2018.08.31
さくらさん死因「乳がん」の診断が難しい根因|乳がんにはさまざまなタイプがある
静岡市内の「ちびまる子ちゃんランド」に設置された記帳台で記帳する来場者(写真:共同通信)
8月15日、漫画『ちびまる子ちゃん』の作者、さくらももこさんが、乳がんで亡くなった。2017年6月にはアナウンサーの小林麻央さんがやはり乳がんで亡くなっており、闘病生活を克明に綴ったブログなどで大きな反響があったことを思い出された方も多いのではないだろうか。
がんは、一般的に高齢で発症することが多いが、乳がんは、比較的若年者の発症が多い。特に働きざかりの女性、小さな子どもを持つお母さん世代で発症することも少なくないのが特徴である。
乳がん患者は増加の一途をたどっている
国立がん研究センターの日本の最新がん統計によると、2012年時点において女性のがん罹患者数の第1位が乳がんとなり、11人に1人の女性が生涯で乳がんに罹患する確率があると言われている。
死亡数でも2014年のデータで女性の第5位となり、女性の30歳から64歳では、乳がんが死亡原因のトップとなっている。厚生労働省が発表した「人口動態統計」では、2017年の乳がんによる死亡数は1万4285人にのぼる。過去を振り返ると、2012年1万2529人、2013年1万3148人、2014年1万3240人、2015年1万3584人、2016年1万4015人という具合に、一貫して増加を続けている。
このように乳がんは、女性にとってかなり身近な病気だ。がん治療の一番重要なことは、早期発見であるが、乳房は体表の臓器であり、乳がんを「しこり」として皮膚越しに触れることができることが多く、早期発見がしやすいがんであるといえる。
また、乳がんは、他のがんと比較して予後が良いのも特徴である。過度に恐れず「自分の主治医は自分自身」という気持ちで、定期的に自分の乳房を手で触ってしこりがないかどうかを確認することが大切である。
乳房は、月経周期によって硬さや大きさが大きく変わる人もいるので、最適な時期とされる月経直後、1カ月に1回定期的に入浴時などに「自己検診」することをお勧めする。
しかし一方で、乳がんは人によって性質が大きく異なり、しこりを感じられるがんと、まったく感じられないがんがある。形も硬さも多様なのが乳がんのやっかいな点である。よって、素人ではなかなかしこりの形状で良性か悪性のものか判断することは難しい。
いつもの触り心地と違うように感じたら、乳腺科をすぐに受診されることをお勧めする。そして、仮にしこりがないように感じても、早期発見のためには定期的に検診を受けることも大切である。
乳がん検査の落とし穴
乳がん検診には、代表的なものとして、マンモグラフィー検査と超音波検査がある。特にマンモグラフィー検査は40歳以上を対象に集団検診として行われる。40歳以上の女性がマンモグラフィー検査を受診することによって乳がんによる死亡の危険性が減るというデータも出ている。が、40歳未満の若い方は乳房が硬いため、マンモグラフィー検査に向かないことが少なくなく、被爆の問題もあり、推奨はされていない。
日本乳癌学会には「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」というものがある。ホームページに検診の実際をはじめ、乳がんの診断から治療に至ることまで詳しく記載されているので、参考にされると良いと思う。
患者さんのための乳癌診療ガイドライン ※外部サイトに遷移します
マンモグラフィー検査と超音波検査には、互いに長所短所がある。上述のようにマンモグラフィー検査は、特に若い人は乳腺が硬く、検査の際に乳房をなるべく薄く広げる必要があり、機械で強く乳房を挟み込んで撮影をするために痛みが強い。そのわりに乳がんを見つけるのが難しいという欠点がある。
40歳未満にかかわらず、日本人は、「高濃度乳房」が非常に多いという点が、マンモグラフィー検査の欠点の要因となっている。もともとの乳房が高濃度のため、しこりがその濃度にかき消されて画像で見えにくいのである。NPO法人乳がん画像診断ネットワークにそのことが詳しく掲載されている。
一方、超音波検査は、被爆もなく痛みもない点が長所であり、しこりを確認しながらその部分に針を刺して細胞や組織を採取して検査する病理検査も同時に行えることも最大のメリットである。ただ、検査する人の技量に大きく左右されるという欠点がある。
さらに、検査の難しい点としては、しこりのようなものを触れる乳がん以外の良性疾患がたくさんあることも挙げられる。画像で分からない場合は、実際に細胞や組織を採取して病理検査をする必要性が出てくる。
乳がんは、さまざまながんの中で最も病理診断が難しいがんと言われている。最終的には病理検査でがんが確定するわけだが、乳がんの病理診断を苦手であると思う病理医も少なくない。病理医は、基本的に全身の病気の診断をすることができるが、乳がんの診断を得意とする病理医もいれば、苦手な病理医もいる。
ただ、近年は、乳がんの患者さんが増加の一途をたどっていることから、乳がんを診断する機会がどんどん増えている。病理医もたくさんの病理診断を経験することによって診断能力を伸ばしてきているということも事実である。
そして、日本病理学会では、難しい症例を相談できるコンサルテーションサービスというものを行っている。病理医不足のため、病院に1人しか病理医がいないことも少なくない。そうなると難しい症例に遭遇した際に、相談できる人がいないと診断に困る。そんなときに、学会がその窓口となり、その疾患の診断のスペシャリストである病理医に診断の相談をすることができるのである。
JR東京駅の商業施設に入る「トーキョーちびまる子ちゃんストア」には訃報から一夜明けた28日午前、多くのファンが買い物に訪れていた(写真:共同通信)
なぜ乳がんの病理診断は難しいのか。
1つに、乳がんが非常に多様である、ということが挙げられる。ほかの臓器のがんでは、比較的どの人のがんも似たような形態をとることが多いのだが、乳がんはひとりひとり非常に多彩な特徴を持っている。乳がんには実に様々なタイプがあり、広がり方も硬さもそれによって大きく異なる。
また、増殖スピードも患者さんによってだいぶ違う。非常におとなしい乳がんもあれば、数カ月で著しく成長するような悪性度の高いたちの悪い乳がんもある。
そして、もう1つの特徴は、乳がんと形が似ている良性の疾患が数多くあることである。代表例が乳腺症(にゅうせんしょう)。ホルモン状態によって乳房組織の中で成長が激しい部分とそうでない部分が斑状に生じて、ごつごつと乳房にしこりがある状態をいう。
時に痛みが出ることもある。画像診断においてもしこりがあるように見えて乳がんと区別がつきにくいこと、さらに顕微鏡で観察しても、形態が乳がんと非常に似ていることもあり、これが病理診断を難しくしている。
男性も乳がんにかかる
ここまで乳がんはまるで女性特有の病気のように述べてきたが、男性が乳がんに罹患しないわけではない。稀であるが、男性も乳がんに罹患することがあり、発見が遅れがちで、予後も女性よりも悪いのが特徴である。男性にもわずかながら乳腺組織があり、特に乳頭の直下に限局しているため、男性の乳がんは乳頭の真下にできることが多い。
乳頭の真下にできる乳がんは、女性であっても発見が遅れがちな場所である。女性も自己検診する際は、乳頭の真下も少し気をつけて触ってみることをお勧めしたい。また、男性も自己検診することによって早期発見につながるため、意識を持つようにしてほしい。
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提供元:さくらさん死因「乳がん」の診断が難しい根因|東洋経済オンライン