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2021.09.06

「ごみ収集」感染リスクと隣合わせ過酷な現場ルポ|「家族にうつしたら…」精神的にも大きな負担


2020年GW、最初の緊急事態宣言発令中の新宿区でのごみ収集の様子(写真:筆者撮影)

2020年GW、最初の緊急事態宣言発令中の新宿区でのごみ収集の様子(写真:筆者撮影)

デルタ株の感染が急拡大し、新型コロナの収束が一向に見えない中、8月に東京都台東区の清掃事務所でクラスターが発生し、不燃ごみの収集ができなくなるなど、日常生活が危うくなるケースも出てきた。地方自治を専門とする藤井誠一郎・大東文化大准教授は著書『ごみ収集とまちづくり』でごみ収集の現場で労働体験、参与観察を行い、コロナ禍における清掃事業の問題を浮き彫りにした。同書より一部を抜粋して紹介する。

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清掃職場でのコロナウイルス感染

筆者は2020年11月より東京都北区の滝野川庁舎にて清掃現場の参与観察をさせてもらったが、年始の2021年1月7日に2回目の緊急事態宣言が発出されたため、まさに緊急事態宣言下での清掃事業を体験するようになった。そのなかでも大きなインパクトがあったのが、職場からコロナウイルスへの感染者が発生した一件である。その状況を述べておく。

2021年1月19日(火)、大学の研究室で本書の執筆をしていた際にデスクの電話が鳴った。めったに鳴らない電話を取ると、滝野川庁舎の技能長からであった。何か収集作業でミスをしてしまったのかという不安がよぎったが、そうではなく「清掃職員の中からコロナウイルスへの感染者が出たため、しばらく出勤を控えてほしい」という連絡であった。

2021年の年明けから感染者数が増加し二度目の緊急事態宣言が発出されていたものの、これまで身近なところから感染者が出ていなかったので、知らせを受けた時には非常に驚いた。

感染状況の結果から述べると、清掃職員2名がコロナウイルスに感染し他の清掃職員も濃厚接触者となった。幸いにもクラスターにはならず事務所が閉鎖される事態は免れたが、これらの職員や濃厚接触者となる清掃職員が通常の収集体制から欠けつつも、約2週間にわたっていつもどおりの収集サービスを提供していかざるをえない状況に追い込まれた。

多くの欠員が生じたが、それでも通常どおりの収集サービスを提供する必要があるため、何とか人を集めて収集業務を維持する対策をとらざるをえなかった。雇上車(雇上とは清掃事業者から清掃車とその運転手を受けること)の運転手の代わりは、「代番」と呼ばれる代わりの運転手が手配されたため清掃車の配車は可能となった。

しかし、事故欠勤となっている収集作業の本番を担う清掃職員を埋め合わせる体制を構築するには、かなりの苦労が強いられる状況であった。まさに滝野川庁舎の全員が団結し収集体制を維持していく形となった。

まず、休務となる清掃職員に出勤依頼し、仕事に出て来てもらうように促した。この休務の返上は、週休1日(日曜日のみの休暇)となり日々の激務の疲れが十分に癒されないまま勤務を続けることを意味した。

また、会計年度任用職員にも声をかけ、本来は休みとなる日にも出勤をお願いするようにして人員を確保した。しかし、それだけでは十分な体制は構築できないため、滝野川庁舎の本番の収集ルートを1つ解体して他の本番ルートに分散して付け加えたり、王子庁舎に解体した収集ルートの1つを丸ごと受け持ってもらったりして収集体制を維持していった。

王子庁舎からの応援については、依頼の結果、王子庁舎にて3組体制で行っている「ふれあい指導」のうち1組を解体して人員を捻出して対応してもらうことにした。

このような対応は初めての試みであったが、半期ごとに清掃事務所間での人事異動を行っており、滝野川庁舎での収集経験を持つ清掃職員もいたため、最新の収集地図を渡し、その地図に従って収集してもらう形で対応できた。

