メニュー閉じる

リンククロス シル

リンククロス シルロゴ

2021.06.11

コロナ治癒に「うつ伏せが有効」という意外な事実|重症だけでなく中等症でも呼吸機能改善の例も


ベッドで仰向けの状態が続けば背中側に水分や血液がたまることと関係があるようだ(Fast&Slow/PIXTA)

ベッドで仰向けの状態が続けば背中側に水分や血液がたまることと関係があるようだ(Fast&Slow/PIXTA)

薬や道具を使わず、新型コロナウイルス感染症患者の肺の機能を改善させるということで、にわかに注目を集めているのが、「腹臥位(ふくがい)療法」だ。

「腹臥位療法とは、患者さんをうつ伏せにさせるという救命措置の手法です。低酸素になった患者さんの血液中の酸素量を増やすことから、急性の呼吸器不全を起こした人に古くから行われていました」

「診療の手引き」でも重症者に対し「効果あり」と明記

こう話すのは、日本呼吸療法医学会理事長で大阪大学大学院医学系研究科麻酔集中治療医学教授の藤野裕士さん。昔からあったこの腹臥位療法が、今改めて新型コロナで起こる重症のARDS(急性呼吸窮迫症候群)にも効果があるとして、見直されているというわけだ。実際、「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」の第5版でも、ICU(集中治療室)に入院するか、人工呼吸器を装着するような新型コロナの重症肺炎に対して、「効果あり」と明記されている。

藤野さんのいる大阪大学医学部附属病院(大阪府吹田市)では、第4波の真っ只中だったゴールデンウィーク中、30床あるICUをすべてコロナ用に変えて対応。回復傾向のある患者を除いた、すべてのICU入院患者に腹臥位療法を実施した。

やり方は〝夕方にうつ伏せにして、朝、仰向けに戻す〟というもので、腹臥位療法を行っている時間は12~18時間ほど。これを入院直後から始めて、最短で3日間、最長で1週間続けた。腹臥位療法を行った患者は、多い日で11~12人にのぼったという。

この腹臥位療法の効果について、藤野さんは言う。

「重症の新型コロナの最後の手段は、ECMO(エクモ・体外式膜型人工肺)です。ECMOは肺に代わってガス交換を行う装置で、ダメージを受けた肺を休ませて、呼吸機能の回復を図るために用います。有効な治療ですが、重篤な合併症も起こります。ECMOを装着せず、人工呼吸器だけで回復できるというのが、腹臥位療法の効果といえるでしょう」

この効果は数字でも表れているという。

思い返すと、新型コロナの重症者への治療の切り札としてECMOが取り沙汰されたのは第1波のときだ。NPO法人日本ECMOnetの集計では当時、患者の4人に1人がECMOを装着していた。だが、第2波では8人に1人、第3波では12人に1人、第4波では13人に1人(4月19日時点)にまで減っている。

新型コロナのARDSに腹臥位療法が行われるようになったのは、第1波の途中から。以来、ECMOの適用となる患者には、まず腹臥位療法から試すことが推奨されている。藤野さんは、「患者数が増えるたびにICU病床の不足が問題となるが、その割にECMOが話題に上らない。これは腹臥位療法がECMO装着を防いでいるためではないか」と見ている。

しかし、なぜうつ伏せになることで重症の呼吸器不全が改善するのだろう。

「いくつかのメカニズムが提唱されていますが、特に大きいのは〝潰れた肺胞を広げ、肺が酸素を取り込む機能を高める〟というところでしょう」と藤野さん。

肺は呼吸によって入ってきた酸素を血液中に取り込み、血液が運んできた二酸化炭素を放出している臓器だ。この「換気」を行っているのが、ブドウの房のような形をした肺胞だ。肺が炎症などによってむくむと肺胞は潰れるため、この換気ができなくなる。ベッドで仰向けの状態が続けば、重力の関係で水分や血液が背中側に溜まるため、背中側の肺胞がますます潰れてしまう。

背中側の潰れた肺胞が開き、換気機能が復活

その状態を改善するのが、うつ伏せだ。おなかを下に、背中を上にすることで背中側の潰れた肺胞が開き、換気機能が復活するという。

実際、患者がうつ伏せになるだけで血中酸素飽和度が改善するケースが多いそうだ。酸素飽和度とは血液中の酸素と結合したヘモグロビンの割合をみたもので、パルスオキシメーターという装置で測る。健康な人は100%に近いが、新型コロナの場合、軽症だと96%以上、中等症Ⅰ(呼吸不全なし)だと93〜96%、中等症Ⅱ(呼吸不全あり)になると93%以下にまで落ちてしまう。

もう1つ、腹臥位療法の利点があると藤野さん。それは人工呼吸器の装着によって起こるトラブルを防止するというものだ。

「人工呼吸器は人工的に酸素を送り込む装置です。肺胞が潰れているとそこには酸素が入らず、残りの肺胞に集中的に酸素が送り込まれます。その結果、残った肺胞が過拡張を起こしてダメージを受けてしまうことがある。これを人工呼吸器関連障害といいます」

うつ伏せになると背中側の肺胞も開くため、肺全体に酸素が行き渡る。これによって人工呼吸器関連障害を防ぐことができるという。

このような効果がある腹臥位療法だが、問題もある。その1つは労力だ。

腹臥位療法の対象となるのは、人工呼吸器を付けている患者だ。カテーテルと呼ばれる細い管に複数つながれていて、さらに麻酔薬によって意識がない。そういう状態の患者の体位を変えるのは容易ではなく、藤野さんのところでも1人の患者につき、数人がかりで20分ほどかかるという。さらに患者は意識がないため痛みがあっても訴えることができない。床ずれなどを起こさないよう、定期的に体位を変えるなどのケアが必要になる。

何より、安全にうつ伏せにさせるには、技術と経験が必要だ。ICUやECMOがあるような大きな医療機関では以前から腹臥位療法を行っているため、技術もあり、経験も豊富だが、経験のない医療機関でこれを行うのは難しい。

「実際、イタリアの論文では不慣れな施設で行うと合併症が起こって改善効果が見られないとする報告もあります。適切に腹臥位療法を行うには標準化が必要で、そのためにはエビデンスを出さなければなりません」(藤野さん)

中等症の患者にも効果あり?

