2022.05.26
この先の物価高が心配な人に伝えたい7つの心得|給料が増えない中で支出減、収入増ができるか
節約、資産形成、副収入…インフレ時代の「生活防衛術」を考えます(写真:maroke/PIXTA)
気候変動、パンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻などなど、世界的な規模で起きた要因でモノやサービスの価格が上がる「インフレ」が蔓延している。加えて日本では、「円安=輸入物価の上昇」という特有のリスクによってもインフレが進行しつつある。
インフレの番人である日本銀行の黒田東彦総裁はインフレを抑えるために円安を回避する政策を採る意思がないことを明確にしている。つまり、このインフレは長期的なもの、構造的なものとして準備していく必要がある。
インフレは、お金持ちにとってはそれほど大きな問題ではないが、ギリギリの生活をしている人には重大かつ深刻な問題だ。これまで、日本経済は長期にわたってモノやサービスの価格が下がるデフレ経済に悩まされてきたが、ここにきてインフレの時代を迎えることになる。インフレに対応する方法がよくわからない、という人も少なくないはずだ。インフレに打ち勝つためのノウハウについて考えてみたい。
賃金上昇が望めない中でのインフレ?
今回のインフレの最大の特徴は、気候変動や感染症拡大、そしてウクライナ戦争といった具合に、通常のインフレとは異なる構造的なものが要因になっていることだ。そのために、原油価格や食料品価格、物流コストといった、人間が生活水準を保つために不可欠な物資が値上がりする傾向が強い。
1970年代の日本の高度経済成長時代に起きた経済成長に伴うインフレと違って、賃金の上昇が伴わない物価上昇ともいえる。賃金の上昇が伴わないインフレは極めて厄介で、国民生活を大きく圧迫する恐れがある。たとえば、日本が高度経済成長時代だった1970年の消費者物価指数は31.5(総務省統計局調べ)、それが1980年には74.5(同)となり、10年で物価が2.36倍になったことがわかる。
一方で、人々の賃金も上昇していて、1970年の平均月収11万2949円(総務省統計局家計調査、世帯実収入)は、10年後の1980年には34万9686円(同)になっている。実収入は3倍も上昇した。これが経済成長を伴ったインフレの姿だ。
しかし、現在の構造的なインフレは経済成長を伴わないインフレ、あるいは景気後退と物価高が同時に襲う「スタグフレーション」に陥る可能性が高い。とりわけ、資源を輸入に頼り、食料依存率もOECD加盟38カ国中32位に低迷してきた日本は、極めてインフレに弱い体質になっている。
では、どうすればインフレに対応できるのか。インフレから生活を守るためには、大きく分けて「支出を減らす方法」と「収入を増やす方法」の2つがあり、全部で7項目挙げられる。簡単に整理してみよう。
<支出を減らす>
(1)節約による生活コスト削減
(2)シェアリングエコノミーの活用
(3)田舎で自給自足によるライフスタイル
(4)物価の安い国や地域への移住
<収入を増やす>
1.副業による収入増
2.収入の高い仕事への転職
3.投資による資産防衛
今回のインフレで目立つのは、やはりウクライナ戦争によってロシア産原油や小麦などの食料品の値上げが目立つことだ。日本も含めて、いずれはガソリン価格や水道光熱費、物流などの輸送費等が、さらに上昇していくのは間違いない。物価が上昇するのに、不況になって賃金が増えないとすれば、やはり支出を減らすしかない。まずは、支出を削減する方法から取り組むのが王道なのかもしれない。
最も単純な節約法は結婚すること?
さて、実際に支出を減らすにはどうすればいいのだろうか。最もよく知られている方法には、複数人で暮らす方法がある。単身者であれば結婚して2人で暮らす方法だ。昔から、「1人ぶちは食えないが2人ぶちは食える」とよく言われる。実際に、総務省統計局の家計調査(家計支出編、消費支出合計の月額、2021年)のデータを見ると、次のようになる。
●単身世帯の消費支出合計……15万5048円
●2人以上世帯の消費支出合計…… 27万9024円
2人以上だからといって2倍になるのではなく約1.8倍に抑えられている。単純な計算だが、2人で暮らすことの節約効果は抜群と言っていい。
賃貸住宅やクルマなどをシェアして使う「シェアリング」の発想も節約志向の1つだ。もともと「シェアリングエコノミー(共有経済)」という考え方は、IT技術を活用したプラットフォームを通じてモノやサービスを共有する新しいライフスタイル。デジタル社会の進展によって浸透したものだ。
最近は、ここにAI(人工知能)技術が加わり、数多くの種類のシェアリングエコノミーが出てきている。空間(ホームシェア、駐車場)、移動(カーシェア、シェアサイクル)、スキル(家事代行、育児、料理)、お金(クラウドファンディング)、モノ(フリマ、レンタルサービス)などなど、新しいインフレ時代に対応する生活防衛法の1つだ。
パンデミックの蔓延によってテレワークが一般的となり、どこに住んでも仕事を続けられる働き方が定着しつつある。田舎での自給自足生活も、コロナ以前よりは現実味がある方法だ。自分が住みたい場所に移住して、仕事も続ける。そんな新しい働き方や住み方が可能になりつつある。
ただ、家庭菜園といっても実績も、スキルもないと難しい。田舎暮らしには特有のリスクも多い。周囲の人間関係や自治体活動など、かえってコストがかさむ場合も少なくない。単なるインフレ対応のためだけに、移住するのは間違いだろう。
とはいえ、将来的にハイパーインフレのような壊滅的な状況を心配する人は、長い年月をかけて準備するにはいい方法といえる。ちなみに、原油価格の上昇など当面はエネルギー価格が上昇する可能性が高い。移動手段にクルマを考えている人は、ガソリン代との兼ね合いも考えなくてはいけない。また北国では暖房費も高くつく。
一方、コロナが終息すれば海外への移住も可能になるかもしれない。円安がどこまで進むのかにもよるが、1ドル=150円台とか200円台といった円安になると、海外移住も難しくなる。世界には、日本より物価の安い国が山のように存在するが、残念ながらそういった国では、日本と同じ生活水準を望むのは難しくなる。
副業による収入は月額6万円程度?
