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2021.08.11

65歳以降働く人の「年金繰り下げ」はお得なのか|年金額が目減りする「落とし穴」に要注意


定年後の65歳以降も会社勤務を続け、年金は繰り下げ受給したら、給料はもらえるし年金額も増える! と早合点してはいけない。場合によっては受給額があまり増えないかもしれない(写真:【IWJ】Image Works Japan/PIXTA)

定年後の65歳以降も会社勤務を続け、年金は繰り下げ受給したら、給料はもらえるし年金額も増える! と早合点してはいけない。場合によっては受給額があまり増えないかもしれない(写真:【IWJ】Image Works Japan/PIXTA)

日本の企業には65歳まで雇用確保義務があり、2021年4月からは、65歳以上70歳未満の人についても就業機会の確保が努力義務化されるようになりました。

これからは65歳以降も勤務する人が増えることでしょう。そうなると65歳以降も給与収入が得られるので、65歳から受けられる年金は繰り下げ受給することを考えるかもしれません。しかし、場合によっては繰り下げしても年金があまり増えないこともあります。65歳以降働く場合の繰り下げ受給の注意点について、50~60代前半のうちにしっかり把握しておくことが大切です。

1カ月繰り下げると「年金が0.7%増額」は本当?

会社員として働いてきた人であれば、65歳から老齢基礎年金や老齢厚生年金が受給できます。これら65歳からの老齢年金について、65歳から受給を開始せず、受給開始を遅らせ、増額させることができます。繰り下げ受給制度は、1カ月繰り下げるごとに0.7%ずつ増額させることができるとされています。

現行制度上、最大70歳まで5年間繰り下げ・42%(0.7%×60カ月)増額が可能で、2022年4月からは最大75歳まで10年間繰り下げ・84%(0.7%×120月)増額が可能とされています。65歳開始の年金が100万円の場合、84%増額で184万円になる計算です(下の図表参照)。「ねんきん定期便」にも繰り下げ受給制度について説明が載るようになり、検討する人も少なくないと思います。

繰り下げ受給開始の時期と増額率

※繰り下げ受給は66歳0カ月(8.4%増額)以降1カ月単位で可能
※2022年4月から繰り下げ可能年齢が70歳から75歳に改正(75歳までの繰り下げは1952年4月2日以降生まれの人が可能)
(出所)筆者作成

※繰り下げ受給は66歳0カ月(8.4%増額)以降1カ月単位で可能 ※2022年4月から繰り下げ可能年齢が70歳から75歳に改正(75歳までの繰り下げは1952年4月2日以降生まれの人が可能) (出所)筆者作成

しかし、実は「1カ月0.7%増額」の繰り下げ受給制度は、実際はそんなに単純なものではありません。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は片方ずつ繰り下げることができますが、まず、老齢基礎年金についていえば、上乗せで付加年金も受給できる場合、付加年金についても同時に繰り下がり、同じ率で増額されます。一方、老齢基礎年金に加算されることがある振替加算は繰り下げの増額がありません。ただし、その加算額は後の世代になればなるほど少なくなり、1966年4月2日以降生まれの人には加算自体されませんので、後の世代の人や、そもそも加算対象とならない厚生年金加入期間が20年以下の人は、この点、気にならないでしょう。老齢基礎年金については1カ月繰り下げにつき0.7%増額でほぼ受け取ることができます。

これに対し、老齢厚生年金の繰り下げについては、65歳以降の就労によって、少ししか増額されない場合があることを理解しておく必要があります。

厚生年金繰り下げの増額対象は「65歳前の加入分」

老齢厚生年金を繰り下げる場合、前提として、増額対象となるのは65歳前(65歳到達の前月まで)の年金加入記録で計算された部分となります。

厚生年金の加入自体は最大70歳になるまでですので、65歳から70歳まで勤めても加入することになり、毎月の給与や、賞与が出た場合の賞与から厚生年金保険料を負担します。その結果、65歳から70歳までの厚生年金加入分については退職時の再計算(退職時改定)や年1回の再計算(在職定時改定制度。2022年4月施行)として増えることはあっても、この5年間の分は1カ月0.7%の繰り下げ増額の対象になりません。

つまり70歳0カ月で老齢厚生年金の繰り下げをしたとして、65歳から70歳までの5年間掛けた分についての年金は100%分として受け取れても、42%増額されて合計142%にはならないことになります。65歳前の加入記録による142%分と65歳以降の加入記録による100%分を合わせた老齢厚生年金全体からみれば、42%増額にはなっていないことになるでしょう。

