2023.03.27
"元浪費家"のFPに教わる「貯める人」に変わる極意|お金ばかり心配する老後を避けるためにできること
元ダメダメ浪費家だったという鈴木さや子さんが教える、貯める人に変わる極意とは?(撮影:尾形文繁)
現代の暮らしはお金抜きでは1日も成り立たない。若いときは貧乏に耐えられても、年齢を重ねるとお金で安心を買うような場面も増えていく。
当然、結婚においてもお金は重要だ。現在の収入だけでなく、使い方や貯め方を含めた価値観が違いすぎる相手とは恋愛はできても結婚生活の継続は難しい。35歳以上で結婚する “晩婚さん”の場合は、妊活や介護、老後の備えなどにすぐさまお金が必要だったりもする。
しかし、お金のことばかり心配する人生も避けたい。安心して暮らし続けるための「手段」に振り回されては本末転倒だ。夫婦で最低限やるべきことだけを実践し、あとは楽しくお金を使って自分なりに豊かな生活を送りたい。どうすればいいのだろうか。
今年1月に『資産形成の超正解100』を上梓したファイナンシャルプランナーの鈴木さや子さんは「元浪費家」という親しみやすい過去を持つ。浪費だけでなく、FXやパチスロ、デイトレードなどにも手を出して貯蓄を減らした経験もあるらしい。自分はこの人よりはマシ、いやこの人のアドバイスならば実行可能かも、と思える。まずは鈴木さんの「ダメダメ」な浪費家時代のエピソードを聞いてみたい。
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夫婦でパチスロにハマっていた時代も
――1995年の新卒で保険会社に入ったそうですね。
はい。保険会社の社員は自らいろんな保険に入ることになるのですが、予定利率の高い貯蓄型のお宝保険がまだあった時代でした。でも、契約者貸付という制度を使ってバンバンお金を借りて海外旅行などに行ってしまったんです。「寿退社」をして解約したときに戻って来たお金はほぼゼロ。今から考えると後悔の嵐です。
――退職して専業主婦になってからギャンブルにハマったという経験もユニークです。
パチスロを教えてくれたのは夫です(笑)が、私自身がめちゃハマってしまって。夫が勤め先から帰って来たら子どもの面倒をお願いして夜までパチスロを打ちに行ったり、閉店時には台を見て回り、翌日は早朝から行列に並んで狙った台を確保するなど、なかなか本気でやってましたね。新装オープンの店にもなんとかして行きたくて子どもを一時保育に預けてまでして打っていました。保育の使い方が間違っていますね……。
でも、ギャンブルは勝ったときの記憶しか残りません。夫婦2人で300万円以上は失ったと思います。法改正で一攫千金は狙えなくなったのをきっかけにして本気のパチスロをやめることができました。
――FXやデイトレード、暗号資産なども長期的な資産形成には向いていない、という立場ですね。ご著書の中でも、これらを投資ではなく投機と位置付けて、「どうしてもやってみたかったら余剰資金で、楽しめる範囲で」と強調しているのが印象的でした。逆に言えば、遊びではなく本気になってしまうような鈴木さんのような人は投機をするべきじゃないということですね。
当時は専業主婦だったので自分のお金を稼ぎたい、殖やしたい、という攻めの意識がむしろ高まったのだと思います。守りの意識が皆無でした。金融機関で働いていても、結婚して子どもを育てていてもそのことに気づかず、ファイナンシャルプランナーの勉強を始めてようやく自分の無知さ加減を知りました。
(撮影:尾形文繁)
――若い頃なら多少の失敗は笑い飛ばせます。でも、晩婚さんの年代になってからなけなしの貯金を失うようなことは避けたいです。
そうですね。晩婚さんは、お金のかかるさまざまな課題に対してのんびり構える時間がありません。妊活も長々とはできませんし、住宅ローンも早く組まなければ返済期間が短くなるため、月々の返済額が上がってしまいます。それに、年金生活になっても返済が続く可能性がありますよね。
例えば、40歳のときに30年ローンを組むとします。東京都内で月々の返済額が1桁というケースはよほどの頭金がなければ難しいので、例えば70歳まで月15万円を返し続けると仮定しましょう。年金額は夫婦で24万円としたら、切り崩せる貯金がない場合は65歳で退職した後の5年間は月9万円で暮らさなければなりません。水道光熱費などを引くと、かなりカツカツの生活になってしまうでしょう。
夫婦間での情報共有と価値観のすり合わせを
――とすると、晩婚さんがまずやるべきことは何でしょうか。
夫婦間での情報共有と価値観のすり合わせです。例えば、親の資産状況と介護の必要性。「すぐに話し合おう」だとトゲトゲしい雰囲気になってしまいかねないので、「お互いの親に今後何が必要かをそれぞれ洗い出そう」とゲーム感覚でやってみたらいかがでしょうか。
自分たちの老後も意外と近いことを忘れてはいけません。今後の定年は70歳まで延長されると言われていますが、同じ会社で働き続けられても60歳以降は収入が大きく減ることは変わりません。そのときに自分たちはどこでどんなふうに暮らしたいのか。老後のライフスタイルをすり合わせておくことが必要です。例えば、都会のタワーマンション暮らしと田舎の実家暮らしでは生活費が大きく異なるからです。
若い夫婦はこういうことに向き合わずに余剰時間を過ごせたりします。でも、40歳になった頃には仲が悪くなり、情報共有どころか口もろくにきかないようになっていたり……。晩婚さんには余剰時間はありませんが、妊活から老後の計画までを一緒に考えられる心強いパートナーがいます。楽しく取り組んじゃいましょう。この作業の後、資産形成の計画を作っていきます。
――老後の資金は2000万円必要、などと言われていますね。そのための計画と言われても気が遠くなってしまいます。
必要金額は一概には言えません。さきほどお話したライフプランなどによって異なるからです。人によっては500万円で十分ですし、3000万円でも足りない人もいます。
