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2021.09.09

コロナ禍の入院患者にWi-Fi環境が欠かせない訳|元フジアナ・笠井さん「孤独を救ってくれた」


コロナ禍で、病院内でもリモートの重要性を感じる場面が……。今、病院では療養との両立を模索している(写真:Tempura/iStock)

コロナ禍で、病院内でもリモートの重要性を感じる場面が……。今、病院では療養との両立を模索している(写真:Tempura/iStock)

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東京都足立区にある社会医療法人社団慈生会(伊藤雅史理事長)が運営する介護老人保健施設(=老健)「イルアカーサ」では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で入所者とその家族らはオンラインで面会をしている。

老健とは、自宅と病院の中間施設として位置付けられた介護施設。入所しているのは介護が必要と認定された人だ。主に病院で治療を終えた高齢者が、退院後の自宅復帰を目指している。老健の入所期間は、病院退院後数日となる人がいる一方、家族が介護の準備をすぐにできない場合などには、数カ月にわたるケースもある。

「イルアカーサ」という施設の名前は、スペイン語で、「家に帰ろう」という意味だ。高齢者の療養の場を、家族の住むわが家に近づけたいという思いが込められている。しかし、コロナ禍で昨年来、入所者とその家族らの対面による面会はかなえにくくなった。

オンライン面会で入所者、その家族らに笑顔

卓上に置かれたタブレット端末で、家族とオンライン面会中の入所者(写真:筆者撮影)

卓上に置かれたタブレット端末で、家族とオンライン面会中の入所者(写真:筆者撮影)

家族  「お父さん、元気そうだね」

入所者の男性 「ありがとう。元気にやっているよ」

8月後半のある日の午後2時半過ぎ頃。老健「イルアカーサ」の3階の一室では、タブレット端末の置かれたテーブルの前に座った入所者が、オンライン面会をしている最中だった。

入所者との面会のために施設を訪れた家族は、衣類の着替えなどを施設の職員に渡した後、1階の施設入り口を入ってすぐにある相談室で、パソコン(PC)の置かれたテーブル前に座り、階上の入所者がPCモニター画面に映るのを待つことになる。

その日のオンライン面会ではPCモニター画面越しに入所者と、その妻と長男が、互いに元気であることを確認し合っていた。わずか10分間の面会で、入所者と家族は笑いが絶えなかった。その様子を横で見ながら、慈生会の伊藤理事長は静かに微笑んでいた。

オンライン面会は毎日午後2時半から4時半まで、各回15分間が割り当てられている。面会前後にタブレット端末などを除菌する時間を除いた正味10分間、入所者とその家族らが、やすらぎのひと時を過ごしている。土日には、最大で8組がオンライン面会をしているという。

慈生会の老健「イルアカーサ」では今年2月、同じ足立区内で同会が運営している等潤病院(164床)では、それに先駆けた昨年12月、それぞれ無料Wi-Fiの環境が整備された。老健「イルアカーサ」では入居者とその家族らの面会で利用され、一方で、等潤病院では外来患者は1階外来待合エリアで、入院患者は病棟各階の談話室でWi-Fiが利用できるようになった。

Wi-Fi環境整備にあたり慈生会では、診療で使う医療情報システムと患者用Wi-Fiが干渉しない電波環境を設計した。電波は同じ周波数の波が同一空間で混在・衝突していると影響を与え合い、電波干渉といわれる通信障害を起こす可能性があるからだ。

Wi-Fiを含む無線通信で限られた範囲のネットワークを構築する、いわゆる無線LANはすでに多くの医療機関で使用され、医療情報システムへのアクセスやデータ転送など幅広い用途で利用されている。

慈生会ではWi-Fi環境を、全病室に拡大する選択肢もあったが、伊藤理事長は「病院は療養の場だという考えから、利用できる場所を制限した。それに、病棟の全病室が個室ではなく、相部屋の入院患者さんそれぞれが、互いに迷惑をかけないというマナーを守りやすいようにした」と説明する。また、患者が療養に専念できるようWi-Fiは、夜20時から翌朝8時までは利用できないようにした。

長期化するコロナ禍で約9割弱の病院が前向き

そこで最新の状況を把握しようと、メディカル・データ・ビジョンが8月23日から30日までに、全国の病院に、入院患者が家族らとの面会用などに使うインターネット環境についてWEBでアンケートしたところ、162病院から回答があった。

(グラフ:筆者提供)

(グラフ:筆者提供)

それによると、「整備済み」が46.3%(75病院)、「検討中」が40.1%(65病院)となり、9割近くの病院が患者用ネット環境の整備に動き出している。

一方で、患者用ネット環境の整備を見送っている病院で、その理由としていちばん多かったのが、「費用対効果が不透明」だった。また、「医療情報システムとの干渉」への不安を挙げる病院もあった。

「医療情報システムとの干渉」などの問題について厚生労働省は、総務省の「Wi-Fi提供者向けセキュリティ対策の手引き」の中から、医療機関で特に重要と考えられる対策として4点を挙げている。

▽来訪者向けWi-Fiと業務用無線LANは分離しましょう
また機器管理用PW(パスワード)は推測されにくいものを設定しましょう
▽意図したエリア内に限ってサービスが提供されるように、
電波の出力等について適切に調整しましょう(電波漏れ等のリスク)
▽無線LANの暗号化PWを掲示等する場合は解読リスクがあることを認識しましょう
▽混雑を避けるために周波数やチャンネルをよく検討しましょう
(業務用Wi-Fiや患者持ち込みの回線との干渉リスク)

