2021.07.01
ワクチン「打つ・打たない」決める重要なポイント|強要されるのではなく、自分で決めるのが大事
日本でも急速に進むワクチン接種。接種を決めるうえで重要なポイントは?(写真: Akio Kon/Bloomberg)
新型コロナウイルスの感染予防対策や治療などをめぐっては、さまざまな情報が出回っており、私たち1人ひとりの「リテラシー」も重要になってきている。デマやフェイ情報に振り回されないためにはどうしたらいいのか。本稿では、仙台医療センター臨床研究部ウイルス疾患研究室長の西村秀一氏の著書、『もうだまされない 新型コロナの大誤解』から、日本でも急速に進んでいる新型コロナ予防のワクチンについて解説する。
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ワクチン接種は自分自身で決めるもの
新型コロナウイルスと上手に付き合っていく覚悟が必要なのですが、具体的にどう付き合うか。過剰な対策は長続きせず論外ですし、ずっと今の様な状態が続くなんて、正直言ってまっぴらですよね。
ウイルスは進化的には、最終的に病原性は低下していく運命にありますが、今を生きる私たちにそれを待っている余裕はありません。我々がウイルスに対抗する武器をあげれば、適切な感染管理と治療、そして、今後開発が望まれる薬とワクチンです。
そこで気になるのがワクチンです。多くの人が問題解決の切り札と位置付けています。また、世界の中で先行して接種が行われたアメリカ、イギリス、イスラエルで、社会集団での流行がかなり抑えられているとの心強い報告が相次いでいます。
ただ、そこで大切なことは、ワクチン接種は個人に強制されるものではなく、1人ひとりが自分で情報を集めて恩恵とリスクを天秤にかけ、自分自身で決めるものだ、ということです。
ワクチンの恩恵ですが、期待されるのは、感染しにくくなり感染しても重症化しにくくなることです。それでも、今のところそれが断言できるわけではありません。恩恵を考える上で考慮すべきポイントがいくつかあります。
かかって苦しんだり死んだりするのが怖いからというのも、あるいは家族をそんな目に合わせたくないというのも十分な視点ですが、他にも1つ大きなポイントがあります。それは自分の生活スタイルです。
例えば接客業など、人と会う機会の多い仕事に就いているような人なら、ワクチンを打つことで得られるメリットが大きくなります。接種の前と後で、自分の生活がどう変わるかを考えてみるといいでしょう。
ワクチン接種のリスクは?
一方、リスクに関しては、接種後の副反応の不安があると思います。数種類ある新型コロナのワクチンのうち、日本でも最初に接種が始まったファイザー社やモデルナ社のワクチンは、長くなるので詳しい解説は省きますが、mRNAワクチンという過去にないタイプのものです。このタイプのワクチンだから、短期間で開発・製造できました。
直後に現れる副反応については、これまで想定されていなかったメカニズムによる副反応があるかどうかや、何年も経ってから体の中で悪さをしないかどうかなどは、今の時点ではどんな専門家にも明言できません。大きな健康被害になる可能性が、あるともないとも断言できないのです。
ほかにも今の段階でよく分かっていないこととしては、今年の接種の後のことで、
・ 接種したらどのくらい抗体が続くのか
・ ウイルスの変異があったらどうなるのか
・ ワクチンを接種すれば、マスクなしで社会生活を続けられるのか
――といったことがあります。
アメリカのCDC(疾病対策センター)はマスクなしの生活が可能と発表しましたが、本当にそれが可能なら朗報だと思う半面、接種を受けた人たちが本当に他に感染を広めないかどうかについては、まだデータの蓄積を待っているところです。
ただ言えるのは、ある程度の感染の進展は抑えられるということ。そう思って私も恩恵の方を選んで接種を受けています。仕事柄というだけでなく、こんな鬱々とした生活がいつまでも続くのはごめんだからです。よりよく生きるために希望は必要です。
気になる副反応について、少し詳しく見てみましょう。
体の中に異物が入ってくれば、それに対して何らかの体の反応が起こります。免疫ができることはまさにワクチンの目的です。しかし、望まない反応として「痛み」「腫れ」「発熱」「全身疲労感」「体調不良」「アナフィラキシー」などがあります。このうち最大のリスクはアナフィラキシーです。
