2024.01.20
食道がん「のどの違和感」が出る前に見つける方法|耳鼻科で異常なしの場合、次の行動が重要に
食道がん、特に注意したほうがいい人は?(写真: Graphs / PIXTA)
経済評論家で、東洋経済オンラインでも人気連載「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」で執筆していた山崎元さん(65歳)が1月1日、亡くなった。山崎さんを死に至らしめた原因は「食道がん」だった。
食道がんとは、どんながんなのか、YouTubeの『がん防災チャンネル』などでがん情報を発信する宮崎善仁会病院腫瘍内科の押川勝太郎医師に話を聞いた。
国立がん研究センターのがん情報サービスによると、1年間で食道がんと診断された人の数は2万6000人強(2019年)、亡くなった人は約1万人(2020年)だ。罹患者数、死亡者数とも女性より男性に多い。5年相対生存率(2009~2011年)は、41.5 %だ。
※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください
著名人では山崎さんのほか、秋野暢子さん、野口五郎さん、堀ちえみさんなども食道がんを患ったことを公表している。
山崎さんはのどの調子に異変を感じた
山崎さんが自身のがんについてつづったコラム「『癌』になって、考えたこと、感じたこと」によると、2022年6月頃、のどの調子が悪くなり耳鼻科で診てもらっている。
「食道がんの初発症状は大きく、狭窄(のどが狭くなる)が3割、嚥下困難(飲み込みが悪くなる)が2割、胸痛が1割です。症状がない人も2割程度います」と押川医師。のどの症状を耳鼻科で診てもらったことがきっかけで、食道がんが発見されるケースは、けっこうあるそうだ。
ここで大事になるのは、耳鼻科で「異常がない」と言われたあとの行動だ。そのまま放っておくか、そこから次の行動に移せるかで、大きく違ってくる。
食道とのど(咽頭・口頭)は同じ場所にあるが別の器官であり、診療科が違う。そのため、耳鼻科で食道がんが見つかることはほぼない。
「耳鼻科で『問題なし』になったときに、多くの場合、診てくれた耳鼻科医が、『これはもしかしたら食道に異常があるかもしれない、食道のがんかもしれない』と、消化器内科の受診を勧めてくれます。しかし、そうではないケースもある。その場合でも、患者さん自身が自ら気づいて消化器内科を受診することが、きわめて重要です」(押川医師)
症状がある場合、すでにがんが進行している可能性が高い。
「食道がんもほかの多くの消化器がんと同様、内側の粘膜に発生して、そこから広がっていきます。ただし、胃や大腸と違って食道の外側には、ソーセージの皮のような漿膜(しょうまく)という組織がなく、壁が薄い。症状があるときにはすでに食道の壁にがんがもぐり込んでいて、リンパ節転移が起こっていることも少なくないのです」(押川医師)
食道がんは無症状でも発見可能
では、症状がない段階で食道がんを見つけることはできないのか。
これに対し押川医師は、「無症状のうちに見つけることもできる」と答える。
がんを無症状の段階で見つけるには、がん検診が有用だが、そもそも食道がんは、5大がん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん)で実施されている「国が推奨するがん検診」の対象になっていない。だが、これをうまく利用すれば、食道でも無症状のがんを見つけられるそうだ。
「胃がん検診のときに、食道も診てもらうのです。食道がんは、がんそのものを内視鏡という『目』で見ることができ、早期発見が可能ながんでもあるのです」(押川医師)
胃がん検診は、50歳以上になったら2年に1回受けることが勧められている。以前はバリウム検査(胃造影検査)が主だったが、今は胃カメラ(上部消化管内視鏡)による検診が推奨されている。
胃カメラには鼻から入れる経鼻と、口から入れる経口があり、いずれも食道を通って胃に到達する。つまり、食道も胃がん検診のついでに、診てもらうことが可能だ。
「しかも今は内視鏡診断の技術も進んで、食道がんを早期で見つけられるNBI(Narrow Band Imaging)という特殊光を用いた検査が普及しています。がんになる前の『前がん病変』でも見つけられます」(押川医師)
胃がん検診で食道を診てもらう際にも「重大なポイントがある」と押川医師。それは、検診時に「食道も『念入りに』診てください」と医師に伝えることだ。特に「念入り」という言葉は必ず伝えたほうがよいとのこと。
胃カメラを呑む目的は、あくまでも胃がんのチェックにある。医師の意識が食道がんに向いていなければ、異常を見すごしてしまうこともありえる。
