2022.01.24
食品値上げラッシュで、経済再開後に起きること|家計の「買い回り」活発化で低価格志向が復活へ
食品値上げラッシュの中、価格据え置きを打ち出す向きも(写真:時事)
連日のように食品の値上げが報じられている。消費者物価に先行する投入物価指数(食料品)の上昇を考えると、「実質値上げ」が相次いで行われた2014~16年と同程度まで食品の値上げが行われる可能性がある。
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筆者は食品価格の上昇が家計のマインドに悪影響を与える可能性が高いと考えており、昨年9月に「これから『食品値上げ』の波が家計を圧迫する」とのコラムを執筆していた。
食品値上げが一段と進展していく中、家計が値上げを受け入れることができるか否かには一段と注目が集まっている。今回のコラムでは家計調査の結果による「購入単価指数」を用いて分析し、現在の家計の「値上げ耐性」を考える。
結論を先に述べれば、足元の家計はコロナ禍で「高価格」の食料品を受け入れているが、「経済再開」によって消費の自由度が高まることで、「低価格志向」が強くなる(「値上げ耐性」が低下する)可能性が高い。
家計は「安い商品」に向かっているのか?
最も一般的な価格指数は消費者物価指数(CPI)である。ただし、CPIは基本的に代表的な一部の品目の価格を定点観測したものであり、家計の「低価格志向」(同じ種類の品目の中で低価格商品を選好する動き)は反映されない。
他方、家計調査の品目別の「支出金額」を「購入数量」で割って作成した「購入単価指数」は、家計が実際に購入したものの単価を用いて算出されるため、毎月の家計の選好を知ることができる。
生鮮食品を除く食料(以下、食料)の「購入単価指数」と「調整CPI」(「購入単価指数」の対象品目で再構成したCPI)を比較すると、食料価格が上昇する局面では、「購入単価指数」が伸び悩む(低価格商品にシフトする)傾向がある。
「購入単価指数」を「調整CPI」で割った値(以下、「購入単価指数/調整CPI」)を確認すると、アベノミクス以降の円安によって食料価格の値上げが相次いだ2014年以降、家計の低価格志向が強くなったことがわかる。
他方、直近では「購入単価指数/調整CPI」が上昇している。この動きが継続すれば、今回の食品「値上げラッシュ」は難なく終える可能性がある。「購入単価指数/調整CPI」の決定要因が、家計の「値上げ耐性」を占うことになるだろう。
「実質賃金」「エンゲル係数」「コロナ禍」の影響
家計の「低価格志向」(「購入単価指数/調整CPI」)の決定要因としては、(1)実質賃金、(2)エンゲル係数、(3)コロナ禍が挙げられる。
実質賃金が低下すれば家計の購買力は低下するため、家計の「低価格志向」は強くなりやすい。特に食料は必需品であり、消費量を減らすことが難しいため、家計は購買力が低下すると「低価格志向」を強める可能性が高い。
また、2014年以降のエンゲル係数の上昇も食料の「低価格志向」に結び付いている可能性が高い。エンゲル係数は消費支出に占める食料費の割合であり、数字が大きいほど相対的に食料費が家計の負担になっていると感じやすい。
最後に、逆に「コロナ禍」は低価格志向を弱めているようだ。足元の「購入単価指数/調整CPI」の上昇は、そうした影響だろう。例えば、①コロナ禍の巣ごもり需要で良い食品を購入する動き(サービスの代替)や、②感染を警戒して一つの店舗で高い食品を妥協して購入している例が想定される。また、その結果として小売店側は安売りセールの頻度を落とすだろう。
家計の「低価格志向」(「購入単価指数/調整CPI」)の3つの決定要因を説明変数として、食料の「購入単価指数/調整CPI」を説明するモデルを作成するとこれらの3要因は比較的高い説明力を有することがわかった。
購入単価指数/調整CPI
= 0.2×(実質賃金) -0.2×(エンゲル係数) +0.7×(新型コロナの影響) +定数項
(24.7) (-2.6) (5.5) (24.7)
※カッコ内の数字はt値。自由度修正済み決定係数は0.76
実質賃金やエンゲル係数が高い説明力を有することはイメージどおりといえそうだが、コロナ禍以降のエンゲル係数の上昇分を変数とした「新型コロナの影響」が「購入単価指数/調整CPI」を押し上げている効果もかなり大きいことがわかった。コロナ禍が家計の「低価格志向」を抑止しているのである。
経済再開が進むと「低価格志向」はもっと強まる
例えば、今後も「経済再開」が進みエンゲル係数がコロナ前の水準に戻っていくと仮定すると、「購入単価指数/調整CPI」は過去最低水準まで低下する見込みである。もっとも、このような結論は、11月の「景気ウォッチャー調査」にあった下記のコメントを考えれば明らかでもある。
「常連客がかなり減っていることと、原材料の値上げ等で各商材が値上がりするなか、客は1円でも安いスーパーを買い回っている様子がここ 1~2 カ月顕著にみられる」(南関東、スーパー〈店長〉)
すなわち、経済再開が進めば進むほど、家計は「低価格志向」を強め、食品価格の値上げを受け入れなくなっていくことが予想される。サービス消費が増えるなどの効果はあるものの、日本経済全体にとっては「痛し痒し」の状況となりそうだ。コロナ禍からの回復は一筋縄ではいかないだろう。
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提供元:食品値上げラッシュで、経済再開後に起きること|東洋経済オンライン