2017.08.22
仕事に行きたくないときは悩み別の「3C」でメンタルケア
職場の人間関係で悩んでいたり、仕事がうまくいってないときなど、つい「仕事に行きたくない…」と思ってしまいますよね。行かなければいけないのに行きたくない…。そんな相反する気持ちが芽生えてしまったときは、どうすればよいのでしょうか。仕事に行きたくないときの心身の状態や対処法について、ストレスで悩む人々のサポートなどを行う認知行動療法の第一人者、大野裕(ゆたか)先生にお聞きしました。
目次
-「仕事に行きたくない」と思う理由
-「仕事に行きたくない」ときに出る心身の症状と対処法
-「仕事に行きたくない」と思う前に行いたいメンタルケア
「仕事に行きたくない」と思う理由
大野先生によると、「仕事に行きたくない」という気持ちになる原因は、職場で受ける“身体的疲労”と“精神的ストレス”によるものであることがほとんどなのだそう。
「身体的疲労」と「精神的ストレス」を起こす3つの要因
要因は人それぞれで、きっかけは無数にあります。その中で、多くの人に共通して心身の負担になっている代表的な要因は以下の3つです。
過重労働
近年、問題視されている“過重労働”は身体的疲労、精神的ストレス両方の原因となります。
本来、人がこなせる仕事量には能力や体力による限界があり、それを超えてしまうと、心身に大きな負担がかかってしまいます。割り振られた仕事が自分の能力や技術、体力の許容量を超えてしまうと、心身が「これ以上は働けない」とサインを出します。それを無視して働き続けると、疲労やストレスが蓄積して、仕事をしても失敗が続いてやる気が低下したり、仕事が手につかなくなったりして「仕事をしたくない」気持ちが強くなってしまうのです。
向いていない仕事
人には性格の違いがあるため仕事の向き不向きがありますが、向いていない仕事に就いている人も少なくなく、それが精神的ストレスの原因になることがあります。
大らかな性格の人が細やかな配慮が必要な仕事をしたり、神経質な性格の人が1つの作業に時間をかけられずに機械的にこなすことを求められたりするなど、不向きな仕事をすれば失敗をしたり上司からのダメ出しをされたりすることが増えます。これにより仕事に対して必要以上のプレッシャーを感じてしまい、ストレスが蓄積したりモチベーションが低下したりしてしまいます。
人間関係のもつれ
職場の人間関係は、精神的ストレスに大きな影響を与えます。職場での人間関係のもつれは、さまざまな状況で起こりますが、一例として上司と新入社員の場合をあげることができます。仕事に不慣れな新入社員に上司の注意や叱責が過剰な精神的苦痛を与えていたり、与えられた仕事が本人の許容量を超えていることで、やる気が低下してしまったりすることは少なくありません。
また、上司と若手社員を仲介する役割を持つ中堅社員は、上司と若手社員、それぞれの間で友好的に取りまとめようと奮闘することが強いストレスとなり、それが仕事に対する嫌気につながってしまうことも多いそうです。この症状は、「上司と若手の板挟み」という状態から「サンドイッチ症候群」と呼ばれます。
こうしたストレスで中堅社員や新人がやる気を削がれると、今度は上司が「部下が指導どおりに動いてくれない」と憤り、上司のモチベーションまでもが低下することになります。さらに、一部の人間関係のもつれで当事者たちのやる気が奪われた結果、グループ内の他のメンバーの仕事が過大になり直接の関係者以外にも身体的疲労を与えてしまうという連鎖を起こしかねないのです。
「仕事に行きたくない」ときに出る心身の症状と対処法
仕事で疲労やストレスを感じて「仕事に行きたくない」ときは、心身に何らかの症状が現れていることが多く、これはストレスや疲労がたまっているという、脳からのサインです。ここでは、具体的な症状と対処法をまとめました。
身体に現れる主な症状
人は、身体の働きを調整する「自律神経」が正常に働くことで、身体が健やかな状態に保たれます。ところが、過度なストレスを受けると自律神経のバランスが崩れ、身体に不具合が生じることがあります。主な症状は以下の5つです。
-身体がだるくなる
-食欲不振
-頭痛
-肩こり
-睡眠障害
自律神経の乱れとは、副交感神経の働きが低下することです。その結果、興奮を司る交感神経が優位になります。それによって無意識のうちに身体の緊張状態が続き、筋肉の硬直によって血流が悪化します。全身の血管を通して、身体活動のためのエネルギー源となる「栄養」や「酸素」が行き渡らないと、身体の調子が悪くなったり、痛みを感じたりすることがあります。また、就寝前に脳の休息を司る副交感神経が優位にならないと、身体が入眠状態にならないので心地よく眠ることができず、睡眠障害を招くことがあります。
精神に現れる主な症状
自律神経が乱れると、脳内伝達物質「ドーパミン」「ノルアドレナリン」、そして「セロトニン」の分泌量に乱れが生じ、ネガティブな精神状態を引き起こすことがあります。主な症状は以下の3つです。
-抑うつ気分
-やる気が出ない
-思考力や集中力の低下
ストレスや疲労が溜まると、向上心を司る「ドーパミン」や脳を覚醒させる「ノルアドレナリン」の分泌量が増え、反対に「セロトニン」の分泌量は減ります。セロトニンは精神を安定させるためのホルモンなので、その分泌が間に合わなくなると、神経伝達物質のバランスが崩れて脳内の神経細胞の働きが弱くなり、無気力状態を引き起こしたり、仕事が手につかない状態を招いたりするのです。
疲労やストレスのサインが出た場合の対処法
心身に疲労やストレスのサインが出てしまった場合は、その根本にある原因を見つけ、解決することが重要です。
