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2021.04.19

志尊淳が発症した「心筋炎」の知られざる恐怖|風邪と似た症状、新型コロナが引き起こす事も


俳優の志尊淳さんが4月13日、ツイッターで退院を報告した「急性心筋炎」とは? 写真は2018年1月ソフトバンクの記者発表会にて(写真:Pimages/amanaimages)

俳優の志尊淳さんが4月13日、ツイッターで退院を報告した「急性心筋炎」とは? 写真は2018年1月ソフトバンクの記者発表会にて(写真:Pimages/amanaimages)

急性心筋炎で入院治療をしていた俳優の志尊淳さんの退院が報告された。報道によれば、当初は普通の風邪だと思っていたが、次第に呼吸の苦しさや胸の痛みに発展して受診。その時点で心不全(心臓の機能低下から起きる全身のさまざまな不調状態)に陥っており、数日間の集中治療室(ICU)治療によって事なきを得たという。

志尊さんが3月23日に発症と休養治療を発表されてから、予定どおりきっちり3週間で復帰したと聞いて、ひとまずほっとした。第一報を耳にしたときに3つのことを思ったからだ。

「コロナじゃないのか?」

「受診が間に合い、適切に診断がつけられてよかった」

「経過はどうか。後遺症は大丈夫だろうか……」

これまであまり知られてこなかった心筋炎について、3つの気がかりを確認しておきたい。

新型コロナ回復後に「心筋炎」を発症する例

まず昨今の状況であれば、「心筋炎」と聞いて「新型コロナの合併症か?」と結びつける医療者は少なくないと思う。新型コロナも、心筋炎を引き起こすウイルスの一種だからだ。

心筋炎は、文字どおり心臓の筋肉の炎症だ。主な原因は、さまざまな病原体への感染と考えられている。ただ、実際の診療の中では、炎症は確認されてもその原因まで特定するのは非常に難しく、状況証拠や経験に基づいて多くはウイルス性と想定される。

実際、新型コロナに感染・発症した30代後半の知人は、PCR陰性となり、熱が下がり、呼吸器の症状が収まった後、肝臓、腎臓、心臓と、次々に合併症を経験して、回復までに1カ月以上を要した。

新型コロナ後に心筋炎を発症する例が、世界中で相次いでいる。

世界5大医学誌の1つ『The Lancet』では今月、新型コロナの治療終盤~回復後に重症心筋炎を発症した9例について、英国から報告があった。

患者9人中7人は男性で、平均年齢は36歳。心筋炎の治療開始から20日以内に採取された血液を調べると、7人で新型コロナの抗体が検出された。

『The Lancet』 ※外部サイトに遷移します

彼らの心筋炎の症状としては、全員に発熱があり、平均3日間、最長1週間続いた。胃痛や下痢、嘔吐といった消化器障害が8人(89%)、肺浸潤(肺の細胞に血液や膿などがしみ出した状態)も8人(89%)、呼吸困難が5人(56%)に見られた。

しかも患者たちは入院後に急速に症状が悪化し、1~6日目(平均2.9日)に8人(89%)ICUに移送された。8人(89%)が投薬治療を受け、2人(22%)は人工心肺装置を装着した。その後は多くの患者が急速に回復し、ICUの滞在期間は2〜25日(平均9日)だったという。

風邪と見分けがつかず、突然死も…

志尊淳さんの例でも、新型コロナ後の合併症例でもそうだが、心筋炎の初期症状はごく普通の風邪とそっくりだ。

「急性および慢性心筋炎の診断・治療に関するガイドライン」でも、多くの患者で、寒気や発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感などの「かぜ様症状」や、食欲不振、吐き気・嘔吐、下痢などの消化器症状が先行するとしている。

その後、数時間~数日で心臓の異常を示す症状が現れてくる。70%に心不全の兆候、44%に胸の痛み、25%に脈拍異常が見られる。そうなればいよいよ心筋炎の疑いは高まるが、血液検査でもウイルス検出は困難だ。心電図や超音波(心エコー)、MRIなども行い、他の疾患の可能性を排除したうえで総合的に診断するしかない。

ただ、風邪に似た初期の段階で、一般に頻度の低い「心筋炎」を疑ってわざわざ検査をするだろうか。正直、よっぽどの所見がなければそこまでしない医療機関が普通だと思う。だが、自宅や医療機関で様子を見るうちに急に不整脈が生じ、よくわからないままに突然死に至ってしまうことはあるのだ。

National Library of Medicineの40歳以下の突然死を調べた研究では、20~29歳では心不全による死亡の22%が心筋炎だった。また、症状が急激に進行するタイプの心筋炎では、急性期死亡率は40.4%に上っている。

研究 ※外部サイトに遷移します

急性期死亡率は40.4%に上っている ※外部サイトに遷移します

一方で、無症状あるいは軽症のまま自然に回復する患者も多いと見られている(そのため実際の患者数は把握できず、厳密な統計データも存在しない)。

要するに、初期の診断が極めて難しいのが心筋炎の怖いところだ。

医師としては、風邪のような症状でも、発熱のほかに脈拍異常や低血圧、心音の異常、肺の異常音、頸静脈の拡張、脚のむくみなどの兆候がないか、慎重を期すべきと心がけている。新型コロナが流行している今であれば、合併症としての心筋炎を念頭に検査が行われ、早期に診断が下されるケースは増えるかもしれない。

ただ、「心筋炎」との診断がついても、それで安心はできない。新型コロナと同様、特効薬などの根治療法がないためだ。つまり、患者自身の回復力で何とか克服するしかない。医療はその手助けしかできない。

心不全や不整脈に対し、対症療法を行っていく。心不全に対しては強心剤や利尿剤などの薬物療法や、状態により人工呼吸器を使用して、心臓の働きを助ける。心臓の機能が大幅に低下した場合は、人工心肺装置(ECMOなど)を使うこともある。一般的には、炎症期が1~2週間続き、その後に回復期に入る。

ごく軽症の場合も、急変の可能性を考えて入院し、慎重に経過を観察することが大切だ。

なお、ガイドラインでは、発熱に対してNSAIDs(イブプロフェンやロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬。アセトアミノフェンは該当しない)と呼ばれるタイプの鎮痛・解熱薬の使用を避けることとしている。インフルエンザや新型コロナなどのウイルス感染時には、症状を悪化させるのでは、という議論があるためだろう。

一生ケアを必要とする「後遺症」が残る人も

さて、回復してもまだ心配がある。心臓へのダメージが残ってしまう人がいることだ。

心臓の収縮力が低下する例もあるし、不整脈が残ることもある。そうした場合は、薬物療法を続けたりペースメーカーを入れたりと、一生にわたって治療が必要となる。

医師でも診断が困難なところ、受診すべきかどうか患者さん自身や家族が判断するのはさらに難しいことと思う。だが、発熱に加えてひどいだるさやめまい、立ちくらみ、息苦しさなど、「風邪にしてはひどすぎる」と感じたら、迷わず受診していただきたい。心筋炎に限らず、腎盂腎炎など風邪に似ているが放置すべきでない病も、ほかにいくらでもある。

新型コロナの流行が続く中、今も受診に抵抗感のある人もいるだろう。だが、わざわざ足を運んで「風邪」で済めば、それこそラッキーと思うべきかもしれない。

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提供元:志尊淳が発症した「心筋炎」の知られざる恐怖|東洋経済オンライン

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