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2021.09.13

自宅療養者1日100人超を診る医師団の過酷な現場|120人の登録医師が24時間対応でもパンク寸前


急増する自宅療養者を救うために夕方から明け方にかけて1都3県を走り回っている医師たちがいる(筆者撮影)

急増する自宅療養者を救うために夕方から明け方にかけて1都3県を走り回っている医師たちがいる(筆者撮影)

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コロナ第5波によって、医療崩壊が現実のものとなりつつある今、訪問診療を行う民間の医師派遣業者が存在感を高めている。

都内の中堅総合病院に勤務するドクターの1人は言う。「国や都も問題視しているが、コロナ患者向けの病床を確保しているにもかかわらず、実際には患者を受け入れていない病院が多く存在する。うちの病院もその1つ。人員やコストを考えたとき、業務のオペレーションはもちろん、経営の圧迫に繋がりかねないからだ。ただ、1人の医師としては納得できない思いもあり、半年ほど前から民間の医師派遣業者に登録。空いた時間に、訪問診療を行っている」。

こうした思いを抱える医師は少なくない。「自分もコロナ患者のために働きたいと医師派遣業者に登録するドクターが増加している」と語るのは業者の1つ「ナイトドクター事務局」(本部・東京都港区赤坂)の代表・菊地拓也氏だ。

平日で100件、週末は200件超の依頼

「現在120人ほどの登録ドクターを抱え、1都3県、24時間体制で訪問診療を行っているが、第5波で自宅療養者の数がどっと増えてからは、毎日が戦場。忙しすぎて、正直パンク寸前だ」(菊地氏)

厚生労働省によれば、今月1日の時点で新型コロナウイルスに感染して自宅療養している人は全国で約13万5000人。自宅療養中に重篤化したり死亡したりする患者も増えており、国民の不安は高まっている。こうした状況の中、病院に受け入れてもらえない患者にとって〝救世主〟的な役割を果たしているのが、民間の医師派遣業者なのだ。

夕方18時過ぎ。ナイトドクター事務局のある都内のオフィスは、殺気立っていた。ひっきりなしに電話が鳴り響き、10人ほどのスタッフたちが対応に追われている。その中心にいるのが代表の菊地氏。寝不足なのかまぶたを腫らし、血走った目でシフト表を睨みながら、髪を振り乱してスタッフに指示を出す。

ナイトドクターの事務局。電話がひっきりなしにかかってきていた(筆者撮影)

ナイトドクターの事務局。電話がひっきりなしにかかってきていた(筆者撮影)

「ERドクター(救急医師)を渋谷でゲット。すぐに荒川区へ移動して男性の自宅でPCR検査を実施。その足で上野、次に池袋、新宿。すべてコロナの疑いあり。感染対策を厳格に実施してください。荒川には何時に到着できそうですか?」

医師を運ぶドライバーとこんなやり取りが延々と続く。日々どれくらいの依頼があるのか。菊地氏は「平日で約100件、週末ともなれば200件を超える日も。エリアごとに待機ドクターと看護師がいて、ドライバーが彼らを拾って患者さんの自宅に向かう。1日平均10〜15人のドクターと看護師を確保。夕方から明け方にかけて、100〜200人の患者さんを診るという感じ」と語る。

荷物を積んで自宅療養者のもとへ(筆者撮影

荷物を積んで自宅療養者のもとへ(筆者撮影

1度診察に出ると、朝まで1都3県をひたすら車で走り続けることになる。移動中にも次々と訪問要請が入り、息をつく暇もない。

「ERドクターやスタッフたちの負担が極限にまで達しているのは事実。でも今や救急車を呼んでも、重篤でない限り病院が受け入れてくれない現状があり、私たちのような業者がいなかったら、見捨てられる患者さんが今以上にあふれてしまう」(菊地氏)

公的な救急車だけでは多くの患者が見捨てられてしまう。だから、走り続けるしかない。夜の街をひたすら駆け抜ける、〝流しの救急隊〟の日々は過酷そのものだ。

熾烈を極める訪問診療の現場

9月初旬、筆者は専用車両に同乗させてもらい、医師の話を聞いた。夜21時過ぎ、事務局からドライバーのスマホに連絡が入る。「荒川区、28歳、男性。38度の発熱あり。PCR検査と診察の要請。至急、向かってください」。