そうなると、繰り下げ増額の効果を得たいのであれば、65歳前の厚生年金加入記録が重要になるともいえます。しかし、65歳前の加入記録による老齢厚生年金についても、そのまま繰り下げで増額されるかというとそうとは限りません。

老齢厚生年金は報酬比例部分と経過的加算額からなります。65歳以降、老齢厚生年金を受給している人が被保険者として厚生年金に加入中の場合、報酬(給与や賞与)次第で報酬比例部分がカット(支給停止)される在職老齢年金制度があります。

「47万円基準」(2021年度の場合)といわれ、総報酬月額相当額(給与、直近1年の賞与の12分の1)、基本月額(報酬比例部分の月額)の合計で47万円を超える場合に、超えた分の2分の1について年金がカットされます。もし、繰り下げ受給をする場合は、繰り下げ受給開始までは実際には年金を受給していないことになりますが、65歳から受給を開始したものと仮定して、在職老齢年金制度による停止額を算出し、残りの停止されない部分について繰り下げ増額の対象となります。

例えば、65歳受給開始の場合の老齢厚生年金(報酬比例部分)が年間120万円(65歳前の加入記録で計算)で、65歳から給与(標準報酬月額)が月額53万円、賞与なしで厚生年金に加入したとします。仮に65歳から老齢厚生年金を受け始めると、報酬比例部分の月額10万円(120万円÷12)+給与53万円で合計63万円となって、基準額47万円を16万円超えることになります。そして、その超えた16万円の2分の1である8万円の年金がカットされ、残り2万円が支給される計算となります。月額10万円のうちの2万円が支給され、年額でみると、120万円のうちの24万円が支給される計算です。

つまり、報酬比例部分全体の20%分が支給されることになります。もし、70歳0カ月で繰り下げ受給する場合で、65歳から70歳までの5年間でみても平均して20%支給される計算(平均支給率20%)となった場合であれば、その20%分に対して繰り下げによる増額がされ、年額10万800円(120万円×20%×42%)の増額となります。

本来、120万円に対する42%は50万4000円になる計算ですが、実際の繰り下げの増額は10万800円となり、増額分は50万4000円よりかなり少ないことになります。繰り下げ受給開始までの平均支給率をもとに算出することになりますので、在職中の給与や賞与の額が変わると、当然繰り下げで増額される年金も変わることになります。

65歳以降も働くなら、繰り下げ決定は慎重に

極端な話、65歳から70歳までの厚生年金加入中の給与や賞与がかなり高く、報酬比例部分が5年間全額支給停止(平均支給率は0%)と計算される場合は、70歳0カ月まで繰り下げをしても、報酬比例部分についての繰り下げ増額分はありません。老齢厚生年金は、カットされない残りの経過的加算額にしか増額されないことにもなります。65歳以降も勤務している人は「働いていると年金がカットされることだし、今は受け取らず繰り下げしよう」と考えるところでしょうが、繰り下げを考えている場合は、「カットされる分を計算したうえで増額がされる」というルールを、65歳を迎える前に理解しておくことが大切です。

また、配偶者や子供がいる場合に老齢厚生年金に加算される加給年金は繰り下げ受給開始時以降でないと加算されませんが、こちらについても繰り下げの増額対象になりません。しかも、最大でも配偶者が65歳、子供が18歳年度末(一定の障害がある場合は20歳)になるまでしか加算されませんので、繰り下げ受給開始時期次第では加算がないこともあります。

以上のことをまとめると、老齢厚生年金の全額が70歳繰り下げで42%、75歳繰り下げで84%の増額を受けられる場合というのは、「65歳以降厚生年金加入をしていない場合で、加給年金もない場合」となります。しかし、実際65歳以降勤務するとこのようにはならず、繰り下げでそこまで年金が増額されない人が今後増えることにもなるでしょう。

複雑な仕組みですが、「年金が思ったほど増えない」ということがありますので、繰り下げ受給は慎重に考えて決める必要があります。ただ、65歳からの年金について、65歳時点で65歳受給開始(増額なし)を選択すると、あとで繰り下げ受給に変更はできません。老齢厚生年金はあまり増えない注意点はあるものの、繰り下げを考えていてまだ受給しないでいる人(繰り下げ待機している人)には、あとになってから、65歳にさかのぼって65歳受給開始(増額なし)を選択する方法などがあります。65歳以降、繰り下げ待機しつつ、就労状況や健康状態などをみながら、じっくり受給方法を考えて決めるのも1つの手となるでしょう。

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提供元:65歳以降働く人の「年金繰り下げ」はお得なのか|東洋経済オンライン

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