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2018.01.30

子どもに英語を習わせる親の「致命的な誤解」│「自分が苦労したから習わせる」は親の言い分


子どもには大人とは異なる学び方がある(写真:maroke / PIXTA)

子どもには大人とは異なる学び方がある(写真:maroke / PIXTA)

東京郊外に住むMちゃん(4歳・女子)が、英語を始めたきっかけは、幼稚園のお友達でした。「お友達が楽しそうに通っているので、見学に行きたい」とお母さんから問い合わせがあり、3日後にはレッスンを見学。そこで、ほかの子どもたちに手を引かれて一緒にレッスンに参加するMちゃんの様子を見て、お母さんも「楽しく英語が学べるなんて、私たちの時代には考えられなかった」と満足気。さっそく入会して、翌週から本格的に英語のレッスンを始めました。

小学生対象の「子どもの習い事調査」(ケイコとマナブ/2017)では、1位の水泳に続いて、2位が英語・英会話、3位がピアノと、英語・英会話はつねに習い事上位にランクインします。将来の必要性や、小学校での教科化に備えるため、また海外経験や身近な外国人の存在で興味を持ったから、などが理由に挙がっています。

保護者の中には、「小学校で勉強する前に、英語を習わせたほうがいい」と考えている方も多いことでしょう。またはすでに子どもに英語を習わせている方もいるかもしれません。しかし、親が子どもに英語を無理矢理「習わせる」ことには少なからずリスクがあります。

英語を習わせたい親の「言い分」

日本人の大人の多くは中学校、高校と約6年間、英語を学んできました。必死に単語の綴りを覚えたり、5文型や動詞の変化についてひたすら暗記をしてきた覚えのある人もいることでしょう。しかし、そんなに一生懸命勉強したのにもかかわらず「英語は苦手」「英語は嫌い」という日本人が多いのは事実です。

そういった人が親になると、「自分が苦労したから、子どもには英語を習わせたい」と考えがちです。自分と同じ苦労をさせたくないという親心はおおいに理解できます。また、中には、子どもがまだ乳幼児なのに「将来、いい学校に行って、いい職場に就職するには英語は必要」と15年も20年も先のことを考えている方もいるでしょう。

また「臨界期」を信じて、早くから英語を学ばせようとする親もいます。臨界期とは、アメリカの神経生理学者のレネバーグが提唱した、言語の習得は3、4歳~11、12歳までが適しているという考え方です(言語獲得には個人差があるので、近頃では「言語獲得の敏感期」と呼ぶ研究者が増えています)。

しかし、そもそも日本のように日常生活でほとんど英語を使用しない環境において、「早くから習えば、苦労することなく英語ができるようになる」ということはありませんし、こうした環境に身を置く日本人の子どもが内容を伴った英語を身に付けるのに、臨界期は存在しないといっていいでしょう。むしろ何歳になっても努力さえすれば英語は身に付けられます。

このように、「早くから習えば、苦労することなく英語ができるようになる」は幻想にすぎません。子どもに英語を習わせるには、どのような学び方をするのか、誰がどのように教えるのかなどといった点を、親がきちんと見極めなければ意味がないのです。

強制的に学ばされると…

とはいえ、親が真剣に見極めたからといって、子どもを無理矢理に習わせても効果はありません。なぜなら、子どもには大人とは異なる学び方があるからです。その特徴は主に3つありますが、親はまずそれを理解する必要があるでしょう。

まず1つ目に、子どもが「これはおもしろそうだ」「これは自分にとって意味がある」と自ら選択したものはスムーズです。アニメの名前をあっという間に覚えてしまったり、サッカーや野球の選手をよく知っていたりといったことはよくあることです。自ら仮説を立てて、外からの働きかけによってその仮説を修正していくことを繰り返すと、子どもの能力はぐんぐんと伸びていきます。

逆に、自分の興味のないことを強制されて学ばされると、嫌がりますし、習得するスピードは遅くなります。埼玉県に住むSちゃん(小1・女子)は、3歳からフラッシュカードを使用して単語を覚えさせるのが特徴的な英語教室に通っているうちに、英語嫌いになってしまいました。小学校に入学する前には、英語を耳にするのも拒否するようになってしまい、お母さんは英語を習わせたことを後悔していました。

子どもは最初は珍しがって参加しても、単語をひたすら覚えるようなカリキュラムだと、自分でおもしろさを見出さず飽きてしまいます。それでも続けて通わされると嫌になってしまうことさえあります。