職場環境を見直す
「過重労働」「向いていない仕事」「人間関係のもつれ」が原因であると考えられる場合は、自分の仕事の質や仕事環境を根本から見直して、他の方法を試してみて、改善が見られるかどうかを判断してみる必要があります。改善が見られないようであれば、思い切って職場環境を変えてみるという選択肢もあります。
快眠具合を見直す
残業によって睡眠時間が不足したり、ストレスによって快眠できていなかったりする場合は、寝る前の行動を工夫することで朝までぐっすり眠ることができ、翌朝の疲労感がやわらぎます。
例えば、入眠前に好きな音楽を聴き、リラックスしてストレスを緩和させたり、しっかりと入浴時間を確保して肉体的な疲れをとったりするなどの、「眠りのルーティン」を確立することで、自然に心身が睡眠モードに切り替わります。それをすることでストレスが緩和してリラックスできるのであれば、その手段は何でもOK。自分にとっての最善の方法を探していろいろ試してみましょう。
また、いろいろと対処をしてみたものの改善の兆しが見えない場合や、日中に仕事が手につかなくなるほど症状がひどい場合は、1人で対処しようとせず、専門の医療機関を受診しましょう。
「仕事に行きたくない」と思う前に行いたいメンタルケア
多くの人が、仕事に悩みながら無理をしてしまい、ある日限界が訪れて「仕事に行きたくない」という気持ちが生じます。無理を続け「仕事に行きたくない」という気持ちになる前に、メンタルケアを行うことでストレスが緩和される方法をご紹介します。
仕事の悩み別で行う「3つのC」対処法
沈んでしまいそうな心をコントロールするときにポイントとなるのが、「Cognition(認知)」「Control(管理)」「Communication(会話)」という3つのC。これを心がけることで、無理をしていることで生じるネガティブな気持ちが緩和できます。
(1) 仕事の成果や質に関する悩みには「Cognition(認知)」
仕事でミスをしたとき、極度に悩んでしまう傾向にある人は、客観的な視点で自分を評価する(認知する)と、モチベーションが維持でき、ネガティブな感情から解放されます。まずは、第三者の視点で自分の能力や技術を見つめてみましょう。すると“自分のよい点と悪い点”を認知することができるはず。そうすれば、仕事がうまくいかずに苛立ちや不安などのストレスを感じたとしても、「これは自分には向いていない仕事なんだ」と素直に受け入れられ、「それなら自分が得意なことで頑張ろう」と心の切り替えをすることができ、前向きに仕事に取り組めるようになります。
(2) 仕事量に関する悩みには「Control(管理)」
仕事が忙しいときは目の前にある仕事をこなすことで頭が一杯になりがちですが、自分がこなせる仕事の質と量を自分で管理することで、仕事が許容量を超えてしまうことを回避できるようになります。
仕事が自分の限界を超えていると感じたときは、思い切って上司や同僚を頼りましょう。誰かと一緒に仕事に取り組めば、効率的に仕事が進むので、精神的な負荷が軽減されるほか、他人に相談することで精神的な余裕が生まれ、人に話すことで課題をもう一度整理できます。
ストレスをためずに仕事をするためには、「頑張りすぎないこと」が大切。仕事量を管理して、「自分はしっかりとやれている」と達成感を得られれば、仕事に楽しさややりがいを実感できるはずです。
(3) 人間関係に関する悩みには「Communication(会話)」
仕事をするうえでは、周囲の人たちとコミュニケーションをとり、仕事や人間関係などに対する正直な考えや気持ちをきちんと共有することが大切です。コミュニケーションが円滑になれば、無駄なパワーを使わずに済み、ストレス軽減にもつながります。
職場に頼れる人がいないという人は、家族や友人や、労働問題に関する公的な機関などに胸の内を伝えてみましょう。どうしたら職場での人間関係を良好に保てるか、1人ではなく誰かと一緒に考えみることが大切です。
どうしても仕事に行きたくないときは
心身の不調によって、どうしても仕事ができそうにないときは、無理せずに休養して、心身をリフレッシュさせることが重要です。ただし、何もせずにダラダラと休めばよいというわけではありません。大切なのは、「明日頑張るために、今日はひとまず休む」という気持ちでいること。無計画に休んでしまうと、気持ちを切り替えるどころか、かえって「仕事に行きたくない」という気持ちが強くなる恐れがあるので注意しましょう。
また、どうにも対処ができない場合は、最終的に人間関係や疲れ切った心身をリセットするために「仕事を辞める」「休職する」という選択肢もあるでしょう。ただし、仕事の疲れやストレスから一方的に逃げてしまうと「仕事をしたくない」気持ちが、「仕事をしなくてもよい」という気持ちに変換されてしまうこともあるので注意が必要です。これを回避するためには、仕事を辞めるときに、次はどんな職場でどんな仕事をしたいかという目標を明確にして、生きがいを感じられる仕事を見つける努力をすることが重要。そのような気持ちでいることで、仕事をすることが楽しみになり、次第に仕事へのモチベーションが上がるようになります。
<参照>
▼書籍
『マンガでわかりやすい ストレス・マネジメント ストレスを味方にする心理術』監修:大野裕(きずな出版)
photo:Getty Images
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提供元:仕事に行きたくないときは悩み別の「3C」でメンタルケア|フミナーズ