後日、統括技能長や技能長に今回の清掃職員のコロナ感染への対応について尋ねたところ次のような回答を得た。すなわち、今回の欠員数までならぎりぎり対応が可能であったが、これ以上の欠勤者が出ると対応が難しかった。また、もし同時期に自然災害が発生してしまうとまったく対応ができないと思われる。王子庁舎には迷惑をかけたが、北区には清掃拠点が2カ所あり助かった。

コロナ禍で大変なのは清掃部門だけではないのは十分わかっているが、ギリギリの人数で業務を行うよりもある程度の余裕のある体制で清掃に臨みたい、と述べていた。

ごみの量は通常の2割増し、疲労困憊の職員

筆者は初回の緊急事態宣言下が発出され不要不急な外出の自粛が求められていた頃、その状況下で行われる収集作業の現場を自らの目で見たく思い、個人的に2020年4月29日に新宿区の収集の現場、主に住宅地に足を運んだ。作業の邪魔にならぬよう離れて観察するのみであったが、収集現場の状況を把握することができた。

ごみ収集の現場は、いつもと同じ作業風景であった。普段からマスクを着用し、グローブをはめて収集作業を行っているため、コロナ対策として特別な装備を装着して作業を行っていたわけではない。

しかし、外出自粛や在宅勤務などで家にいる人が増えたため、収集するごみの1つ当たりの大きさは増し、その量は大変多く、通常の約1.2倍にも及んでいた。

例年3月、4月は引っ越しなどのためごみの量が多い時期になるが、さらにそれに上乗せされるように排出されるごみ量は清掃職員の体力を消耗させ、疲労を蓄積させていた。

今後は真夏に向けて気温が高くなっていくので、このまま続くとかなり厳しい労働環境になることが危惧された。

都知事からの外出自粛要請がなされた初期は家内の片付けをする人が多く、タンスなどの粗大ごみが多く排出された。特に不燃ごみでは食器類が出されたため、そのごみはかなり重たく、収集職員は相当の労力を費やした。

燃やすごみには、生ごみやテイクアウト系の容器が多く、残飯も多く汁気を帯び、1つひとつの袋が重くなっているごみが多かった。まさにごみを見れば生活がわかるがごとく、外出自粛要請に従って三食を家で食べていたと、ごみでもって証明されていた。

マスクが散乱、「家族に感染させたら…」

作業風景はこれまでどおりであったが、その作業へのリスクは大きく相違していた。排出されるごみの中には、新型コロナウイルスに感染した軽症や無症状の自宅待機者のごみがあるかもしれず、感染者が触った袋を清掃車に積み込む作業は、感染リスクの高い作業となる。

中には、ごみ袋の中にマスクが沢山詰まっていたごみもあり、ひどい場合には使い捨てのマスクがごみ集積所にそのままポイ捨てされていた。感染者のごみだと明記されていれば、それにのみ細心の注意を払えばリスクは回避できようが、そうでないためすべてのごみが感染の可能性の高いごみであると想定して収集作業を行う必要があり、精神的にも大きな負担がかかっているようであった。

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少しでもごみに触れず慎重に収集作業を行いたいところだが、収集したごみを清掃工場に搬入できる時間は決められているため、リスクを認識しながらこれまでと同様に集積所に山積みされたごみを手際良く清掃車に積み込む作業を行っていくしかなかった。

ごみの中にはしっかりと結ばれていないものもあり、摑んだ途端に中身が散乱してしまうごみもある。その中に、マスクやティッシュペーパーがあると、それを拾い上げるのも躊躇される。その際は、清掃車に積んである2枚の板(かき板)を利用して直に触れぬよう散乱したごみをかき集める。

このようなリスクの高い作業を遂行するため、彼らの中には、家族への感染を心配する職員もいた。清掃従事者の安全を守るためにも、排出者には彼らの作業に配慮したごみの捨て方が問われていたといえる。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

コロナ感染リスクが高い「23の職業」意外な一覧

コロナショックの先に待つ4つの最悪シナリオ

コロナで我を失う愚か者たちのバカすぎる行動

提供元:「ごみ収集」感染リスクと隣合わせ過酷な現場ルポ|東洋経済オンライン

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