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2021.10.04

マスク着用で泥仕合の人々に多分見えてない真実|自己中心的な思考が未来の私たちに襲い掛かる


マスク着用はもともと公衆衛生に対する義務感に強く促されたものではないからこそ(写真:geargodz/PIXTA)

マスク着用はもともと公衆衛生に対する義務感に強く促されたものではないからこそ(写真:geargodz/PIXTA)

マスク着用をめぐってまたもや論争が再燃している。日に日に感染者数が減少していく中で、ワクチンを2回接種済みの国民が6割に迫り、気の緩みも出てきていることから、マスクをしない人が目立ってきたからだ。

感覚過敏や皮膚・呼吸器の病気などのさまざまな健康上の理由でマスクを着用することがそもそも難しいという人は一定数いて、それらの方々に対する世間的な理解や配慮は欠かすことができない。ただ、ここ最近話題になったニュースなどを見ると、健康上の理由などとは関係ない人々がマスクを外していることが、関心の的になっているようである。

ワクチン2回接種しても感染は避けられない

これは、実のところ「他人のことなどどうでもよい」と考える少数派の利己的な振る舞い以上の問題を孕んでいる。現状では、たとえワクチンを2回接種している人でも感染は避けられず、「ブレイクスルー感染」によるクラスター発生も相次いでおり、容態が悪化して肺炎になった例も報じられている。けれども、緊急事態宣言が解除され、行動制限が緩和され、飲食店に人が溢れ返るようになれば、人々の危機意識が薄れてしまうことは否めない。

この冬に襲来するとみられる「第6波」を抑え込むためにも、引き続きこれまでと同様の感染症対策が求められることに変わりはないのだが、長期間にわたるニューノーマルの反動のためか自己本位的な言動が、各地でさまざまなトラブルを引き起こしかねない。

コラムニストの木村隆志氏は、東洋経済オンラインの9月25日付の記事(「マスクしない人」を避けたほうがいい本当の理由)で、「今さしたる理由がなく、マスクをつけていない人は、単に利己的なだけでなく、『ふだんから周囲に何らかの負担をかけているタイプの可能性が高い』」と述べ、「コロナ感染はもちろん、その他のリスクを踏まえても、物理的な距離を取っておいたほうがいい人物」と評したが、これは一部の例外はあるにしてもかなり的を射た指摘である。

ここにおけるマスク着用は、健康上の理由で難しい場合はもちろん、1人で屋外を歩いている時や屋内であっても近くに他者がいないような状況、押し黙っていられるシーンを指していない。あくまで近距離での会話や発声する場面での話だ。

このような態度の深層に見え隠れするのは、健常者の立場を優先する価値基準のようなものであり、病気や障害のある者や、免疫が低下している高齢者などを軽視し、パンデミック下で生じている死者や重症者を「個体の弱さ」の問題に矮小化しようとする傾向である。

まず注意しなければならないのは、そもそもマスク着用の動機付けが規範に従うことに基づいている面が大きいことだ。心理学者の中谷内一也をはじめとする同志社大学の研究グループが昨年8月に明らかにしたように、「マスク着用は、他の着用者を見てそれに同調しようとする傾向と強く結びついており、本来の目的であるはずの、自分や他者への感染防止の思いとは、ごく弱い関連しかない」。

「ほかの人がそうなので自分も着けたい」が主な理由

要するに「主な理由は、他の人がマスクを着けているので自分もそうしたい、という思いだった」のである(マスク着用は感染防止よりも同調のため!?:“Why do Japanese people use masks against COVID-19, even though masks are unlikely to offer protection from infection?” DOI: 10.3389/fpsyg.2020.01918)。つまり、もともと公衆衛生に対する義務感に強く促されたものではないのだ。当然、緊張感がなくなってマスクを外す人が増えればそれに同調する人も増えるだろう。

また、ワクチン接種の効果に対する過剰な期待も影響を与えている。最近、職場で2回接種済みの人が増えるにつれて、マスク着用にルーズな人や未着用の人が多くなったという話をよく耳にする。

先日、高齢者の集団がカフェでテーブルを囲んでいるのを見かけたが、「ワクチンをしたからマスクはいらないよね」と全員マスクを外して談笑していた。これはワクチン接種によって獲得された心理的な免疫、いわば万能感や解放感のようなものであり、それまであった感染することへの不安や恐怖が払拭された途端、「自分は大丈夫」という正常性バイアスをますます強めることとなる。残念ながらそこに見知らぬ他人の存在が入り込む余地はない。

