や強迫行為があるか、その程度はどうか、いつから始まったかなどを、問診や『Y-BOCS(エールブラウン強迫観念・強迫行為評価スケール)』で明らかにしていきます」と清水さん。

強迫性障害の治療は、本人や家族との相談と同意の上、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使ったり、強迫観念が起こす不安と向き合い、強迫行為を止める認知行動療法を行ったりしていく。ただし、残念ながら認知行動療法を保険診療で行う医療機関は少なく、清水さんの所属する千葉大学医学部附属病院認知行動療法センターは自費だ。

しかも、こうした治療でも十分に改善できず、病気との付き合いが長く続く場合もある。

佐藤二朗さんはXで、たくさんの励ましに感謝しつつ「病含め僕。病ゆえの『力』を信じよう。いつか病に礼を言えるよう」と記している。このように病気との共存を考えることも大切だ。清水さんはこうアドバイスする。

「先に挙げた脳内の円グラフではありませんが、頭の中を強迫のことでいっぱいにするのではなく、大事な人間関係、大事な趣味、大事な仕事などの割合を増やしてほしい」

その1つが、1日のなかで大事な予定を優先的に入れる、という方法だ。

「外出して、人と交流する予定を決めたり、趣味を楽しんだりする時間をとったりすると、自然と1日あたりの強迫症状にかける時間を減らすことができます。大事な付き合いや楽しみの時間を優先し、強迫観念や強迫行為に使う時間がもったいない、タイパ(タイム・パフォーマンス)が悪いとすることです」(清水さん)

食事のときに、汚れが広がってしまうという強迫観念が浮かんできても、その脅しには付き合わず、優先事項として、「家族との楽しい会話を楽しみ、食材を味わい、食レポをする」といった生活に変えてみる。そうやって脳内の円グラフの比重を切り替えていくことが大切だ。

告白した勇気に感謝したい

今回の佐藤さんのカミングアウトについて、清水さんは「その勇気に感謝の気持ちを感じている」そうだ。

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「強迫性障害はなかなか病気と認知されにくい。多くの人に知ってもらえるきっかけになったとともに、『病ゆえの〈力〉』とも言ってくれていて、強迫性障害の診療をする専門家からすると、とてもありがたいです」

症状が出てから、医療機関で治療を受けるまでの期間を「未治療期間」といい、強迫性障害は平均7年という報告もある。治療なしでは、本人も周囲もつらい状況で疲弊してしまう。

「不安になる考えが繰り返し襲ってきて、何か対処の行為をしないと治まらない。1日中、そんなことの繰り返しで日常生活が回らないようであれば、一度、専門家に相談してみるといいかもしれません」(清水さん)

(取材・文/伊波達也)

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千葉大学医学部附属病院認知行動療法センター長
清水栄司医師

1990年、千葉大学医学部卒業後、同附属病院にて精神科医として勤務。同年、千葉大学大学院医学研究科博士課程(内科系精神医学)修了。1997年、アメリカプリンストン大学分子生物学講座客員研究員。2005年、千葉大学大学院医学研究院助教授。2006年、千葉大学大学院医学研究院神経情報統合生理学(現認知行動生理学)教授。2011年、千葉大学子どものこころ発達研究センターセンター長。2016年から現職。所属学会は日本認知・行動療法学代議員、日本不安症学会理事、日本脳科学会評議員、日本精神神経学会ほか。著書は『認知行動療法でつくる思考・感情・行動の好循環』(法研)、『自分でできる認知行動療法 うつと不安の克服法』(星和書店)ほか多数。

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提供元:佐藤二朗さん公表「強迫性障害」の人が抱える苦悩|東洋経済オンライン

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