2023.09.29
【健診】"たかが尿検査、されど尿検査"驚きの実力|結果に差が出る事も「正しい尿の採り方」を解説
尿検査からどんなことがわかるのでしょうか(写真:HiroS_photo/PIXTA)
健康診断などにおいて最もスタンダードな検査といえるのが、尿検査。簡便でありながら病気を早期発見できるすぐれた検査として、1930年ごろから健診などで導入されている。
今も3歳児健診から始まり、学校や企業、自治体の健診など、さまざまな場面で当たり前のように行われているが、尿検査からどんなことがわかるのか。尿検査で発見できる病気や結果の見方について、総合内科医、腎臓専門医である浦安ツバメクリニック院長の坂井正弘医師に聞いた。
画像検査や内視鏡検査、遺伝子検査など、医療の進歩に伴ってさまざまな検査法が開発されてきたが、100年ぐらい前から始まったとされる尿検査は、現在もなお一般的な検査として実施され、病気発見の手段として重視されている。
マルチに役立つ尿検査
「患者さんには、よく『たかが尿検査、されど尿検査』と話します。尿検査は人の体を傷つけることなく評価でき、簡便で低コストですが、そこからたくさんの情報が得られ、万病のスクリーニング(特定の病気が疑われる人を選び出すこと)、診断、治療効果の判定などマルチに役立っています」と坂井医師。
健診などで実施される尿検査では、尿の中に含まれている物質の種類や量などから、病気の可能性を判断する。
●尿タンパク
最も重視される項目の1つが、尿の中に含まれるタンパク質を示す「尿タンパク」だ。腎臓に流れてきた血液は、腎臓内の糸球体という組織でふるいにかけられ(ろ過され)、尿細管でさまざまな物質の交換が行われて、最終的に不要なものが尿となる。
腎臓を出た尿は尿管を通って膀胱に送られ、容量がたまると尿意が起こり、尿道から体の外に排出される。
尿タンパクが出る原因として最も多いのが、腎臓の機能が低下していく腎臓病だ。坂井医師は次のように説明する。
「タンパク質は体にとって必要不可欠なものなので、本来は尿に含まれません。しかし、糸球体や尿細管に炎症が起きていたり、糖尿病や高血圧によって糸球体を構成する毛細血管の機能が低下していたりすることで、血液をふるいにかける機能などに問題が起こると、タンパク質が尿に漏れ出てしまうのです」
腎臓の機能が低下した状態が3カ月以上続くと「慢性腎臓病(CKD)」となり、進行すると腎不全となって、透析が必要になることもある。また、腎臓の機能が正常であっても、尿タンパクが続いているだけで慢性腎臓病と診断され、精密検査や血圧、血糖などの管理が必要となる。
慢性腎臓病は糖尿病や高血圧などの生活習慣病とも関連していて、成人の8人に1人、80代では2人に1人は発症しているといわれる身近な病気だ。進行するとむくみやだるさ、頭痛といった症状が出るが、初期には自覚症状がない。そのため、尿検査によって早期発見、早期治療することが重要になる。
プロテインの摂り過ぎで陽性?
頻度は低いが、腎臓病以外の原因で尿タンパクが陽性になることもある。その1つは血液中のタンパク質の量が異常に多く、腎臓でろ過しきれずに漏れ出るケースだ。
「生理的なものでは、プロテインのサプリメントを1日3~4回摂るなど、タンパク質を過剰摂取すると、漏れ出る可能性があります。また、病的なものとして、多発性骨髄腫など全身性の病気によって、血液中に特定のタンパク質が増えることもあります」(坂井医師)
そのほか、まれではあるが膀胱や尿管からタンパク質が漏れ出て、尿に混ざるというケースもあるという。
●血尿
尿タンパクと同じくらい重視される項目が、尿の中に含まれる血液「尿潜血」、いわゆる血尿だ。血尿は肉眼で確認できることもあるが、尿検査をしなければわからない「顕微鏡的血尿(顕微鏡で見て初めて見つかる血尿)」もある。
尿潜血が陽性のときに頻度が高いのが、膀胱炎などの尿路感染症、前立腺肥大、尿路結石だ。残尿感や頻尿などほかの症状も出やすいが、尿潜血が陽性となって初めて見つかるケースもあるという。
稀ではあるが、膀胱がんなど尿路系悪性腫瘍の場合もある。また、IgA腎症といって、腎臓の糸球体にIgAというタンパク質が沈着する、いわゆる慢性腎炎という病気だったりすることもある。ただし、坂井医師によると、陽性であっても原因がわからないケースが半数近く存在するという報告もあるそうだ。
●尿糖
尿の中に含まれる糖分「尿糖」では、主に糖尿病かどうかを見る。
すい臓から出るホルモンのインスリンは、血液中の糖(ブドウ糖)を細胞に取り込む働きがある。ところが、このインスリンが十分に働かないために、血液中に糖分があふれた状態を高血糖といい、それにより尿中へ糖が漏れ出て尿糖として検出される。
尿糖は高血糖によるものが多いが、陽性となっても血糖値は高くないこともある。この場合は一時的な尿細管の機能低下による「腎性糖尿」などが考えられる。
尿検査の受け方や結果の見方
まず受け方だが、朝イチ(起床後すぐ)の尿を採るのが基本。健康体でも日中、体を動かすと尿中にタンパク質が漏れ出ることがあるからだ。また、女性の場合は月経血が尿に混じってしまうことで、正確な診断が得られにくい。月経中や月経の前後3日間は避けたほうがいいそうだ。
尿検査の項目は前述した「尿タンパク」「尿潜血」「尿糖」の3つが基本で、それぞれ「-」「±」「+」「2+~4+」などの結果が示される。
日本予防医学協会では、尿タンパク、尿潜血では「+」なら要経過観察、「2+~4+」なら要精密検査としている。要経過観察とは、「体調に配慮し、変化を感じた場合には次の健診を待たずに医師や保健師等に相談」と(同協会)とある。
