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2022.05.24

最近「取り残された感」覚える人が注意すべきこと|元通りに戻りゆく生活につらさを感じる人へ


急に社会が動き出す中で「取り残された感」を感じていませんか?(写真:mits / PIXTA)

急に社会が動き出す中で「取り残された感」を感じていませんか?(写真:mits / PIXTA)

コロナ禍が始まって2年が過ぎた。世の中は徐々にウィズコロナに向かって動き出している。街は多くの人が行き交うようになり、飲食店は前の活気を取り戻しつつある。政府は外国人観光客受け入れに向けて、実証事業を始めるようだ。

だが、社会全体が前に動き出す中で、「取り残された感」を抱く人もいる。筆者が危惧するのは、そうした人たちの心の健康だ。動き出す人が増える中、その場から動くことができず、うつの発症や自殺行動に向かってしまう人たちがいるのではないか。

世の中の華やぎに「乗り切れない」

「その考え方はあながち間違ってはいないのではないでしょうか」と話すのは、日本自殺予防学会理事長の張賢徳医師(六番町メンタルクリニック:東京都新宿区)だ。

張医師がその根拠として挙げるのは、19世紀にフランスの社会学者エミール・デュルケームが書いた『自殺論』の一説だ。

「ヨーロッパでは昔から春先になると自殺率が高くなるという現象が起こっていました。彼がその理由として、”春になると世の中が華やぐ。対して、うつ病の患者さんはその雰囲気に乗り切れない。周りの華やぎとのギャップに彼らは取り残された感覚を覚え、苦しんで、自殺行動に及んでしまうのではないか”と指摘しています」

これが、今のコロナ禍の状況にも当てはまるのではないかと、張医師は推測する。

その理由に触れる前に、コロナ禍と自殺者数の推移についてみていきたい。

警察庁によると、いわゆるコロナ元年にあたる2020年の自殺者数は2万1081人、2021年は2万1007人。自殺率では、2020年をコロナ前にあたる2019年と比較すると、20代以下が大きく上昇していることが明らかになっている。

「コロナ禍で自殺者が増えるのではないか、対策を考えなければならないということは、2020年の4月下旬には精神科医の間では共通認識になっていました」(張医師)

実際に増加したのは同年7月から8月にかけてで、10月には2230人と最多となった。特に女性の自殺者が激増したことは、多くのメディアが報じている。10月以降は少しずつ減少傾向にあるものの、依然として注意が必要な状態であることに変わりない。

「2020年に自殺者が増えた時期は、『内需型サービス産業』と呼ばれる飲食店、宿泊観光業が人流抑制のために大打撃を受けていました。そこで働いている人は男性より女性、正規従業員より非正規従業員のほうが多く、そういう人たちが次々と解雇されていったわけです。自殺をする背景の1つにあるのが、経済的な困窮です。生活が成り立たなくなった人たちが多く亡くなられたのではないかといわれています」

張医師はそう述べたうえで、「これに関しては、政府による給付金の支援などもあったことから、自殺者数に関してはひとまず落ち着きを取り戻している」と言う。

「断裂」が生まれた

そして今、新たな問題として浮上してくるのが冒頭にあるような「取り残された感」だ。その芽はすでに昨年からあったと張医師は振り返る。

「先ほど内需型サービス産業のケースの問題を話しましたが、一方で、コロナバブルで潤った企業、産業もあったわけです。また、コロナ禍をもろともせず夜中に飲食に興じる若者たちも少なくありませんでした。つまり、人による差、断裂が生まれた。その結果、一部の思い切り打撃を被った人たちは、その辺りから徐々に『取り残され感』を持つようになっていったのかなと感じています」

実はこの「取り残された感」は、うつの重症化や自殺行為と深く結びついていることが、過去の研究でわかっている。

自殺行動の原因にある心理状態を示すものに「絶望感」がある。この心理状態をアメリカの心理学者トマス・ジョイナーらの研究グループが分析したところ、2つの要因に集約されることがわかった。その1つが「所属感の減弱(いわゆる取り残され感)」、もう1つが「負担感の知覚(いわゆるお荷物感)」だ。

コロナ禍といった社会現象による孤独感やいじめによる心理的な負担は前者、病気を患うことなどによって生じる「周りに迷惑を掛けたくない」という気持ちは後者にあたる。

「まさに今、取り残され感を抱いている人が多いとしたら、それは注意深くみていかなければならないと考えます」と張医師は言う。

気を付けるべき2つのサイン

では、もし自分が「取り残された感」を抱いていたとしたら、あるいは家族や親しい人がそういう雰囲気をかもしだしていたら、どうしたらいいか。

「そういう人たちは、教科書的にいえば、多くは”ベクトルが内向きになって、自責的な方向”になります。ただし、なかには”ベクトルが外向きになって、他責的な方向に走る”こともあります。前者は自殺行動につながるのに対し、後者はイライラや怒りから他人を傷つけることにつながります」(張医師)

