2021.08.16
40代でFIREすると「退職金」どのくらい減るのか|キャリアの真ん中で退職しても「半分」ではない
昨今、マネーの世界では「FIRE」ブームが来ています(写真:MediaFOTO / PIXTA)
マネーの世界でブームが来ている「FIRE(ファイア)」。これは、「Financial Independence, Retire Early」略で、経済的独立の獲得による早期リタイアを指します。
家計の見直しや副業・投資で資産形成し、早期リタイア後はその運用益で生活することを目指すのが一般的です。
『普通の会社員でもできる 日本版FIRE超入門』では、日本の社会と制度に基づいて、普通の会社員でも実行可能なFIREのテクニックを紹介しています。
本稿では同書より一部を抜粋しお届けします。
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FIREは「退職金・企業年金」にどう影響?
老後資産形成(いわゆる「老後に2000万円」)と、早期リタイアのためのFIRE資金をダブルで準備するのはなかなか大変です。しかし、老後資産形成の多くは退職金制度でまかなえる可能性があります。
中小企業の退職金水準はおおむね1000万円前後、大企業であれば2000万円の水準が期待されるからです。実は、8割の企業には退職金制度があるので、多くの会社員は老後に使うお金の準備が一定割合進んでいることになります。
ただし、これはひとつの会社で新卒から定年退職まで勤め上げた場合のモデルですから、FIREで早期リタイアをすればこの満額をもらうことはできません。また、FIREのために転職をした人も退職のつど小刻みに受け取ってしまうため、まとまった資金として最後にもらえるわけではありません。
それでも、自分で行う積立とは別にもうひとつの「積立枠」があると考えてみれば、この仕組みを知っておくことは重要です。
あなたに1000万円の積立枠があるとしたら、どの銀行に預けるか真剣に悩むはずです。しかしなぜか、多くの会社員は退職金制度については無関心です。ある調査では、59歳の段階で8割の会社員が受取額を知らないでいる(60歳定年として)という数字もあるほどです。
これも従来のFIRE本の指摘が弱かったところかもしれません。FIREしてからの生活費用分ではなく、「標準的なリタイア後のための資金準備」についてどれくらいメドが立っているのか、自分の勤める会社の制度、金額を確認する必要があります。
退職金制度ないし企業年金制度は各社各様のところがあります。退職金規定をまず社内で検索して読み込むことからスタートです。
福利厚生に関するドキュメント、退職者向け説明資料、労働組合の資料などが見つかれば、わかりやすく説明されていることもあります。
基本的には退職金制度の規定があり、その一部ないし全部を企業年金制度で準備します。確定給付企業年金と企業型の確定拠出年金制度が主流です。中小企業では中小企業退職金共済を活用するケースもあります。
制度の種類を確認し、モデル金額でかまわないので退職金の水準を確認します。ここでは「500万円か、1000万円か、2000万円か」というレベルでもかまいません。
FIREを目指す人が必ずチェックする必要があるのは自己都合退職時の給付カット(ペナルティ)規定です。たとえば勤続20年で退職した場合、その時点でもらえるはずの退職金額をさらに20%減額する、のような規定があったりします。一般に長期勤続をすると減額率は下がり、55歳以降になると減額ゼロに近づきます(定年退職はもちろんゼロ)。
企業年金制度を有している場合、会社が定めた期間、年金受け取りをすることができます。ただし、FIREを目指す場合、早期退職をしますから、年金受け取りを選択することはあまりないでしょう。法律上は加入20年超で退職した場合、中途退職であっても資産を企業年金制度に残しておき、老齢時に年金受け取りをする権利がありますが(確定給付企業年金の場合)、一時金で受け取り自己管理するほうがFIRE希望者には無難でしょう。
また企業型の確定拠出年金制度の場合は60歳まで法律的に受け取れない仕組みなので、FIRE資金というよりは60歳以降の取り崩し資金と位置づけられることになります。この場合は、離職時に全財産をiDeCoに引き渡して資産形成を継続することになります。
40代で退職すると退職金は「3~4割程度」
さて、規定を読み込むときは、早期リタイアの影響を見極めたいところです。というのは、40年働く会社の退職金水準を20年働いて辞めたら半分もらえるという単純な話にはならないからです。
多くの会社は早期離職を避けたいため、ある程度の長期勤続をしないと退職金水準が上がらない仕組みとなっています。また、年齢に応じて賃金が増える傾向があり、賃金水準と退職金の権利付与は連動するのが一般的なので、社会人人生前半と後半では、後半に獲得する退職金額のほうが大きくなります。
キャリアの真ん中で退職したとき、退職金額は半分ではなく4割ないし3割程度になるという感じです。
先ほど説明した自己都合退職者への給付カット規定も曲者です。勤続年数が短いほど厳しめに設定をすることがあり、勤続10〜20年の中途退職では多くて30%カットということもあり得ます。そもそも少ない受取額がさらに少なくなるわけです。
これらは規定されていますので、退職金規定を読めばある程度想像できます。つまり退職金はFIRE志望者の本来の老後の準備としては力不足だと認識することができるのです。
また、FIREを目指す人は転職をする可能性が高いと思われますが、退職金をそのつど受け取っては細切れになってしまいます。この点でも本来の老後に備える大きな財産に育ちにくい悩みがあります。転職経験者は意識的に退職金受取額を残しておくようにしてください。
早期退職はFIREにはチャンス?
一方で、FIRE希望者にとってチャンスが訪れることもあります。それは、会社が早期退職者の募集をかけたときです。
日本の労働法制では指名解雇は難しいので、自発的に退職を促すために退職金の割増支給を行うことがあります。
会社の設定にもよりますが、この上積みが年収1年分を上回ることがあります。たとえば2019年に富士通が行った早期退職制度では、年収約2年分相当が割増退職金として上乗せ支給されたと報じられています。
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もちろん早期退職をすることで、勤続年数が短くなる分、満額の退職金をもらうことはできません。しかしFIREを考えているのならそれは織り込みずみであるはずです。むしろ年収1年分以上のまとまった金額を受け取ることができるチャンスは、FIRE希望者にとってはありがたい収入となります。
ちょうどFIREのタイミングを見計らっていて、この割増退職金の提示があったのなら、これは渡りに船となるでしょう。
難しいのは、割増退職金はもらいたいが今すぐFIREするわけではない、というケースです。次の仕事を探してまだもう数年は働きたいと考える場合、せっかくの割増退職金に手をつける前に次の内定を見つける必要があります(一般に、早期退職の募集はいきなりなので、内定を取ってから早期退職に応じるのは難しい)。転職経験がない場合、雇用保険の支給日数内で次の会社が見つからない場合もあり、注意したいところです。
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提供元:40代でFIREすると「退職金」どのくらい減るのか|東洋経済オンライン