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2021.09.21

これから「食品値上げ」の波が家計を圧迫する|「実質値上げ」ではなく「ダイレクト値上げ」に


食品の値上げが今後、家計を圧迫していく(写真:sasaki106 / PIXTA)

食品の値上げが今後、家計を圧迫していく(写真:sasaki106 / PIXTA)

食品メーカーによる値上げ発表が続いている。例えば、雪印メグミルクは原材料価格の高騰を理由にバターやマーガリンなどの値上げを発表。山崎製パンは穀物や鶏卵価格の高騰、物流費・人件費のコスト増加により和洋菓子の一部値上げを決定するなど、原材料価格や物流費などのコスト増加が企業に値上げを促している。9月8日には農水省が10月期(2021年10月~2022年3月)の輸入小麦の政府売渡価格を前期から19.0%引き上げると公表した。

消費者物価に先行する投入物価指数(生産のために投入された原材料や燃料などの価格)の「食料品」はすでに大幅に上昇しており、消費者物価にも相応の影響があるだろう。日本銀行短観の販売価格DIは直近6月調査の先行きが2015年9月調査以来の高い水準に上昇しており、値上げラッシュは待ったなしの状況である。

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日銀が強調する「適合的期待形成」を考慮すればインフレ目標の達成に向けてポジティブな面もある。しかし、必需財である食品価格上昇は家計の負担となり、経済にとっては総じてネガティブに働くだろう。今回のコラムでは、食品値上げが家計に与える影響を考える。

値上げで食料支出が膨らみ、家計を圧迫

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この連載の過去記事はこちら ※外部サイトに遷移します

今後、消費者物価指数(生鮮食品を除く食料)が2015年ごろと同程度の1.66%の上昇となった場合、毎月の世帯当たり食料支出は7万6440円(2020年)なので、負担は月1270円程度増加すると試算される。これは毎月の世帯当たりの消費支出(27万7926円、2020年)の0.5%程度である。無視できる金額ではない。

食料は必需財(基礎的支出)であるため消費量を削りにくく、その他の消費を削る必要が出てくるだろう。実際、2015年(平均)の家計調査を確認すると、食料支出は前年比2.7%増、基礎的支出が同3.9%増であったのに対し、選択的支出は同7.8%減となっていた。また、家計のエンゲル係数はコロナ禍以降上昇しており、食品価格の値上げは当時よりも家計を圧迫しやすくなっている。

今後の個人消費を展望すれば、ワクチン証明書などを活用したサービス消費が増える方向であることは間違いないと思われる。しかし、食品価格が上昇すれば、本来であれば、サービス消費に使われると期待されていた「強制貯蓄」(コロナ禍で蓄積された貯蓄)が食料支出に費やされてしまうこともあるだろう。

人々に「現状維持バイアス」があることを勘案すれば、「今はなくなっているサービス」を諦めることよりも、「今もある食品などの財」を諦めるほうが、心理的負担は大きい。したがって高水準の財消費が維持されてサービス消費は抑制されるだろう。

「実質値上げ」よりも「ダイレクト値上げ」が増える

「値上げ」は消費マインドに与える影響も大きい。現状では、「食品」と「値上げ」という単語を含んだ新聞記事は値上げが相次いだ2013~2015年と比べて多くない。しかし、この9月は9日時点で14の記事が出ており、前月から倍増しそうなペースで、先行きが懸念される。

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企業側の目線では、できるだけマインドを悪化させないような値上げを心掛けたいところだろう。その1つの方法が「実質値上げ」である。販売価格を変えずに内容量などを減らすことにより、消費者がその変化に気がつかず、消費者マインドを維持できることや家計圧迫を回避することが期待される。

しかし、今次局面では以下に示す3つの理由から「実質値上げ」は限定的となり、直接的に価格を引き上げる「ダイレクト値上げ」が多くなると予想される。

1つ目は、「実質値上げ」は2013~2015年に相次いだが、その後も食品価格が上昇していたにもかかわらず、徐々に減少していったことである。つまり、「実質値上げ」は一巡した可能性がある。

