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2021.03.01

「住宅ローン減税」改正で還付金もらえるのは誰|複雑でわかりにくい制度になった歴史的経緯


住宅ローン減税はどのように改正されてきたのでしょうか(写真:CORA/PIXTA)

住宅ローン減税はどのように改正されてきたのでしょうか(写真:CORA/PIXTA)

今般、不動産市場の規模縮小が止まらない。出口の見えない未曽有のコロナ災禍に見舞われ、新築住宅の供給は先細りを余儀なくされている。

2020年の新設住宅着工戸数(年間)は81万5340戸となり、4年連続で減少した。リーマンショックの影響が冷めやらない2010年当時と比肩する水準にまで落ち込んだ。とくに「持ち家」「貸家」「分譲住宅」と区分けしたうちの「持ち家」が大打撃を受け、消費税率が8%に引き上げられた2014年に次ぐ減少幅となった。

首都圏の新築マンションも例外ではなかった。不動産経済研究所によると、1都3県の2020年の年間供給戸数は2万7228戸にまで落ち込んだ。資産バブルが崩壊した1992年以来、28年ぶりの3万戸割れだ。さらに初月契約率は月間平均が66.0%となり、好・不調の分かれ目となる70%を下回った。60%台となるのは2016年から5年連続となる。

どちらも政府による不要不急の外出自粛要請によって、モデルルームや住宅展示場が休止・閉鎖を強いられた影響が供給減となって表れた。感染症という見えない恐怖が住宅市場を凍てつかせている。

住宅ローン減税に期待される役割

そこで、低迷を打開しようと政府が講じた窮余の策が住宅ローン減税の見直しだ。住宅ローン減税とは、償還期間10年以上の住宅ローンを組み、自ら所有かつ居住するためのマイホームを新築あるいは購入、もしくは一定条件に基づきリフォームすることで、自身が当該年に徴収された所得税額を上限に、その徴収分が還付申告によって控除される減税制度である。

なぜ、景気が悪くなるたびに注目されるかというと、住宅産業は裾野が広く、内需の柱として需要喚起が期待できるからだ。住宅関連消費財の購入拡大が見込める。そのため、2021年度税制改正大綱にも、住宅ローン減税の追加的措置が盛り込まれた。

コロナ禍で疲弊する経済の持ち直しの動きを確かなものとし、民需主導の回復軌道に乗せようというわけだ。マイホーム購入検討者の購買意欲を刺激し、これをもって経済再生の足がかりにしたい考えだ。

しかし、累次の改正によって住宅ローン減税はわかりにくい制度になってしまった。2021年度の改正では「現行の控除期間13年の措置について、契約期限と入居期限をともに1年延長する」としたが、瞬時にその内容を理解できた人は多くないはずだ。度重なる幾多の改正履歴を把握していないと、ビフォー(改正前)・アフター(改正後)を比較できないからだ。

連続テレビドラマにしろ、連載マンガにしろ、第1話から見ていないと続編のストーリーが理解しにくいのと同じ理屈だ。そこで、参考となるよう1998年(平成10年)からの改正内容を一覧にしてみた(図表1)。

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本制度の歴史は古く、かつては住宅ローンの借り入れの有無にかかわらず、床面積に応じて税額控除する仕組みだった。それが1978年(昭和53年)に住宅ローンを組むことが必須条件となり、住宅ローンの年間返済額に一定率を乗じて控除する方式に改められた。

制度の改正が繰り返されるワケ

そして1986年(昭和61年)には「年間返済額」に応じた控除方式から「住宅ローンの年末残高」に一定率を乗ずる方式へと姿を変え、これが現行制度の基礎となっている。ちなみに、この年(1986年)に入居した人には「控除期間3年」「最大控除額60万円」の税制支援が供与された。

このように累次の改正を繰り返すのは、当該制度がもともと時限措置として創設されたからにほかならない。高い経済波及効果が見込めると同時に、住宅の取得者側も減税効果に期待するようになり、次第に制度は拡充の方向へと舵が切られた。

【図表1】を見てほしい。1998年にマイホームに入居した人は「控除期間6年」「最大控除額180万円」だったのが、翌年には一気に「控除期間15年」「最大控除額587万5000円」へと拡充された。これは今までに最も大盤振る舞いされた金額である。

ユニークなのは2007年と2008年だ。「控除期間10年」あるいは「控除期間15年」を自分で選択できるという荒手に打って出た。還付される最大控除額は、どちらも同じだ。両者の違いは控除率にあり、2007年入居の場合、【図表2】のようになっていた。

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補足しておくと「借入金の年末残高」とは、ある年の住宅ローンの年末残高がたとえば4000万円だったとしても、控除額の計算対象となる残高は4000万円のうちの2500万円までという意味だ。

政治的判断で改正が繰り返されてきた

「控除期間15年」を選択したとしよう。各年の最大控除額は1年目から10年目までが毎年15万円(年末残高2500万円×控除率0.6%)となり、11年目から15年目までが毎年10万円(年末残高2500万円×控除率0.4%)となる。

そして、この各年分を15年間分、合計した金額が200万円(=最大控除額)となる計算だ。この計算方法は「控除期間10年」を選択してもまったく同じで、最大控除額も200万円で変わりない。

なぜ、こうした選択適用を認めたかというと、2006年度税制改正に伴い、「三位一体改革」の一環として所得税から個人住民税へ3兆円規模の税源移譲が実施されたからだ。これにより還付額の実質的な引き下げ(減額)が懸念されたのだ。そこで、税源移譲に伴う住宅ローン減税の効果を目減りさせないよう選択制が取り入れられた。