坂井医師も、「+」以上ならなるべく内科で相談してほしいと話す。「本来は尿に混ざらないはずのタンパク質や血液が出ているわけですから、何かしらの異常がある可能性があります」。
特に尿タンパクは、少量でも将来透析が必要になる末期腎不全や脳卒中、そして心筋梗塞などの心血管疾患の発症リスクが増すといった報告があるという。腎機能が正常であっても「+」以上の尿タンパクが続いていると、腎不全への進行リスクは約20倍程度になるといわれる。
「そもそもタンパクが尿中に出続けること自体も問題です。本来ならろ過されないタンパクが漏れ出ることで腎臓にも負担がかります。そのため、腎臓病を悪化させることにもなるのです」(坂井医師)
尿タンパクが「4+」になると尿中にタンパクが大量に出る病気「ネフローゼ症候群」など危険な腎臓病の可能性がいっそう高まる。
受診先について坂井医師は、尿潜血の結果と合わせて、尿タンパクが陽性なら腎臓内科、尿潜血が陽性なら泌尿器科、両方とも陽性なら腎臓内科を専門とする病院への受診がすすめられる、とのことだ。
一方、尿糖は「+~4+」で要精密検査となっている。尿糖は単独ではなく、空腹時血糖値やヘモグロビンA1cなどの血液検査とあわせて確認する。血液検査が正常であれば糖尿病の可能性は低いが、前述したように腎性糖尿などの場合もあるので、「+」以上であれば内科を受診したい。
尿検査で引っかかったら、病院では再度尿検査をする。病気以外の原因で一時的に陽性になることも多いからだ。特に尿タンパクでは「起立性タンパク尿」だったということが少なくない。
「起立性タンパク尿とは、体を動かしたときに生理的に出るタンパク尿で、病気ではありません。特に思春期のやせ型の子どもに多くみられます」(坂井医師)
そのほか、風邪を引いたとき、発熱したとき、尿路感染症などで炎症があるときなどにも一時的に尿タンパクが出ることがある。
3大項目以外の尿検査
再検査で陽性なら、尿中のタンパク質の量を測定し、1日0.5g以上であれば、精密検査へと進む。0.5g以下でほかに異常がなければ2~3カ月後に再度経過をみるのが一般的だ。ただ、尿潜血を伴っている場合、より低い数値でも精密検査に進むこともあるという。
なお、尿検査の項目には基本の3項目のほかに、「尿ウロビリノーゲン」「尿ビリルビン」「尿pH」「尿比重」といった項目が記載されているところもある。それぞれについては以下の通りだ。
・尿ウロビリノーゲン、尿ビリルビン
いずれも肝炎や肝硬変など、肝臓や胆のうの病気があると陽性になるが、血液検査による肝機能の値とあわせて見ることが基本となる
・尿pH
継続的に酸性に傾いていたら、糖尿病や痛風など、アルカリ性に傾いていたら尿路感染症や腎臓病などの可能性があるが、尿pHだけで病気の有無を調べることはできない
・尿比重
尿中に溶けている物質の重量を示すもので、比重が基準値よりも高くても低くても何らかの病気を発症しているサインとなる。
近年は解析技術の進歩によって、尿からより多くの情報を得る方法が登場しつつある。「尿中バイオマーカー」ともいうが、その1つとして尿タンパクが出る前に腎臓病の発症を予測する方法が、すでに診療現場でも使用され始めている。
最新の尿検査、がんの発見は?
結果が異常だったときの対応などが確立されていないため、現状では一般的な検査にはなっていないが、これからの展開が期待される。
このほか、尿を遠心分離器にかけて沈殿した成分を顕微鏡で調べる「尿沈渣検査」では、沈殿物からAIが病気を判定する方法もある。
最近注目されている新しい尿検査として、嗅覚にすぐれた線虫を利用して、がんを早期発見する検査があるが、どうなのか。
臨床研究の結果によると、がん患者を「がん」と判定する確率(感度)は86.3%、健常者を「がんではない」と判定する確率(特異度)は90.8%。また、胃がんなどの5大がんを含め、現在15種類のがんに反応する。
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これについて坂井医師は、「がん検診を受ける人のほとんどはがんでなく、健康な人です。こうした報告を考慮すれば、がんではないのに陽性となるケースは約10%、がんなのに陰性となるケースは約14%です。たとえ陰性でもがんがないとは言えません」と話し、さらにこう続ける。
「また、陽性ではがんではないケースもあるうえ、陽性になった場合、そのがんが特定されていない状況では、結局、可能性のあるがんについて多くの検査を受けることになります。こうした課題もあり、より確実な有効性を示せるかどうかが、今後より普及するかどうかのカギとなるのではないでしょうか」
(取材・文/中寺暁子)
浦安ツバメクリニック 院長
坂井正弘医師
2010年、新潟大学医学部卒。新潟市民病院、飯塚病院、東京ベイ・浦安市川医療センター腎臓・内分泌・糖尿病内科医長などを経て、2023年7月、千葉県浦安市に浦安ツバメクリニックを開院。日本臨床一般検査学会顧問。日本内科学会総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医など。『「型」が身につく蛋白尿・血尿の診かた・考えかた』(日本医事新報社)を編集。
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提供元:【健診】"たかが尿検査、されど尿検査"驚きの実力|東洋経済オンライン