また、同じ胃カメラでも胃がんを見つける技術と、食道がんを見つける技術は少し違う。押川医師によると、特殊な方法を用いなければ早期がんが見つけにくいこともあり、食道がんのほうが難易度は高い。
したがって、受診者が自らお願いしなければ、食道はさっと見て終わり、ですまされてしまう可能性がある。
50歳以上、お酒やタバコを嗜む人は要注意
なかでも食道を「念入りに診てもらったほうがいい」のは、食道がんのリスクが高い人、具体的には、50歳以上の男性だ。
がんは細胞の遺伝子変異が原因で起こるが、食道がんも例外ではない。実際、加齢によって食道の粘膜の細胞に遺伝子変異が生じていることも確かめられている。
若くても、お酒をよく飲む人、熱い飲み物をよく飲む人、タバコを吸う人は気をつけたほうがいいとのこと。これらの刺激が加齢による遺伝子変異に上乗せされ、がんのリスクを高めてしまうからだ。
特に飲酒については、「ウイスキーなどの蒸留酒を、ロックやストレートで飲む人は要注意」(押川医師)という。チェイサーで水を飲んでいたとしても、肝臓などほかの臓器へのダメージは減らせるが、食道への刺激回避に関しては意味をなさない。
もう1つ「昔はお酒が弱かったけれど、だんだん飲めるようになった人」や「お酒を飲むと顔が赤くなる人」も注意が必要だ。
アルコールの分解能力には個人差がある。ALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)という分解酵素が多い、あるいは働きが強い人は酒に強く、分解酵素がほとんどない、あるいは弱い人は酒に弱く、ほとんど飲めない。
問題はこの中間にあたる、アルコール分解酵素がそこそこある、そこそこ働く人だ。
「分解酵素がそこそこある人は、だんだんと飲めるようにもなります。ただ、このタイプは飲酒によって食道がんになるリスクが上がります。ですから、酒には強くなったけれど、飲むと顔が赤くなる人は気をつけたほうがいいでしょう」(押川医師)
禁酒で食道がん発症の予防が可能
飲酒と食道がんの関係については、昨年12月、興味深い研究結果を京都大学大学院医学研究科の武藤学教授らが報告している。禁酒や節酒(お酒を控える)で、食道がんの発症が予防できることが、世界で初めて明らかになったのだ。
この研究では、胃カメラで食道がんの前がん病変が確認された232人に禁酒指導を実施。すると、禁酒が成功したグループの10%程度が前がん病変に改善が見られた。一方、禁酒ができなかったグループでは改善が見られたのは2%だった。
「このほかにも、食道がんの手術後に禁酒できた人は、禁酒できなかった人よりも予後がよいといった結果も出ています。いずれにしても、リスクを減らしたいのであれば、お酒との付き合い方を見直すことが大切です」(押川医師)
年々、罹患者が増えている食道がんだが、亡くなる人はあまり増えていない。押川医師は「進行がんでも、長期生存が見込める患者が少し増えている」と話す。
食道がんの治療は、早期であれば内視鏡による切除が標準治療だ。進行がんでは、抗がん剤治療→手術が標準的で、やや効果は劣るが、抗がん剤+放射線治療(化学放射線療法)も選択できる。
「今は、免疫チェックポイント阻害薬の普及で、ステージ4でも長期生存する人たちが出てきています。食道がんの治療は、手術にしても、抗がん剤にしても、どちらかというとつらい部類に入る。それに耐えられる体力があるかどうかが、長期生存の肝といっても過言ではない」と押川医師。
そして体力と同じくらい必要となるのが、お金だ。
免疫チェックポイント阻害薬など効く薬の登場もあって、昨今のがん治療は高額化している。しかもこうした薬は年単位で継続する必要がある。長く生きられるようになったからこそ、がん治療による経済的な負担はがん患者や家族に大きくのしかかる。
「がんの経済毒性」が新たな問題に
保険診療や高度療養費制度で自己負担分が減っても厳しいと感じる人は多く、お金がないために治療をあきらめたり、途中で治療をやめたりする人が出てきている。これを昨今は、「がんの経済毒性」と呼び、新たな問題となっている。
「こうした経済毒性を含め、もっとわれわれはがんに備えたほうがいい」というのが、押川医師の「がん防災」主張だ。
「防災とは、災害に対する知識と情報を得て、避難経路をしっかり確保すること。がんでも同じ考え方ができます。昨今は多くの著名人ががんを公表しています。もちろん専門家ではない人の知識を鵜呑みにするのは避けなければなりませんが、それを機にがんやがんの周辺情報についてアップデートすることは大事です」(押川医師)
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:食道がん「のどの違和感」が出る前に見つける方法|東洋経済オンライン