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そもそも、「実質値上げ」はただ単純に値上げを「隠す」ために行われるわけではない。例えば、明治ホールディングスは2016年に「おいしい牛乳」の容量を1リットルから0.9リットルに変更した。その理由は、自社の飲用実態調査で牛乳の消費量が過去10年間で1割落ちたとする結果や1リットルを飲みきるまでの日数が延びているとする状況を勘案したことにあるという(SankeiBiz、2019年9月の記事)。

この背景には、平均世帯人員の減少がある。むろん、足元でも世帯人員は減少傾向にあるが、この5~6年で「再び世帯の状況が変化した」というのは無理があるだろう。

消費者物価指数の基礎統計である小売物価統計の調査品目について、筆者が確認した過去の「実質値上げ」は次ページに掲載している。これらの品目では、再度「実質値上げ」が行われるのではなく、「ダイレクト値上げ」となる可能性が高い。

「実質値上げ」にはネガティブな見方が多かった

2つ目の理由は、こうした「実質値上げ」はあまり好感をもって受け入れられていなかった点である。

消費者庁の物価モニター調査(2018年7月)によると、「3年前と比較して実質値上げが増えたと感じる」と回答した人は82.2%にのぼり、多くの消費者が内容量の減少などを感じ取っていた。さらに、「日常的に買っている商品について、実質値上げが原因で買う商品を変えた、または買うのをやめたことがある」と回答した人は24.8%、「実質値上げは不誠実だと感じる」が24.2%と否定的な意見を持つ人が多かった。

これもまた、徐々に「実質値上げ」が下火になっていった背景とみられ、あくまでも「実質値上げ」は一時的な「裏技」という面があったと言える。

さらに、足元ではコロナ禍による特売の減少などで価格競争が減っている点も「ダイレクト値上げ」を後押しするだろう。2013~2015年の値上げ局面では、2014年4月からの消費増税によって消費者が価格に敏感になっていた。当時と比較すれば、価格上昇は受け入れられやすい面がある。足元では、消費マインドはそれほど高くないものの、食品は必需財(基礎的支出)であるため、家計に余裕があれば値上げは受け入れられやすいと考えられる。

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幸い家計には「強制貯蓄」が積み上げられていると考えられ(参考記事『日銀「強制貯蓄20兆円の取り崩し」は楽観的すぎる』)、一定程度の「余裕」はあるだろう。「強制貯蓄」の取り崩しは経済再開後の挽回的なサービス消費の原資として期待されてきたわけだが、これが「ダイレクト値上げ」に吸収される展開が想定されよう。

『日銀「強制貯蓄20兆円の取り崩し」は楽観的すぎる』 ※外部サイトに遷移します

「食品」の値上げに伴い、サービス消費は抑制か

前述した消費者サイドの3つの理由に加えて、今次局面では企業サイドで輸送費などの原材料以外のコストも転嫁する誘因がある。やはり原材料のコスト増を機械的に調整することが多い「実質値上げ」ではなく、総合的な値上げとなりやすい「ダイレクト値上げ」に企業が踏み切る可能性は高いだろう。

今回のコラムの結論をまとめると以下である。今後の個人消費のテーマとして消費マインド悪化につながりやすい「食品」の「ダイレクト値上げ」が浮上してくる可能性が高い。

・ 食品の値上げは待ったなしの状況
・2013~2015年の値上げの例から考えると、今後の家計を圧迫する可能性がある
・ 今後増える予定だったサービス消費を抑制する可能性には留意
・ (1)「実質値上げ」は一巡した可能性があり、(2)前回の「実質値上げ」は評価されておらず、(3)コロナ禍では価格競争の少ないことから、「ダイレクト値上げ」が行われる可能性が高い
・ 「ダイレクト値上げ」による消費マインドの悪化も懸念される

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提供元:これから「食品値上げ」の波が家計を圧迫する|東洋経済オンライン

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