いずれにしても、気持ちがどちらかのベクトルに向く前に自分の気持ちのSOSのサインに気付いて行動を起こすことが大事になる。

SOSのサインで重要なのは、「ふだんの自分と違う状態」が「1カ月以上続く」の2つで、両者に当てはまった場合、黄色信号と考えたほうがいい。

前者では、食欲がない(食べても美味しくない、食事を楽しめない)、眠れない(寝付けない、何度も起きてしまう、悪夢が多い)、朝起きられないといった、ふだんの自分と違う生活での変化も重要なファクターになる。

後者の1カ月という期間を設けている理由は、ショッキングなことに出会ったとき、私たちは落ち込んだり憂うつになったりするが、時間とともに立ち直っていく。その期間がおよそ1カ月とみているため。それを超えると、やはり立ち直る力が落ちていると考えられる。

「心当たりがあったら、誰かに相談を。家族や友人のような身近な人だけでなく、専門家の意見もちゃんと聞いておくことが大事です。そういう助けを求める行為を、『ヘルプ・シーイング・ビヘイビア(Help Seeking Behavior)』といいますが、これができる人ほどうつの重症化を防ぐことができます」(張医師)

ここで、厚労省の相談窓口を挙げておく。もちろん、メンタルクリニックや精神科に直接、受診してもいいという。

【電話やSNS による相談窓口の情報】 ※外部サイトに遷移します

・#いのちSOS(電話相談)

・チャイルドライン(電話相談)

・生きづらびっと(SNS 相談)

・あなたのいばしょ(SNS 相談)

・こころのほっとチャット(SNS 相談)

・10 代20 代女性のLINE 相談)

SNSや情報と適切に距離を取ろう

「取り残された感」を強く覚える場の1つが、SNSやメディアからの情報だろう。このSNSとメンタルヘルスの関係について、5月上旬にイギリスから興味深い研究結果が報告された。

同研究は、SNSを毎日利用しているという154人(18歳以上)を、SNS(インスタグラム、フェイスブック、ツイッター、ティックトック)の利用を1週間休むグループと、通常通り使うグループの2群に分けて、それぞれの精神的健康やうつ症状、不安症状を評価した。その結果、1週間休んだグループではこれらのメンタルヘルスが改善したことが明らかになった。この結果から張医師が考察する。

「諸刃の剣ともいえますが、メンタルヘルスの悪化にはSNSの影響はあると思います。SNSではさまざまな人やコミュニティの情報を得ることができます。そこに乗って一緒に楽しめる人はストレス発散になりますが、反対に乗り切れない人は疎外感を強める一因になります」

また、この研究は一般の健康な人を対象にしているが、鬱々とした気持ちを抱えている人や、うつ病の患者にも当てはまるのではないかという。

知覚のなかで一番、刺激が大きいのは、視覚から入ってくる情報だといわれている。画面の内容うんぬんではなく、見る側、つまり情報を受け取る側がネガティブな印象を持てば、それはどんなに明るい情報であっても、マイナスの影響を与えてしまうそうだ。

「これはどなたにも言えることですが、”気持ちが塞ぐようなSNSやテレビは観ない、画面をオフにする”ということを心がけてほしいと思います」

「脳が疲れる」行動にも注意

また、うつ傾向がある人に関しては、何時間もSNSやテレビを見ることも「脳が疲れる」ので避けたほうがいい。

先の研究報告のなかでは、なぜSNS断ちをしたグループのほうがメンタルヘルスが改善したのか具体的には書かれていなかったが、張医師は「SNSを見るというダイレクトな影響を受けなくなったという理由もあるが、SNSを見る時間をほかのことに使えたところも大きいのではないか」と考える。

「空いた時間を運動したとか、友だちと話したとか、趣味を楽しんだとか、脳を休める時間を持てた可能性もあります。その効果も大きいのではないでしょうか」

もちろん、SNS絶対ダメというわけではない。張医師はあるうつ病の患者に「脳を休めてくださいね」と助言したところ、その患者は「動物系の動画を観ている」と言ったそうだ。

「確かに動物系や自然の動画など、観る人たちにポジティブな気持ちをもたらす動画もあるので、一概にSNSはダメとは言えません。やはり使い方が大事なのだと思います」

こうした個人的なケアはもちろん大切だが、それだけでなく、社会全体が不安感を抱く人たちにどれだけ共感し、支援できるか、ということも重要だろう。

「なかには、『俺たちは知ったこっちゃない』と目を向けない人もいるかもしれません。しかし、やはり社会全体としては苦しんでいる人がいるということを意識し、そういう人たちへのサポートを考えていかなければなりません」(張医師)

記事画像

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提供元:最近「取り残された感」覚える人が注意すべきこと|東洋経済オンライン

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