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2021.11.12

いつもの薬「もらうだけ通院」は日本で減らせるか|繰り返し使える「処方せん」の実現可能性


毎月、同じ薬をもらうためだけに通院するのも手間がかかります……(写真:IYO/PIXTA)

毎月、同じ薬をもらうためだけに通院するのも手間がかかります……(写真:IYO/PIXTA)

毎月、同じ高血圧の薬だけをもらうために通院している。同じ病気で、受診しても簡単なお話と「いつものお薬出しておきますね」という会話だけで終わってしまう。

同じ手間の繰り返しなのだから、いつもの薬の「処方せん」が何度も使えればいいのに――。そう感じたことのある人は少なくないのではないでしょうか。

現実味を帯びる処方せんの反復利用

こんな状況を解消する、「リフィル制度」が最近になって現実味を帯びています。これは、一定期間内に処方せんを反復利用できる、というのものです。

リフィル(Refill)は、詰め替え品やおかわりを意味する言葉です。リフィル制度は、受診回数や年間1000億円分以上とも推計される残薬(出典)の削減による医療費抑制という観点から検討されてきましたが、これまで日本医師会等の反対表明もあり、実現しませんでした(出典)。受診回数が減れば、病院側は患者さんの状態悪化に気づく機会が減りますし、病院側の収益の減少も懸念されますから、そう簡単に受け入れられるものではないでしょう。

ところが、今年5月21日の財務省の財政制度等審議会で、気になる動きがありました。財政健全化に向け、「長期処方について、依存性の強い向精神薬については抑制するなどのメリハリは付けつつ、患者の通院負担の軽減や利便性向上の観点から、病状が安定している患者等について、一定期間内の処方箋を繰り返し利用することができる制度(リフィル制度)の導入を令和4年度(2022 年度)から図るべき」との提言がなされたのです。(出典)

また、6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2021」の原案では、「症状が安定している患者について、医師及び薬剤師の適切な連携により、医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策を検討し、患者の通院負担を軽減する」と明記されました。(出典)

骨太の原案では、導入年度やリフィル制度という文言は明示されなかったものの、財務省からの提言ということもあり、将来の現実化への見込みが強まったと考えられます。

出典 ※外部サイトに遷移します

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また、2021年6月8日、健康保険組合連合会は「骨太の方針に対する要望」を発表し「慢性疾患等、病状の安定した患者には、かかりつけ医とかかりつけ薬剤師の連携のもとに、リフィル処方(一定期間内の処方箋の反復使用)を解禁すべき」と述べています(出典)

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海外ではどうなのか?

そんなリフィル処方は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス等多くの国で導入されています(出典)。

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例えばアメリカでは有効期間内である限り、薬剤師の裁量で医師が指定する回数だけ再調剤が行われています。また、メールでのオーダーにより、工場で機械的に調剤された医薬品をリアル店舗を介さず、配送で受け取る運用がされていたりします。

メールオーダーだからと言って処方せんがいらないわけではなく、電子処方せんを送って登録して利用するという運用で、慢性疾患やリスクの低い疾患に限定的に展開されています。

急性のすぐに必要な薬を受け取るのに適しているわけではありません。国をまたげば、慢性疾患で症状が安定している方が、1年分程度のリフィル処方せんを受け取り、受診を挟まずに数カ月程度ずつ薬をもらうという光景は一般的です。街の調剤薬局で直接受け取れるというアクセスのよさが活かされています。

■ 日本ではどうだったのか?

では、日本ではどうでしょうか。リフィル処方に対比される概念として「分割調剤」という仕組みがあります。これは、長期間にわたる処方箋の日数を分割して受け取ることができるものです。

この仕組みは2016年に導入され、複数回に分けて薬局で薬を受け取るという意味では動線が似ています。ただし、長く出ているものを分割して受け取るのと、繰り返し受け取ることができるでは事情が異なるので似て非なる制度です。

なぜ、1回で貰えば済むものを分割するのかといえば、理由はさまざまです。自宅で長期保管が難しい、一部だけ分けてジェネリック医薬品を試したい、ご自身で服薬の管理が難しく薬局でこまめなサポートが必要、といったケースなどがあります。

「分割調剤」の場合、1つの処方せんを受け付け、複数回にわたってその総量の全てが完了するまで調剤済みという扱いにならないため、薬局側で処方せんに必要事項を(多くは手書きで)記入したうえで患者さんに返却します。患者さんは次回またそれを持参します。この場合、初回と次に行く薬局が異なっても問題はありません。

一方、薬局側では分割した理由を書類に書き込んだり、後日別の薬局で残りの調剤が行われる可能性もあることから、あらかじめ処方せんの写しをとっておくなどします。薬局側の業務としては、イレギュラーな手数が増える形になるのでなかなか浸透しにくい側面もあるように感じます。

もちろん、短い期間に区切って患者とコミュニケーションの機会があるので、残薬の確認をしやすいとか、副作用や飲み方の問題に気づきやすいとか、患者さんの状態や意見を反映しやすい等メリットはありますので、一長一短です。

なお、5月の日本薬剤師会による政策提言では、「再使用可能処方箋の導入」という言葉でリフィル制度に沿ったものの導入を訴えており、慢性疾患患者に対して分割調剤の処方箋様式を見直すことで再使用を可能とし、それに合わせた運用ルールを策定することを求めています。

一方、リフィル処方は?

