2021.12.09
「同一労働同一賃金」で正社員の手当がなくなる日|分厚い既得権に守られた時代は終わりに向かう
住宅手当など一部の手当で、正社員と非正社員で差があるのは「合理的でない」、との最高裁判例が出ている(写真:ahirun / PIXTA)
分厚い特権に守られてきた正社員の待遇は終わりつつある――。
正社員と非正社員で不合理な待遇差を付けることを禁じた「同一労働同一賃金」。パートタイムやアルバイト、派遣社員を対象に、正社員と同じ仕事であれば、同じ賃金を支給しなければならないのが原則だ。安倍晋三政権による働き方改革の一環で、パートタイム・有期雇用労働法や労働者派遣法などの改正を受け、大企業では2020年4月、中小企業でも2021年4月から始まった。
ポイントは3つ。(1)不合理な待遇差の禁止、(2)労働者に対する説明義務の強化、(3)行政による事業者への助言・指導や裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備である。
今まで転勤や異動を伴う正社員には、非正社員との間で、歴然とした待遇面での差があった。だがこれからは明確で合理的な根拠を示していかなければならない。
実際には最高裁の判例を踏まえた「個別判断」
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ではどのような差が不合理にあたるのか。これに関して厚生労働省は、同一労働同一賃金ガイドラインを策定、指針として公表している。不合理か否かは、業務内容や責任、配置変更範囲などが判断要素となる。
もっとも、そのガイドラインにも法的強制力はなく、罰則もない。具体的に自社の就業規則にどこまであてはめるかは、弁護士など専門家と個別に判断することになる。
倉重・近衛・森田法律事務所の倉重公太朗・代表弁護士は「最高裁判所の判例を見ると、基本給や賞与、退職金には、待遇差が不合理と認められていない(=差が付いてもよい)。ただ、一部の手当や休暇については、正社員も非正社員も同一であるべきとしている」と解説する。基本給などは別にして、いずれも焦点になっているのは手当だ。
例えば通勤手当をめぐっては、ある物流会社とドライバーの間で争われた結果、待遇差は「不合理」との判決が出ている。交通手段や通勤距離が同じなのに、正社員と契約社員で金額の差があってはならない、というものだった。また皆勤手当・精勤手当では運輸会社などで、正社員と嘱託乗務員で皆勤を奨励する必要性に相違はない、との判断が下された。給職手当や年末年始勤務手当、割当賃金なども同様だ。
一方、住宅手当・住居手当や家族手当・扶養手当は、「不合理」と「不合理でない」で分かれた。これらは最高裁においても、正社員と非正社員で差をつけていいのか、まだ統一した答えが出ていないとも言える。
企業にとっては、両者の差を埋める場合でも、低い方に合わせ、正社員の賃金を一方的に下げると、不利益変更ととられかねない。といって、正社員はそのままで、非正社員のみ賃金を底上げすれば、人件費全体の総額は増えてしまう。特に社員数が膨大な企業にとっては頭の痛い話だ。
いずれにしても、長年“既得権”だった正社員の手当について、今後見直しが入る可能性は高い。今まで正統性があいまいだった手当をなくし、基本給に組み込む動きも強まっている。
健康保険や厚生年金でも正社員と非正社員に差
先手を打った企業もある。例えばデジタルマーケティング事業が主力のメンバーズ社。同社は正社員への住宅手当や在宅勤務手当などを取りやめた。同時に非正社員の正社員化も進める。
「持ち家のあるなしなどで手当を払うのではなく、われわれはスキルや能力に対して報酬を払う」(高野明彦取締役)方針を明確にした。まだ柔軟に対応しやすいベンチャー企業ならではの利点だろう。
既存の大企業でも、日本郵政は転居を伴う異動のない正社員に対し、住居手当を10年間かけて段階的に廃止する方向で進めている。
賃金だけではない。正社員と非正社員の格差は、健康保険や厚生年金など福利厚生面でも残っている。非正社員の低い加入率には、加入要件を満たしているのに、企業側が手続きを怠っている問題もあるとされる。
今や非正社員の人数は2060万人に達し、雇用者に占める比率は36.6%を占めている(「労働力調査」総務省、2021年7~9月)。ルールを改廃するなら、会社側には、正社員と非正社員のどちらにも、今後は一層丁寧な説明が求められよう。同一労働同一賃金の波は、日本企業全体の雇用体系を揺るがし、シニア・ミドルの懐にも大きな影響を与えそうだ。
『週刊東洋経済』12月11日号(12月6日発売)の特集は「定年格差」です。
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提供元:「同一労働同一賃金」で正社員の手当がなくなる日|東洋経済オンライン