ここ1年の間に、重症化リスクが高い層が統計データとして明確になるにつれて、皮肉なことにわたしたちの社会に潜在する健常者中心主義ともいうべきものを炙り出すに至っている。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、2018年にジョンズ・ホプキンス大学の報告書(“The Characteristics of Pandemic Pathogens”)で予見されていたことはよく知られている。無症状者や風邪と似た症状が多い特性があり、さほど致死率が高くないものにこそ人々は油断し、容易に感染爆発を起こして経済活動に多大な損害を与え、結果的に高齢者や基礎疾患がある者など犠牲者数が膨大になると警鐘を鳴らしていたからだ。

ウイルス側の視点から言い換えれば、宿主であるヒトが一枚岩にならずそれぞれの自己の立場を正当化して、社会的な合意が取りづらい状況が継続することこそが最良の生存条件となるからだ。このヒトの心理を見透かした“戦略的なデザイン”は功を奏したといえる。

蔑ろにされたのは、いわゆる健康弱者だけではない。自分たち以外の他人というように同心円状にその対象は広がってゆく。社会的なつながりが希薄になり、周囲の人々への想像力が乏しくなることも、このような無関心を後押ししている。

われわれは誰の生命について語っているのか

経済学者のジャック・アタリは、「そもそもわれわれは誰の生命について語っているのか。自分たち自身の命だろうか。近しい人々の命だろうか。恵まれない人々の命だろうか。それとも今日の人類、未来の人類、あるいは生きとし生けるものすべての命だろうか」(『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』林昌宏・坪子理美訳、プレジデント社)と問うた。

恐るべきことにコロナという多面性があるキマイラ的な存在(キマイラとは、頭はライオン、胴はヤギ、尾はヘビという姿をした架空の怪物)を一面で見定めようとする人々は、「自分をどの階層に位置付けるかによっていかようにもリスクを見積もることができる」という点に極めて鈍感なのである。

このような議論を踏まえると、前述したワクチン接種後の心境変化の正体とは、mRNAワクチンという現代科学の粋を集めた新技術によって、自分たちがあたかも健常者にアップデートされ、階層が上昇したがゆえの傲慢さだったわけである。

アタリは、「今回の危機によって、われわれは他者が健康であることは自分たちの利益になると痛感するはずだ」と記したが、わたしたちが本当に心の底から実感しているのかはそうとう疑わしい。

欧米諸国に比べて日本の犠牲者が少ないことを強調したい人々は、総じて欧米における桁違いの惨状には目を瞑りやすい。まるで国内が安泰であれば他国はどうでもよいと言わんばかりに。ワクチン供給の世界的な格差問題は、このような自己中心的な思考に根差している。これがいずれコロナ禍だけにとどまらない構造的な難題として、未来のわたしたちに襲い掛かることはほぼ確実であろう。

人類文明に対する真の脅威はコロナ禍ではないのに

生物地理学者のジャレド・ダイアモンドは、『危機と人類』(小川敏子・川上純子訳、日経ビジネス人文庫)の日本語版文庫の序文で、「人類文明に対する真の脅威はコロナ禍ではなく、気候変動、資源枯渇、地球規模の不平等」だと主張した。その上で、これらは「私たちを死にいたらしめるまで時間がかかるし、死因としても曖昧なままになる」という懸念すべき展望を示した。

気候変動は、旱魃や気温上昇、大気汚染、農作物の生産量の減少、熱帯病の温帯地方への蔓延、沿岸部の低地における洪水や高潮、津波から沿岸部を守るサンゴ礁などの死などによって、人間を殺す。あなたがだんだんと栄養失調になって亡くなった、あるいはデング熱(熱帯・亜熱帯地方の感染症)に温帯の日本で感染した、あるいは津波で亡くなったとしたら、あなたの遺族はこうは言わないだろう。「故人は六日前に気候変動にかかりまして……」。遺族は、気候変動関連の言葉を一言も口にしないだろう。『危機と人類』(小川敏子・川上純子訳、日経ビジネス人文庫)

ここにおいても自分たちをどこに位置付けるかでリスクがいかようにも変容するキマイラ的特性は受け継がれる。

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このような文脈においてコロナ禍という危機は、わたしたちの他者に対する根本的な認識や、異なる階層にいる人々との協調性などといったものが、世界レベルの非常事態において上手く作動するかどうかを試す最初のテストのようなものであったのだ。

自らが招来した災厄であるならばまだしも、自らの鈍感さによって身を滅ぼすのでれば、それを悪夢と言わずして何と言えよう。

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実験で新事実「ウレタンマスク」の本当のヤバさ

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提供元:マスク着用で泥仕合の人々に多分見えてない真実|東洋経済オンライン

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