大人が一から十まで手取り足取り英語を教えることはできません。子どもが興味を持ち、好奇心を持って英語を学ぶといった学び方が重要です。言語は一朝一夕に身に付けられるものではないので、子どもが長期にわたって学び続けることのできるカリキュラムや環境作りが必要なのです。

2つ目に、子どもは自分が主人公となって学ぶ特徴があります。たとえば親がテストなどで子どもの学びを評価しようとすると、子どもは親の顔色をうかがって勉強しようとしますが、なかなか自分の学びとして身に付けることができないのです。

学びがつねに右肩上がりで上達するということはありません。ぐんぐん伸びる時期もあれば、上達が見えにくく横ばいと感じられるときもあります。初めは効率が悪いかもしれませんが、続けると効率が上がり出すポイントがやってきます。それを大人はじっと見守る必要があります。成果が出ていない段階で子どもを評価してやる気をそいでしまうと、それまでの努力も無駄になってしまいます。

黒いクレヨンしか使わなくなった子ども

3つ目に、子どもは心が安定したときに、人との関係性の中でモノを学びます。心が不安定だと新しい情報を取り込むことができないのです。何か不安なことがあると足が先に進まないのと同じです。言語の習得に関していえば人間関係が重要で、子どもが心を開いて対する相手からでないと、言葉を学ぶことはできません。

こういう事例があります。神戸市の主婦のSさんは、長男Tくんをインターナショナルの小学校に入学させました。「神戸に住んでいるのだから、英語は身に付けてほしい」という考えからです。Tくんは公立小学校に通うお姉さんとは別でしたが嫌がることなく通学し、学校では順調な様子でした。

しかし、あるときからTくんに変化が現れました。担任の先生によると、絵画の際に黒いクレヨンしか使わず、また何なのかわからない絵を描いているというのです。絵はTくんの心理状態を表していたのです。家庭や生活環境とは異なる言語での通学に、Tくんの心は不安定になっていたのです。このような状況では英語を身に付けることもできません。その後、公立学校に転校できたのはTくんにとって幸せでした。

どの習い事にも言えることですが、一定程度習得するには時間がかかります。そして、そのためには、自分なりの動機やモチベーションを持つことが大事になります。大人であれば、「仕事で必要」「洋楽や映画が好き」といったモチベーションを持つことができますが、子どもが自ら目標設定をすることは容易ではありません。そこで大事なのは、そうした目標を持てる環境を作ってあげることです。

文部科学省が行った「小学校外国語活動実施状況調査」(2014)によると、小学校5、6年生や中学1年生は「英語が使えるようになりたい」と回答しています。英語を使って「海外旅行に行く」「外国の人と友達になる」「外国の人と話す」などをしたいそうです。

昨夏、アメリカで1カ月間生活した秋田県に住むKさん(中1・女子)は「ホームステイを終えて、私には目標ができました。次回会うときはホストファミリーともっと話をしたいです」と話していました。ホストファミリーと思うように会話ができなかった経験が、新たな目標につながったのです。

人との交流は子どもにとって冒険

本来、英語を学ぶことはそれ自体が目的なのではなく、英語で何をするのかが大切なはずです。たとえば、Kさんの場合は英語を使ってホストファミリーと交流を図ることが「目的」です。運動をしているのであれば、他国の選手とコミュニケーションを図ったり、遠征などを行うために英語を習得したいと考えるかもしれません。

中でも、語学習得において、他言語を話す人とコミュニケーションを図りたい、というのは大事な視点です。子どもが英語を学ぶときに、「いろんな国の人と話ができるようになりたい」といった目的を持つと、比較的長く英語を学ぶモチベーションとなります。なぜなら人との交流は、子どもにとって楽しみでもあり、未体験の冒険でもあるからです。

これまでの日本の英語教育では、多くの場合、英語の成績をあげることが目的でした。しかし、今後私たちが目指すべき英語教育の最終目標は、多様な社会において、異文化を持った人々と共存できるコミュニケーション能力を育成することではないでしょうか。

「言語は生涯にわたって学び続けるもの」とは、ヨーロッパの複数言語主義の考え方ですが、母語も外国語も習得の到達点はなく、一生かけて学ぶ価値のあるものです。子どもに英語を習わせたい、と考えている親は、まずは自らがこうした視点を持つことが重要です。そのうえで、子どもが自ら「英語を学んでみたい」と思えるような環境を作ることが求められます。

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提供元:子どもに英語を習わせる親の「致命的な誤解」│東洋経済オンライン

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