一方で、新たな可能性も出てきた。人工呼吸器を使わない中等症の患者にも効果があるようなのだ。昨年12月に行われた日本呼吸療法学会で中等症への腹臥位療法を報告したのは、がん・感染症センター都立駒込病院(東京都文京区)の看護師、大利英昭さんらだ。

重症ではなく、中等症の患者に最初に腹臥位療法を行ったのは、昨年4月のこと。夜勤の責任者としてナースステーションで待機していた大利さんは、コロナ病棟を見回っていた看護師から「80代の女性患者の酸素飽和度が90%になった」と報告を受けた。

状況から、「これ以上進行したらARDSを起こすかもしれない。いや、もしかしたらすでにARDSかもしれない」と考えた大利さんは、過去の経験から腹臥位療法を試すことにした。担当医の許可を得たうえで、女性に「うつ伏せになるとよくなる人もいる、やってみますか?」と聞くと、女性は「できるわよ」とベッドにうつ伏せになった。

「すると、みるみるうちに酸素飽和度が改善し、1~2分で98%になった。それを機に中等症の患者さんにも腹臥位療法が有効なのではないかと考え、検討を始めました」(大利さん)

検討した期間は昨年4~10月。同院の感染症病棟に入院した中等度Ⅱの患者のうち、医師が腹臥位療法の適応があると判断し、かつ腹臥位療法に同意した23人を観察した。

腹臥位療法は7時間以上のうつ伏せが必要だが、対象者は自分で食事をとったり、トイレに行ったりできる患者で、長時間にわたるうつ伏せは難しい。そこで、うつ伏せになるのは午前中2時間と午後2時間にし、残りは毎食後に1時間ほどテーブルの突っ伏した状態でいてもらった。

その結果、23人全例で肺が酸素を取り込む能力が改善し、呼吸回数も8割で正常化した。人工呼吸器を装着した例はなく、医師が「腹臥位療法によって人工呼吸器の使用を防げた」とした患者は2人だった。

「ベッドにはモニターがあるので、うつ伏せになると数値が改善することが一目でわかる。それで患者さんも『もう少し頑張ってみよう』という気になってくれたようです」(大利さんと一緒に腹臥位療法の検討にあたった看護師、有馬美奈さん)

うつ伏せでコロナ重症化が防げる可能性はある

自力でうつ伏せになれる中等症患者への腹臥位療法は、眠らせた状態で人工呼吸器を使っている重症の患者とは違って、看護師の労力はそれほどいらない。

「代わりに、意識のある患者さんに2時間うつ伏せでいてもらうためのケアは必要でした。首の位置や手の位置を少しずつ変えながら、苦痛ができるだけ生じない格好を患者さんと一緒に探し、それでもつらいことや苦しいことが出てきたらすぐに対応しました」(同)

前出の藤野さんも、中等症患者に対する腹臥位療法にも期待を寄せる。

「人工呼吸器を使うほど重症化しておらず、自分で座ったり歩けたりするような患者さんの肺では、潰れていない肺胞が多く残っています。ですので、従来考えられてきたメカニズムからしたら、腹臥位療法の効果はあまりないかもしれません。しかし、ウイルスは潰れた肺胞で増殖しやすいという仮説もあり、腹臥位で新型コロナの重症化が防げる可能性はあります」

記事画像

記事一覧はこちら ※外部サイトに遷移します

都立駒込病院では現在、100床以上をコロナ病床にし、多くの看護師が新型コロナ患者の対応にあたり、腹臥位療法も積極的に取り入れている。

「ICUの病床も人工呼吸器の数も限られているなか、中等症の新型コロナ患者さんを重症化させないことは、医療現場の負担を減らすことにもつながると思います」(有馬さん)

記事画像

【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

コロナワクチン副反応で無視できない重大事実

アナフィラキシーが怖い人に知ってほしい真実

現場知らない「コロナ専門家」への違和感の正体

提供元:コロナ治癒に「うつ伏せが有効」という意外な事実|東洋経済オンライン

おすすめコンテンツ

関連記事

【医師監修】食後のふらつきは血圧低下が原因?病気の可能性や対策法もご紹介

【医師監修】食後のふらつきは血圧低下が原因?病気の可能性や対策法もご紹介

「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ|ダメージを受けてもほとんど症状が表れない

「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ|ダメージを受けてもほとんど症状が表れない

【医師監修】脂質異常症と動脈硬化の関係~メカニズムや予防方法についても解説~

【医師監修】脂質異常症と動脈硬化の関係~メカニズムや予防方法についても解説~

命に関わる心疾患は、予防が大切!今すぐできる生活習慣改善とは?

命に関わる心疾患は、予防が大切!今すぐできる生活習慣改善とは?

戻る