2022.06.08
値上げの嵐「食パン」の価格は実際何円上がったか|6000店舗の情報から値上げの「実態」を大解剖
値上げの嵐が起きていますが、店頭価格は実際のところどのように推移しているのでしょうか(写真:IYO / PIXTA)
原材料価格や物流費の高騰を受け、食品・サービスなど幅広い分野で値上げの動きが広がっています。
外国為替市場では約20年ぶりの円安水準となり、円安が家計をさらに圧迫する可能性も色濃くなってきました。輸入品の価格上昇によって、食品や雑貨をはじめとした生活必需品の一層の値上がりが懸念されているからです。
大手スーパーのイオンや西友は、自社のプライベート・ブランド(PB)の食料品や日用品の値上げを6月30日まではしないと宣言。値上げトレンドになんとか抗いたいという思いが読み取れますが、いずれも我慢比べとなりそうです。
実際に、店頭の販売価格はどのように変化しているのでしょうか。全国のスーパー、コンビニ、ドラッグストアなど、約6000店舗の販売動向を追っている「インテージSRI+」からデータで見ていきましょう。
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キャノーラ油は151%の値上がり
激しい値上げが起きていたのは、食用油関連の商品です。2021年に大手メーカー各社が4度の値上げを行ったこともあり、【図表1】をみると昨年6月以降の店頭販売価格は大幅な値上がりが続いていることがわかります(赤文字部分)。キャノーラ油は中でも値上がり幅が大きくなっており、昨秋からは前年同月比で120%以上、今年3月には同151%まで急騰しています。
サラダ油も昨年9月~12月は前年同月比120%以上になり、足元でも高止まりの状態が続いています。原材料に油を多く使用しているマヨネーズは値上がりが認められた昨年7月からさらに10%ほど、マーガリンも昨年10月から5%以上高い状態が続いており、食用油高騰の影響が強く反映された状況になっています。
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輸入小麦の価格も高騰しています。小麦は国内消費量の90%近くを輸入に頼っていることから、長らく安定した価格が続いていました。しかし、今年に入ってから値上がり感が顕著になってきました。
【図表2】をみてみると、2018年から2021年の半ばまでは、1斤あたりの価格が133~134円と大きな変動はありませんでした。それが2022年1月には141円、2月以降は144円と、徐々に値上がりの様相をみせています。
小麦粉の価格も、今年4月には前年比で107%となっています(図表1)。小麦粉に関しては、3月9日に農林水産省が政府売り渡し価格を改定し、輸入小麦価格の引き上げを発表しています。現在の算定方式となった2007年以降では、2008年10月に次ぐ過去2番目の高値水準となっています。
当初は干ばつによるアメリカ産小麦の不作などが主たる背景にありましたが、ロシアによるウクライナ侵攻も今後の不安要因となりそうです。アメリカとウクライナの両国は、合わせて世界の小麦輸出量の3割弱となっていることから、今後も値上がり傾向が続くことが予想されます。
スパゲティーやそばも値上がり
小麦粉を使った食材として、今年4月にはスパゲティーの店頭販売価格が8%ほど上昇しています。また、そばも4%ほど高値となっています。スパゲティーやそばは家の中で手軽に調理できるメニューとしてコロナ禍の「巣ごもり需要」が活況でした。それがこのところの値上がりによって、食卓の風景も変わってきそうです。
飲み物では、巣ごもり需要で大人気だったレギュラーコーヒーが、昨年11月以降、107%、109%、107%、110%とジリジリと値上がりを続け、今年3月には前年同月比111%に達しています。砂糖も昨年6月頃から高止まりが続いています。また、スナックについても食用油の値上がりの影響からか2022年から値上がりが顕著になっています。
食パンをはじめとした主食系食品の値上がり、さらにはレギュラーコーヒー、砂糖、スナックと休憩のお供などにも値上がりの影響が及んでおり、こうした傾向は長期に及ぶことが予想されます。私たちの食卓に、長く暗い影を落とすことになりそうです。
こうした値上がりラッシュに対して、消費者はどのように生活防衛をしているのでしょうか。じりじりと値上がりが続いている食パンについて、全国15〜79歳の男女約5万2500人の当社モニターから買い物データを継続的に聴取している「インテージSCI」から見てみましょう。
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「PBシフト」が鮮明に
【図表3】をご覧ください。スーパーマーケットで食パンを購入する際、PBの割合を女性20~70代に限定して集計してみたところ、さまざまな食料品の値上がりが目立ち始めた2021年10月から2022年2月においてPBの割合が増えており、「PBシフト」が起きていることがわかります。
各年代ともにPBの割合が増えていますが、年代が若くなるほどPBシフトが顕著になっています。若い世代が、上昇する食料品の支出に対して、リーズナブルなPBを上手に取り入れることでやりくりしている様子が浮かんできます。
家計防衛の手段は、PBの活用にとどまりません。実際、どんな方法を取っているのか、弊社の自主調査からも見ていきましょう。
【図表4】では、「食費」の節約に関する取り組みを尋ねました。半数の方があげているのが、「ポイントカードなどを利用(50%)」することです。ポイントなどを利用して「貯める・使う」を上手に行いながら買い物をしている様子が浮かびます。次いで「クーポンを利用(43%)」「チラシなどを参考にして特売品を購入(38%)」が続いています。
買い物の際には事前にクーポンの有無やチラシの特売情報などをしっかりと確認することで、できるだけ安く購入する工夫をしているようです。また、「まとめ買い(26%)」「タイムセール(21%)」、さらには食パンの際に節約の工夫のひとつとして取り上げた「プライベート・ブランドの購入(21%)」も他の食品においても多くなっているようです。
そして、5人に1人は「業務用スーパーなど大容量・安売り店を利用(22%)」をあげていることから、利用店舗・利用チャネルの使い分けも起こっていることがうかがえます。
原材料や物流費の高騰、円安、さらにはウクライナ情勢と、値上がりの不安要素は増え続けるばかりですが、生活者はさまざまな工夫を凝らして値上がりし続ける食料品に対しての家計防衛を行っているようです。こうした生活者の工夫の中には、チラシや店頭POPなど、流通・小売りの施策立案のヒントがあるように思います。
値上がりによって、暮らしはどのように変化していくのか。今後も注意深く見守っていきます。
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提供元:値上げの嵐「食パン」の価格は実際何円上がったか|東洋経済オンライン