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2021.10.18

テレビ通販「下取り値引き」の安さは本物か|古くて新しい「二重価格問題」への向き合い方


「〇〇%オフ」と表示があっても市場価格と比べて安くなっているのでしょうか(写真:Weedezign/PIXTA)

「〇〇%オフ」と表示があっても市場価格と比べて安くなっているのでしょうか(写真:Weedezign/PIXTA)

モノを購入するときに、消費者にとって価格は最重要ポイントだろう。同じ商品やサービスなら、より安く購入したいのは当然だ。そうした消費者の意向は売る側のマーケティングにも大きな影響を与える。

例えば、5千円で売りたい商品があるとき、単に「5千円」と表示するより、「特別価格5千円」とか、「定価1万円を50%オフの5千円」という表示をする場合がある。定価や通常価格と称した価格と実際の販売価格の双方を示し、安さを強調する価格表示はよく見られる。これを「二重価格」という。

二重価格自体は昔からみられ、ただちに違法ではない。しかし、たびたび消費者問題になってきた。高度経済成長時に起きた「カラーテレビ二重価格問題」が有名だ。消費者団体主導の大規模な不買運動に発展した。二重価格は景品表示法(景表法)により、「有利誤認」として不当表示とされることがあり、近年も、ECビジネスの増大によるテレビ・ネット通販で従来考えられなかった新たな問題が生じている。

ここではそれらの違法性判断と消費者が価格表示についてどのように理解し、購買行動に結びつけるべきかについて考えたい。

消費者運動史に残るカラーテレビの二重価格問題

1960年代後半にはカラーテレビが家庭に徐々に普及していったが、国内の販売価格は高額であった。しかし、アメリカに輸出しているカラーテレビの価格は、国内よりはるかに安い価格だったことがわかり、不当廉売(ダンピング)が問題視された。そこで、公正取引委員会の委託により、消費者団体がカラーテレビの価格の実態調査を実施したところ、国内において二重価格が存在していることがわかった。

調査を行った消費者団体は定価そのものがおかしいと問題を提起し、そのことがカラーテレビの不買(買い控え)運動へと発展した。この運動は全国的に広がり、企業はカラーテレビの在庫を大量に抱えることになった。その後、公正取引委員会の警告などもあり、家電メーカーが新機種からの価格引き下げを発表し、運動は収束した。

下取りありで安くなる理由は?

筆者が不思議に思うのは、テレビやネット通販で多く見られる下取り価格だ。エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機などの家電製品を中心に、例えば、通常価格11万9800円の洗濯機を下取り品があれば2万円引きの9万9800円や、4万9800円の掃除機を下取り品があれば1万円引きの3万9800円といった値引き販売だ。

下取り品の古さ、メーカー、故障の有無にかかわらずどんなものでも下取りをするというもの(業務用は除外などの一定条件はある)だが、家電リサイクル対象商品についてはリサイクル料金+収集・運搬料金を、それ以外の製品は小物だと500円程度の下取り手数料を支払うことで大幅な値引き価格で購入できる。

下取り品があると購入商品が安くなるという取引で従来からあるのは、自動車販売の場合だろう。今、乗っている自動車を下取りに出して新車を購入するという買い替えはよくある。その場合の下取り価格とは、下取りに出す車を中古車市場での価値に基づいて査定して下取り価格を決め、その価格分を新車の購入価格から値引くというものだ。

しかし、最近のテレビ・ネット通販等で見られる下取りでは、販売会社は下取り品は廃棄すると言っている。すなわち、下取り品に市場価値がないのに大幅な値引きがなされる。そこで疑問に思うのは、そもそも下取り品がないときの通常価格とは何なのか、下取り品がなくても値引きできるのではないかということだ。

廃棄することが明らかな商品の場合は問題ないのか

数年前に、筆者が兼任講師として指導する立教大学法学部消費者法ゼミのゼミ生がこの問題を調べたことがある。ある商品に下取り価格をつけて、販売商品から値引くのはマーケティングとして事業者の自由だが、一方で、財産的価値がなく、廃棄することが明らかな商品に下取り価格をつけて、その分を引く行為は、不当な二重価格ではないかといった疑問からだ。

景表法では「優良誤認」と「有利誤認」を主な不当表示として規定している。簡単に言うと、「優良誤認」は商品の品質等に関する不当表示、「有利誤認」は価格などの取引条件に関する不当表示だ。

二重価格は、「有利誤認」として問題になることがあり、消費者庁は「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)で考え方を明らかにしている。例えば、販売実績のない価格を「通常価格」としたり、メーカーが公表していない価格を「メーカー希望小売価格」として比較対照価格に用いる場合等には不当表示とみなされる。

下取り値引きの場合は、実際に下取りなしの価格設定が事実であれば問題はないと消費者庁は判断していると思われ、この問題で同庁が措置命令(旧・排除命令)を出したことはない。立教大のゼミで当時、公益社団法人全国家庭電気製品公正取引協議会に問い合わせたところ、「下取りなしの価格と下取り価格の両方の価格で実際に販売をしていれば有利誤認には該当しない」との回答を得ている。