起きるとして接種後まもなくで、下手をすれば命に関わる可能性もあります。アナフィラキシーはワクチンに限らず、さまざまなアレルギー物質で起きる症状でそれに対抗できる薬としてエピネフリン(アドレナリン)があり、すぐ使えば特効的に効くので大丈夫です。日本でも接種の場にはそれを準備しておくことになっています。
それ以前に、アナフィラキシーが起きないために、接種前の問診でリスクが高ければ知らされます。また接種後も一定時間は会場にとどまって、アナフィラキシーが起きないか観察も行われます。万が一、重大な副反応が起きて治療が必要になった場合は、国の予防接種健康被害救済制度が適用され、必要な治療のための費用が支払われます。
副反応を許容するかどうか
アナフィラキシーと対極的な軽い副反応が、接種した部分の張りや痛みです。これらは何やら悪いもののように扱われていますが、実は体が正常な免疫反応を起こしている証拠だと考えられています。
ワクチンには人工的に軽い炎症反応を起こさせて免疫反応を高める目的で、アジュバントという物質を加えることがありますが、私たちが受けているワクチンにも、意図して加えているわけではないもののそれに相当するものが存在すると考えられており、免疫を活性化させているのです。
腕に現れる局所の反応だけでなく、頻度はそれより低い発熱や全身倦怠などの重めの全身症状が出ることがあるのもわかっていますが、各症状と免疫獲得の程度がどれだけ関連があるかはまだわかっていません。ただ、それらをワクチン接種回避の理由とすべきか、それとも、抗体を得ることと引き換えに許容するか。どちらを選ぶかは、接種を受ける人の考え方次第です。
自分で決めるのは勇気がいることです。それでも、行政に強制されたりや誰かに言われたりしたからではなく、何か起きた時に「自分の意志だから」と言えるだけの覚悟を持つことが大切です。
副反応に関して、過剰にビクつかないために、1つ知っておいてほしい問題があります。
「打った=かからない」ではない
それは「紛れ込みの有害事象」です。大勢の人がワクチンを接種すると、翌日に亡くなる人が必ず出てきます。高齢者の接種が増えればなおさらです。冷静に考えれば、亡くなる人が出ても当たり前だとわかります。なぜなら、ワクチンとは関係なく日本国内では1日に3800人ほどが亡くなっているからです。
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事故や事件で亡くなる人もいれば、老衰や心筋梗塞、脳梗塞、末期癌などなど、原因は人それぞれです。慢性疾患で闘病中の人で直前まで元気でも急に亡くなることがあります。そういった状況の中でワクチン接種が始まると、ワクチンとは無関係でもたまたま接種の直後に亡くなるケースが出てきます。
そうなると、たとえこの現象があることを知っていたとしても、家族からすれば「接種の次の日におじいちゃんが死んじゃった」と、ワクチンとの関係を疑いたくなるものです。中にはもしかしたら本当に、ワクチン接種が引き金となった死亡例もあるかもし れません。本当にワクチンのせいなのか、それとも違うのか、その答えを出すのはとても難しい問題です。
ただ、もし「ワクチン接種した人が亡くなった」というニュースを耳にしたら、すぐにワクチンが原因と決めつけて怯えるのではなく、冷静に受け止めてほしいと思います。
最後にひとつ言っておくべきことがあります。それは、ワクチンも、特に気道上皮で増えるウイルスに対するワクチンの場合は、インフルエンザワクチンを考えればわかりやすいと思いますが、打ったことが必ずしも「もうかからない」ということを意味しません。
実際ワクチンの2回接種を終えた高齢者施設で流行が起きたアメリカの報告があります。ただ、重症化の阻止には役立っていたとのことですので安心してください。要は、(1)ワクチンを打っても油断禁物 、(2)高齢者や免疫力が弱っている人の場合は、効果は低めになりやすいので注意 、(3)よって、高齢者周辺で高齢者を世話する人たちがワクチンを受けることが大事、ということをよく知っておいてください。なお、これらは、すべてインフルエンザワクチンで経験済みのことです。
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提供元:ワクチン「打つ・打たない」決める重要なポイント|東洋経済オンライン