そして、2009年には再び最大控除額が大きく引き上げられた。その当時、総理大臣だった麻生太郎氏が声高に「規模を過去最大にする」と公言したのだ。まさに鶴の一声で最大控除額は160万円から500万円に跳ね上がった。

それだけ住宅ローン減税は時の政権による政治的判断で改正が繰り返されていた。税制を通じて住宅投資を刺激しようという狙いだ。経済対策の柱として、もはや住宅ローン減税はゆるぎない“不動の地位”を築いている。

この政治的判断が最も顕著に表れたのが消費税率の引き上げ時だ。過去、増税されるたびに住宅ローン減税は見直されてきた。

マイホームは購入価格が高額なため、増税による「痛税感」は強い。そのため増税前に需要(先食い)が集中し、増税後には反動減で減退する。事実、消費税が8%に増税された年、新設住宅着工戸数は大きく減少した。そこで、税負担増による影響を緩和・平準化し、住宅政策の方向性が損なわれないようにする観点から、住宅ローン減税の拡充をはじめとする税制上の措置が講じられてきた。

具体的には2014年4月以降(8%増税時)、最大控除額が200万円から400万円へと倍増された。同時に、住民税からの控除上限額も9万7500円から13万6500円へと引き上げられた(2013年度税制改正)。

さらに、2019年10月以降(10%増税時)は住宅ローン減税の控除期間が10年から13年へと3年間延長された(2019年度税制改正)。利上げされた消費税2%負担分を、控除期間3年間の延長で穴埋めしようという発想だ。

コロナの影響を受けた人を救済

しかし、誰もが想定しない事態に直面した。突如、新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、見えない恐怖が人々を苦しめた。出口の見えない経済不安が世界に蔓延し、冒頭で触れたようにわが国の住宅市場は縮小を余儀なくされた。

新型コロナの感染拡大でサプライチェーンは寸断し、建築資材や住宅設備の流通がストップした。その結果、建物の工事が停滞し、予定通りに住宅を引き渡せない事態となった。

住宅ローン減税には厳格な適用条件があり、控除期間3年延長(13年間)の適用を受けるには、消費税率10%が適用される住宅を取得し、2019年10月から2020年12月末までの間に入居する必要があった。ところが新型コロナの影響(住宅の引き渡し遅延)で、この適用条件を満たせない人が相次いだ。

そこで急遽、救済措置として「契約日」と「入居日」の弾力化が図られた。たとえ2020年12月末までに入居できなかったとしても、次の各要件を同時に満たせば、特例として期限内(2020年12月)に入居したのと同様の減税措置が受けられるようになった。つまり、控除期間13年間の住宅ローン減税が適用された。入居の遅延理由は下記どちらの場合も、新型コロナウイルスの影響である点が前提となる。

《注文建築により住宅を新築した場合/特例措置》

・消費税率10%が課税されていること
・2020年9月30日までに工事請負契約が締結されていること
・2021年12月31日までに入居すること(1年延長)

《新築または中古住宅の購入、増改築した場合/特例措置》

・消費税率10%が課税されていること
・2020年11月30日までに売買契約あるいはリフォーム工事契約が締結されていること
・2021年12月31日までに入居すること(1年延長)

2021年度税制改正では大きく2つの改正点があり、1つ目は上述した現行の控除期間13年の措置について、契約期限と入居期限をともに1年間延長する。正確には“再延長”という表現のほうがふさわしいだろう。

救済策として入居期限を1年延長した後、今度は2021年度税制改正で再び1年間の延長。結果的に2年延長された格好だ。具体的には次のように改正される。無論、いずれも消費税率10%が課税されていることが前提となる。

《注文建築により住宅を新築した場合/2021年度改正》

・2020年10月1日~2021年9月30日までに工事請負契約が締結されていること
・2022年12月31日までに入居すること

《新築または中古住宅の購入、増改築した場合/2021年度改正》

・2020年12月1日~2021年11月30日までに売買契約あるいはリフォーム工事契約が締結されていること
・2022年12月31日までに入居すること

床面積要件を初めて緩和

そして、もう1点が床面積要件の緩和だ。これは住宅ローン変遷史の中で初めての試みとなる(図表1参照)。住宅ローン減税には適用条件の1つとして「床面積50㎡以上」という制限がある。それを「床面積40㎡以上」に緩和し、小規模な物件でも恩恵を受けやすくする。シングルやDINKSのマイホーム取得を後押ししたい考えが透けて見える。

注意点として、資金力のある高額所得者まで税優遇するのは望ましくないとの観点から、床面積50㎡未満の場合は合計所得金額1000万円の制限が設けられる。ただ、住宅ローン減税は投資用物件やセカンドハウスには適用されない。

そのため高所得者層が小規模なマイホームを自ら住むために買うかどうかは疑問だが、いずれにせよ消費税率10%が課税される住宅を取得し、同時に上記の契約期限と入居期限を満たす場合、床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅について控除期間13年の住宅ローン減税が適用される。控除期間が3年延長された分、控除額は最大80万円が上乗せされる。

国土交通省の「住宅市場動向調査(2019年度)」によると、住宅ローン減税の適用を受けている割合(受ける予定を含む)は最も少ない中古一戸建て住宅で約58%、注文住宅では9割近くに達している。もはや住宅ローン減税は住宅購入のインセンティブとして、なくてはならない存在となっている。

ようやく医療従事者へのワクチン接種が始まった。収束への第一歩が踏み出された。朝の来ない夜はない。改正される住宅ローン減税を上手に活用し、賢い住宅取得を実現してほしいと願うばかりだ。

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提供元:「住宅ローン減税」改正で還付金もらえるのは誰|東洋経済オンライン

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