要するに、下取り価格を設定している販売会社としては、下取り品があるときには大幅値下げをすると表示することにより、買い替え需要を喚起し、買い替えでない消費者が値引きなしの販売価格による購入を敬遠するとしても、結果として購入者が増えるということを期待した販売戦略だろう。

そこで、消費者が確認すべきは、見た目の値引き幅に惑わされることなく、実際の販売価格が市場価格と比べて安いのかということである。この点も立教大のゼミで市場調査をした。

冷蔵庫、エアコン、洗濯機それぞれ3機種(計9機種)について、下取り値引きをしているテレビ通販会社の下取り品ありの販売価格と、池袋にある家電販売店2店舗との販売価格を比較した。冷蔵庫3機種ではすべて家電販売店のほうが安く、エアコンでは同一価格が1機種、テレビ通販会社の下取り価格のほうが安かったもの2機種、洗濯機ではテレビ通販会社の下取り価格が1機種で家電販売店2社の価格差の中間、2機種が一番安いという結果だった。

すなわち、市場価格と比較し、新しい製品の購入時に中古品を引き取ってくれることの便利さとそのときの下取り費用を勘案して購入すべきだろう。

二重価格が不当とされる事案も相次ぐ

一方、テレビ・ネット通販の普及とともに二重価格表示が不当表示とみなされ、消費者庁から措置命令を受けた事例も多く見られる。ここでは、将来の販売価格を通常価格とする二重価格が不当表示とされた事例を紹介しよう。

将来価格を通常価格として、一定期間のみそれより安く販売し、それを値引き価格と表示するものだ。2018年3月16日、消費者庁はテレビ通販で不当な二重価格表示があったとして、「ジュピターショップチャンネル」に対し、景品表示法違反(有利誤認)で措置命令を出した。

通販番組内でテレビとズワイガニについて「セール価格」と将来の販売価格である「明日以降価格」を併記して紹介したことが処分の対象となった。セール後に「明日以降価格」で販売した期間が短期間で、将来価格として表示することは問題があり、有利誤認と認定した。将来価格の表示に対する初めての処分となった。

ズワイガニは、過去の番組で実施したセール企画「食の祭典!24時間グルメ祭り」において、

〈32%OFF!〉

明日以降¥14,580
本日価格 ¥9,800

と価格を表示した。しかし、実際に「明日以降」と称された価格による販売はセール後に2日間と短期間で、将来の販売価格として十分な根拠とは認められなかった。

テレビについては、32型テレビと40型テレビについて不当表示とされた。32型テレビの一時期のセールを例にすると、 「オールスター家電祭 2016冬」と称するセール企画として

<49%OFF!>

明日以降 ¥192,240
    ¥97,800

と、実際の販売価格に当該価格を上回る「明日以降」と称する価額を併記した。

これにより、「明日以降」と称する価額は、セール企画終了後に適用される通常の販売価格であって、実際の販売価格が当該価格に比して安いものであり、かつ、実際の販売価格は他の販売事業者では通常設定できない安いものであるかのように表示していた。

しかし実際には、セール企画終了後に販売される期間は3日間のみであって、ごく短期間のみ「明日以降」と称する価額で販売するにすぎず、当該価格での販売実績も同社において実質的に問われないものであって、将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められず、かつ、その時点において、本32型テレビを同社と同程度または下回る価格で販売する他の販売事業者が複数存在していた。

従来の二重価格は過去の販売価格と比較して現在の価格の安さを強調するものであったが、このように将来販売する価格を通常価格として、現在の価格の安さを強調する表示が見られる。消費者庁は将来の販売価格での販売期間や確実な予定があるかを問題視しているが、そもそも表示した時点で販売実績のない将来の価格を通常価格として「〇〇%オフ」と表示すること自体、問題ないのであろうか。

いたるところで見られる二重価格

二重価格はマーケティング戦略として、いたるところで見られる。飲食店でクーポンを発行し、それを提示すると10%オフなどはよく見受けられ、得した感じがして頻繁に利用する人も多いだろう。しかし、本当に得しているのだろうか。クーポン券を絶えず店の前で配っていたり、店の外にバケットを置きいつもクーポン券がそこにあるような店もある。

筆者の経験だが、勤務する日本女子大学のゼミで飲み会をすることになり、学生が50%引きのクーポン券利用で2500円で飲み放題の店を探してきたことがある。料理は質も量もひどいもので、初めから2500円の価格設定としか思えず、クーポン発行会社にクレームを入れたことがある。発行会社は一応、当該居酒屋にヒアリングしたようで、たしかに5000円のコースを値引きしているということであった。覆面調査でもしない限り、本当のことを言うわけがないだろう。

「同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合」も消費者庁は前述ガイドランで不当表示としているが、製品と違って、飲食店の料理の比較は難しい。50%引きの2500円で飲み放題と聞いただけで筆者はそのからくり、質を想像するが、経験に乏しい学生などはそうではない。

法的規制も重要だが、賢い選択をすることができるようにする消費者教育も重要だ。

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