一方リフィル処方は、同じ処方せんを反復して利用できるという、直感的に理解しやすい仕組みのように思います。コンタクトレンズの処方せんを受け取られる方はそれに近いものとイメージされるとわかりやすいでしょう。

慢性疾患患者で安定しているなら、年単位で利用できるリフィル処方せんを受け取れれば便利でしょう。ただ、あまりに長期となってくると、リフィルの期限切れを忘れかねないので注意が必要です。ここで、リフィル処方のメリットとデメリットを整理すると次のようになるでしょう。

<メリット>

【患者視点】
病院に行く手間と時間を節約できる
医療費の削減(患者さんにとっては再診療の削減)

【医療機関視点】
医師の外来診療の労働負担軽減
経過観察や服薬指導といった、患者の対応に時間を使える

<デメリット>

患者さんの状態悪化に気づく機会が減る
通院が減るため、病院やクリニックの収益が減少する
医薬品を余分に受け取り、不正に流通する可能性がある
患者さんの病院離れ

患者さんの通院負担軽減とともに、コロナ禍で人との接触機会が減らせるという意味でもポジティブです。

構造的には、医師が診療を行う経過観察が調剤薬局へタスクシフトされることになります。従って、薬剤師には数分の会話の中で臨床的な判断が求められるポイントが増えることになります。このあたりが、日本医師会が「リフィル処方は、慢性疾患患者の疾病管理の質を下げるリスクがあり、慎重な検討が必要です」と経済財政諮問会議等の議論に対して懸念を示している要素でもあるように思われます。

■現実的にどう進むのか?

さて、リフィル処方が現実化されるのであれば、オンライン診療のように限定的に一部の地域で実行され、患者さんの服薬状況への悪影響がないか、慢性患者の体調変化兆候が見逃されないか、慎重に進めていくことが推測されます。そのうえで、先述のデメリットを補う仕組みが検討されるでしょう。例えば、次のような内容は検討されうるかもしれません。

● 薬局側で状態確認を行い、経過観察報告を医師へ文書等でフィードバックする
● 薬局で、状態確認の結果そのまま調剤することが不適当と判断された場合、受診を勧め処方せんを変更してもらう
● 再診療の減収益分を補填する報酬上の措置。例えば、薬局ー医師間のコミュニケーションで治療の質を担保する動きに対する報酬等
● 医療用麻薬や向精神病薬など不正流通に繋がりやすい医薬品の処方制限

もちろん、リフィル処方に関係なく対応すべき要素も多分にありますし、今でも本当に長期処方の患者さんの薬剤管理が現実にうまくいっているのか振り返らなければなりません。処方が長期化すると、もうすぐリフィル処方がなくなるタイミングで薬局が患者さんに対してサポートできるかも大事でしょう。制度が現実化する前に患者さんサポートの仕組みを整える必要があります。

リフィル処方が現実化した場合どうなるのか?

リフィル処方が現実化すると、患者さんの“動線”が大きく変わるでしょう。電子処方せんの仕組みもあわせて検討されていますが、医療機関でもらった処方せんを門前の薬局へ持参するという立地依存の動きが薄まりそうです。

リフィル処方を近くの馴染みの薬局へ送り調剤してもらう、宅配便等で自宅へ送ってもらうなど、規制緩和の程度やインセンティブの多寡によってサービスが多様化していくでしょう。また、病院での待ち時間がなくなるとすれば、気になるのは薬局の待ち時間ですが、昨今は事前に携帯アプリで処方せんの写真を送って来局前にあらかじめ薬を用意してくれるサービスを展開する薬局も増えています。そうした要素も薬局を選ぶ理由になりうるでしょう。

医療機関の近くでなくとも、郊外型の薬局にも十分逆転の可能性が出てくると考えられます。また近年、処方せんなしで病院の薬の約半数を取り扱い販売する「零売薬局」が知られつつありますが、受診の手間を省きたい患者さんを取り込んでいるこうしたビジネスには打撃となるかもしれません。

医師側からは、再診期間があいた患者さんの状況が把握できていないことは不安材料なので、的確な状態確認のフィードバックが薬局からなければ、安心してリフィル処方は出しづらいでしょう。しかしながら、現実的には薬局側が人力で状況把握してフィードバックすべき慢性患者さんの選別を行うことは困難で、現在でも多くの薬局で服薬期間中の患者さんの状態は把握できておらず、多くの場合次回来局を待つのみとなっています。

今後、ICTの導入が進み携帯アプリやウェアラブル端末による健康状態のモニタリングや患者情報基盤が整備され、よりタイムリーなサポートが促進されるでしょう。医療機関としても、処方期間をこえても来院・来局がない患者に対して状態確認のアプローチができるようなシステム上の仕組み構築がより一層求められるではずです。また、そうした仕組みの下に医師へ的確な情報をフィードバックされれば、医師側も安心してリフィル処方を出せ、患者さんも安心して治療に向き合っていけるのではないでしょうか。

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提供元:いつもの薬「もらうだけ通院」は日本で減らせるか|東洋経済オンライン

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