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2021.03.01

ワクチン接種の前に知っておきたい「抗体」の話|「抗体」とは何か知っていますか?


ワクチン接種の前に知っておきたい「抗体」について、解説します(写真:Meyer & Meyer/iStock)

ワクチン接種の前に知っておきたい「抗体」について、解説します(写真:Meyer & Meyer/iStock)

ここ最近は、皆さんが生きてきた中でも最も免疫を意識しているときではないでしょうか。ワクチンの接種も始まります。世界的な生命科学者であり、ノーベル賞受賞者の共同研究者でもある吉森保先生。その吉森先生が、生命科学の基礎から最先端までをわかりやすく解説した著書『LIFE SCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』より、抗体について解説します。

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ウイルスは、私たちの細胞の「鍵」を開けて入ってくる

抗体とは何か知っていますか? 何となく、「ワクチンなどで人為的に病原菌を入れて、それに勝つ体をつくる」とは知っているけど……という方も多いのではないでしょうか? 前回記事では免疫についてお伝えしましたが、今回は抗体について詳しく説明します。

まず、知っておいてほしいことは、体の中での出来事は、物理的に「タンパク質とタンパク質の形がぴったり合ってくっつく」ことで起こるということです。体のたくさんの現象は、まるで、「鍵と鍵穴」のように、形の一部が合うことで、動いたりします。ぜひこれを覚えておいてください。

まず、ウイルスがどう細胞に入ってくるかを知りましょう。ウイルスは、細胞ならどれにでも入れるわけではありません。細胞に入るには鍵が必要です。

例えば、あなたが自宅に入るときに、鍵穴に自宅以外の鍵を差し込んでも開かないのと同じで、ウイルスは自分の表面にあるスパイクというタンパク質の形に合ったタンパク質を細胞の表面に見つけないと侵入できません。ここでも、鍵と鍵穴のような関係が必要です。ウイルスが鍵を持ち、細胞が鍵穴を持たないといけないのです。

「なんで敵が細胞に合った形の鍵を持ってるの?」と思う人もいるかもしれません。ウイルスは進化の過程で、合鍵を手に入れたのです。しかも、「ぴったり」の程度はけっこう曖昧で、似たような鍵で、鍵穴がなんとなくはまって開くようなイメージです。

抗体も、この原理です。「鍵と鍵穴方式」で侵入を防ぎます。ウイルスという鍵にくっついて、鍵穴に差し込めなくするのです。

実際にあなたの家の鍵も、鍵穴に差し込む部分に何かがくっついてしまったら、差し込めなくなりますね。抗体はウイルスにくっついて鍵の形自体を変え、細胞の鍵穴と合わないようにしようとするわけです。

ただ、抗体の大きな問題があります。それは、せっかく抗体ができても、ウイルスの鍵じゃない部分にくっついてしまう、つまり「効かない」抗体ができることもあります。

抗体は、くっつく場所が重要で、正確に鍵の先の部分にくっつけばいいのですが、それ以外の部分に抗体がくっついても意味がありません。結局鍵穴と合ってしまうと、ウイルスは細胞に入れてしまいます。

鍵の鍵穴に差し込む部分にしっかりくっつける抗体を中和抗体と呼びます。しかし、この中和抗体ができているかどうかは通常の抗体検査ではわかりません。ウイルスに対する抗体があるかどうかはわかりますが、抗体検査ではウイルスの鍵じゃない部分にくっつく、つまり役に立たない抗体も検出してしまいます。どこにくっつく抗体でも「抗体あり」となります。驚かれた方もいるのではないでしょうか。抗体ができても、効く抗体かどうかはわからないわけです。

だから、もし抗体検査を受けて抗体があったからといって、感染しても絶対大丈夫という保証にはなりません。もちろん、罹患した人の数がわかるという意味では、検査は無意味ではありません。ただ、完全な安心材料にはなりません。

ところで、抗体はウイルスの細胞への侵入を妨害するだけではなく、さらにいろいろな役割があります。抗体自体は相手にくっつくだけで相手を殺したりはできませんが、例えば細菌にくっついて、それが目印になって食細胞が細菌を食べることができます。

また、ウイルスが感染した細胞や細菌にくっつくと、抗体のお尻に補体というタンパク質がくっついて、この補体の作用で敵に穴を開けることもできます。つまり、こいつは敵だという目印の役目を果たすのです。

抗体は地道、ひたすら鍵と鍵穴を確かめる

さて、抗体でいちばん大切な鍵と鍵穴の関係がわかったところで、残りの説明をしましょう。前回記事で、抗体はB細胞と呼ばれる細胞の中でつくられるといいました。B細胞は、そもそもどうやってウイルスの鍵にあった抗体を出しているのでしょうか。