これらの対策に対して、専門部署や知識のある人材が足りない病院では、患者用ネット環境の整備が難しいのが実情のようだ。

このアンケートの中で、患者用ネット環境を整備したことで、どういったプラスの効果があったかを聞いたところ、

「ターミナル(終末期)の患者さんから、やりたい仕事ができたと喜ばれた」

「慢性期病棟の長期入院で家族と面会できなかった患者さんがオンライン面会することができて喜んでいた」

「快適な妊娠生活を過ごすための母親学級で資料動画を提供することができ、妊婦さんの不安解消につながった」

「コロナ禍で立ち合い出産や面会を制限している中で、オンライン面会で赤ちゃんの顔を見せることができた」

「外来患者の待ち時間中の過ごし方の幅が広がった。入院患者についてはテレビの視聴が減っているようだ」

などの声があった。

こうした反面で、患者用ネット環境の運用面での問題点も浮き彫りになった。患者用ネット環境を整備したものの、患者から、「つながりにくい」「速度が遅い」といった苦情が押し寄せ、職員が対応に苦慮しているとの報告があった。また高齢者のオンライン面会で機器を操作するために職員が立ち会うことになり、人員のやりくりが大変だといった意見も寄せられた。

補助金の申請期限延長や使い勝手改善を要望

笠井信輔さん(右)と、笠井さんとともに「#病室WiFi協議会」で活動している古賀真美さん(左)(写真:筆者提供)

笠井信輔さん(右)と、笠井さんとともに「#病室WiFi協議会」で活動している古賀真美さん(左)(写真:筆者提供)

全国の病院に患者用Wi-Fi環境整備を推進しようと民間人が立ち上がり、手弁当で活動を続けている。「#病室WiFi協議会」だ。フジテレビの情報番組「情報プレゼンター とくダネ!」(1999年4月~2021年3月)でアナウンサーを長く務めていた笠井信輔さんも、発足メンバーに名を連ねている。

笠井さんはフジテレビのアナウンサーからフリーに転身した後、血液がんの1つである悪性リンパ腫だったことがわかった。闘病生活を送った後、現在復帰している。自身が長期入院した経験を通じてネット環境の重要性を痛切に感じたことから同協議会の立ち上げに賛同した。現在も政府への要請活動を継続している。

同協議会の働き掛けもあって、政府の2021(令和3)年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止・医療提供体制確保支援補助金では、コロナ禍で入院患者と家族などの面会が制限されている中で、医療機関において入院患者などが利用できるWi-Fi環境整備費用も補助対象となった。

ところが、同補助金の申請期限は9月末に迫っており、時間的な猶予がほとんどない。また、長期化するコロナ禍で、前年度に同じ枠組みの補助金を受けていたことから、Wi-Fi環境整備の補助金を申請できずに断念するケースも少なくない。同協議会は申請期間の延長もしくは、補正予算が編成される場合には、Wi-Fi環境の整備が補助対象になるよう訴えていく考えだ。また、補助金の使い勝手の改善も求めている。

笠井さんは、「病室に患者用のWi-Fi環境があるのが当たり前の時代になってくる。理由は簡単で、コロナの影響でこの1年、全国の病院で誰もお見舞いに来られない状況が続いている」と強調する。

笠井さんが治療のために入院したのは、2019年12月だった。入院して1カ月間は、友人らが笠井さんを励まそうと見舞いに来てくれて病室は賑やかだった。しかし、それ以降、新型コロナの感染拡大が深刻になり、友人らは「笠井にコロナをうつしたら死んでしまう」として、誰も訪れなくなった。またクラスター(感染者集団)などの懸念も広がったために、家族も面会に来にくくなり、病室に誰も来ない状態が3カ月半続いた。

インターネットが孤独から救ってくれた

その時に、孤独から救ってくれたのがインターネットだった。笠井さんが入院した病院はWi-Fiが使用禁止で、自身のスマートフォンを使用して外部と通信を続けた。ブログを書いたり、YouTube動画を見たり、ラジオを聞いたりした。新聞や雑誌の原稿を執筆して送った。笠井さんは、Wi-Fi環境は娯楽のためだけに必要なのではなく、患者が情報収集するための手段として大事になっていると話す。

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一方、笠井さんとともに活動している古賀真美さんは、ある患者支援団体の理事でプロジェクトマネージャーを務めている。急性リンパ性白血病を発症した弟に2002年、末梢血幹細胞提供をしたのを機に、白血病患者や家族・骨髄ドナーの相談支援をライフワークとしている。

古賀さんは、「病院が療養に専念してほしいとして、夜にWi-Fiを使えなくするという利用制限をする理由はよくわかる。しかし、抗がん剤治療中の患者さんは夜眠れなくて孤独を感じるので、そういった点も考慮してほしい。また小児病棟に長期入院する学童にとってWi-Fi環境はとても大事。環境が整備されていればオンライン授業などを受けやすくなる」と、日頃、接している患者やその家族の声を代弁して、病院の対応に期待をしている。

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提供元:コロナ禍の入院患者にWi-Fi環境が欠かせない訳|東洋経済オンライン

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