1都3県を走り回る(筆者撮影)

1都3県を走り回る(筆者撮影)

要請を受け、医師と看護師は現場に急行。車内で防護服に着替え、患者宅に入っていった。診察を終え、車内に戻った医師は汗だくだ。

「防護服がめちゃくちゃ暑い。これ着るのが嫌だからコロナ患者はごめんだっていう医師が多いのもわかる」

日頃は勤務医として都内の総合病院で働く男性医師はそう言うと、ペットボトルの水をがぶがぶと飲み干した。患者はどうだったのか。「若いサラリーマンの方で、コーヒーの味が明らかに変だと言っていたので、コロナだろう。ワクチン未接種で、先週2回も友人と居酒屋で飲んだと言っていた。正直、こうした若い患者さんを診察するときは、こっちもびくびく。私にも小さい子供がいるので」。

この男性医師によると、コロナ第5波以降、明らかに20代、30代の若い年代の患者が増えており、かなり重い症状の人も多いという。

「デルタ株が流行し始めてから、明らかに様相が変わってきた。若い人でも『死ぬほどつらい』と訴える人が増え、実際、中等症以上の患者さんも増えている」

次に向かったのは、自宅療養中だという40代女性のコロナ患者の部屋。1週間前に陽性が判明、38度以上の熱が続き歩くのもつらいという。

「パルスオキシメータの値が94〜95ということで入院が認められず、自宅療養をしていると。とくに今日は胸が苦しくて、怖くなってわれわれを呼んだとのことです」

医療設備も乏しい患者の自宅で診療に当たる(筆者撮影)

医療設備も乏しい患者の自宅で診療に当たる(筆者撮影)

94~95とは「血中酸素飽和度」のことで単位は%。肺から取り込んだ酸素は赤血球に含まれるヘモグロビンと結合して全身に運ばれる。血中酸素飽和度とは、心臓から全身に血液を送り出す動脈の中を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているかの値で、パルスオキシメータで計れる。

約96~99%が正常値で、93%以下になると酸素投与が必要となる。90%を下回るとかなり危険とされる。だが、正常値に近いとはいえ、94~95%は中等症Ⅰに当たり、肺炎が疑われ本人は明らかに苦しく、病床に余裕があれば入院に至るレベルだろう。

こうした場合、ERドクターたちはどんな対応をするのか。

「患者さんの容態を観察して、療養中の注意点やアドバイスなどをする。解熱剤を持っていなければ処方する。重篤化しそうなくらい症状が重ければ、こちらで保健所などに掛け合って、入院の手伝いをすることもある」

だが、最近は深刻さを増しているという。「われわれ医師でもどうにもならないケースがほとんど。それくらい受け入れ先がない。現場を回っている僕の実感からすれば、明らかに医療は崩壊している」。

モンスターカスタマーさえも請け負う覚悟

ナイトドクター事務局の仕事が増える一方で、トラブルも頻発するようになったと菊地氏は言う。

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「コロナは人を選ばないが、われわれも患者を選べない。そのためいわゆるちょっとコワモテのお客様の人から、『PCR検査の結果を今すぐ出せ』『嘘でもいいから陰性証明を出せ』などと脅されることも。訪問診療でできることには限界があるのだが、『すぐに治せ』『効果がなかったから料金は払わない』など悪質なクレームも増えている」

しかし、「そうした人たちも含めて請け負っていかなければ、日本の医療は完全に崩壊してしまう。そんな思いで今は粛々と日々の仕事をやっていくしかないと考えている」と菊地氏は打ち明ける。

ちなみに訪問診療の料金は、保険適用のため通常の病院とほぼ同じ。利用者にとっては便利だが、事業者にとっては「忙しいだけのボランティア」と化している面もある。彼ら訪問医療に携わる人々の使命感だけに頼っていてはいつか限界が訪れる。国や都は、危機的状況に陥っている医療体制の現状を早急に見直す必要がある。

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