若い夫婦の場合、まだ先のキャリアが見えていなかったり、子どもの教育費の問題などもあって資産形成の計画は立てづらい面があります。その点、晩婚さんは今後のキャリアプランもある程度みえているはずなので見通しがききやすいというメリットがあります。基本的な考え方は、老後の生活で足りないお金を今のうちに作っておく、というものです。
高級老人ホームなどに入らない限り、医療介護費として備えておきたい金額は最低400万円が目安です。必要な生活費を月15万円、もらえる手取り年金額を月11万円、退職金予定額は1000万円としましょう。
100歳まで生きるとして試算すると、65歳からの老後で不足する金額は1080万円です。今はまったく貯金がない35歳の人でも、残りの30年間で月3万円の積み立てをすれば元本だけで達成できます。
(撮影:尾形文繁)
iDeCoと家計簿アプリをフル活用しよう
――月3万円ならばなんとかなりそうですが、銀行口座にある分だけ使ってしまいがちです。
そういう人には先取り貯蓄がお勧めです。収入を得たら使う前に貯蓄分を取り分けて、残りで生活する方法です。給与振込口座の金融機関で積立定期預金をすることなどがありますが、今後のインフレリスクなどを考慮すると老後資金のためにはiDeCo(個人型確定拠出年金)がお勧め。自分で運用商品を選び、積み立て購入できますが、60歳までは原則として引き出せません。毎月の掛け金が所得控除の対象となるので所得税や住民税が安くなり、強制的に老後資金が作れます。ただし、iDeCoには毎月の口座管理料がかかるので節税効果とのバランスには注意してください。
――なるほど。他にお勧めのツールはありますか?
家計簿アプリです。と言っても、私自身は日々の買い物は記録していません。銀行や証券会社の口座、クレジットカードなどとひも付けをして、1日1回チェックしているだけです。すべての口座を合計した資産を一目で把握できますし、クレジットカードを不正利用されていないかを確認することもできます。
資産を把握すると、老後のために足りていない金額を具体的に知ることができます。すると、無駄遣いが減って貯金のスピードが加速するはずです。本当にやりたいことには思い切りお金を使えます。パートナーがいる人は、家計に入れる分の口座を家計簿アプリにひも付けて貯金額を共有するのもお勧めです。家計について話すきっかけが生まれ、力を合わせて資産形成を進められます。
――いいこと尽くしですね。でも、「住宅や教育などで大きな出費があると一気に赤字になったりして凹む。だから家計簿をつけられない」という声もあります。
家計簿をつけ始めることが多い1月や4月は臨時出費が多い時期ですよね。それでテンションが下がってしまう人は確かに少なくありません。でも、臨時出費は問題ないのです。例えば、年に2回のバーゲンで洋服を10万円分買うと決めているならば、その月の臨時出費10万円は気にする必要はありません。
気にするべきは、毎月のランニングコストのほうです。ネットで「キャッシュフロー表」を探してダウンロードして記入してみてください。100歳まで生きると仮定すれば、月1万円の出費を削るか削らないかで資産形成に大きな影響が出ることがわかるでしょう。
――晩婚さんの多くは生活習慣や趣味が良くも悪くも確立しています。長年の消費行動をなかなか変えられない人も少なくありません。
その気持ちはわかります。例えば化粧品のレベルはなかなか落とせませんよね。だからこそ、夫婦で価値観を共有し、自分たちの資産を把握して、キャッシュフロー表を作ることが重要なのです。今後の資産形成の計画に沿って貯める仕組みができ上ると、自分の中で何かが抜け落ちるのがわかります。それは見えだったり無駄だったりするのでしょう。大して好きでもない人との付き合いなどはしなくて済むようになります。
老後のことをモヤモヤしながら先延ばしにできる20代とは違って、晩婚さんには悩んでいる時間はありません。それをメリットに変えてすぐに行動すれば、本当にやりたいことに気持ち良くお金を使えます。安心した分だけお酒が美味しくなりますよ(笑)。
インタビュー後、老後の資金を試算してみた
鈴木さんのアドバイスに従って、自分のささやかな資産を把握してから「老後に足りなくなる金額」を試算してみた。筆者はフリーランサーなので退職金などはない一方で定年もない。健康に留意して75歳まではなんとか貯金を切り崩さずに働くと想定。しかし、その先に年金以外は無収入の25年間が待っている。長いな……。恐る恐る計算したら、かなり慎ましく暮らしても1250万円も不足することが判明した。
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ただし、今40代半ばなのであと30年間ほどは働ける。月で割ると、3万5000円を「先取り貯蓄」すればいいことがわかった。この金額ならばなんとか実行できるかもしれない。一部は鈴木さんおすすめのiDeCoにしようかな。
資産形成の計画を立てると無駄遣いが少なくなる、という鈴木さんの指摘は本当だった。在宅で働いている時間の長い筆者の場合は、「食事を作るのが面倒だから外食する。なんとなく心寂しいから飲みに行く」ことが減り、自宅で具沢山味噌汁や酒の肴を作ることが増えた。
だからと言って外食しないわけではない。本当に好きな人と、ぜひ行きたい店での会食は大いに楽しんでいる。将来への漠然とした不安でイライラすることも少なくなったので、夫婦関係にも良い影響を与えると思う。最低限の備えをしておけば、今を思い切って生きることができるのだ。
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提供元:"元浪費家"のFPに教わる「貯める人」に変わる極意|東洋経済オンライン