一方、副業による収入増もインフレへの対応策としては効果的かもしれない。テレワークが中心となって、働き方改革などと重なり、時間的な余裕ができた人は意外と多いはずだ。そこで「副業による収入増」というインフレ対応策が考えられる。副業や兼業が認められている企業の場合、すでに3割弱の人が始めているというデータもある。
「働き方の『いま』と『これから』に関する意識調査(パーソルホールディングス、2021年11月26~28日調査)」に基づく数字だが、同調査によるとコロナ禍によって超大手企業では74.4%の人が「働き方が変わった」と答えている。通勤などにかかる時間が減少したことから、副業へのハードルが低くなった、と考えていい。
実際に、副業によって月額どの程度稼ぐことができるのか。パーソル総合研究所の「副業実態意識調査」によると、副業の平均月収は6.82万円。マイナビ転職の調査によると、実際に行っている人の収入は平均で5万9782円(2020年11月実施のアンケート調査)。つまり月に5万~6万円、というところが妥当な線だろう。
場合によっては、副業から有利な転職が可能になるかもしれない。そのまま独立、起業という可能性も出てくる。1つの企業に縛られて、定年退職まで生きる、という日本独特の価値観は世界的には稀有な存在だ。収入増のために転職ではなく、あくまでも自分のスキルアップのためという意識が大切だが、転職や起業もインフレ対応策の1つではある。
資産運用によるインフレ対応は可能なのか?
日本はこれまでモノの値段が下がるデフレに悩まされてきた。その反面で、お金の価値がいつまでたっても目減りしない恩恵にもあずかってきた。現金を銀行に預けるだけでお金の価値が上がっていく時代だったわけだ。
しかし、インフレ時代になるとそうはいかない。せっせと預金したお金も、徐々に目減りしていくことになる。年10%のインフレが押し寄せるような時代になれば、預貯金はあっという間に目減りしていくことになる。
そこでクローズアップされるのが「資産運用」だ。簡単に言うと「リスクを取って、リターンを稼ぐ」こと。デフレの時代にはリスクを取らなくてもよかったが、インフレはそうはいかない。リスクを恐れずに投資しないと、資産は減少し稼ぐこともできない。
実際の運用方法は、金融庁のホームページ等にも詳しく掲載されており、学校教育でもこの4月から金融リテラシーのカリキュラムが始まっている。年金生活者のように収入の急激な増加が望めない人はもちろん、子育て世代の若い人でもインフレ時代に合った資産運用が必要だ。何もリスクを取らない人はいつまで経ってもお金は貯まっていかない。
資産運用といっても、基本的には国内外の企業に投資する「株式投資」、国債などの債券に投資する「債券投資」、そして運用のプロに任せる「投資信託」の3つが代表的なもので、投資信託には市場の流れに連動する「インデックスファンド」、ファンドマネージャーの個人的な力量に任せる「アクティブファンド」の2つに分かれる。
最近は、金融商品以外にも「暗号資産」のほか、株式市場を使って原油や小麦に投資ができる「ETF」、為替変動を利用して稼ぐ「FX」などなど、さまざまな商品がそろっている。ウクライナ戦争によって、原油価格や小麦の価格が急騰しているが、それらの商品に少ない金額から投資することも可能だ。
失敗しても取り返せる範囲から始めるのが成功するコツだ。証拠金取引や信用取引といったレバレッジをかける運用法は運用のプロでもしばしば失敗する。インフレ時代は、「知らなかった」「リスクを取るのは嫌」という言い訳が通用しない。自己責任が厳しく問われる社会になるからだ。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:この先の物価高が心配な人に伝えたい7つの心得|東洋経済オンライン