人間の世界だったら、監視カメラなどがあって、「こいつはこんな鍵の形なんだな」と認識し、「じゃあこんな抗体を繰り出して鍵穴を邪魔してやろうか」などと想像するかもしれません。しかし、人間の体には監視カメラはありません。

実はこれ、教科書などだとよく飛ばされるところなので、ぜひ説明しましょう。

病原体は無数にあります。しかも、次から次に侵入してきます。だから、どの抗体がはまるかわかりません。

免疫システムがどうしているかというと、なんと事前に迎え撃つ抗体の遺伝子を無数に用意しています。そして、侵入者が来ると、片っ端から抗体をつくり、何がはまるかを試しています。合鍵の束をじゃらじゃら持っている感じですね。

これを発見したのが利根川進さんです。どんな相手でも迎え撃てるように膨大な種類の抗体をつくる仕組みを解明した功績が認められて、ノーベル賞を受賞しました。

抗体の遺伝子はなんと何百万何千万種類もあります。抗体の遺伝子の鍵を決めている部分は、DNAの文字がぐるぐる変えられるようになっていて、莫大な組み合わせが可能なのです。そうやって異なる鍵の形を持った抗体の遺伝子は、ものすごい数が用意されていて、一つひとつ別のB細胞にしまわれています。

ちなみに、抗体があるかどうかの検査には、血液を検査しますが、少ないと反応せず、一定量の抗体が体内でつくられていないと検出されません。

自然免疫と獲得免疫

すべての生物が、抗体のような複雑な機能をもっているわけではありません。侵入者を食い殺す食細胞のような自然免疫は多くの生き物が持っていますが、抗体や、ウイルスが入り込んだ細胞ごと殺すキラーT細胞などは、脊椎動物にしかありません。

自然免疫細胞は「悪そうなヤツ」に対して、むやみやたらに攻撃をしかけます。攻撃が制御不能になり、自分の細胞まで傷つけてしまうときもあります。

一方、抗体やキラーT細胞による免疫は「獲得免疫」と呼ばれます。これらの細胞は、なんと、一度侵入された敵だったら、きちんと記憶します。 記憶した細胞をメモリーB細胞、メモリーT細胞といいます。

例えば、麻疹のワクチンを子どもの頃に打つと抗体ができて、それをつくったB細胞はメモリーB細胞となり、一生の間、麻疹ウイルスを敵として覚えています。再度麻疹ウイルスに感染すると「あの敵がきた」と認識して、効く抗体を出します。名前のとおり、免疫を「獲得」するのです。

敵が侵入すると、まずは自然免疫の細胞が出撃します。そして、彼らは情報を獲得免疫に伝えます。 ここで、1回侵入してきたことのある敵ならば、病気になる前に撃退できます。

記憶できることは、とても重要です。先に書いたように、初めての敵に対しては、無数に用意してある抗体からどれが効くか選ばないといけません。しかし、細胞に記憶があると同じ病原体が再び侵入してきたときに、この確認作業がいりません。だから、迅速に集中攻撃をかけられます。その結果、私たちは病気を発症しないか、軽い症状で済むわけです。「免疫がある」というのは一般的に、この状態です。

「でも、インフルエンザに毎年かかる人もいるよね」と思った人もいるかもしれません。実は、敵も巧妙で進化します。人間の免疫システムも万能ではありません。つまり、すべてのウイルスに対して一生有効な終生免疫をつくれるわけではありません。

代表的なところだと、風邪やさきほどのインフルエンザ、デング熱などには終生免疫はつくれません。

なぜかというと、これらのウイルスの遺伝子は、頻繁に変異するので抗体がくっつく部分の形を変えてしまうのです。ですので、ワクチンや感染によってせっかく獲得免疫を得ても、数カ月から数年しか持ちません。

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さらには、ヘルペスウイルスのように神経細胞の中に潜伏するため獲得免疫がまったくできないものもいます。中には、免疫システムの情報伝達を妨害できるように進化したウイルスもいて、ウイルス対人類の闘いは熾烈です。だから、未知のウイルスが出た場合、獲得免疫ができるかどうかはわからないわけです。

さきほど麻疹の話をしましたが、ワクチンとは、この獲得免疫の仕組みをつかっているものです。病原体の一部や、毒性を弱めた病原体、あとは、毒がないけれど鍵の部分だけにしたものなどを体内に入れて、効く抗体を記憶させます。

ここまでで、抗体の話はだいたいわかったと思います。ぜひ日々の生活に役立てていただければと思います。

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提供元:ワクチン接種の前に知っておきたい「抗体」の話|東洋経済オンライン

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